白い材料をつくるには、白い顔料を加える。その当たり前を、材料の内側から考え直す研究が京都から発表された。透明な高分子に微細な空隙をつくり、光を繰り返し散乱させることで白く見せる。さらに表面の形を変えると、水を強くはじく性質も生まれるという。

京都大学アイセムス(高等研究院 物質-細胞統合システム拠点)は9月10日、イーサン・シバニア教授らによる新しい加工技術を発表した。東京都立大学、東華大学などとの共同研究で、成果は英科学誌Natureに掲載された。日本時間の掲載日は9月10日と大学側が案内している。[1][3]

技術名はディープフォーム・フォトリソグラフィ(DFP)。二酸化チタンの白色顔料やPFASの撥水コーティングに頼らず、白さと表面機能をつくる道を示す。ただし、日用品としての耐久性や、製造から廃棄までの環境負荷は、実用化に向けて見極める必要がある。

透明なものが、なぜ白くなるのか

水は透明なのに、細かい泡が集まると白く見える。白さの鍵は、物質と空気の境界で光が進む向きを変えることにある。さまざまな波長の可視光が繰り返し散乱されると、特定の色に偏らない白い外観が生まれる。大学の発表は、こうした自然界の構造を手本にしたと説明する。[1]

ここでいう「顔料を使わない」は、材料を何も加えずに放置しておけば白くなるという意味ではない。DFPは光に反応する成分を利用する加工法だ。白さを担う主役が、塗り重ねた白色粒子から、高分子と空隙がつくる構造に変わる。化学反応を使いながら、光学的な働きを形に持たせるのである。

また、白く見えることと、下地を隠すことは同じではない。薄い試料が黒い下地の上でも十分に白く見えるか。光をどれだけ透過し、どれだけ反射するか。材料の厚さや測定条件をそろえて比較して初めて、顔料の代わりとしての性能を評価できる。写真の鮮やかさだけで用途は決まらない。

紫外線で切り、つなぎ、溶媒で膨らませる

共同発表の詳細によると、紫外線の照射で高分子鎖の切断と架橋が進む。架橋とは、分子鎖の間を結び、網目をつくることだ。次に、材料との相互作用が弱い溶媒で現像する。切断でできた低分子の断片と、架橋された網目が共存する状態で溶媒が入り、局所的な相分離と膨張を経て、泡状の構造が育つという。[2]

重要なのは、切断だけでも、架橋だけでもないという点だ。溶媒に触れたときに材料がどう変形するかは、両者の釣り合いに左右される。単にプラスチックを傷めて白くする話ではなく、光を当てる条件と現像条件によって、構造ができる場所や状態を制御する。

論文の要旨は、発泡構造の膨張と制御された崩壊を利用し、光学特性や濡れ性などを場所ごとに変えられるとする。大学側はフィルムに加え、繊維への適用も報告している。新しい専用樹脂一種類の発明というより、複数の高分子に使える加工基盤を目指した研究だ。[3]

2万dpiという数字が意味すること

研究チームは約2万dpiの解像度を報告した。dpiは1インチ当たりの点の数を示す単位。単純に換算すると、2万分の1インチは約1.27マイクロメートルになる。これは本誌による単位換算であり、すべての細孔の直径を表す数字ではない。[3]

光を当てる位置で白色の模様をつくれることは、白さそのものとは別の価値を持つ。均一な白いシートをつくるだけでなく、細かな図柄や機能の異なる領域を配置できるからだ。ただし、高解像度と大量生産の速さは別の指標である。面積を広げても同じ品質で処理できるか、必要な照射時間はどの程度かという問いが残る。

ハスに学ぶ撥水、その研究史

自然の表面から機能を学ぶ研究には長い蓄積がある。1997年のPlanta誌の論文で、BarthlottとNeinhuisは、植物表面の微細な凹凸、水のはじきやすさ、汚れの付着のしにくさの関係を調べた。ハスなどの葉に付けた粒子が、転がる水滴によって取り除かれる現象を実験で示した。[9]

この研究が教えるのは、自然の効果を見た目だけで説明できないことだ。葉の表面には微細な形とワックスなどの化学的な性質がある。粗くすれば、どんな材料でも水をはじくというわけではない。形と材質の組み合わせが重要になる。[9]

DFPでは、条件によって発泡構造が崩れ、非常に細かな凹凸を持つ表面が生まれる。共同発表は、花のような微細構造を持つ表面で超撥水性が得られたと説明する。白色を生む内部の構造と、水に触れる表面の構造は関連しているが、同じ性能指標で評価するものではない。[2]

水滴が丸くなること、水滴が滑り落ちること、水圧を受けても裏側へ水を通さないことは、それぞれ違う。油汚れをはじく性能も別に確かめる必要がある。「撥水」という一語から、防水衣料や耐油包装として完成したとまでは読み取れない。

白色顔料の歴史を、単純な善悪にしない

白をつくる材料の歴史には、性能と安全性を問い直してきた積み重ねがある。ボストン美術館の材料データベースCAMEOによると、鉛白は古代から絵画などの主要な白色顔料として用いられ、20世紀初めには亜鉛華やチタン白への置き換えが進んだ。[7]

チタン白の工業化は1910年代から進展した。高い隠蔽力を持ち、鉛白の代替を求める動きも普及を後押ししたとCAMEOは説明する。したがって、二酸化チタンは単に古い技術というだけでなく、当時の材料上の課題に答えて広く使われるようになったものでもある。[8]

今日の評価も、用途を分けて読む必要がある。欧州食品安全機関(EFSA)は2021年、食品添加物としての二酸化チタンについて、遺伝毒性の懸念を排除できないと判断した。これは食品として摂取する場合の評価であり、あらゆる工業用途に同じ結論を当てはめたものではない。新材料にも、使用場面に即した評価が求められる。[10]

「PFASを使わない」の範囲を確かめる

環境省は、PFASをペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称として説明し、PFOSやPFOAの難分解性、高蓄積性、長距離移動性を挙げている。PFASは単一の物質名ではない。何を、どの用途で置き換えるのかを明確にすることが、代替技術を評価する出発点になる。[6]

今回、大学が示す強みは、PFASの撥水コーティングに頼らずに表面機能を生み出せる点だ。一方、論文の公開拡張データには、PET試料をつくる際の溶媒として、フッ素を含むトリフルオロ酢酸が記載されている。撥水処理にPFASを必要としないことと、研究で用いたすべての製造工程からフッ素系物質がなくなったことは、区別しなければならない。[1][3][11]

これは全試料が同じ溶媒を使うという意味でも、完成品にその溶媒が残っていると確認されたという意味でもない。製造工程の選択、溶媒の回収、残留物の管理まで含めて考えるべきだということだ。本誌の分析では、PFAS代替としての価値と、製品全体の環境性能は、別々に検証するほど評価が明確になる。

1,200回曲げた後に見えたもの

耐久性については、論文の補足資料に初期的な検討がある。ポリスチレンを用いた印刷試料は、1,200回の曲げ試験後も模様を保ったと報告されている。一方、顕微鏡では発泡領域にも未発泡領域にも亀裂が見つかった。模様が残ることと、微細構造に損傷がないことは同じではない。[4]

この結果は、材料の可能性と、次の課題を同時に示す。曲げても白い模様が見えるという観察は有用だが、それだけで繰り返しの洗濯後も撥水性が続くとは言えない。衣料なら摩擦や洗剤、包装なら折り目や内容物との接触など、用途によって確かめる条件が変わる。

また、既存の高分子に加工できることは、生分解性の証明ではない。原料を何にし、どのように処理し、使い終わった後にどこへ回収するかで環境負荷は変わる。軽さや顔料削減という一つの利点を、ライフサイクル全体の優位性にまで広げて語るには、追加の比較が必要だ。

京都で、どんな使い方から始まるか

共同発表では、京都の伝統工芸との連携や、屏風、照明、日傘などへの展開が構想されている。いずれも将来の応用先であり、量産品の発売を発表したものではない。[2]

研究に参加した東京都立大学の柳島大輝(やなぎしま・たいき)准教授は、ソフトマターやコロイド物理を専門とする。光学、高分子、表面の濡れを横断するこの研究は、素材の成分表だけでは捉えにくい、内部構造の働きを産業に結びつける試みといえる。[5]

本誌が注目するのは、白さを別の白い物質で置き換えるだけでなく、白く見える場所、水をはじく場所を加工によって設計できる点だ。すべての顔料や撥水剤を一度に代替する必要はない。模様、軽さ、触感、耐久性の組み合わせが役立つ用途を見つけることが、研究室の成果を製品へ近づける。自然から借りた原理を、人が長く使える材料に育てる仕事は、ここから続く。