金属のように光るのに、柔らかくたわむ。絹でありながら、なめらかさだけを求めない。須藤玲子(すどう・れいこ)とNUNOの布づくりは、素材に抱いていた思い込みを揺さぶる。米ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)の展覧会「Textile Alchemy: The Art of Reiko Sudō & NUNO」は、その実験の背後にある、日本各地のつくり手との関係にも光を当てる。[1][2][7]

会期は現地時間の2026年9月20日から2027年3月7日まで。会場はレズニック・パビリオン。美術館によると、100点を超えるテキスタイルに加え、図面、スケッチ、原材料、道具、模型、試作品を紹介する。完成した布の美しさから一歩踏み込み、どのような試行を経て、その表情にたどり着いたのかを考える構成だ。[1]

1984年の六本木から、各地の染織産地へ

NUNOを運営する株式会社布は1984年に設立され、東京・六本木のアクシスビルに本店を開いた。公式の沿革には、1994年の桐生での布研究所設立、1998年のニューヨーク近代美術館「Structure and Surface: Contemporary Japanese Textiles」展への参加が記されている。2002年には捺染の技法を展開するNUNO WORKSも始まった。[3]

この歩みを、東京で考えた図案を地方で製品にするだけの分業として読むと、大切な部分が抜け落ちる。NUNOは設立以来、各地の染織産地にある技術と、新しい素材や加工を組み合わせてきたと説明する。どの糸なら織れるのか、どの加工で変化するのか。布の可能性は、現場でのやり取りを通して具体的になる。[3]

デザインは、完成した形を指示することだけではない。素材の癖を知る人と一緒に、まだ用途の定まらないものを試し、結果を見て次の条件を変える仕事でもある。展示に道具や試作品が並ぶ意味は、そうした過程を想像できるところにある。

金属の表情を持つ布が、建築の一部になる

LACMAの発表は、自動車部品に使われる工業的なコーティングを布へ応用した、NUNOの金属的なテキスタイルを紹介している。その延長上にあるのが、新しいデイヴィッド・ゲフィン・ギャラリーズのために須藤が手がけた、クロムをスパッタリングしたカーテンだ。美術館は、外の眺めを残しながら可視光の透過を部分的に抑える設計と説明する。[2]

ここでは布は、鑑賞される対象であると同時に、鑑賞の環境をつくるものになる。光をどれだけ通すか、向こう側をどの程度見せるか。カーテンの働きを考えると、色や模様だけでは語れないテキスタイルの役割が見えてくる。

金属らしい外観と柔軟な性質が同居する面白さも、素材名だけからは想像しにくい。見た印象と、曲がり方や光の通り方の関係を確かめることが、この種の布を読む手がかりになる。なお、回顧展の会場はレズニック・パビリオンであり、カーテンを用いた建築とは区別して訪れたい。[1][2]

「きびそ」が問い直す、絹の価値

地域のものづくりとの関係を具体的に示すのが、山形県鶴岡市の「kibiso」である。鶴岡シルクの公式説明によれば、きびそとは蚕が繭をつくり始めるときに出す糸。太く硬いため、生糸の原料としてはほとんど使われてこなかった。その扱いにくさを含めて、新しい絹製品の魅力として捉え直した。[5]

大切なのは、須藤一人の発見談にしてしまわないことだ。プロジェクトの公式な担当者一覧は、須藤をテキスタイル・デザイン監修とし、制作には松岡株式会社、羽前絹練株式会社、東福産業株式会社を挙げている。素材を知る産地の企業と、使い方を考えるデザインが結びついて初めて、製品への道が開ける。[6]

絹と聞いて、均一で細く、光沢のある糸を思い浮かべる人は多いだろう。きびそへの着目は、そうした物差しでは欠点とされる性質を、別の用途から評価し直すことでもある。太さの不ぞろいや硬さをなくすことだけが目標なのか。それとも、その特徴が生きる布を考えられるのか。素材を見る側の問いが変わる。

これは、価値の低かった材料を新たに利用するアップサイクルを考えるうえでも重要だ。ただし、未利用の部分を使うことと、製品全体の環境負荷が小さいことは同じではない。加工に要するエネルギー、長く使えるか、使い終えた後にどう扱うかまで、評価すべき範囲は続いている。

水戸黒の再生——保存を次の仕事につなげる

日本での過去の活動にも、地域の技術を新たな制作へつなぐ例がある。2024年の水戸芸術館「須藤玲子:NUNOの布づくり」展では、水戸藩に由来する染色技法「水戸黒」の再生に取り組む職人と、特別なこいのぼりを制作する計画が紹介された。制作協力として、大谷屋染工場の名が明記されている。[4]

水戸の資料は、NUNOの布が作品になるまでを工場や職人との協働から伝えていた。これは今回のLACMA展の出品を示すものではなく、須藤の活動を理解するための先行事例である。地域に伝わる染め方を、そのまま昔の用途に戻すだけでなく、別の形や空間に生かす道が見える。[4]

技術の継承には、手順を記録することに加え、その技術を実際に使う機会が必要になる。新しい注文や試作は、熟練した判断を働かせる場をつくり得る。ただし、一つの展覧会から産地全体の経営改善までを読み取ることはできない。継続して仕事が生まれるか、若い担い手が参加できるかという、時間のかかる問いが残る。

布をつくった人の名を読む

素材の驚きに目を奪われたら、次は作品のクレジットにも目を向けたい。デザイナー、織り手、染め手、加工を担う企業。それぞれの役割を知ると、布の表面に現れた結果を、複数の専門性が交わったものとして見ることができる。

型染、織り、刺繍、仕上げ加工は、いずれも異なる判断を伴う。模様をつくる工程と、その布の張りや柔らかさを決める工程が別にある場合もある。完成品を一人の才能だけで説明すると、その間を支える知識が見えにくくなる。

NUNOの公式紹介は、布を通じた人と人との交流を重視している。肌に触れ、目に映り、音を立てる布は、言葉だけでは伝えきれない情報を持つという考えだ。美術館に入った布を、日常から切り離されたものとしてだけ見る必要はない。[3]

店と美術館の間で

LACMAは、1984年のNUNOの店を再現した空間を展示の中心に設け、商品を扱うショップとして機能させると案内している。作品を見た後に、使うための布へ関心を向ける構成である。[2]

美術館の所蔵品を守ることと、布を暮らしのなかで使うことには異なる条件がある。それでも、両者を行き来することで見えてくるものがある。首に巻く、窓に掛ける、部屋の光を変える。用途を想像すると、布の厚みや落ち方、手入れのしやすさも、造形と同じくらい大切な問いになる。

来場案内(会期・時刻はロサンゼルス現地時間)
展覧会Textile Alchemy: The Art of Reiko Sudō & NUNO
会期2026年9月20日〜2027年3月7日
会場LACMA レズニック・パビリオン
所在地5905 Wilshire Boulevard, Los Angeles, California
通常開館月・火・木11:00〜18:00、金11:00〜20:00、土・日10:00〜19:00。水曜休館
チケット美術館は日時指定券の事前確保を推奨。料金・例外日程は公式案内で確認

会期は展覧会ページ、開館時間と予約方法は来場案内に基づく。[1][8]

この回顧展から持ち帰れるのは、珍しい布の記憶だけではない。なぜこの材料を選んだのか、誰の技術で形になったのか、次にどんな使い方ができるのか。布にそう問いかけると、遠い産地の仕事が、手元の一枚とつながり始める。

出典・資料

展覧会の情報はLACMAの発表、氏名の読み・沿革・素材と制作協力の名称は日本語の一次資料で確認した。水戸の活動は先行事例として扱い、今回の出品とは区別した。現地鑑賞や独自インタビューによる記事ではなく、鑑賞の視点と産地への意義は資料に基づく本稿の考察である。

  1. LACMA:Textile Alchemy展の概要・会期・会場
  2. LACMA:2026年8月10日の発表と添付Exhibition Advisory(カーテン・素材実験・ショップ構成)
  3. NUNO:日本語の公式紹介・コンセプト・沿革
  4. 水戸芸術館:2024年「須藤玲子:NUNOの布づくり」、水戸黒と制作協力
  5. 鶴岡シルク:きびその素材とブランドについて
  6. 鶴岡シルク:デザイン監修・制作会社・プロジェクトの担当者一覧
  7. 無印良品の家:須藤玲子の対話と略歴(氏名の読みを確認)
  8. LACMA:来場案内・通常開館時間・日時指定券