2026年10月7日 水曜日 · 日本語版 English
1 US Dollar = 158 Japanese Yen (reference)
参考レート・最終更新 · 2026年10月6日 午前1:23 JST
Japan.co.jp
Japan, clearly told.
2026年10月7日 水曜日
ビジネス&経済 | M&A・塗料
メニュー
日本ペイントとアジア太平洋の塗料事業拡大を象徴する水野年方風の編集イラスト
水野年方(Mizuno Toshikata)の明治期木版画に着想を得たAI生成の編集イラスト。実在する日本ペイント、AkzoNobelの会議、工場、人物を再現した写真ではありません。Image: Japan.co.jp.
03 — ビジネス&経済
ビジネス&経済

日本ペイントHD、アクゾノーベルの東南アジア建築用塗料事業を買収 13.5億ドルで地域再編を加速

日本ペイントホールディングスは、アクゾノーベルの東南アジア・豪州など7カ国の建築用塗料事業を約13.5億ドルの企業価値で取得する。対象にはDuluxブランドを展開する事業が含まれ、インドネシアは2026年末、その他は2027年半ばの完了を見込む。1881年創業の日本企業が、長年築いてきたNIPSEAとDuluxGroupの地域網をさらに重ねる大型M&Aだ。

Bradley L. Bartz | Japan.co.jp | 2026年10月7日 水曜日

日本ペイントホールディングスが、アジア太平洋で再び大きく動いた。

同社は10月5日、オランダの塗料大手Akzo Nobel N.V.(アクゾノーベル)から、東南アジアを中心とする建築用塗料事業を取得すると発表した。AkzoNobelによれば、対象はベトナム、インドネシア、マレーシア、タイ、シンガポール、パプアニューギニア、オーストラリアの7カ国。取引の企業価値は約13.5億ドル、約12億ユーロで、2025年度EBITDAの約21倍に相当する。

確認された取引条件: 日本ペイントホールディングスは10月5日、アクゾノーベルの東南アジア建築用塗料事業の買収を発表した。AkzoNobelは対象7カ国、企業価値約13.5億ドル、2025年度EBITDA倍率約21倍と公表。インドネシア事業は2026年末、その他の事業は2027年半ばの完了を見込む。いずれも規制当局の承認など通常の前提条件が付く。

7カ国を一度に取り込む

今回の買収対象は、単一工場や単一ブランドではない。住宅・商業施設向けの建築用塗料事業を、複数国にまたがって一括取得する取引だ。

AkzoNobelは、ベトナム、インドネシア、マレーシア、タイ、シンガポール、パプアニューギニア、オーストラリアの各事業を売却する一方、コーティング事業とGlobal Business Services組織は保有し続けるとしている。インドとパキスタンの建築用塗料事業はすでに別途売却しており、今回の取引でアジアの建築用塗料ポートフォリオ見直しは完了する。

売却側のAkzoNobelは、税金や少数株主への支払い後のネットキャッシュ収入を約10億ドルと見込む。CEOのGreg Poux-Guillaume氏は、差別化された規模を確保できる分野へ資源を集中する戦略の一環だと説明した。

$1.35bn取引の企業価値。AkzoNobel公表ベース
7カ国ベトナム、インドネシア、マレーシア、タイ、シンガポール、パプアニューギニア、オーストラリア
21×2025年度EBITDAに対する企業価値倍率

日本ペイントにとっては「空白地帯の買収」ではない

この取引の意味は、日本ペイントが初めて東南アジアへ進出することではない点にある。むしろ逆だ。同社は60年以上かけてアジア事業を築いてきた。

日本ペイントグループのアジア事業の起点は1962年。シンガポールで現在のNIPSEA事業につながる会社を共同設立し、1967年にマレーシアとタイ、1969年にインドネシア、1970年に香港、1976年にフィリピン、1992年に中国、1994年にベトナムへ進出した。

その結果、NIPSEAは日本ペイントの成長を支える中核となった。日本ペイントホールディングスは現在、48の国・地域で事業を展開し、建築用塗料を主要収益源の一つとしている。

つまり今回の買収は「新市場への進出」ではなく、すでに強い市場に競合のブランド、販路、顧客基盤、人材を重ねる取引である。

Duluxという名前が、再び日本ペイント側へ近づく

取引には、AkzoNobelが展開するDuluxブランドの事業が含まれる。ここには興味深い企業史がある。

日本ペイントは2019年、オーストラリアを本拠とするDuluxGroup Limitedを完全子会社化した。DuluxGroupは豪州・ニュージーランドを中心に建築用塗料や関連製品を展開するが、ブランドの権利関係は地域ごとに異なり、世界のすべてのDulux事業が一つの会社に属しているわけではない。

今回、日本ペイントがAkzoNobelの東南アジア・豪州関連事業を取得することで、同じ「Dulux」の名を持つ事業の一部が、再び日本ペイントグループの地域ネットワークへ組み込まれることになる。ただし、ブランド権利やライセンスの扱いは国・地域ごとに異なり得るため、統合後のブランド運用は個別市場で確認する必要がある。

買収価格は安くない

約13.5億ドルという企業価値は、2025年度EBITDAの約21倍に相当する。塗料業界の大型M&Aとして見ても高い倍率だ。

だからこそ、この取引の成否は単純な売上高の上積みでは測れない。日本ペイントが既存のNIPSEAネットワークと買収事業を重ね、調達、生産、物流、マーケティング、営業網をどこまで効率化できるかが重要になる。

特に建築用塗料は、自動車塗料のように少数の大口OEM顧客へ供給する事業とは性格が違う。販売店、施工業者、住宅会社、DIY市場など、地域に根ざしたブランド力と流通網が価値を持つ。買収価格には、工場だけでなく、長年積み上げられた販売チャネルとブランド認知が含まれている。

1881年の光明社から、M&Aで世界を組み替える会社へ

日本ペイントの起点は1881年、東京・三田で創業した光明社にさかのぼる。明治期、日本では洋式塗料の国産化そのものが産業上の課題だった。創業者の茂木重次郎らは亜鉛華や洋式塗料の国産化を進め、1898年に日本ペイント製造株式会社が設立された。

そこから145年。現在の日本ペイントホールディングスは、自社技術と国内市場だけで成長する企業ではなくなった。2017年には米Dunn-Edwardsを、2019年にはトルコのBetek Boyaと豪DuluxGroupを取得。2021年にはWuthelam Groupとのアジア合弁事業を完全子会社化し、2022年にはフランスのCromologyとスロベニアのJUB、2024年にはカザフスタンのAlina、2025年には米AOCをグループへ加えた。

日本ペイントが自ら掲げる経営モデルは「アセット・アセンブラー」だ。強い地域事業を買収し、各社の自律性を残しながらグループ価値を高める。今回の取引は、その考え方を象徴する。

英語をもっと身近に。eigo.co.jp

2026年、AkzoNobelを巡る攻防の「小さな勝利」

今回の買収には、今年のM&A攻防という背景もある。

日本ペイントと米Sherwin-Williamsは5月、AkzoNobel全体を共同で買収する提案を行った。しかしAkzoNobelは提案を受け入れず、両社は6月3日に買収追求を終了すると発表した。その後、日本ペイントはAkzoNobelの建築用塗料部門に対し75億ユーロ規模の提案を行ったと報じられたが、これもAkzoNobel側は受け入れなかった。

最終的に成立したのは、会社全体でも世界の建築用塗料部門全体でもなく、東南アジアと豪州などの地域事業だった。

規模だけを見れば、過去の提案よりはるかに小さい。しかし戦略上は、日本ペイントにとって統合しやすい資産でもある。既存のNIPSEAとDuluxGroupが強い地域だからだ。

AkzoNobel側には「選択と集中」の事情

AkzoNobelは今回の売却を、アジアの建築用塗料ポートフォリオ見直しの完了と位置づけている。すでにインドとパキスタンの事業売却を進め、今後は米Axalta Coating Systemsとの統合完了へ注力する。

これは世界の塗料業界で進む再編の一部でもある。原材料コスト、エネルギー、物流、環境規制、建築需要の地域差が大きい中、すべての国で規模を追うより、競争優位を確保できる分野へ集中する動きが強まっている。

売り手にとっては資産の絞り込み、買い手にとっては地域密度の向上。同じ取引でも双方の目的は異なる。

オーストラリアが入る意味

今回の対象にオーストラリアが含まれる点は特に重要だ。日本ペイントはすでにDuluxGroupを保有しており、豪州はグループにとって主要市場の一つである。

そのため、豪州部分については単純な市場拡大以上に、競争法上の審査、ブランド整理、流通チャネルの重複、製品ポートフォリオの再配置が焦点になる可能性がある。取引完了には各国の規制当局承認などが必要で、日本ペイントとAkzoNobelはいずれも現時点で完了を確定事項とはしていない。

AkzoNobelが示したスケジュールでは、インドネシア事業は2026年末に別途完了し、その他は2027年半ばを見込む。国ごとにクロージングが分かれる構造自体が、この取引の複雑さを示している。

成長市場で重要なのは「ブランド」と「塗る人」

東南アジアの建築用塗料市場は、都市化、住宅投資、中間所得層の拡大、改修需要に支えられてきた。しかし、単純にGDPが伸びれば塗料が売れるわけではない。

消費者が選ぶのは、耐候性、防カビ性、防汚性、低臭、色の豊富さなどの性能に加え、「施工業者が使い慣れている」「近所の販売店で手に入る」「住宅会社が指定する」といった現場の信頼だ。

日本ペイントが買うのは、売上だけではない。販売店との関係、塗装業者の習慣、色見本、調色システム、地域ごとの気候条件への製品知識など、数字に表れにくい資産も含まれる。

次に見るべきは売上ではなく統合の質

大型買収では、発表時の「シナジー」より、クロージング後の実行が重要だ。

日本ペイントが既存事業とどこまで工場・物流・原料調達を統合するのか。ブランドを維持するのか再配置するのか。既存社員をどう位置づけるのか。販売店網の重複をどう扱うのか。こうした判断が、21倍という高い取得倍率を正当化できるかを左右する。

一方で、NIPSEAとDuluxGroupをすでに持つ日本ペイントには、地域運営の経験がある。買収対象を一から立ち上げる必要がない点は大きい。

日本企業の「海外M&A」の質が変わっている

日本企業の海外買収は長く、国内市場縮小への防衛策として語られることが多かった。しかし日本ペイントの一連の取引は、より積極的だ。

同社は日本の売上を補うために海外へ出るのではなく、世界の強い地域ブランドを組み合わせ、塗料という巨大だが地域性の強い産業で規模と密度を同時に高めようとしている。

今回の取引は、1881年に国産塗料を生み出そうとした会社が、2026年には東南アジアと豪州のブランド地図を再編する側に回ったことを象徴する。

本当の評価は、買収が完了する2027年以降になる。13.5億ドルは入口の値段にすぎない。日本ペイントがそこからどれだけ持続的な利益、ブランド価値、地域シェアを生み出せるか。それがこの買収の成否を決める。

出典・参考資料

  1. 日本ペイントホールディングス — 「アクゾノーベル社の東南アジア建築用塗料事業の買収について」2026年10月5日。
  2. Nippon Paint Holdings — Notice Regarding Acquisitions of Akzo Nobel's Decorative Paints Business in Southeast Asia, October 5, 2026.
  3. AkzoNobel — Sale of Decorative Paints South East Asia business to Nippon Paint for $1.35 billion, October 5, 2026.
  4. Reuters — AkzoNobel to sell Southeast Asia paints business to Nippon Paint for $1.35 billion, October 5, 2026.
  5. 日本ペイントホールディングス — 「145年の歴史 Vol.1」光明社創業と日本の塗料工業の始まり。
  6. Nippon Paint Holdings — Timeline of the Nippon Paint Group, 1881–2026.
  7. Nippon Paint Holdings — M&A Information, including DuluxGroup, Dunn-Edwards, Betek Boya and NIPSEA integration.
  8. Nippon Paint Holdings — Joint proposal with Sherwin-Williams to acquire AkzoNobel, May 27, 2026.
  9. Nippon Paint Holdings — End of pursuit of AkzoNobel, June 3, 2026.
  10. Nippon Paint Holdings — Group overview, history, operating footprint and acquisitions.

取材・確認期限:2026年10月6日午前1時23分(日本時間)。企業価値、対象国、クロージング時期、EV/EBITDA倍率はAkzoNobelおよび日本ペイントホールディングスの10月5日公表資料に基づく。ブランド権利・統合後の運営体制・具体的シナジー額について、公開資料で未確定の事項は断定していない。

今回のポイント

日本ペイントHDは7カ国の建築用塗料事業を約13.5億ドルで取得し、既存NIPSEA・DuluxGroupとの地域密度を高める。

注目点

取得倍率は約21倍。高い価格を正当化するには、販路・調達・ブランド運営の統合力が問われる。

次の焦点

インドネシアの2026年末クロージング、その他地域の2027年半ば完了、各国規制当局の審査。