26.5%2025年国勢調査・川上村の外国人比率
19.0%2020年の同割合
132外国人比率5%超の自治体
1950村でレタスの試作開始

レタスの村が映し出す、日本の人口構造

長野県南佐久郡川上村。標高の高い畑が広がり、全国の食卓へレタスを送り出してきた村が、人口という別の理由で注目されている。総務省が公表した2025年国勢調査の確定値を時事通信が集計したところ、村の人口に占める外国人の割合は26.5%。全国の市区町村で最も高く、2020年の19.0%から7.5ポイント上昇した。数字を単なる「外国人の多い村」という珍しさで終わらせてはならない。農業を支える働き手と、暮らしを支える仕組みが、同じ地域に存在しているからだ。

26.5%は何を数えたのか

2025年国勢調査の「外国人」は国籍による区分であり、「外国生まれ」や「外国人労働者」と同義ではない。外国籍の家族や農業以外の仕事に就く人も含み得る。さらに、季節によって働く人が増減する産地では、調査日の数字だけで年間の生活実態を説明することはできない。村の公式サイトが示す2026年9月30日時点の住民基本台帳人口は4,637人、2,525世帯。この数字には外国人も含まれるが、調査時点も統計制度も国勢調査と異なるため、26.5%を掛けて現在の外国人数を算出することは適切ではない。

全国の変化が山村に現れた

同じ集計では、外国人の人口割合が5%を超えた自治体は132市区町村で、5年前の53から約2.5倍になった。全国の外国人人口は約384万人、総人口の3.1%とされる。都市部の工場や繁華街だけではなく、観光業や農林水産業に依存する地方にも変化が及んでいる。川上村は突出した例であると同時に、全国の産業構造を考える手掛かりとなる。

ハクサイからレタスへ、産地は一日にして成らず

村が公開する農業史は変化の積み重ねを物語る。かつては自給を目的とした穀物作りが中心だった。昭和9年(1934年)に出荷用ハクサイの栽培が始まり、鉄道網の整備とともに高原野菜の産地として成長した。戦争で輸送が途絶えたのち、生産を立て直し、1950年にレタスの試作を導入。1969年には夏秋レタスが野菜指定産地となった。冷涼な気候を生かすだけでなく、農道、かんがい、販売組織、輸送網への投資が現在の農業をつくった。

世界につながる「野菜王国」

1978年にはレタスの栽培面積が1,000ヘクタールを超えた。高速道路網の整備によって出荷量が増加し、2006年に台湾、2008年に香港への輸出を開始したと村は記録している。「農村は閉じた世界」というイメージとは異なり、川上村の農業は以前から県外・海外の市場と関わってきた。人の往来が増したことも、こうした広域的な生産・流通の歩みの中で考える必要がある。

畑の労働を見えなくしない

レタスは畑に種をまけば食卓に届くわけではない。育苗、定植、除草、収穫、選別、箱詰め、積み込みと、品質と時間に追われる仕事が続く。天候や需要の変動も大きい。そこで働く外国籍住民は、単なる「不足分を埋める人手」ではなく、地域の生産を担う生活者でもある。ただし、どの国籍の人がどの在留資格で働き、どの程度の賃金や休暇を得ているかを、今回の人口集計だけから推定することはできない。

技能実習から育成就労へ

日本の制度も転換期にある。2024年6月に成立した改正法を受け、従来の技能実習制度に代わる「育成就労制度」が2027年4月1日に始まる。出入国在留管理庁は、労働者の育成と人材確保を目的に掲げ、転籍や受け入れの仕組みを見直す。制度の詳細は分野や条件によって異なる。新制度の開始だけで、川上村のすべての労働者の条件が一律に変わるわけではない。農家や監理支援機関、働く本人にとって、制度移行の実務は重要な取材対象になる。

住む場所、医療、言葉、子どもたち

住民が増える、あるいは季節ごとに入れ替わる地域では、仕事以外の制度も問われる。安全な宿舎、診療時の通訳、ごみの分別や防災情報の多言語化、相談窓口、子育てへの対応。働く人が農地では欠かせない一方で、自治体の意思決定や日常生活では孤立するという状況があってはならない。何が整備され、何が足りないかは、村と住民への直接取材で確かめるべき点だ。

農家にも、働く人にも事情がある

人手の確保が難しければ農業経営を縮小せざるを得ない農家がいる。一方、仕事を選ぶ自由、適正な労働時間や賃金、健康と安全を求める働き手がいる。どちらか一方の都合で地域の将来を語れば実態を見誤る。農業の機械化や省力化、国内人材の育成、繁忙期の雇用計画とともに、外国人の権利と定着を具体的に考える必要がある。

26.5%の向こうにある顔

今回の国勢調査は確かな出発点だが、人びとの声まで記録してはいない。長く暮らす住民は村をどう感じるのか。初めて日本へ来た人は何に戸惑うのか。農家は五年後の生産をどう構想するのか。Japan.co.jpは、政府統計で確かめられる事実と、今後の現地取材で答えを得るべき問いを区別する。存在しないインタビューや本人の発言を記事に加えることはしない。

日本の地方の未来は、すでに多言語で動いている

かつて高原の気候と輸送網を強みに生産を広げた川上村は、いま働く人と暮らす人の多様性にどう応えるかを問われている。外国籍住民の割合が日本一であること自体が成功でも失敗でもない。大切なのは、収穫を支える人が安全に働き、尊厳を守られ、必要な支援を受けられるかどうかだ。日本の食卓につながるこの村の変化は、人口減少時代の農業と地域社会を映し出している。

出典・参考資料

  1. 総務省統計局・e-Stat「令和7年国勢調査」
  2. 時事通信「外国人5%超は132市区町村」(2026年10月13日)
  3. 川上村「農業統計データ・農業の沿革」
  4. 川上村公式サイト・人口と世帯数(2026年9月30日)
  5. 出入国在留管理庁「育成就労制度の制度概要・関係法令」
  6. 出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」

2026年10月15日までの公表資料に基づく。村民への独自取材はまだ実施していません。