これは常設の耳鼻咽喉科ではない: 外来は2026年10月8日に始まり、原則として毎月第1木曜日、6カ月間の試行である。急に片耳が聞こえなくなった、強いめまいを伴う、顔が動かしにくいといった症状は次の診療日を待つ対象ではない。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、突発性難聴の治療を少なくとも発症2週間以内、できれば1週間以内に始めることが望ましいとしている。

7月31日、三朝温泉病院に約70人の住民と報道関係者が集まった。発表されたのは新棟でも、大型装置でもない。月に一度だけ、病院の既存の部屋へ耳鼻咽喉科医と小さな機器を運び込み、補聴器の相談まで一つにつなげる計画だった。

鳥取県中部の山間にある三朝町には、耳鼻咽喉科の医療機関がなく、補聴器販売店もない。聞こえを検査してもらう、耳の病気かどうかを診てもらう、補聴器を試す、音量を調整する、使いにくさを相談する。そのたびに町外へ出なければならない。車を運転しない高齢者にとって、診療は「あるか、ないか」だけでなく、何度通える距離にあるかで決まる。

岡山大学病院聴覚支援センターの片岡祐子准教授(特任)は、2025年に三朝で住民向け講演をした際、この空白を強く認識した。啓発や検診で難聴を見つけても、診断と適切な補聴器調整へ進める場所がなければ、受診や装用という行動にはつながりにくい。今回の実証が埋めようとしているのは、知識の不足より、検診の後に続く道の欠落である。

5,494人2026年7月末の三朝町人口。世帯数は2,402
41.9%町の2022年度人口に占めた65歳以上の割合
月1回・6カ月10月8日開始。既存設備を生かして初期投資を抑える

一つの診察日に、切れていた鎖をつなぐ

計画の中心は、診療科の看板を掲げることではない。患者が同じ場所で次の段階へ進めるように、これまで町外に分散していた機能を一続きにすることだ。

段階三朝で計画される機能なぜ必要か
1 問診・診察片岡准教授が耳鼻咽喉科診療。町が持つ耳鏡・鼻鏡、持ち込むヘッドライトを使用耳垢、中耳炎、急性・左右差のある難聴など、単純な加齢性難聴と決めつけられない原因を見分ける
2 聴力評価可搬型の聴力検査機器で聞こえの程度と型を測る「聞こえにくい」という主観を周波数別のデータへ変え、治療・紹介・補聴の判断材料にする
3 医療判断治療できる疾患への対応、高度検査や手術が必要な場合の町外紹介補聴器を売る前に、医療で対処すべき問題を外さない
4 選択・試聴Audikaの認定補聴器技能者が機種選択と試聴を支援聴力、手先の操作、生活場面、予算に合う器種と設定を探す
5 調整・継続支援フィッティング、再調整、フォローアップ、アフターケア装用後の「うるさい」「言葉が分からない」「扱いにくい」を放置しない

初期投資を抑える設計は意図的だ。専用の防音室や大型診療設備を一から建てるのではなく、三朝温泉病院の既存空間、町が保有する器具、持ち運べる検査機器を組み合わせる。医師会立病院、町、鳥取県中部医師会、鳥取県、岡山大学、民間の補聴器専門職がそれぞれ必要な一片を持ち寄る。

地方医療の空白は、専門医が一人いないことだけでは生まれない。診断、機器、販売、調整、再診が別々の場所にあるとき、患者がその間を移動できなければ、経路全体が存在しないのと同じになる。

補聴器は「耳にかける眼鏡」ではない

眼鏡にたとえると分かりやすいが、その比喩は半分しか正しくない。加齢性の感音難聴では、音が小さくなるだけでなく、特に騒がしい場所で言葉を区別する力も落ちる。すべてを一様に大きくすればよいわけではない。周波数ごとの聴力、語音の聞き分け、左右差、不快に感じる大きさ、生活で困る場面に合わせて増幅を調整する必要がある。

日本聴覚医学会の「補聴器適合検査の指針」は、補聴器を通した語音明瞭度や環境騒音の許容などを評価する方法を定める。WHOも、補聴器サービスを「症例の把握と聴覚評価」「処方・フィッティングと検証」「装用後の調整、教育、カウンセリング」という連続した過程としている。箱を渡す行為と、聞こえを支える医療は同義ではない。

新しい音は、最初から自然に聞こえるとは限らない。食器の触れる音、紙のこすれる音、自分の声が大きく感じられ、機器を外したくなる人もいる。耳栓の形、ハウリング、電池や充電、手指の動かしやすさも使用を左右する。認定補聴器技能者が毎回入る意味は、機械の選定以上に、この小さな失敗を次の調整へ戻す窓口を町内につくることにある。

医師と販売・技能職を同じ日に置く理由
  • 耳鼻咽喉科医は、耳の病気、治療の必要性、補聴の適応、紹介の要否を医学的に判断する。
  • 認定補聴器技能者は、機器の選択、試聴、設定、扱い方、保守と再調整を支援する。
  • 患者にとっては「診断されたが、次にどこへ行けばよいか分からない」を減らせる。
  • 一方、医療判断と販売判断の区別、価格と選択肢の説明、他店を選ぶ自由は明確に保つ必要がある。

温泉療養所から始まった、87年の往復

岡山大学が三朝へ医師を送る物語は、今回が最初ではない。1939年、前身の岡山医科大学は三朝温泉療養所を設置した。ラドンを含む温泉を背景に、1943年には放射能泉研究所へ改称。1949年に岡山大学が発足すると、診療部門は医学部附属病院三朝分院となった。

温泉は治療と研究、町の観光イメージをつなぐ資源だった。三朝の大学拠点は、名称と組織を変えながら、リハビリテーション、内科診療、温泉医学を担った。しかし、医師確保と大学病院の再編が重くなり、岡山大学病院三朝医療センターは2016年3月に廃止された。その前後、県議会は医療機能と観光への影響を懸念し、存続を求めた。

関係は断絶しなかった。三朝温泉病院には「三朝地域医療支援寄付講座」が置かれ、岡山大学から医師2人を派遣する3年間の枠組みが始まった。地球科学の研究拠点も町に残る。2026年の耳鼻咽喉科外来は、かつての大学病院を小さく復元する計画ではない。87年にわたり続いた「大学の専門性を町へどう置くか」という問いを、巡回型の専門外来として解き直す試みである。

1939年 岡山医科大学三朝温泉療養所を設置。

1943年 放射能泉研究所へ改称し、温泉医学の研究を強化。

1949年 岡山大学発足。附属病院三朝分院を設置。

2002年 三朝分院を三朝医療センターへ改組。

2016年 三朝医療センターを廃止。三朝温泉病院に地域医療支援寄付講座を開設。

2025年 片岡准教授が町で住民向け講演を行い、診断・補聴器支援の空白を認識。

2026年10月8日 月1回、6カ月間の耳鼻咽喉科・補聴器外来が開始予定。

5,494人の町で、距離は医療の一部になる

2026年7月末、三朝町の人口は5,494人。町のデータヘルス計画によると、2022年度の65歳以上は41.9%で、2019年度の39.8%から2.1ポイント上がり、国と県を上回った。人口は同じ3年間に6,328人から5,949人へ減った。

地形も数字と同じほど重要だ。町の総合計画は、集落が細長い谷筋に点在する「山中三谷」の地形を挙げ、路線バスだけでは多様化する移動需要への対応が難しくなっていると記す。冬は除雪も生活条件になる。耳鼻咽喉科がある倉吉方面へ出られる人でも、家から停留所、乗り継ぎ、診療の待ち時間、帰りの便までを組み合わせなければならない。

補聴器は一度買って終わりではないから、距離の負担が積み重なる。診断の1回だけなら家族に送ってもらえても、試聴、受け取り、初期調整、再調整、修理相談が続くと脱落しやすい。三朝のモデルが縮めるのは地図上の距離だけではなく、「もう一度行く」ための心理的、家族的、時間的な費用である。

日本の「聞こえの空白」は三朝だけではない

2025年のJapanTrakは、全国1万4,368人を基礎サンプルとする業界調査で、自己申告の難聴者を人口の11.0%、そのうち補聴器を所有する人を15.6%と推計した。2022年の15.2%からはわずかな上昇にとどまる。75歳以上では自己申告難聴が33.6%に達した一方、所有者の11%は補聴器を全く使っていなかった。

この数字は診断に基づく有病率ではなく、補聴器業界が関わるアンケートであるため、国の疫学統計と同じには扱えない。それでも、見つける、医師に相談する、購入する、使い続けるという各段階で人が減っていく様子を示す。2025年調査では、自己申告難聴者のうち医師に相談した人は43%、前向きな医療助言や次の行動の勧めを受けた人は16%だった。

三朝町は2023年から、65歳以上で一定の聴力条件を満たし、聴覚障害の身体障害者手帳を持たない住民に、補聴器本体価格の半額、上限3万円を助成している。5年後には再申請できる。だが補助金は機器の価格を下げても、診断や調整の場所をつくらない。新外来は、町がすでに用意した金銭支援に医療と技能の入口を接続する。

検診で「聞こえにくい」と分かることはゴールではない。その日から、診断、選択、練習、再調整へ進めるかどうかが、検診を健康へ変える。

難聴と認知症――期待を正確に語る

聞こえにくさは会話を疲れさせ、家族の集まりや地域活動から距離を置くきっかけになり得る。WHOは、世界で4億3,000万人以上がリハビリテーションを必要とする程度の難聴を抱え、2050年には7億人を超えると推計する。難聴はコミュニケーション、教育、就労、社会参加と結びつく。

認知機能との関係は重要だが、「補聴器をつければ認知症を防げる」と断定してはいけない。2024年のLancet認知症委員会は、難聴を人生の中期における修正可能なリスク要因の一つに数えた。観察研究では難聴と認知機能低下の関連が繰り返し示されているが、関連だけでは因果は確定しない。

70~84歳、未治療の軽度から中等度難聴の成人977人を対象にした米国のACHIEVE無作為化試験では、3年間の認知機能変化について参加者全体では聴覚介入と健康教育に有意差がなかった。一方、もともと心血管リスクなどが高く、認知低下の危険が大きいARIC集団では、聴覚介入群の低下が48%遅かった。これは有望な結果だが、全員に同じ効果があるという証明ではない。

三朝の外来は認知症予防試験ではない。まず測るべき直接の成果は、住民が会話を追いやすくなったか、家族と話す負担が減ったか、機器を実際に使えているか、危険な病気が見逃されず紹介されたかである。認知機能への長期効果を主張するなら、6カ月より長い追跡と比較が必要になる。

六カ月で何を「成功」と呼ぶのか

開設回数が少ないほど、一人ひとりの記録は重要になる。受診者数だけが多くても、初回相談で終われば経路はつながっていない。補聴器の販売台数だけを目標にすれば、医療としての中立性を損ねる。実証の価値は、患者、臨床、運営、費用を分けて評価できるかにかかる。

評価軸六カ月で見るべき指標その先の問い
アクセス受診者数、予約待ち、町外通院の回避、家族送迎の削減これまで受診できなかった人に届いたか
臨床難聴の型、治療可能な疾患、緊急・高度医療への紹介件数月1回で安全な選別と紹介ができたか
補聴試聴から装用への移行、再調整回数、使用時間、自己評価売れたかではなく、使えて聞こえが改善したか
継続性次回予約、フォロー完了率、修理・相談への応答時間診療日の間の空白を誰が支えたか
公平性年齢、居住地区、交通手段、費用別の利用状況病院に近い人だけのサービスになっていないか
運営1日当たり患者数、職員時間、移動費、機器費、診療報酬補助事業終了後も続けられる単価か
信頼価格・選択肢の説明、患者満足、苦情、販売と医療の分離特定事業者への依存を透明に管理できたか

小さい外来の、大きな限界

月1回は、ゼロよりはるかに多い。しかし常時対応ではない。急性難聴、出血、強いめまい、重い感染は待てない。精密な語音検査、画像、手術、入院が必要な人は町外へ紹介される。可搬型機器は入口をつくるが、大学病院の設備を小さな箱へ完全に置き換えるものではない。

予約枠も課題になる。高齢化率が4割を超える町で潜在需要が大きければ、1日の外来はすぐ埋まる。診療日に体調を崩した人は翌月まで待つのか。補聴器が壊れた翌日に誰が対応するのか。認定技能者と医師の予定、冬の道路、機器の校正、診療報酬、個人情報の共有を、実証後も誰が引き受けるのか。持続可能性は装置の価格より、調整役の労働で決まるかもしれない。

民間企業が機器の選択とアフターケアを支えることは、町内に販売店がない問題への現実的な答えである。同時に、診療の場と商取引が近づく。診断をした日に買わなくてもよいこと、価格帯と公的助成、試用条件、返品・修理、他事業者を選ぶ権利を、聞こえにくい本人にも理解できる方法で説明する必要がある。

診療日を待ってはいけない主な症状
  • 突然、片耳または両耳が聞こえにくくなった
  • 難聴に強いめまい、顔面の動かしにくさ、激しい頭痛が伴う
  • 耳から血や膿が出る、強い痛みや高熱がある
  • 補聴器ではなく急な病気が疑われる変化

この欄は一般的な安全情報であり、個別の診断ではない。急な症状は救急相談、かかりつけ医、町外の耳鼻咽喉科などへ速やかに相談する必要がある。

「建てる」から「組み合わせる」へ

人口が減る町すべてに常勤の専門医と専用設備を置くことは難しい。一方、住民を遠い拠点病院へ送るだけでは、慢性疾患の再診と生活支援が切れる。三朝が試すのは、その中間である。地域病院を土台に、専門医を定期的に派遣し、可搬検査を使い、地元の保健・交通・助成制度と補聴器技能者を結ぶ。

拡張するなら、毎月の対面診療の間をどう埋めるかが次の設計になる。地元看護師や保健師が使用状況と耳の不調を確認し、調整が必要な案件を次回へ整理する。遠隔相談は機器の扱い方や家族への助言を補えるが、耳の中の診察や正確な聴力評価を代替しない。町営バスや予約型交通と外来時間を合わせれば、診療所が近くなっても病院の玄関まで届かないという矛盾を減らせる。

このモデルが他地域へ広がる条件は、英雄的な医師一人に依存しないことだ。標準化した機器一式、校正と感染対策、紹介基準、患者記録、販売の倫理、地域スタッフの役割、費用負担を一つの運用手順にする必要がある。医師が隔週で二つの町を回るのか、複数診療科で同じ移動基盤を共有するのか。実証が残すべき最も価値ある成果は、診療日そのものより、再現できる設計図かもしれない。

静かな問題に、毎月ひとつの入口を

聞こえは、血圧のように数字が毎日見えるわけではない。家族が同じ話を繰り返し、テレビの音量が上がり、会議で笑うタイミングが分からなくなり、本人が集まりへ行かなくなる。その変化は「年だから」と処理されやすい。

三朝の計画は小さい。診療は月1回、試行は6カ月、機器は持ち運ぶ。だが小ささは弱点だけではない。高価な施設を先に造らず、住民が実際に来るか、調整を続けられるか、病院と町と大学と民間が働けるかを検証できる。うまくいかなければ、何が足りなかったかを比較的低い費用で学べる。

1939年、岡山の医療は温泉療養所という形で三朝へ来た。2026年、その往復は、ヘッドライトと耳鏡、可搬型聴力計を載せて戻ってくる。大病院を再現するのではない。住民が「聞こえにくい」と気づいた地点から、診断を受け、試し、調整し、使い続ける地点まで、切れていた数歩をつなぎ直す。

六カ月後に問われるのは、何台の補聴器を売ったかではない。聞こえを諦めていた人が、もう一度会話へ戻れたか。そして月に一度の小さな外来を、次の月にも、その次の年にも続く地域の仕組みに変えられたかである。

主な資料・取材根拠

  1. 岡山大学「鳥取県三朝町で耳鼻咽喉科・補聴器診療を開始」(2026年8月7日)
  2. 岡山大学発表資料(診療日、機器、認定補聴器技能者、6カ月試行の詳細)(2026年8月13日)
  3. 三朝町「人口と世帯」(2026年7月末現在)
  4. 三朝町国民健康保険 第3期データヘルス計画(人口・高齢化率)
  5. 三朝町「高齢者補聴器購入費助成事業」
  6. 第11次三朝町総合計画 後期基本計画(地形、公共交通、人口減少)
  7. 岡山大学医学部・病院の歩み(1939年の療養所設置、2016年の三朝医療センター廃止)
  8. 岡山大学「三朝医療センター閉院及び三朝地域医療支援寄付講座開設」(2016年2月10日)
  9. 三朝温泉病院「岡山大学寄付講座 協定書調印式及び開設式」(2016年1月18日)
  10. 世界保健機関「Deafness and hearing loss」(2026年3月更新)
  11. WHO「Service delivery approaches for hearing aids in resource-limited settings」
  12. 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「補聴器相談医に関わる規則」
  13. 日本聴覚医学会「補聴器適合検査の指針(2010)」
  14. 日本補聴器工業会・テクノエイド協会「JapanTrak 2025」調査報告
  15. Lin et al., “Hearing intervention versus health education control to reduce cognitive decline in older adults with hearing loss,” The Lancet(ACHIEVE試験、2023年)
  16. Livingston et al., “Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission”
  17. 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「突発性難聴」

注:外来の開始日、頻度、担当者、機器、6カ月という期間は公表済みの計画であり、実施結果ではない。患者数、受診方法、試行後の継続、費用負担など未公表の事項は、開始前または実証中に変更される可能性がある。本稿は2026年8月15日午前3時14分(日本時間)までに公表された資料を基にした。