6割強余震への不安を理由に挙げた調査回答者
10月23日熊本日日新聞による調査報道
2016年前回の熊本地震の教訓
8月31日県の車中泊支援案内更新

安全だと感じる場所と、健康を守れる場所は、必ずしも同じではない。

夜の駐車場が避難所になるとき

余震への不安から、家ではなく車で夜を過ごす。地震の直後なら想像しやすい行動だ。だが、その夜が重なると、安心を得るための車内が別の健康リスクを生む。2026年の熊本地震をめぐり、被災者支援団体の調査が問いかけたのは、避難場所を選ぶ理由と、そこで暮らすための条件だった。

「また大きな地震が来る」――調査が映した心理

熊本日日新聞が10月23日に報じたところによると、熊本市の被災者支援団体「minori」(代表・高木聡史)などが実施した車中避難者の調査で、回答者の6割強が「再び大きな地震が起きる不安」を車中避難の理由に挙げた。困り事には暑さや、冷房に使うガソリンがあったという。発表には北九州市立大学の稲月正名誉教授も同席した。これは車中避難経験者を対象とした調査についての報道であり、熊本県民全体の6割が車で寝たことを意味しない。

数字で分かること、まだ分からないこと

公開された記事の要旨から、回答者数、抽出方法、調査期間、設問が複数回答かどうかを十分には確認できていない。このため「6割強」を地域全体の発生率や、全避難者の心理状態へ広げることはできない。それでも、被災した人にとって建物への恐怖が実際の避難選択に影響することを示す重要な手掛かりだ。今後は調査票と報告書の公開、団体への取材が求められる。

車を選ぶことは、避難を拒むことではない

車の扉は閉められる。家族だけで過ごせる。移動もできる。大型の共同避難所では難しい静けさやプライバシーを得られる場合もある。一方、車内の温度や寝る姿勢、トイレや水の確保は日ごとに問題となる。車中避難を単純に「本人の好み」と片付ければ、避難所の混雑、ペットとの生活、乳幼児や高齢者への配慮など、避難施設の側の課題が見えなくなる。

10年前、熊本で起きたこと

2016年4月の熊本地震でも、強い揺れが続き、多くの人が屋外や車内で過ごした。内閣府がまとめた当時の資料には、余震への不安、避難所の混雑、乳児やペットとの同居、車内の財産管理などが車中泊の理由として記録されている。指定避難所の外にいる人を把握できず、物資や情報が届きにくくなることも問題だった。2026年の調査結果は、特定の条件の下で過去の課題が再び表面化する可能性を示す。ただし、2016年と2026年の調査対象や方法は同じではなく、割合を単純比較することはできない。

知られた危険、それでも続く車中泊

厚生労働省は、狭い座席で長時間足を動かさず、水分も不足すると、脚の深い静脈に血栓ができ、肺塞栓症につながるおそれがあると注意している。通称「エコノミークラス症候群」だ。座り続ける状況が問題であって、航空機だけの病気ではない。むくみや脚の痛み、胸の痛み、突然の息切れなどには医療上の注意が必要となる。暑い季節には熱中症も加わり、燃料が乏しければ冷房すら使えない。

日常の習慣をどう守るか

厚生労働省は、無理のない範囲での体操や足首の運動、こまめな水分補給、締め付けの少ない衣服などを予防策として挙げる。ただし、一般的な予防策だけで車中泊が安全になるわけではない。妊娠中、持病がある人、移動に介助が必要な人などには、個別の医療・福祉支援が欠かせない。症状が出たときは相談を先延ばしにしないことも重要だ。

「避難所の外」に支援を届ける仕組み

政府は2024年に「在宅避難者・車中泊避難者等の支援の手引き」を整え、避難所の建物に来ていない人も支援対象として把握する方向を示した。車中泊の場所、必要な水やトイレ、保健師の巡回、安否確認、情報提供を誰が担うか。災害対応の実務では、支援拠点の中だけで名簿を整えても足りない。行政、社会福祉協議会、医療機関、民間団体の連携が問われる。

熊本県の相談窓口はすでにある

熊本県は8月31日更新の案内で、車中泊避難者向けの健康相談ダイヤル「050-3499-7402」(8時30分~23時)を公表している。住まいや食料、体調、生活再建などの悩みについて市町の相談窓口を使うよう呼びかけ、八代市、宇城市、宇土市などの連絡先も掲載した。窓口の開設状況や受付時間は変更されうるため、利用時には県の最新ページで確かめてほしい。

車中泊を減らすだけでよいのか

「車で寝る人をゼロにする」ことだけを目標にすると、車を選ばざるを得ない事情が残る。より大切なのは、安全で落ち着ける選択肢を増やし、車にいる人を支援から取り残さないことだ。信頼できる建物、安全確認の情報、家族やペットへの配慮、障害のある人も使える設備、迅速な生活再建支援。いずれも物理的な避難場所と同じくらい重要である。

避難の理由を、政策の出発点に

10月23日の調査が示した「再び揺れるかもしれない」という不安は、単なる感想ではない。選べる避難先、暮らすための資源、医療と情報へのアクセスを左右する条件だ。車中泊する人を数えるだけでなく、なぜそこにいるのかを聞き、必要なものを届ける。その積み重ねが、次の大きな災害への備えになる。

出典・確認資料

熊本日日新聞の公開記事の範囲で調査結果を確認。詳細な標本数や質問票は未確認。政府・県の公表資料と区別して記述した。現地取材および独自インタビューは行っていない。

  1. 熊本日日新聞:車中避難の理由と支援団体の調査(10月23日)
  2. 熊本県:車中泊で避難されている皆様へ(8月31日更新)
  3. 熊本県:令和8年熊本地震に関する情報
  4. 内閣府:在宅避難者・車中泊避難者の支援
  5. 内閣府:避難所の生活環境対策
  6. 厚生労働省:災害時の健康管理
  7. 厚生労働省:エコノミークラス症候群の予防
  8. 内閣府:2016年熊本地震における多様な避難形態
  9. 内閣府:2016年熊本地震の車中泊の実態と課題