市役所の窓口で新しい母子健康手帳を受け取る時、あるいは産科の待合室で最初の質問票を開く時、短い問いが置かれていることがある。「妊娠が分かった時、どんな気持ちでしたか」。答えは生活の全景ではない。それでも、予定、仕事、住居、収入、パートナーとの関係、過去の喪失、健康への不安が、ほんの一行に折り畳まれる。

「とてもうれしかった」と即答できる人がいる。「予想外だったがうれしかった」人も、「予想外でとまどった」人もいる。「困った」「特に何とも思わなかった」、そして既成の選択肢に収まらない「その他」もある。どの言葉も、その人が将来どのような親になるかを決める判決ではない。感情は状況の中で生じ、状況は変えられる。

東京科学大学リベラルアーツ研究教育院の永岑光恵教授、青森県立保健大学の松村健太教授、富山大学の酒井淳子、𡈽田暁子、稲寺秀邦の各研究者とJECSグループは、環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査」、通称エコチル調査から73,518組の母子を解析した。妊娠前期に尋ねた最初の気持ち、出産から2年半後の社会的支援、3歳時の発達スクリーニングを、一本の時間軸に置いた。

2026年6月28日に『Journal of Health Psychology』でオンライン公開され、東京科学大学が7月22日に発表した結論は慎重だ。「とてもうれしかった」以外の回答は、3歳時に発達の遅れが疑われる領域が多いことと関連した。その一部を、後のソーシャルサポートが統計的に媒介していた。つまり研究が指さすのは、最初の感情を責める方向ではなく、その後のつながりを増やす方向である。

73,518組今回解析された母子の数
67.2%「とてもうれしかった」と答えた49,395人の割合
1.68「特に何とも思わなかった」群の調整オッズ比。95%信頼区間1.41–2.00
2歳6か月3項目でソーシャルサポートを測った時点
3歳ASQ-3の5領域で発達をスクリーニングした時点
45.0%「その他」群で推定された最大の媒介割合

三つの時点を結んだ研究

研究の強みは、同じ時点で感情、支援、発達をまとめて尋ねた横断調査ではないことだ。妊娠判明時の気持ちは妊娠前期ごろの質問票で収集された。次に、子どもが2歳6か月の時、母親が受けている愛情、相談・意思決定への助け、信頼できる相手との接触を3項目で評価した。最後に3歳時、保護者が日本語版ASQ-3へ回答した。

この順序は、媒介分析に必要な「先に曝露、次に媒介候補、後に結果」という時間関係を与える。ただし、順序があるだけで因果関係が確定するわけではない。妊娠時から幼児期までの経済状況、パートナー関係、母親の心身の健康、子どもの健康や気質などが、支援の感じ方と発達評価の双方に影響し得るからだ。

時点測ったものこの研究での役割
妊娠前期ごろ妊娠が分かった時の気持ち、6選択肢最初の曝露・予測指標
子ども2歳6か月愛情・相談支援・信頼できる人との接触、3項目媒介候補となるソーシャルサポート
子ども3歳ASQ-3のコミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会性保護者回答による発達スクリーニング
言葉を正確に読む
  • 「発達の遅れ疑い」:ASQ-3の基準値を下回ったというスクリーニング結果であり、医師による診断ではない。
  • 「関連」:二つの事柄が統計的に一緒に現れやすいこと。片方がもう片方を直接起こした証明ではない。
  • 「媒介」:妊娠時の気持ちと後の発達指標の関連の一部が、2歳半時の支援という経路を通ると統計モデルが推定したこと。
  • 「リスク」:公表された中心指標はオッズ比。絶対確率の増加と同じではない。

六つの答えが描いた分布

73,518人のうち、「とてもうれしかった」は49,395人、67.2%だった。「予想外だったがうれしかった」は17,899人、24.3%。「予想外でとまどった」は4,704人、6.4%。ここまでで全体の97.9%を占める。

より小さな群は、「困った」358人、0.5%、「特に何とも思わなかった」344人、0.5%、「その他」818人、1.1%だった。研究では、「とてもうれしかった」以外の各群で、低いソーシャルサポートが多い傾向が見られた。

この分布は、妊娠の「意図」と「感情」が同じではないことも教える。予定外でもうれしい人は全体の約4分の1いた。計画された妊娠でも、経済的な衝撃や医学的不安から戸惑うことはある。逆に、計画外という行政上の分類だけでは、喜びや受容を捉えられない。今回の単一質問は、妊娠を望んでいたかだけでなく、判明した瞬間の主観的な反応を尋ねた点に特徴がある。

「最初にどう感じたか」は、親になる資格試験ではない。支援が届いているかを早く確かめるための、会話の入口になり得る。

1.68は、運命の数字ではない

最も強い関連が公表されたのは、「特に何とも思わなかった」と答えた群だった。「とてもうれしかった」群と比べ、3歳時に基準を下回ったASQ-3領域の合計が多いことへの調整オッズ比は1.68、95%信頼区間は1.41から2.00だった。

オッズ比1.68を「発達遅延が68%の確率で起きる」「リスクが必ず68%増える」と読むのは誤りだ。オッズは、起きる確率を起きない確率で割った値である。結果が珍しい時はリスク比へ近づくが、頻度が高くなるほど離れる。大学の一般向け発表は群ごとの絶対率を示していないため、何人増えたかへ変換することはできない。

さらに、この群は344人で、全体の0.5%にすぎない。73,518組という全体規模は大きいが、最も注目される比較群は小さい。信頼区間が1をまたがなかったことは統計的な関連を支持する一方、個々の家庭を予測する精密な診断法になったわけではない。

「特に何とも思わなかった」という答えにも複数の意味がある。感情がまだ言葉にならない、ショックで反応が止まる、文化的に感情表現を抑える、疲れている、質問の選択肢が合わない、あるいは本当に中立だった可能性がある。研究はその内訳を分けていない。無関心や親子関係の希薄さと一義的に決めつけるべきではない。

「媒介」と「守る効果」は同じではない

論文タイトルの中心語は、英語でmediating effect、媒介効果である。媒介分析は、ある関連がどの経路を通る可能性があるかを分ける。ここでは、妊娠判明時の複雑な感情が、その後に低い支援と結びつき、低い支援が3歳時の発達指標と結びつく、という間接経路を推定した。

大学発表によれば、ソーシャルサポートを介する割合は「その他」で45.0%、「困った」で43.0%、「特に何とも思わなかった」で27.8%、「予想外だったがうれしかった」で22.8%、「予想外でとまどった」で22.2%だった。全てが支援で説明されたのではない。最も大きい群でも半分を下回る。

これは、支援が高い人では関連が統計的に弱くなるかを調べる「交互作用」や「効果修飾」と完全に同じ問いではない。また、研究者が支援を無作為に提供し、その後の発達が改善するかを試した介入試験でもない。「支援を増やせばこの割合だけ遅れを防げる」と直接換算することはできない。

それでも媒介分析には実務上の価値がある。最初の感情は過去の出来事で変えられないが、現在の支援は働きかけられる可能性がある。因果の確証ではなくても、どこに次の研究とサービス設計を向けるべきかを示す仮説になる。

支援を三つの質問で測る

この研究が2歳半時に用いたソーシャルサポート指標は、巨大な家系図や連絡先の人数ではない。「愛情や好意を示してくれる人がいるか」「相談や意思決定を支えてくれる人がいるか」「信頼できる人と連絡を取れているか」という3項目だった。合計は3点から15点で、9点以下を低い支援と位置づけた。

ここで測られた中心は、情緒的支援と情報的支援である。家事、送迎、食事、保育、金銭などの「道具的支援」や、制度へのアクセスを完全には数えていない。人が多くいても相談できなければ孤立を感じることがある。反対に、少人数でも確かな一人がいれば、知覚される支援は高くなり得る。

重要なのは測定時期だ。今回の媒介候補は妊娠中の支援ではなく、子どもが2歳半の時の支援である。見出しを「妊娠中に支えてもらえば全て解決する」と縮めると、研究設計を変えてしまう。データが示すのは、妊娠の最初の気持ちと、約3年後まで続く社会関係の軌跡が切り離せない可能性だ。

同じエコチル調査を使った松村らの2023年の研究では、妊娠中から2歳半までに情緒的支援を失った母親で、2歳半時の精神的健康への不利な推定が大きかった。支援は出産を境に終える短期サービスではなく、幼児期まで変動する生活条件として捉える必要がある。

ASQ-3が開く五つの窓

Ages and Stages Questionnaires, Third Edition、ASQ-3は、生後1か月から5歳半までの発達を保護者が観察して答えるスクリーニング票である。今回の3歳用では、コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会性の5領域を評価した。

各領域には6問があり、「はい」10点、「時々」5点、「まだ」0点で、0から60点になる。たとえば、言葉を理解して使う、跳ぶ・蹴る、指先で扱う、手順を考える、着替えや他者との遊びを行うといった、日常で見える行動を尋ねる。日本語版は日本の子どもを対象に心理測定特性が検証され、年齢別のカットオフが設定された。

しかしASQ-3は診断書ではない。基準値より低い得点は、詳しい評価や経過観察を考える合図である。成長のばらつき、一時的な体調、回答者の理解、観察機会、早産、文化や家庭内の経験が得点に影響し得る。今回の研究では母親の支援も子どもの発達も質問票で測られており、母親の心理状態が両方の回答に共通して影響する「共通方法バイアス」も排除できない。

研究者は、5領域のどれか一つだけを障害名へ結びつけたのではなく、カットオフを下回った領域数を合計した。したがって結果は、「特定の神経発達症を起こした」と読むのではなく、3歳時の幅広い発達スクリーニングで懸念領域が多かった、と読むべきである。

10万組を追うエコチル調査

この研究を可能にしたエコチル調査は、環境省が2010年度に始め、2011年1月から2014年3月まで妊婦を登録した全国出生コホートである。北海道から沖縄まで15地域の大学・研究機関がユニットセンターとなり、国立環境研究所がコアセンター、国立成育医療研究センターがメディカルサポートセンターを担った。

当初の目標は10万組。妊娠中の血液と尿、臍帯血、母乳などの生体試料、診療記録、住環境、質問票を組み合わせ、胎児期から13歳まで追跡する設計だった。主要目的は化学物質など環境要因と子どもの健康との関係を調べることだが、「環境」は分子だけではない。家族関係、所得、教育、仕事、ストレス、社会的つながりも、発達を形づくる文脈になる。

基盤データには100,778件の出産、95,248人の重複しない母親、100,148人の生児が含まれ、世界最大級の出生コホートとなった。今回の73,518組はその全員ではない。妊娠初期、2歳半、3歳の必要項目がそろうまでに、流産・死産、追跡不能、未回答、欠測などで解析対象は減る。

この減少は単なる事務上の数字ではない。孤立、困窮、言語障壁、転居、健康問題を抱える家庭ほど長期質問票へ答えにくければ、最も支援を必要とする層が分析から抜ける可能性がある。エコチル調査の大きさは強みだが、大きな標本も選択バイアスから自由ではない。

1942年の手帳から、支援へ続く問いへ

日本で妊娠を行政と医療へ結ぶ仕組みには84年の歴史がある。1942年、戦時下の「妊産婦手帳」は健康記録であると同時に、米、砂糖、脱脂綿などの優先配給へつながる証明でもあった。1948年、母親と乳幼児の記録を一冊に統合した「母子手帳」が生まれた。1965年の母子保健法を受け、1966年に現在の「母子健康手帳」へ改められた。

手帳は予防接種、健診、成長曲線、出産記録を一続きにし、自治体が妊娠届を受けた時に交付する。感染症と栄養不足が大きな課題だった時代から、発達、メンタルヘルス、父親・パートナーの参加、多様な家族、デジタル併用を扱う時代へ、内容は改訂されてきた。

今回の研究が注目した「妊娠がわかった時の気持ち」は、母子手帳交付時の面接や妊婦健診で実際に尋ねやすい。血液検査も専門機器もいらない。だからこそ力と危険が同居する。問いが支援の入口になれば価値があるが、「正しい感情」を答えさせる検査になれば、本音は隠れ、必要な人ほど制度から遠ざかる。

歴史的に手帳が配給と結びついて普及した事実は象徴的である。記録だけでは人を守れない。問いの後に食料、医療、時間、相談相手、保育といった現実の資源が続いて初めて、紙は支援の道具になる。

「支えがストレスを和らげる」という50年

ソーシャルサポートを健康科学の中心概念へ押し上げた節目の一つは1976年だった。米国の医師シドニー・コブは、人が「大切にされ、価値を認められ、相互的なネットワークに属する」と信じられる情報として支援を捉え、生活上の危機が健康へ及ぼす影響を緩和し得ると論じた。

1985年、シェルドン・コーエンとトーマス・ウィルズは多数の研究を整理し、二つのモデルを区別した。一つは、つながりがストレスの大小にかかわらず健康へ広く有益だという「主効果」。もう一つは、高いストレスにさらされた時に適切な支援が打撃を小さくする「緩衝仮説」である。

この区別は妊娠研究にも重要だ。家族や友人がいるという構造だけでなく、必要な時に話を聞いてもらえる、判断を手伝ってもらえる、実際に休めるという機能が問題になる。善意の助言が本人の希望と合わなければ支援にならず、管理や非難はむしろストレスを増やす。人数と質、受けた支援と利用可能だと感じる支援は同じではない。

今回の3項目は、この長い理論史のうち「愛情」「相談」「信頼できる接触」という知覚された機能を簡潔に拾う。50年前の抽象概念が、2歳半の母親へ届く三つの生活語へ変換されたのである。

支援から発達へ、考えられる複数の道

なぜ母親への支援が子どもの発達と結びつき得るのか。第一の経路は母親のメンタルヘルスである。話を聞き、問題解決を助け、孤立を減らす関係は、ストレスの評価や対処を変え、抑うつや不安を軽くする可能性がある。エコチル調査の88,711人を用いた2022年の研究でも、妊娠中の支援と周産期・産後の抑うつ状態の関連が解析された。

第二は時間と身体の余裕だ。送迎、食事、家事、夜間の対応、きょうだいの世話を分けられれば、親は休息し、健診へ行き、子どもと話し、遊び、絵本を読み、運動を見守る時間を持ちやすい。こうした日々の相互作用は、ASQ-3が見る言葉、動き、問題解決、社会性の練習場になる。

第三は制度への橋である。信頼できる人は、発達への小さな懸念に気づき、保健師、小児科、発達相談、保育所へつなぐことがある。早い相談によって得点そのものが上がるとは限らないが、家庭が一人で判断を抱え込まずに済む。

第四は共通の社会条件だ。安定した収入、安全な住居、柔軟な仕事、近い保育、暴力のない関係は、支援を得やすくすると同時に、親子の健康にも直接作用する。したがって「支援の効果」と見える一部が、測り切れない社会経済的な資源を反映している可能性もある。

この研究が直接測っていない経路
  • 母親のストレスホルモンや炎症を介した胎内の生物学的経路
  • 親子の会話、遊び、読み聞かせの実測頻度と質
  • 家事・育児分担、保育サービス、現金・住居支援の量
  • 父親・パートナー自身の感情、メンタルヘルス、支援ネットワーク
  • 子どもの気質や健康が、周囲から得られる支援を変える逆方向の影響

同じコホートが積み上げた証拠

今回の結果は孤立して現れたものではない。2021年のJECS研究は、妊娠前期に心理的苦痛があった24,324人を追い、妊娠への否定的な気持ちと産後の母子ボンディングが、1年後まで続く心理的苦痛と関連することを示した。感情は、その後の母親自身の健康とも結びついていた。

2024年、大阪大学などの研究チームは68,442組を解析し、妊娠中の社会的支援が高いほど3歳時のASQ-3全5領域で基準を下回るオッズが低いという用量反応関係を報告した。最高群と最低群の調整オッズ比は、領域により0.49から0.58だった。これは妊娠中の支援を曝露として直接見た研究であり、2歳半時の支援を媒介候補とした今回の研究とは問いが異なる。

2026年には、産後うつを先に経験していない母親のボンディング困難を調べた別のJECS研究が、妊娠への否定的感情、低い支援、乳児を抱く難しさとの強い関連を報告した。これらは互いに因果を証明するものではないが、妊娠の反応、母親の心理、支援、親子関係、子どもの発達が、別々の箱ではなく連続した系であるという像を濃くする。

コホート研究の価値は、一つの派手な数字より、異なる分析が同じ生活過程を何度も照らすところにある。同時に、同じ質問票、同じ参加者、同じ未測定要因を共有する研究は、独立した再現とは言えない。他国、異なる地域、臨床評価、介入試験による検証が必要だ。

大規模でも証明できないこと

第一に、妊娠への気持ちは一問で測られた。感情の強さ、持続、変化、理由、望ましさ、パートナーの反応は分からない。六つの箱は分析には便利だが、人の経験を完全には表さない。

第二に、ASQ-3は保護者報告である。専門家が子どもを直接診察した診断データではない。母親の抑うつ、不安、期待、文化的な基準が、行動の評価に影響する可能性がある。支援の低さと回答時の心理状態が同時に得点へ影響すれば、関連が強く見えることもあり得る。

第三に、支援は2歳半で測られ、発達は半年後に測られた。すでに子どもの言葉や運動に心配があると、親は外出しにくくなったり、逆に専門職や家族から支援を多く受けたりする。つまり子どもの早い特性が支援を変える「逆因果」の可能性が残る。

第四に、解析は観察データによる。研究者は多数の交絡要因を調整できても、測定されていない関係の質、家庭内暴力、慢性疾患、地域サービス、雇用の柔軟性などを完全には除けない。媒介割合も、モデルの仮定が正しい範囲での推定である。

第五に、参加者は妊婦健診や母子健康手帳交付の場を中心に募集され、日本語の自記式質問票へ答えられることが条件だった。健診へ来ない人、言語支援が必要な人、追跡から離れた人へそのまま一般化できない。今回の結果を使って個人の養育能力を判定したり、監視や制裁の根拠にしたりすることは、科学的にも倫理的にも正当化されない。

次の研究が必要とするもの
  • 妊娠への感情を複数時点・複数項目で測り、変化と理由を捉える。
  • 父親・パートナー、ひとり親、同性カップル、養育を担う家族全体の支援を測る。
  • 保健師面接、臨床発達評価、保育者報告を組み合わせる。
  • 情緒、情報、家事、保育、所得、住居支援を分け、どれが誰に届くかを比較する。
  • 支援プログラムを無作為化または準実験で評価し、絶対リスクと長期転帰を示す。
  • 欠測と脱落の影響を検証し、届きにくい家庭を研究設計に含める。

問いを採点表ではなく、支援の扉にする

この研究を現場へ移す時、最初の原則は、驚き、戸惑い、困惑、中立を病理化しないことだ。妊娠は身体だけでなく、仕事、学業、家計、住居、人間関係を一度に変える。両価的な感情は珍しくなく、喜びと不安は同時に存在できる。「正解」を予測させる面接は、最も必要な情報を失う。

第二の原則は、一度尋ねて終わらせないことだ。妊娠時に「困った」と答えた人へ連絡先の紙を渡すだけでは、2歳半時の支援を保証しない。妊婦健診、出産、1か月健診、乳幼児健診、保育開始、復職という転換点ごとに、相談できる人、休める時間、安全、食料、住居、収入、保育を確かめる必要がある。

第三は、母親だけを支援の受け手兼責任者にしないことだ。パートナー、家族、職場、自治体、医療、保育が分担する仕組みが要る。「もっと周囲に頼って」と個人へ返すだけでは、頼れる相手がいないという研究結果の核心を外す。支援は性格ではなく、社会のインフラでもある。

1942年の小さな手帳は、妊娠を見えるようにし、物資と医療へ結ぶ装置として始まった。2011年に始まった10万組のコホートは、その手帳交付の窓口も使い、妊娠から幼児期までの環境を長いデータへ変えた。そして2026年、そのデータは再び窓口へ問いを返している。最初の感情を記録するなら、その記録を誰かの評価ではなく、誰も孤立させない約束にできるか、と。

子どもの発達を守る仕事は、妊娠検査薬に線が現れた瞬間に母親だけへ渡されるものではない。支援の輪が広がれば、最初の戸惑いは消えなくても、一人で抱える必要はなくなる。今回の研究の最も人間的な読み方はそこにある。

Sources and references

本稿は東京科学大学の2026年7月22日発表と『Journal of Health Psychology』掲載論文の書誌情報を中心に、環境省・国立環境研究所のJECS資料、研究計画、ASQ-3日本語版検証、妊娠感情・社会的支援・母子健康手帳史の査読研究を参照した。観察研究を介入効果や個人の診断へ拡大解釈していない。