10月26日会社の発表日
2025年専用溶解炉の導入
約8割FPC向け圧延銅箔の会社推定世界シェア
24.6%2024年度グループ電気銅の再生比率
本稿は10月26日の会社発表を起点に、公開資料で確認できる事実と会社の見通しを区別した。

「再生銅100%」で曲がる電子回路を作る

スマートフォンを折り曲げたり、腕時計型端末を何度も動かしたりしても、内部の配線が断線しない。その陰には薄く、しなやかで、高い純度を必要とする銅箔がある。JX金属株式会社は10月26日、銅原料を全てリサイクル由来にした圧延銅箔の本格販売を同月から始めたと発表した。環境配慮の看板を掲げた新製品だが、技術的な核心は「ごみから銅を取り出す」ことだけではない。使い終えた製品や工程くずに含まれる不純物を除き、極薄の精密電子材料として再び使える品質まで戻すことにある。

発表で確認できること

会社によると、グループ会社が回収したリサイクル原料を使用し、2025年に新たに導入した専用溶解炉を含む工程で銅を精製する。リサイクル原料だけを溶解して圧延銅箔を製造し、従来品と同等の品質で安定生産できるという。発表日は2026年10月26日、販売開始は同年10月である。今後、対象となるUL認証の適用を進める予定とも説明した。つまりUL認証がすでに完了したと報じることはできない。

圧延銅箔とは何か

圧延銅箔は、銅を圧延して薄い金属箔に加工した材料。主な用途はフレキシブルプリント基板(FPC)で、端末の狭い空間に収める配線や、繰り返し動く部分に使われる。電気めっきによって銅箔をつくる電解銅箔とは製法と用途の特徴が異なる。JX金属は結晶構造を制御する技術を強みとし、曲げに強い箔を提供してきた。同社の技術紹介では厚さ6マイクロメートルまでの製品も扱うと説明するが、今回販売する再生原料品の全てがその厚さであると確認できたわけではない。

「銅なら何でもよい」では通用しない

電子回路が微細になるほど、原料に混ざる不純物や加工中の欠陥は品質に影響しかねない。同社は高屈曲性と微細回路への対応を実現するには、競合品以上に不純物の少ない銅が必要だと説明している。再生原料には使用履歴も材質も異なる金属が入り得るため、純度を揃える工程が製品の価値を決める。今回の製品の差別化は、長年培った不純物分離技術と操業の経験を、専用設備による再資源化に結び付けたことにある。

世界シェア「約8割」は会社の説明

JX金属は、スマートフォンやウェアラブル機器などに使われるFPC向け圧延銅箔について、世界シェア約8割を有すると公表している。ただし、この数字は会社発表によるもので、対象とする製品や年次、第三者調査の方法まで今回の資料では示されていない。すべての銅箔市場で8割を占めるという意味でも、再生原料品だけが8割を占めるという意味でもない。重要なのは、その限定された高機能市場で供給企業の材料選択が広範な製品設計に影響し得る点だ。

「Cu again」が進んできた道

同社は2022年に「サステナブルカッパービジョン」を策定し、2024年1月に「Cu again(シーユーアゲイン)」として100%リサイクル電気銅の供給モデルを提案した。2025年1月にはチタン銅合金やコルソン合金などの高機能伸銅品へ拡大。そして2026年10月、圧延銅箔の本格販売を発表した。2024年度にはグループの電気銅のリサイクル比率が24.6%、リサイクル銅量は約10万トンに達したと会社は説明する。一つの製品が原料100%再生であることと、グループ全体の銅原料が100%再生であることは別だ。

マスバランス方式との重要な違い

過去の100%リサイクル電気銅モデルには「マスバランス方式」がある。新規鉱石由来の原料と再生原料を同じ工程で扱い、投入した再生銅の量を管理して、その属性を一定の製品に割り当てる仕組みだ。これはサプライチェーンの資源循環を管理する一つの方法だが、製品の銅原子の由来を一つずつ分離した保証とは異なる。今回の圧延銅箔について会社は「リサイクル原料のみを溶解」と明記する。認証や原料追跡の具体的な範囲は別途確認が必要だが、両者を同じ意味の「再生率100%」として扱うべきではない。

なぜ銅の循環が産業政策になるのか

電力網、データセンター、電気自動車、通信機器には銅が欠かせない。日本は銅鉱石をはじめ多くの資源を海外に頼る。使用済み基板や製造工程で生じるスクラップを国内外で回収し、高い価値の材料へ戻せれば、新たな鉱石の調達だけに依存しない供給経路が増える。ただし回収・選別・輸送・製錬にも費用とエネルギーがかかり、再生品が常に安価という保証はない。循環には品質と量、価格を同時に成立させる経済性が必要になる。

AI、ロボット、ウェアラブルに広がる可能性

同社は、端末のAI機能搭載に伴う小型化・高機能化、ウェアラブル端末、AIサーバーのシールド材、産業機器、ロボット向けの需要拡大を見込む。これは将来需要に関する会社の見通しであり、個別顧客による採用が決まったことを意味しない。再生原料を使った電子材料が売れるかどうかは、最終製品メーカーが求める耐屈曲性、電気的性能、歩留まり、価格、品質管理、供給量を満たすかで決まる。

環境効果は数値で確かめたい

原料が100%再生という事実から、温室効果ガス排出量が100%減るとはいえない。リサイクル原料の回収、輸送、溶解、精製、圧延の各工程にはエネルギーが必要であり、その調達源にも差がある。今回の発表では、従来品とのライフサイクル排出量の比較、製品単位のカーボンフットプリント、年間生産量、販売価格、設備投資額、独立した環境認証の詳細は確認できない。環境優位性の検証には比較条件を揃えた定量データが欠かせない。

素材産業の競争は「どこから来た銅か」へ

高性能だけでなく、材料の由来を説明できることも購買条件になりつつある。企業は顧客の環境目標や調達方針に応えるため、再生原料の定義と検証方法を示す必要がある。JX金属の新製品は、高純度を求める日本の素材技術と資源循環を結び付けた一つの試みだ。試金石は、顧客企業による量産採用、UL認証の進展、実測された環境負荷、そして安定供給の実績である。細い配線を支える薄い銅箔が、産業全体の資源の使い方を変えられるか。答えはこれからの採用と公開データに表れる。

出典・確認資料

JX金属の日本語・英語発表、製造技術・資源循環資料、業界専門紙を照合した。品質・市場シェア・販売時期の一部は会社説明に基づく。独自の工場取材や製品試験は行っていない。

  1. JX金属・2026年10月26日発表
  2. 英語版会社発表
  3. 日刊産業新聞・2026年10月26日
  4. 資源循環とCu againの説明
  5. 2024年度資源循環実績
  6. 圧延・加工技術
  7. 高機能素材と圧延銅箔