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2026年10月7日 水曜日
カルチャー | 食文化・サンド
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日本のサンドイッチを高級料理として再構成する様子を象徴する水野年方風の編集イラスト
水野年方(Mizuno Toshikata)の明治期木版画に着想を得たAI生成の編集イラスト。実在するWalter Ishizuka、Yabai Sandoの店内、料理そのものを再現した写真ではありません。Image: Japan.co.jp.
15 — カルチャー
カルチャー

「サンド」を高級料理へ ウォルター・イシヅカが日本の軽食をパリの技法で再構築

パリのYabai Sandoを率いるシェフ、ウォルター・イシヅカは、食パン、カツ、卵、和牛といった日本の身近なサンドイッチを、フランス料理で培った技法とソースで再構成している。新刊『Sando: The Art of the Japanese Sandwich』には45レシピを収録。コンビニや喫茶店で育った「サンド」が、国際的な料理言語へどう変わるかを示す一冊だ。

Bradley L. Bartz | Japan.co.jp | 2026年10月7日 水曜日

「サンド」は、日本であまりにも日常的な食べ物だ。

コンビニのたまごサンド、駅弁のカツサンド、喫茶店のミックスサンド。食パンに具材を挟み、耳を落とし、断面をきれいに見せる。日本では特別な料理というより、朝食、軽食、移動中の食事として長く親しまれてきた。

その「当たり前」を、パリで高級料理の技法へ引き上げたのが、シェフのWalter Ishizuka(ウォルター・イシヅカ)だ。

確認された事実: Tuttle Publishingは2026年9月22日、『Sando: The Art of the Japanese Sandwich』を刊行した。全128ページ、45レシピ、80点のカラー写真を収録。著者Walter IshizukaはパリのYabai Sando創業者兼CEOで、The Hoxton ParisのRivié元料理長。Paul Bocuseのl’Auberge du Pont de Collonges、The Ritz Paris、The Connaught Londonなどで20年以上の料理経験を持つ。書籍にはとんかつサンド、和牛サンド、トリュフ・グリルドチーズ、ロブスターサンド、スモークサーモンとわかめのサンド、甘いデザートサンドなどが収録される。

「安くてうまい」から「料理として考える」へ

The Japan Timesによると、Yabai Sandoは2022年、パリのオデオン地区で誕生した。

背景には、新型コロナ禍のロックダウンがあった。外食の選択肢が限られる中、イシヅカはB級グルメのような手軽い料理に、もっと高い完成度を持ち込めないかと考えた。

そこで選んだ器が、日本のサンドイッチだった。

鶏カツ、卵、マグロのたたき、和牛カツを、耳を落とした柔らかい食パンで挟む。ただし中身は、単なる再現ではない。ゆずのアイオリ、黒ごま、しょうが、わさびなどを使ったソースで味の層を増やし、フランス料理で身につけたバランス感覚を持ち込む。

45『Sando』に収録されたレシピ数
128ページTuttle Publishing版のページ数
2022年パリのYabai Sando開業年

「サンド」は英語を日本語化した言葉

日本語の「サンド」は、英語のsandwichを短くした言葉だ。

重要なのは、日本で独自のジャンルになったことだ。パンの間に具を挟むという基本構造は同じでも、日本では食パンの柔らかさ、具材の均一さ、断面の美しさ、手を汚さず食べられる形が重視されてきた。

たまごサンド、フルーツサンド、カツサンドは、その代表例だ。

海外で“sando”という言葉がそのまま使われるようになったのは、この日本的なスタイルが「普通のsandwich」と少し違うものとして認識されたからでもある。

食パンが主役になる

イシヅカのサンドで最も重要な材料の一つが、しょくぱん――食パンだ。

Tuttle版には食パン自体のレシピが入り、出版社はこれを「authentic sando」に欠かせない要素として紹介している。

外側が強く主張するバゲットとは違い、日本の食パンは柔らかく、きめが細かく、具材の味や食感を包む。

カツの衣が硬すぎればパンが負ける。ソースが多すぎれば形が崩れる。卵が乾いていれば、柔らかいパンとの一体感が消える。

シンプルに見えるからこそ、各要素の差が出やすい。

とんかつサンドは「洋食」の系譜にある

カツサンドを理解するには、日本の洋食文化を考える必要がある。

とんかつ自体が、欧州のカツレツを日本の米食文化に合わせて変化させた料理だ。そこからさらにパンへ挟むことで、持ち運べる食事になった。

現在のカツサンドは駅、空港、百貨店、コンビニ、専門店まで幅広く存在し、日本の軽食として完全に定着している。

イシヅカはその構造を守りながら、しょうが・わさびソースや和牛などを使い、価格帯と料理の文脈を上へ動かす。

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和牛サンドは「高級化」の象徴

Yabai Sandoの象徴的な一品の一つが和牛サンドだ。

Tuttle Publishingは、和牛カツにわさびシラチャーマヨネーズ、甘酸っぱい赤玉ねぎのピクルスを合わせるレシピを紹介している。

ここには、日本料理、フランス料理、アジア系調味料、米国発のホットソース文化が一つのパンの中に共存する。

「日本食をそのまま海外へ持っていく」というより、日本的な形式を使って国際的な味覚を組み直している。

ロブスターもトリュフも「サンド」に入る

書籍には、ロブスター、トリュフ、スモークサーモン、わかめ、チョコレート、ヘーゼルナッツなど、従来の日本のサンドイッチの枠から外れる材料も登場する。

たとえばトリュフ・グリルドチーズは、チェダーとトリュフマヨネーズを組み合わせる。ロブスターサンドには柑橘、ミント、しょうがのマヨネーズを合わせる。

スモークサーモンとわかめのサンドでは、炭を練り込んだ黒い食パンを使う。

形は四角い日本式サンドでも、中身は世界中を移動する。

「高級」と「手軽」は矛盾しない

高級料理というと、長いコース、銀器、テーブルクロス、複雑な盛り付けを想像しやすい。

イシヅカの考え方は逆だ。料理技術を、手で持って食べられるものへ圧縮する。

ソースの酸味、脂肪、辛味、温度、パンの水分、切断面。レストランなら皿の上で調整する要素を、二枚のパンの間に収める。

それによって、見た目は親しみやすいまま、味の設計だけを高級料理へ近づける。

日本のコンビニ文化が世界の料理人へ与えたもの

たまごサンドやフルーツサンドが海外で注目された背景には、日本のコンビニ文化もある。

海外からの旅行者にとって、日本のコンビニは「安い食事」の場所ではなく、品質管理、包装、陳列、季節商品まで含めた体験になった。

そこで売られるサンドイッチも、パンの柔らかさ、具材の均一さ、食べやすさから日本独自の食文化として見られるようになった。

その結果、“sando”は英語圏でも日本風サンドイッチを表す語として定着しつつある。

イシヅカの料理歴はフランスで作られた

出版社による著者紹介では、イシヅカは20年以上、欧州の高級レストランやホテル厨房で経験を積んだ。

Paul Bocuseのレストラン、The Ritz Paris、ロンドンのThe Connaught。パリのThe HoxtonではRiviéの料理長を務めた。

その経歴だけを見れば、サンドイッチ店へ向かうのは「格下げ」に見えるかもしれない。

しかし実際には、複雑な料理技術を誰でも理解できる形式へ翻訳する挑戦になった。

本になったことで「店の料理」から「家庭の料理」へ戻る

『Sando: The Art of the Japanese Sandwich』の面白さは、レストランの高級サンドを紹介するだけでなく、家庭で作ることを前提にしている点だ。

45レシピに加え、食パン、天ぷら、みそ汁、漬物、各種ソースまで紹介する。

レストランの完成品を眺める本ではなく、技法を分解し、読者が再構築できる形にする。

その瞬間、パリで高級化されたサンドが、再び家庭料理へ戻っていく。

サンドは「日本料理」なのか

この問いには単純な答えがない。

パンもサンドイッチも日本固有のものではない。マヨネーズ、カツレツ、ハム、チーズも外来文化と深く結びついている。

しかし日本は、それらを食パン、たまご、カツ、フルーツ、包装、切り方という独自の形式に組み替えた。

日本料理の歴史そのものが、外来の食材や技法を受け入れ、別の文脈へ変える歴史でもある。

海外で「sando」と呼ばれることの意味

海外で日本式サンドイッチを“Japanese sandwich”ではなく“sando”と呼ぶことには、文化的な意味がある。

ラーメン、すし、天ぷらのように、日本語の名称が料理ジャンルそのものを指すようになる過程だ。

もちろん「sando」はまだ、その3つほど普遍的な語ではない。

しかしパリ、ロンドン、ニューヨークなどで専門店が増え、和牛カツサンドやたまごサンドがメニューに並ぶことで、言葉ごと輸出されている。

高級化には危うさもある

一方で、日常食を高級化することには緊張もある。

もともと手軽で庶民的だった料理が、海外で高級食材と組み合わされ、元の価格感覚から離れていく。

和牛、トリュフ、ロブスターを使えば確かに豪華になる。しかし、それだけでは日本のサンド文化を理解したことにはならない。

イシヅカの料理で重要なのは、高価な食材より「形式」を維持していることだ。柔らかい食パン、食べやすい厚み、ソースと具材のバランス、手で持てること。

日本食の国際化は「純粋さ」では測れない

海外で変化した料理を見ると、「本物か、偽物か」という議論になりやすい。

しかしサンドそのものが、外来のサンドイッチを日本が変化させた料理だ。

その日本版がパリへ渡り、フランス料理の技法を取り込み、再び世界へ広がる。

この循環は、現代の日本食文化をよく表している。

四角いパンの中にある国際料理

『Sando』の45レシピは、見た目には同じ構造を持つ。

二枚の食パン。真ん中に具。

しかし中には、とんかつも、和牛も、ロブスターも、わかめも、トリュフも、ゆずも入る。

だからサンドは面白い。

形式が単純であるほど、中身の文化を自由に変えられる。

Walter Ishizukaの仕事は、日本の軽食を「高級料理にした」だけではない。日本のサンドという小さな形式が、どれだけ多くの料理文化を受け止められるかを示している。

出典・参考資料

  1. Tuttle Publishing — “Sando: The Art of the Japanese Sandwich,” Walter Ishizuka, published September 22, 2026.
  2. Google Books — “Sando: The Art of the Japanese Sandwich,” bibliographic record.
  3. The Japan Times — “‘Sando: The Art of the Japanese Sandwich’ elevates the humble bite,” October 4, 2026.
  4. Hachette Pratique / Google Books — French edition of Walter Ishizuka’s “Sando,” 2024.

取材・確認期限:2026年10月6日午前8時05分(日本時間)。書籍の刊行日、128ページ、45レシピ、著者略歴、具体的レシピはTuttle Publishingで確認。Yabai Sandoの2022年開業や料理内容はThe Japan Times記事を参照した。カツサンドの厳密な発祥年・発祥店については二次資料間で表現差があるため、本稿では断定的な「発明者」記述を避けた。

今回のポイント

日本の身近なサンドを、フランス料理で培った技法と国際的な食材で再構成。

本の中身

45レシピ、128ページ。食パンから和牛、ロブスター、トリュフ、ゆずまでを一つの形式に収める。

文化的意味

“sando”という言葉ごと海外へ広がり、日本料理の国際化が「純粋さ」より再編集で進むことを示す。