AIの未来を決めるのは、チップの速さだけではない。チップを結ぶ通信の効率も試されている。
AIの電力問題は、計算だけでは解けない
生成AIの進化を語るとき、注目されやすいのはGPUの演算能力だ。しかし、大規模なAIシステムにはもう一つの条件がある。大量のGPUが、必要な情報を遅れなく交換できることだ。高速道路の車線を増やしても交差点が詰まれば都市は動かない。データセンターでも、通信経路の混雑や損失が演算資源の使い方を左右する。しかも、情報を運ぶにも電気が必要になる。
KDDIが2026年10月22日に発表した米Broadcomとの技術提携は、この見えにくい課題を正面から扱う。目標はGPU間ネットワークの光電融合を進め、AIデータセンターの消費電力を抑えること。両社は同日、Co-Packaged Optics(CPO)の共同検証を始めると公表した。現時点で発表されたのは実証の計画と評価項目であり、KDDIの施設で削減量が実証されたというニュースではない。
なぜ「光」をチップの近くに置くのか
一般的な高速通信装置では、スイッチ用半導体から基板上の電気配線を経て、差し込み式の光トランシーバーへ信号を運ぶ。通信速度が上がるほど、長い電気伝送経路で生じる損失を補う処理の負担が大きくなる。CPOは、電気信号と光信号を変換する「光エンジン」をスイッチチップの近くに配置する方式だ。電気で運ぶ距離を縮め、光の利点をより早い段階で活用する。
ただし、CPOは「データセンター内の全配線を光に変える」という意味ではない。光の送受信、電気回路、制御、冷却、レーザー光源などが共存する。光部品を高度に集積すれば、放熱、故障時の交換、製造歩留まり、保守の仕組みも設計課題になる。省電力の可能性と現場での扱いやすさを、同じ土俵で検証する必要がある。
Tomahawk 6とDavissonは何を担うのか
KDDIの発表によると、検証環境にはBroadcomのイーサネットスイッチング用チップ「Tomahawk 6」と、光エンジンのモジュール「Davisson」を搭載したCPOスイッチを導入する。Tomahawk 6の公称スイッチング容量は単一チップで102.4Tbps。これは装置が扱う通信容量を表す設計上の数字であり、家庭向け回線速度でも、今回の試験で達成した実効速度でもない。
Broadcomは2025年10月、Tomahawk 6–Davissonを第三世代のCPOイーサネットスイッチとして発表した。製品発表では、光接続の安定性や電力効率を訴えた。今回のKDDIとの協業が新しいのは、製品自体の登場ではなく、日本の通信事業者が自社データセンターの環境でAI向けネットワークとして検証に踏み出したことだ。
問われるのは消費電力と「使える速度」
共同検証では消費電力の削減効果だけでなく、分散学習・推論を想定した処理でパケットロス、輻輳制御、実効スループットを調べる。通信の理論容量が大きくても、混雑や再送によってGPUが待たされるなら、高価な計算設備を十分に生かせない。反対に、ネットワークが安定すれば、同じ演算資源で仕事を終えるまでの時間に違いが出る可能性がある。
重要なのは比較条件だ。従来型スイッチとの比較で、通信負荷、ポート数、トランシーバー、レーザー、冷却、冗長構成の消費電力をどう算入するのか。単一部品の効率と施設全体の省エネは同じではない。今回の発表ではKDDI環境での削減率、総投資額、導入時期は明らかにされていない。
データセンターから家庭まで――KDDIの狙い
提携にはもう一つの柱がある。KDDIはBroadcomの光電変換技術に関する知見を活用し、宅内ブロードバンド領域の次世代FTTHへの移行も検討する。FTTHは光ファイバーを家庭まで引き込む通信方式である。ただし、家庭向け新サービスの仕様や開始日が決定したわけではない。
背景にあるのは、海底ケーブル、データセンター、APN(All-Photonics Network)、6Gなどを結ぶKDDIの「デジタルベルト構想」だ。通信事業者にとって、AIは単なる外部サービスではなく、拠点間回線から利用者の接続までを設計する理由になりつつある。都市と地方の低遅延通信網をどう整えるかも、今後の検討点となる。
光電融合の歴史は一社から始まったのではない
光ファイバーは長距離通信を大きく変えてきた。インターネットの基幹網や海底ケーブルでは、光による大容量伝送が長く使われている。ところが半導体チップの近くでは電気信号の処理と配線が不可欠で、その境界をどこに置くかが新たな競争分野になった。シリコンフォトニクスや高度な半導体実装は、この境界を短くするための重要技術である。
国内でもNTTグループはIOWN構想の下で光を活用する通信基盤を開発し、2023年3月にAPN IOWN1.0の商用サービスを開始した。ただし、NTTの取り組みとKDDI・Broadcomの今回のCPO試験は、技術範囲も商用化段階も同一ではない。日本で「光」を巡る開発が広がっていると理解するのが適切だ。
省エネ技術だけでは増える電力需要を消せない
国際エネルギー機関(IEA)は、データセンターの世界の電力使用量が2025年の約485TWhから2030年に約950TWhへ増えるという中心的見通しを示している。これは世界全体の予測であり、KDDIの施設の消費量を示す数字ではない。AI向け施設では特に急な需要増が見込まれる。
一方、通信機器が少ない電気でより多くのデータを運べるようになれば、増設時の電力・冷却・設備配置の選択肢が広がるかもしれない。ただし、効率が上がってもAI利用量がさらに増えれば、施設全体の電力需要が減るとは限らない。電力調達、立地、送電網、冷却方式と合わせて評価すべき問題である。
次に見るべき数字
読者と企業が次に注目すべきなのは、削減率の見出しよりも測定条件の公開だ。①従来型に対するネットワーク全体の電力、②学習・推論時の実効スループットと遅延、③障害発生率と保守性、④レーザー光源を含む運用コスト、⑤本格導入までの工程。これらがそろって初めて投資判断に耐える比較ができる。
KDDIは10月27、28日に開催する「KDDI SUMMIT 2026」で提携と検証に関する展示を行う予定だ。発表からわずか数日で完成した成果を期待するより、試験が何を測り、いつ結果を公表するのかを確かめたい。AIの時代の競争は、チップの演算だけでなく、その間を行き来する情報の流れにも広がっている。
出典・確認資料
企業の発表内容と編集部の技術解説を区別した。省電力効果の定量的な実証結果、商用導入時期、費用は公表されていない。取材先への独自インタビューは実施していない。
