10月17日鳥取で開かれた防災セッション
2自治体鳥取県北栄町と山梨県丹波山村
SO-20「ぼうさいこくたい2026」の企画番号
未確定転用棟数・費用・運用協定

災害の日だけ役立つ建物より、普段から人が集まる場所を防災の力にできないか。

道の駅の建物が、被災者の居場所になるとしたら

鳥取県北栄町では、地域の人や旅行者が使う道の駅の整備が進んでいる。その飲食・物販施設を工場などで製作する「オフサイト建築」で整え、災害時には応急仮設住宅や仮設店舗として転用する構想が、2026年10月17日の「ぼうさいこくたい2026 in 鳥取」で紹介された。県境を越えた議論に加わったのは、人口規模も地形も異なる山梨県丹波山村。暮らしの拠点を増やすことと、災害時に人を守ることを別々の政策にしない、という発想である。

主催した一般社団法人日本オフサイト建築協会は19日に開催報告を公表した。会議で議論されたのは完成済みの避難住宅の実績ではなく、「フェーズフリー」の地域づくりと、建築物を災害対応に利用できる状態で社会に保有する「社会的備蓄」の可能性だ。発表には転用可能棟数、建設・移送単価、自治体間の利用協定、実災害での運用実績などを示す検証資料はない。魅力的な構想だからこそ、何が決まり、何が未定なのかを区別したい。

二つの自治体、異なる切実さ

鳥取県北栄町の岡本圭司副町長は、観光振興、関係人口の拡大、道の駅などの地域拠点を巡る取り組みを紹介する役割を担った。山梨県丹波山村からは地域創造課移住推進室の矢嶋澄香氏が、親子山村留学、移住・定住促進、子育て環境と山間地の防災上の課題を扱った。民間側では株式会社クリエイト礼文の大場友和代表取締役CEOが、建築の生産方法や供給網、人材育成について参加した。議論を進行したのは協会代表理事で立教大学教授の長坂俊成氏である。

国の統計を根拠にしていない参加者の具体的な発言を推測して補うことはできない。ここで確認できるのは公式プログラムと協会の開催報告に記された役割だ。北栄町では地域の集客拠点の転用可能性、丹波山村では山間地域での日常生活と孤立への備えという、異なる出発点が共有された。

「フェーズフリー」は、何でも避難所にする意味ではない

フェーズフリーとは、平常時と災害時の境界をできるだけ低くし、日頃から使う製品やサービス、場所が非常時にも役立つよう考える設計思想だ。使わない間に設備が劣化する「災害専用施設」と違い、普段から利用し、管理し、故障に気づきやすい利点がある。ただし平時の便利さは、直ちに災害時の適合性を保証しない。

例えば飲食店の建物は、料理のための給排水や電気があっても、そのまま住宅の寝室、入浴、個人情報の保護、暖冷房、長期間の衛生管理を満たせるとは限らない。転用に際して用途変更、建築基準、消防、バリアフリー、土地の占用、上下水道、電源といった多面的な検討が必要になる。道路や橋が損傷すれば、移設可能でも運べない。土地が確保できても、生活を支える職員や医療につながらなければ、住まいの質を守ることは難しい。

工場でつくる住宅の歴史と限界

工場で部材や箱形のユニットを製作し、現地で組み立てる方法は、建築現場の作業量を抑え、品質の均一化を図る手法として発展してきた。日本でも高度経済成長期以降、プレハブ住宅や工業化住宅の普及とともに定着した。震災のたびに仮設住宅を短期間で確保する課題が浮かび、東日本大震災、熊本地震、2024年能登半島地震でも、建設型応急住宅と民間賃貸住宅の活用が問われた。

しかし、工場で造れば常に安く、早く、住み心地がよいわけではない。工場から被災地までの輸送距離、道路幅員、揚重機材、基礎工事、地域の積雪・風・地震条件、工場の稼働率などが制約になる。恒久的な再利用を考えるなら、接合部の耐久性や解体・再組立てでの損耗、部材の規格化まで評価しなければならない。

建物だけでなく「社会的備蓄」という考え方

普通の備蓄は食料や毛布などの物資を倉庫に置くことを指す。今回の討論で使われた「社会的備蓄」は、平時に住宅や宿泊施設、交流施設として使う建物を、必要時に避難・仮設居住・支援施設に転用できる社会的な資源として考えるものだ。

この仕組みには三つの難問がある。第一に、誰が平時の所有者となり、発災時に利用権を切り替えるのか。第二に、建物を移す場所、費用、保険と損害補償を誰が引き受けるのか。第三に、地域の商業施設を転用した結果、その地域の食料販売や日常サービスを失わないか。利便性と防災力を両立させるには、建築技術だけでなく契約と地域経済の設計が必要になる。

能登が示した「建てる」と「暮らす」の隔たり

2024年の能登半島地震では、住まいを失った人々への応急的な住宅供給が大きな政策課題になった。国土交通省は被災者の住まいの確保について情報を整理し、建設型・賃貸型の選択肢などを案内している。災害対応は単に住戸数を増やすだけでなく、仕事や学校、介護、地域のつながりをどう維持するかが問われる。

そのため、北栄町や丹波山村の議論を能登の復興に対する実証済みの解答として扱うことはできない。むしろ、被災した人が知らない場所へ長く移らなくて済む仕組みを平時からどう用意するか、という未解決の問いとつなげて考えるべきだ。

避難所は屋根だけでは足りない

内閣府は2024年12月、避難生活の良好な環境の確保に向けた指針や運営チェックリスト、トイレの確保・管理ガイドラインなどを改定した。避難所で必要なのは雨露をしのぐ空間だけではない。衛生的なトイレ、食事、水、温度管理、女性や子どもの安全、障害のある人や高齢者への配慮、感染症対策、そして生活上の尊厳を守る運営が欠かせない。

平時には人気の施設であっても、災害後にそれらの条件を継続して満たせなければ、安心できる避難先にはならない。特に小規模自治体では、災害で行政職員自身が被災する可能性もある。地域外の企業や人との日常的な関係を支援の経路にできるか――協会が重視する「顔の見える関係」は、その点で建物に劣らない論点だ。

費用対効果をどう測るか

導入を検討する自治体には、平時の年間利用者数と収支、建築・維持管理費、災害時の転用可能日数、再配置費用、備蓄容量、必要な避難者数、災害で道路が使えない場合の代替案を比較する必要がある。緊急時に移設できると称する建築物については、実際の所要時間を訓練で測り、第三者に評価してもらうことが重要だ。

人口減少地域で予算を一つの用途に固定しない発想には合理性がある。しかし、「将来使えるかもしれない」という便益を過大に見積もれば、日常の教育、医療、道路、消防への投資を圧迫する恐れもある。民間事業者と自治体の双方が検証可能な数字を示すことが欠かせない。

次の災害を待たずに確認すべきこと

北栄町の道の駅関連施設のうち、どの建物が転用を前提に設計され、どの段階まで整備されているのか。丹波山村は実際に建物を導入する予定があるのか。災害時に受け入れる対象と期間、住宅用途に変える場合の設備条件、移設先、費用負担はどうなっているのか。10月17日のオンライン討論は議論を可視化したが、これらの問いへの公開された確定回答を提供したわけではない。

地方の防災は、災害を想定して何もない建物を守り続けることだけではない。平日の食事、観光、子育て、地域の交流に役立つものが、非常時にも人を支えられるか。その試みの成否は、次の発表ではなく、訓練と運用と生活の質によって決まる。

出典・参考資料

  1. 日本オフサイト建築協会:10月19日開催報告 / Offsite Construction Association, October 19
  2. ぼうさいこくたい2026:SO-20公式プログラム / Official conference program
  3. 10月10日開催案内・登壇予定 / Original October 10 program
  4. 内閣府:避難所の生活環境対策 / Cabinet Office: Shelter standards
  5. 国土交通省:能登半島地震と住まいの確保 / MLIT: Noto housing recovery
  6. 記録映像 / Recorded conference session