青い海とフェニックスの並木が、新婚旅行の憧れを集めた宮崎。その南国の風景に、いまは子どもと遊ぶ施設や、焼酎の産地でコーヒーを楽しむ場所が重なる。秋の連休を前に、かつての観光王国が、違う旅の目的で選ばれている。
楽天グループが9月9日に発表した「楽天トラベル」のシルバーウィーク人気上昇都道府県ランキングで、宮崎県が1位となった。対象は9月19~27日の予約泊数の前年同期比。2位は富山県、3位は岡山県、4位は島根県、5位は三重県だった。[1]
順位が示すのは、楽天トラベル上の予約の伸びである。旅行者の総数や、観光地としての規模の順位ではない。それでも、地域の観光事業者にとっては重要な先行指標だ。関心が予約へ変わる局面で、宮崎が相対的に強い動きを見せたことになる。
「1位」を読むための、四つの日付
今回の集計日は8月20日。2026年9月19~27日の宿泊分を、前年の9月20~28日と比較した。集計対象は国内の宿泊施設への予約で、インバウンド、交通と宿泊を組み合わせるダイナミックパッケージ、デイユースも含む。したがって、日本人の宿泊旅行だけを取り出した統計でも、連休を終えた後の実績でもない。[1]
集計後には予約の追加や取り消しが起こり得る。また、前年の規模が小さい地域ほど、同じ増加数でも伸び率が大きくなる。順位を地域の好材料として受け止めつつ、客室がどれほど埋まり、いくらの消費につながったかは別に確かめる必要がある。
| 集計時点 | 2026年8月20日 |
|---|---|
| 今年の対象 | 9月19日~27日 |
| 前年の比較対象 | 2025年9月20日~28日 |
| 順位の基準 | 都道府県別の予約泊数の前年同期比 |
九日間すべてが祝日ではない
今年のカレンダーは、旅行を考えるうえで条件がよい。内閣府の一覧では、9月21日が敬老の日、23日が秋分の日。その間の22日も、祝日法第3条第3項による休日となる。土日が休みの人なら19~23日が5連休で、24、25日に休暇を取れば27日まで9日間つながる。全員が自動的に9連休になるわけではない。[2]
Japan.co.jpの分析では、この並びは、移動に時間をかける旅の選択肢を広げる。一方、予約対象期間が同じ9日間でも、その中の休日配置が違えば、前年との比較にはカレンダーの影響が入る。ランキングの上昇をすべて新施設や広告の効果に帰することはできない。
連休の長さは、宿泊地の選び方にも関わる。拠点となる都市に泊まり、海沿いや内陸へ足を延ばすのか、宿そのものを目的地にするのか。地域にとっては、泊数を増やす機会であると同時に、観光客が一か所に集中しない旅を提案する機会でもある。
宿泊割引を、地域の消費につなげる
楽天は宮崎について、自治体の旅行クーポン利用が好調と説明している。[1] 県の「『ひなタビ』みやざき宿泊キャンペーン」は、宿泊などの代金を最大30%、1人1泊あたり上限3,000円割り引き、県内の飲食店や土産店などで使う3,000円分の電子クーポンも発行する制度だ。適用は最大3連泊で、予算や販売枠の上限がある。[3]
ここには、部屋を売るだけではない政策上の狙いがある。県は、物価高騰の影響を軽減し、観光消費を広げ、地域の活性化を図ると説明する。宿泊費の軽減と、現地で使うクーポンを組み合わせることで、支援の接点を宿の外にもつくっている。[3]
ただし、県の制度全体の日程と、予約サイトごとの販売条件は同一とは限らない。楽天の掲載枠では、対象期間の終わりが9月30日のチェックアウトまでとなっている。県の第1期全体は9月30日宿泊分までだが、取扱先による違いを県自身が明記している。予約する場合は、個々の枠の条件と残数を確認する必要がある。[3][4]
Japan.co.jpの分析では、支援策の成果を測る問いは、割引を使った予約が何件あったかだけではない。支援がなければ訪れなかった人を呼べたのか、宿泊以外の消費が増えたのか、通常期の再訪につながるのか。予約の伸びは、その検証の入口となる。
新婚旅行の記憶を、いまの旅へ
宮崎の観光は、流行に合わせて初めてつくられたものではない。県の広報誌「Jaja」が振り返る新婚旅行ブームは、昭和30年代後半から50年代初めにかけての出来事だ。航空便の発達とともに、飛行機で南国へ向かう体験そのものが若い世代の憧れとなった。背景には、交通や観光施設を整えた地元の取り組みがあった。[5]
海、空、並木という風景が旅の記憶に残るのは、それを見に行ける交通があり、滞在する場所があり、訪れる理由が物語として共有されたからだ。Japan.co.jpは、その組み合わせこそ宮崎の観光史から読み取れる強みだと考える。景色は変わらなくても、誰と、何をしに行くかは変えられる。
いまの宮崎を、昔のハネムーンの再現だけで語るのは狭すぎる。小さな子どもと過ごす時間、食やものづくりへの関心、海岸をゆっくり巡る休日など、同じ土地を選ぶ理由は増やせる。既存の知名度に新しい体験を重ねることが、再訪のきっかけになる。
焼酎の町の新施設、リゾートの更新
その具体例が、都城市の「KIRISHIMA GREENSHIP icoia(キリシマ グリーンシップ イコイア)」だ。霧島酒造とスターバックス コーヒー ジャパンの共同事業で、1月27日の開業に合わせて、植物園、店舗、屋上庭園、芝生エリアを備えた施設として案内された。設計は隈研吾氏。焼酎を買う、コーヒーを飲むという行為に、建築や植物を楽しむ時間を重ねている。[6]
霧島酒造は、蒸留時の温熱を植物園で再利用し、焼酎かすなどからつくるバイオガスによる電力を施設で使うと説明する。これらは同社による設備・運営の説明であり、ここで独立した環境評価を行ったわけではない。観光の観点では、地域の製造業を、訪ねて過ごせる場所として見せる試みといえる。[6]
宮崎市のフェニックス・シーガイア・リゾートも施設を更新している。運営者によると、インドアプールは4月25日にリニューアルし、浅瀬エリアを設けた。7月18日にはガーデン内に新しいスプラッシュエリアが誕生した。家族が滞在中に選べる体験を増やす動きだ。[7][8]
これらの施設は実在する変化だが、それぞれが県全体の予約増に何割寄与したかは別問題である。新設・改修の事実と、需要への効果の推定を分けて見ることで、企業の発信を観光報道として読み解ける。
風景と信仰を、同じ言葉で片づけない
宮崎の海岸を歩けば、長い時間がつくった景観にも出会う。青島の周囲に広がる「鬼の洗濯板」は、砂岩と泥岩が重なる地層が隆起し、波の侵食を受けて生まれた地形として県の観光サイトが解説している。名前は大胆だが、成り立ちは地質の働きによる。[9]
一方、日南市の鵜戸神宮は、海に面した洞窟内の本殿で知られる。安産や育児、縁結びへの信仰は、同地に伝わる宗教的な意味として紹介されている。地形として説明できることと、信仰や伝承として受け継がれることは区別したい。どちらも土地を知る手がかりになる。[10]
堀切峠のフェニックス並木と海の眺めも、宮崎を象徴する景観として公式観光案内に登場する。[11] こうした既存の場所と新施設を結ぶ旅には、移動の組み立てが欠かせない。宮崎空港の公式案内は、鉄道の時刻表とJR九州の運行情報への導線を設けている。宿の予約が取れても、目的地までの交通が自動的に確保されるわけではない。[12]
連休の後に残るものを測る
Japan.co.jpが今回の順位に見るのは、地域観光が上向く可能性と、それを確かめる宿題の両方だ。予約が実際の滞在になったか、どの地域の宿や店に消費が届いたか、雇用や仕入れに無理が生じなかったか。地方の観光経済を評価するには、入口の数字から先へ進む必要がある。
観光庁の宿泊旅行統計調査は、延べ宿泊者数や実宿泊者数、客室稼働率などを把握する調査である。[13] こうした滞在実績と予約サイトの先行情報は、役割が違う。予約の順位を行政統計の代わりにするのでも、先行指標だから意味がないと切り捨てるのでもなく、連休前と連休後をつないで読むことが大切だ。
宮崎には、旅の目的地として長く育ててきた風景がある。2026年のシルバーウィークは、その蓄積に新しい施設と旅行支援が重なる。1位という見出しが本当に地域の力になるのは、訪れた人が宿を出た後も町で時間を使い、また来たいと思える旅が残ったときだ。
- 楽天グループ:シルバーウィーク人気上昇都道府県ランキング(2026年9月9日)
- 内閣府:2026年の国民の祝日・休日
- 宮崎県:「ひなタビ」みやざき宿泊キャンペーン(2026年5月7日)
- 楽天トラベル:ひなタビ予約枠の利用条件
- 宮崎県季刊誌Jaja:フェニックスハネムーンの時代(2010年)
- 霧島酒造:KIRISHIMA GREENSHIP icoia開業案内(2026年1月22日)
- フェニックス・シーガイア・リゾート:インドアプール
- フェニックス・シーガイア・リゾート:スプラッシュエリア
- 宮崎県公式観光サイト:鬼の洗濯板
- 宮崎県公式観光サイト:鵜戸神宮
- 宮崎県公式観光サイト:堀切峠
- 宮崎空港ビル:鉄道アクセス・JR九州案内
- 政府統計の総合窓口:宿泊旅行統計調査の概要
