数分間の事業発表では、解決する課題、顧客、技術、収益モデル、競合との差、海外展開の可能性を短時間で示さなければならない。九州予選の10社が扱うのは、睡眠研究、切削加工、航空整備、透析、畜産、板金塗装、食品企業の事業承継など、現場での検証が欠かせない分野である。

ペガサス・テック・ベンチャーズ・ジャパンは8月21日、「スタートアップワールドカップ2026」九州予選のファイナリスト10社を発表した。主催者によると、約250社から書類審査で選ばれ、10月6日午後1時から熊本城ホールのメインホールで日本語によるプレゼンテーションと質疑に臨む。主催者は、会場とオンラインを合わせて2,000人超の参加を見込む。勝者は11月にサンフランシスコで開かれる世界決勝へ進む。主催者によると、世界決勝の優勝企業には100万ドルの投資賞金が用意される。

約250社主催者が発表した九州予選の応募数。書類審査を経て10社が登壇する。
10社睡眠、DX、製造、量子、畜産、遺失物、医療、自動車修理、食品企業の事業承継、ロボットのファイナリスト。
10月6日熊本城ホールでの九州予選開催日。主催者の最新発表に基づく。
100万ドル主催者が公表する世界決勝の優勝投資賞金。
日程変更:熊本市は、令和8年熊本地震の影響により、8月26日に予定されていた九州予選を10月6日へ延期した。主催者の8月21日発表では、会場を熊本城ホールのメインホール、開催時間を午後1時から5時としている。一部企業の告知には旧日程が残っているため、本稿は主催者の最新発表を採用した。

ファイナリスト10社の事業

企業 挑む問題 技術・事業
株式会社ACCELStars
福岡県久留米市
日常環境で得られる睡眠データの医療・健康分野への活用 東京大学で蓄積された睡眠研究を事業の基盤とし、腕時計型機器のデータをAIで解析。2020年8月設立。
アルサーガパートナーズ株式会社
東京・福岡・熊本・鹿児島
企業のDX構想からシステムの開発・運用までの実行 コンサルティング、国内でのシステム開発、生成AI活用、運用保守を提供。熊本市内に2拠点。
アルム株式会社
石川県金沢市
切削加工のNCプログラム作成と製造現場の人材不足 3D CADデータから加工プログラムなどを自動生成する「ARUMCODE」シリーズを開発。
株式会社エー・スター・クォンタム
東京都港区
人員、物流、生産、整備など制約条件の多い組み合わせ最適化 量子技術、数理最適化、AI、高速データ処理を組み合わせた「AQCloud」を提供。
ファーマーズサポート株式会社
鹿児島県
牛の分娩・発情の兆候把握と飼養管理の負担軽減 牛に機器を装着せず、カメラ映像をAIで解析する「MOOVIE(モービー)」。
株式会社find
東京都港区
落とし物の登録、照合、問い合わせ、返却業務の効率化 落とし物の登録から返却までを一元管理する「落とし物クラウドfind(ファインド)」。
ジーニアルライト株式会社
静岡県浜松市
透析回路などのチューブ内を流れる血液の連続測定 回路の外側から測定するヘマトクリットセンサー「Hctモニタ」などを開発。
株式会社イケウチ
東京都・全国
自動車の板金塗装における人材、価格、修理期間の課題 直営店舗網で板金塗装を提供。公式サイトによると全国35店舗、年間3万9,000台以上を修理。
まん福ホールディングス株式会社
東京都・全国
後継者不在に直面する食品企業の事業承継 食品企業を承継し、グループ内の調達、販売、人材などを通じて経営を支援。熊本の事業も承継。
株式会社Piezo Sonic
東京都・熊本県八代市
磁場・真空などの特殊環境での駆動と不整地での小型搬送 超音波モータと自律移動ロボットを開発。熊本県八代市に拠点を置く。

身体や動物への負担を抑えて状態を測る

ACCELStars、ファーマーズサポート、ジーニアルライトは、対象にかかる負担を抑えながら状態を把握する技術を手がける。ただし、腕時計型機器による睡眠解析、牛舎カメラによる畜産支援、透析回路の外側から行う測定では、必要な検証方法も規制も異なる。

ACCELStarsは東京大学で蓄積された睡眠研究を事業の基盤とし、腕時計型機器から得たデータをAIで解析する。2020年8月に設立され、2024年にはシリーズAで10億9,000万円を調達した。同社は睡眠の変化を中枢神経疾患などに関わるデジタルバイオマーカーとして活用する研究開発を進め、企業や健康保険組合、自治体向けに「SLEEP COMPASS」も提供している。疾患との関係や医療上の有用性は、個々の研究と用途ごとに評価する必要がある。

ファーマーズサポートの「MOOVIE」は、牛舎のカメラ映像をAIで解析し、牛の分娩や発情の兆候を通知する。同社は、牛に首輪などを装着しないため装着作業が不要になると説明している。分娩予兆の検知率や通知時刻として示される数値は同社の調査に基づくものであり、飼養環境による差を含めた第三者検証が重要になる。

ジーニアルライトは、透析回路のチューブ外側から測定するヘマトクリットセンサー「Hctモニタ」などを開発している。医療機器では測定性能だけでなく、安全性、既存装置との接続、薬事上の手続き、臨床現場での運用が事業化の条件となる。

製造や配置の判断をソフトウェアで支える

アルム、エー・スター・クォンタム、アルサーガパートナーズは、製造工程や人員配置、システム開発で生じる複雑な判断を扱う。

金沢市のアルムは、3D CADデータを基にNCプログラムなどを生成する「ARUMCODE」シリーズを開発している。同社は加工工程の自動化や無人運転への活用を掲げる。一方、工具や素材、設備によって条件が変わる切削加工では、実際の工場で例外をどこまで安全に処理できるかが導入判断を左右する。

エー・スター・クォンタムは、「AQCloud」で量子技術、数理最適化、AI、高速データ処理を組み合わせる。航空整備を含む同社公表の事例は、制約の多い計画を短時間で組み直す用途を示している。ただし、導入効果は案件ごとの条件と比較方法を確認する必要がある。

アルサーガパートナーズは、コンサルティングからシステム開発、生成AIの活用、運用保守までを提供する。2026年7月末時点の従業員数は同社公表で401人。熊本市内に2拠点、福岡、鹿児島にも拠点を置く。受託型の事業を拡大する際には、人員の増加だけに依存せず、品質を維持できる仕組みを示せるかが焦点となる。

技術名だけでは事業の優位性は決まらない。顧客の課題、導入効果、検証方法、継続的に提供できる体制を具体的に示せるかが審査の材料になる。――Japan.co.jp分析

分断された業務を一元化する事業

find、イケウチ、まん福ホールディングスは、個々の現場に分かれていた業務を共通の仕組みや企業グループにまとめようとしている。

2021年設立のfindは、「落とし物クラウドfind」で、落とし物の登録、検索、問い合わせ対応、返却までを一元管理する。鉄道や商業施設など参加事業者が増えれば照合範囲を広げられる可能性があるが、その効果は導入施設数やデータ連携の実態によって決まる。

イケウチは、自動車の板金塗装を直営店舗で提供する。公式サイトでは全国35店舗、年間3万9,000台以上の修理実績を掲げる。価格や工程、見積り、部品調達などを標準化しながら、各店舗で修理品質を保てるかが事業拡大の要点になる。

まん福ホールディングスは、後継者問題を抱える食品企業を承継し、グループとして経営を支える。2023年には熊本のオオツカグループの一部事業を承継した。2026年4月1日時点の連結従業員数は同社公表で2,429人。事業承継の成否は、買収件数だけでなく、雇用、取引先、品質、地域との関係を長期に維持できるかで評価される。

熊本県八代市にも拠点を置くPiezo Sonic

Piezo Sonicは、圧電素子の振動を利用して回転力を生む超音波モータと、自律移動ロボットを開発している。同社の説明によると、超音波モータはコイルや磁石を使わず、強い磁場の影響を避けたい機器などへの応用を想定する。

本社は東京都大田区にあり、熊本県八代市の神田工業八代工場内にも拠点を置く。自律移動ロボットの事業では、積載量や段差走破の公称値だけでなく、雨天、不整地、人の近くでの安全性、保守、量産費用を実証できるかが海外展開を含む普及の条件になる。

熊本が起業支援拠点に選ばれた背景

熊本県と熊本市を中心とする「熊本スタートアップエコシステムコンソーシアム」は2025年6月、国の第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市で「NEXTグローバル拠点都市」に選定された。同年7月には産学官金によるコンソーシアムを設立し、地場企業との協業、海外展開、資金調達などを支援している。

農業、食品、医療、製造業が集積する熊本では、ファイナリストの技術を試す現場を見いだしやすい。一方、大会を開催するだけで地域発の企業が増えるわけではない。研究機関、既存企業、投資家、自治体が大会後も実証や取引を継続できるかが、拠点政策を評価する基準になる。

2017年 — 主催者によると、Startup World Cupが始まる。

2024年 — 熊本で初の九州予選を開催。

2025年6月 — 熊本が国の第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市に選定。

2026年8月7日 — 熊本市が、地震の影響による大会延期を発表。

2026年8月21日 — 主催者が約250社から選んだファイナリスト10社を発表。

2026年10月6日 — 熊本城ホールで九州予選を開催予定。

2026年11月 — 主催者発表ではサンフランシスコで世界決勝を開催予定。

事業段階が異なる10社をどう見るか

10社は同じ条件で単純に比較できない。医療機器には規制対応と臨床での検証が必要で、DX支援では人員への依存度が収益性を左右する。ハードウェアは量産資金と保守網が必要になり、事業承継では統合後の長期的な経営が問われる。

Japan.co.jpが注目する五つの確認点
  1. 顧客課題:誰のどの業務を、どの程度改善するのか。
  2. 検証:精度、時間、費用、売上、継続率をどの方法で確かめたか。
  3. 競争優位:特許、データ、認証、取引網、現場知識のどこに強みがあるか。
  4. 拡張性:品質を保ちながら、地域や顧客数を広げられるか。
  5. 海外市場:日本で確認した課題と解決法が、他国でも成立するか。

人手不足は複数社に共通する背景である。加工、板金塗装、畜産、医療、食品事業の承継では、経験者の不足や勤務負担がすでに経営課題になっている。各社の提案が実際の省力化や安全性向上につながるかは、導入後の数値と利用者の評価で確かめる必要がある。

一社の選出だけで終わらせない

世界決勝へ進むのは一社だけだ。しかし地域にとっては、残る九社を含めて、実証先、顧客、共同研究者、投資家との接点が生まれるかが重要になる。

2025年の九州予選では、熊本市によると会場約800人、オンライン約1,200人が参加し、熊本県のトイメディカルが優勝した。2026年大会は地震で延期された。安全を確保して大会を開き、当日限りにせず事業連携へつなげられるか。熊本の起業支援策は、10月6日の結果だけでなく、その後の動きによって評価される。