最初に境界線: これはレベル4の無人運行ではありません。2026年度の名古屋都心実証は自動運転レベル2で、全車の運転席にセーフティドライバーが乗り、安全を確認します。12月中旬ごろから予定される対話AIは乗客向けの案内役で、運転判断や安全監視を担うシステムではありません。レベル4は目標であり、今回の法的・技術的な運行状態ではありません。

予約ボタンを押すと、時刻表ではなく、3台のうちの1台が動き始める。

愛知県が8月12日に発表した計画では、2026年9月11日から2027年3月19日まで、名古屋中心部を3台の自動運転ミニバンが走る。平日の午前10時から午後5時まで。料金は無料で、土日祝日と年末年始は運休する。天候や点検による変更もある。

乗降地は、名古屋駅前の総合校舎スパイラルタワーズ、愛知芸術文化センター、STATION Ai、IGアリーナ前の名古屋造形大学、FUJIなごや科学館の5地点。利用者は、名古屋鉄道のMaaSアプリ「デライド」で出発地、目的地、希望時刻を選び、予約から乗車時のチェックインまでを行う。8月25日正午に受け付けを開始し、原則として乗車日の31日前から予約できる。

県は5地点を結ぶ「20ルート」、延べ約33キロを設定した。5地点から同じ地点を除く4地点へ向かえば、方向を区別した組み合わせは5×4=20になる。公式資料はこの計算式を説明していないが、20という数字は、5地点間の全方向の移動を用意した設計と一致する。2025年度の一方向の周回から、利用者が行き先を選ぶ網へ変わる。

3台トヨタ・シエナを基にしたハイブリッド車
5地点駅、文化、起業、アリーナ、科学館
20ルート方向別の全地点間、延べ約33km
最大48km/h実勢速度に合わせた設定

1台は1組による貸し切りで、セーフティドライバーを除き5人まで。中学生以上、または保護者同伴の小学生が利用できる。3台がすべて同時に稼働しても、運べるのは最大3組・15人である。これは都市交通の大量輸送ではなく、小規模な配車、車両の再配置、チェックイン、乗客支援を一体で試す実験だ。

技術の主語が「この車は走れるか」から、「この3台を、需要に合わせて交通として回せるか」へ変わる。

1台・2地点から、3台・5地点へ

愛知県は2016年度から自動運転実証を重ねてきた。名古屋中心部の現在の系列は2024年度に形を得る。1台のミニバンが、名古屋駅前と開業したばかりのSTATION Aiを結び、決まった経路と時刻で走った。県は、交通量の多い都心幹線道路で実勢速度に合わせた定期運行を続ける試みとして位置づけた。乗客は延べ1419人、県議会資料によれば自動運転率は90.5%。手動介入では、路上駐車車両の回避や車線変更が大きな課題だった。

2025年度は2台に増え、愛知芸術文化センターを加えた3地点の周回へ広げた。2025年10月14日から2026年3月19日まで、時刻表に沿って1日28便を計画。運行便数は2217、一般利用者は2638人、1便平均2.0人だった。予約率は63%、乗客を乗せた実車便は1289便で実車率58%、予約後に現れなかった割合は8%。運休206便はすべて整備関連だった。

技術指標には前進と宿題の両方が残った。1周あたりの手動介入は7.2回で目標の8回以下を達成し、自動運転の最長連続距離は2.6キロで目標の2キロを超えた。ところが交差点・横断歩道の自動走行成功率は92%で、95%目標に届かなかった。特に右折が難しかった。快適性・満足度は82点で80点目標を上回ったが、予約やチェックインをめぐる問い合わせ率は3%で、1%以下という目標を外した。

年度車両・地点運び方次に現れた問い
20241台・2地点固定ルート、定時都心の速度と交通に合わせて継続走行できるか
20252台・3地点固定周回、定時複数台の運行、右折、駐車車両、予約・チェックイン
20263台・5地点20ルート、オンデマンド需要配車、再配置、待ち時間、車内案内を一体化できるか

満足度だけを読めば成功に見える。2025年度アンケートでは総合満足度が95%、車内環境と利用の流れはいずれも97%が肯定的だった。しかし回答者の82%は「自動運転そのものの試乗」を主目的に挙げた。日常の用事ではなく、珍しい技術を体験しに来た人が大半だったのである。2026年度のオンデマンド化は、その新奇性を実用的な移動需要へ変えられるかを試す。


都心で車が見なければならないもの

車両はトヨタの北米向けミニバン、シエナを基にし、米May Mobilityの自動運転ソフトウェアを載せる。全長5.3メートル、全幅2.24メートル、全高1.98メートル。5基のLiDAR、8台のカメラ、5基のレーダー、衛星測位のGNSS、姿勢と動きを測るIMU、高精度地図を組み合わせる。

それぞれは異なる不確かさを見る。LiDARはレーザー光の往復から周囲の立体形状と距離を測る。カメラは車線、信号の色、標識、物体の見え方を豊かに捉える。レーダーは対象との距離と相対速度に強い。GNSSとIMUは地図上の位置と車体の運動を結びつける。複数の感覚を重ねるのは、一つのセンサーが苦手な逆光、雨、遮蔽を別の手掛かりで補うためだ。ただし、数が多いこと自体は安全の証明ではない。何を認識し、未来をどう予測し、迷ったときにどう減速・停止するかが核心になる。

名古屋の課題は、整然とした実験路ではなく、生活する道路にある。配送車が車線の端を塞ぎ、自転車が死角から近づき、右折時には対向車と横断者の両方を読む。信号が変わるまでの時間、合流の間合い、横断歩道へ近づく速度。県が2026年度に掲げるのは、信号変化の予測精度による走行安定化と、横断歩道接近時の安全制御の強化である。前年の92%という未達の指標に、直接答えようとしている。

路上駐車は都市自動運転の象徴的な難題だ。避けるには前方の障害物を止まっている車と認識するだけでなく、隣の車線へ移ってよいか、後続車が譲るか、工事や対向車があるかを読む必要がある。人間なら視線や速度の微妙な変化で交渉する場面を、機械は観測可能な規則と予測へ翻訳しなければならない。


18秒が教えた「引き継ぎ」の危険

2025年10月28日午前11時25分ごろ、試験車両が工事用フェンスに接触した。乗客はおらず、けが人はいなかった。公式調査では、自動走行から手動走行へ切り替えて18秒後、セーフティドライバーが車線変更を行った直後の接触で、ログに自動運転システムの問題は確認されなかった。右ミラー、センサーカバー、カメラが損傷した。

これは「自動運転車が自動で事故を起こした」という事例ではない。同時に、未来の安全を車載ソフトだけで測れないことも示す。人間がいつ引き継ぎ、周囲の交通状況をどこまで把握し、狭い車体感覚へ移行できるか。マニュアル、訓練、運行停止、修理、再開判断も安全システムの一部だ。県は手動走行中の注意点とヒヤリハット例をマニュアルへ加え、10月31日に1台で再開した。

2026年度も運転席には人がいる。乗客には、将来の車内無人運用を試すため、セーフティドライバーへ声を掛けないよう求める。奇妙な舞台設定だ。目の前に人がいるのに、いないものとして過ごす。しかし、この制約こそ、運転手が担ってきた仕事の広さを可視化する。


運転手が消えた後、誰が「大丈夫」と言うのか

バスやタクシーの運転手はハンドルだけを握っているのではない。予約名を確かめ、行き先を聞き、乗り方を説明し、具合の悪い乗客に気づき、忘れ物を預かり、「ここで降りればよいか」という不安に答える。レベル4になって運転席から人が消えても、その社会的な仕事までは消えない。

名古屋の対話AIキャラクターは、この空白を探る実験である。車内タブレットに現れ、事前アンケートで把握した乗車目的や知りたい情報に応じ、適切な時点で案内する。開始は運行初日の9月ではなく、実証後半の12月中旬ごろの予定だ。AIは運転ソフトから独立した乗客案内であり、安全を監視する「仮想運転手」ではない。

前年はタブレットのチェックインやスタート操作が好評だった一方、予約・チェックインに関する質問で問い合わせ率が目標を超えた。県はAI導入をこの数字への直接の対策とは説明していないが、案内を自然な対話へ移す設計は、操作支援の隙間を埋める狙いと整合する。試験が報告すべきなのは、会話の楽しさだけではない。誤った案内をしたとき人へ引き継げるか、通信が切れたらどうするか、聴覚・視覚・認知の違いに対応できるか、利用データをどの範囲で保存するかである。8月12日の発表は、対応言語、アクセシビリティー、データ保持の詳細までは示していない。

無人化とは、人間の仕事をゼロにすることではない。車内に集中していた役割を、ソフト、遠隔監視、現場対応、清掃、顧客支援へ再配置することである。

レベル2とレベル4の間にある法と責任

自動運転のレベルは「賢さ」の点数ではなく、誰が走行を監視し、異常時を含む運転を引き受けるかを区切る。レベル2ではシステムが加減速と操舵を同時に支援しても、運転者が常時監視し、責任を持つ。レベル3では、定められた条件下でシステムが運転を担うが、継続できないときには人が引き継ぐ。レベル4では、限定された運行設計領域――道路、速度、時間、天候などの条件――の内部で、異常時の対応を含む動的運転タスクをシステム側が担い、車内の運転者を必要としない。

だからレベル4は「日本中のどこでも無人で走れる車」ではない。許可された運行設計領域の外では使えない。日本は2019年の法改正でレベル3の公道走行に道を開き、2022年4月成立、2023年4月施行の改正道路交通法で、レベル4相当の「特定自動運行」の許可制度をつくった。車両側の保安基準への適合に加え、都道府県公安委員会の許可、運行責任者、遠隔監視や現場対応などの体制が必要になる。

国内初の運転者を置かないレベル4移動サービスは、2023年5月21日、福井県永平寺町で始まった。約2キロの「永平寺参ろーど」で、道路に埋設した電磁誘導線をたどる電動カートが時速12キロで走った。車内にも遠隔地にも運転者を置かない歴史的な一歩だったが、一般車が複雑に交錯する都心道路とは条件が違う。

永平寺の12キロから、名古屋の実勢に合わせた最大48キロへ。限定通路から、信号、右折、駐車車両、歩行者が重なる幹線へ。距離や速度が上がるほど、認識だけでなく、法的責任、緊急時の到着時間、故障車の回収、乗客との通信、道路管理者との協力が重くなる。

2016年度 愛知県が継続的な自動運転実証を開始。

2019–20 レベル3に対応する法改正が成立、施行。

2022–23 レベル4相当「特定自動運行」の許可制度が成立、施行。

2023年5月 永平寺町で国内初の運転者なしレベル4サービス。

2024–25年度 名古屋で1台・2地点の定期運行。

2025–26年度 2台・3地点の周回へ拡大。

2026年9月予定 3台・5地点・20ルートをオンデマンド化。


「実証の国」から「運行する国」へ

政府は自動運転を、人口減少時代の交通を支える柱に据える。背景は切迫している。国土交通省の推計では、バス運転手は2021年の11万6000人から2030年に9万3000人へ減る。2022年の輸送規模を維持し、時間外労働規制を考慮すると、2030年に3万6000人、必要人員の28%が不足する。2023年にはバス会社の約8割が減便か廃止を行い、2008年度から2023年度に廃止されたバス路線は約2万3193キロに達した。

しかし、実証の数はそのまま無人サービスの数ではない。国は2025年度に全国67か所の取り組みを支援したが、2026年5月時点で実装されたレベル4移動サービスは11か所。2026年1月に、2030年度の自動運転サービス車両1万台という新目標を掲げた。11の限定サービスから1万台へ進むには、車両を増産するだけでなく、許可審査、地図更新、遠隔監視、整備、事故調査、保険、サイバー防御、現場要員を地域ごとに整える必要がある。

名古屋の役割は、すぐに運転手不足を埋めることではない。平日昼間だけ、無料で、各車1組を運ぶ3台は、バス路線を代替できない。むしろ交通量の多い都市で、複数車両のサービス運用を分解し、どこが壊れるかを見つける。自動車産業の中心地で、製造業、通信、鉄道、タクシー、大学、ソフトウェア企業が一つの運行体制を組むこと自体が実証である。

2026年9月19日から10月4日には、愛知・名古屋アジア競技大会が開かれる。試験はその8日前に始まり、IGアリーナ前も乗降地に含む。ただし県の発表は、大会輸送を試験の公式目的とは説明していない。訪問者が増える時期と重なることは重要な都市的背景だが、無料・平日・3台の実証を大会交通の主力とみなすべきではない。


成功を測る七つの問い

2026年度の成否は「事故がなかった」「乗客が楽しかった」だけでは測れない。開始前に公表された設計と前年の結果から、少なくとも次の指標が必要になる。

Japan.co.jpが注目する検証項目
  • 安全:ルート別の自動走行率、手動介入の頻度と原因、右折・横断歩道・駐車車両での成功率。
  • 配車:予約から到着までの待ち時間、空車回送距離、3台の偏り、キャンセルと無断不乗。
  • 実需:試乗目的ではなく、仕事、観光、通院、施設利用など実際の移動に使われた割合。
  • 容量:ピーク時に何件の依頼を受けられず、貸切5席のうち何席が使われたか。
  • 乗客支援:問い合わせ率、AIが解決した内容、人間への引き継ぎ、通信障害と緊急時対応。
  • 公平性:高齢者、障害者、子ども連れ、スマートフォン操作が苦手な人、外国語利用者が使えるか。
  • 経済性:無料実証の外で、利用者が払える運賃と、車両・監視・整備・現場対応の総費用が近づくか。

前年のアンケートでは、将来の用途として旅行・観光が56%、夜間移動が36%、高齢家族の通院が35%、週末の買い物が27%だった。ところが今回の一般運行は平日午前10時から午後5時で、夜間と週末を試さない。安全と運用を段階的に広げる合理性はあるが、利用者が最も必要とする時間帯の一部を検証できないという限界も、結果報告で明示する必要がある。

料金も未解決だ。2025年度の運賃デモでは、タクシー相当額から2割引きにしても、ルートによって30~37%が「高い」と答えた。自動運転は人件費を減らす可能性がある一方、当面は高価なセンサー、遠隔監視、整備、現場対応が必要だ。乗客を一組ずつ貸し切りで運ぶ方式は安心感を高めても、座席利用率を下げる。無料で予約が埋まることと、持続可能な交通になることは違う。


未来はハンドルではなく、運行表の裏側にある

3台の外装は、HAL名古屋、国際工科専門職大学名古屋キャンパス、名古屋造形大学の学生が一台ずつデザインした。流れ星、青い情報の波、ネットワークを表す六角形。最後の車は青とマゼンタで浮世絵を意識し、伝統と先端技術の融合を描く。車体は、産業政策の展示物であると同時に、街が未来像を自分の色で引き受ける媒体になる。

だが、本当の革新は見えにくい。アプリが予約を受け、配車システムが3台の位置と次の需要を読み、自動運転ソフトが道路を走り、乗客用タブレットがチェックインを確認し、運行事業者が故障や遅延に対応する。レベル4へ進むほど、価値はハンドルのない写真より、その裏側の連携へ移る。

名古屋の3台は、まだ人の監視を必要とする。走る時間も場所も狭く、料金も取らない。それでも、2024年の1台より大きな問いを持つ。都市のすべてを一度に自動化できるかではなく、限定された一片を、毎日、安全に、使いたいときに、理解できるサービスとして運べるか。

レベル4への道は、ある朝突然、運転席が空になる物語ではない。車線変更の一回、予約画面の一問、誰も乗らない一便、右折できなかった一交差点を記録し、次の設計へ戻す。その地味な反復の先で、運転席から人が離れても、交通を支える責任だけは消えない。


取材ノートと主要資料

本稿は2026年8月13日午前9時52分(日本時間)までに公表された行政、事業者、法制度、交通政策資料を照合しました。2026年度運行は開始前の計画であり、期間、運休、予約、AI案内の開始時期は変更される可能性があります。