楽園に招かれたはずだった。ところが、美しい島には外から見えない規則があり、人々の言葉にはまだ明かされない事情がある。9月17日に発売されたNintendo Switch用ソフト『Le Mirage Mystique(ル ミラージュ ミスティーク)』は、そんな旅の入口から始まる恋愛アドベンチャーだ。発売元のブロッコリーは同日、序盤を遊べる体験版も案内した。[1]
この新作を手がかりに考えたいのは、ゲームで「読む」とはどういうことか、という問いである。文章を追うだけなら本でもできる。けれども、相手の表情を見ながら返事を選び、その選択を抱えたまま次の場面に進むとき、読む行為は物語への参加になる。本稿は公式資料から作品の仕組みと歴史的な位置づけを読み解くもので、全編をプレイしたレビューではない。
1917年の島へ、一通の招待状から
公式の導入では、時は1917年の初夏。共和国の首都で暮らす少女アリアに、名高いリゾート島ミラージュへの招待状が届く。憧れの場所へ向かう喜びと、その先にある不穏さが物語の出発点となる。[3] 世界観の説明では、大戦下の世界から離れた温暖な島として描かれている。ただし、これは作品内の設定であり、実在の観光地を紹介する文章ではない。[4]
用語集には、夏至から3週間続く祝祭の間、潮流のため島から出られないという設定がある。新興地区フルール・ドールと、古い街並みを残すエクルーズ・ヴィルも紹介されている。[5] この対照からは、華やかさの奥に異なる時間が重なる島を想像できる。入口の美しさと閉じ込められる感覚が同居する舞台は、誰を信じるかという恋愛の問いを、何を信じるかという謎の問いに近づける。
ここで1917年という数字を、直ちに史実再現の保証と受け取る必要はない。読者にとって大切なのは、作品がどの情報を背景として示し、どの秘密を後に残すのかを見分けることだ。年号や地名が作る親しみと、架空の島が許す想像力。その間に、この物語を読む余地がある。
選択肢は、相手を見る角度を変える
公式システム紹介によれば、本作は文章を読み進めるテキストアドベンチャーで、選択に応じて5人の個別ルートへ進む。キャラクターの表情にはLive2Dを用いる。バックログ、チャプターセレクト、既読スキップ、クイックセーブ・ロードなどの機能も備える。[6]
こうした構造の面白さは、分岐の数そのものだけでは測れない。ある相手に近づくことで、同じ出来事の別の面が見えるのか。先に読んだ言葉が、後の場面で違う意味を持つのか。選択が単なる正解探しを超えるかどうかは、物語を進める中で確かめるべき点だ。
読み返すための機能も、単なる便利さ以上の意味を持ちうる。小説なら指を挟んだページに戻れるが、ゲームでは操作の設計が戻りやすさを左右する。前の会話を確認し、記憶と照らし合わせる時間は、人物を理解する時間でもある。画面の派手さだけで作品を見ると、こうした読書を支える仕事を見落としてしまう。
絵と音は、文章の周囲で何を語るか
公式クレジットでは、キャラクターデザイン・原画をおよ、プロデューサーを高村 旭、ディレクターを佐東 樹、メインシナリオをいちの恵理(かずら本舗)、シナリオディレクションをかずら林檎(かずら本舗)が担当する。[2] 読むゲームであっても、文章だけで完成する作品ではないことが、この分業から分かる。
楽曲紹介では、BGMを担当する和田俊輔が、知らない街で感じる予感や小さな冒険心を音楽で広げようとした趣旨を述べている。オープニングテーマ「Paradise」を担当するあみゅりは、美しさの裏側にある秘密や危うい愛を表現したと説明する。[7] いずれも制作者が公表した狙いであり、実際の効果を評したものではない。
それでも、鑑賞の手がかりにはなる。会話の内容だけでなく、その前後に置かれた間や音に注意を向けると、文章に書かれていない緊張を考えられる。表情と台詞が同じ方向を向いているのか、それとも少しずれているのか。画面を読むとは、そうした複数の情報を一度に受け取ることでもある。
「読む遊び」が歩んだ二つの道
日本の家庭用ゲームで、会話を手がかりに物語を進める試みは古い。任天堂の『ファミコン探偵倶楽部』は1988〜89年にディスクシステムで発売され、2021年にはSwitchでよみがえった。任天堂が示す操作には、移動、聞き取り、調査があり、情報を確認する調査メモもある。[8]
もう一つの節目は、ルビーパーティー最初のゲームとして1994年9月23日に発売された『アンジェリーク』だ。コーエーテクモゲームスは25周年の公式案内で、その日付と女性向け恋愛ゲームとしての位置づけを記している。[9] 推理と恋愛は同じジャンルではないが、人の言葉を受け取り、関係や状況を理解しながら先へ進むという観点で並べて考えられる。
ただし、ここから新作への直接の影響関係を断定することはできない。歴史を置く目的は系譜を一本にまとめることではなく、読んで判断する遊びが、異なる題材や制作現場で繰り返し試されてきたことを確かめることにある。操作が少ない場面でも、プレイヤーの内側では推測や期待が動いている。
新作が示す継続と、市場の大きさは別の話
LicoBiTs(リコビッツ)は、ブロッコリーとティズクリエイションによる女性向けゲームブランド。作品一覧には2024年の『泡沫のユークロニア』、2026年1月の『UN:LOGICAL』が並び、今回の作品はプロジェクト第3弾と位置づけられている。[10] 継続して企画が送り出されていることは確認できる。
一方、この発売だけで日本のプレイヤー全体の好みや、市場の成長率は語れない。物語を重視する作品を作り続ける側の動きと、どれだけ売れたかという結果は分けて見る必要がある。新作の価値を考える際にも、売上の大きさだけでなく、誰にどのような読書体験を用意したのかという問いを持ちたい。
島に渡る前に確認したいこと
基本情報は次の通り。価格は通常版の税込価格であり、店舗の特典付きセットなどとは区別した。[2]
| 項目 | 製品情報 |
|---|---|
| 正式名称 | Le Mirage Mystique(ル ミラージュ ミスティーク) |
| 発売日 | 2026年9月17日 |
| 対応機種・人数 | Nintendo Switch/Nintendo Switch Lite・1人 |
| 通常版価格 | パッケージ版・ダウンロード版とも8,580円(税込) |
| 対象年齢 | CERO C(15歳以上対象) |
| 企画・制作/発売 | ティズクリエイション株式会社/株式会社ブロッコリー |
体験版は共通ルート2章まで遊べ、セーブデータを製品版に引き継げると発売元は案内している。[1] 購入を考える人にとっては、文章の密度や画面の読みやすさ、自分の読書のペースとの相性を確かめる機会になる。序盤への好感だけで、全ルートの完成度を判断することはできないが、旅の入口は自分で歩ける。
9月17日には更新データVer.1.0.1も配信された。公式発表の修正内容は軽微な不具合で、プレイ時の更新を求めている。[11] 始める前に公式案内を確認しておきたい。
招待状を受け取るところから、物語は始まる。その先でプレイヤーに求められるのは、先へ進む操作だけではない。言葉を覚え、表情を読み、自分が何を期待して返事を選んだのかを振り返ることだ。『Le Mirage Mystique』の発売は、ゲームの中にあるこの静かな参加の仕方を、改めて見つめる機会となる。
- LicoBiTs:9月17日発売・体験版案内
- LicoBiTs:製品情報
- LicoBiTs:ストーリー
- LicoBiTs:世界観
- LicoBiTs:用語集
- LicoBiTs:ゲームシステム
- LicoBiTs:楽曲情報・制作者コメント
- 任天堂:ファミコン探偵倶楽部
- コーエーテクモゲームス:アンジェリーク発売25周年
- LicoBiTs:ブランド・作品一覧
- LicoBiTs:更新データVer.1.0.1
9月17日までに確認した公式資料に基づく。物語の読み方と歴史的な位置づけについての考察はJapan.co.jpによる。
