先にソフトをつくり、後から使い道を探す。行政のデジタル化で起こりがちな順序を、課題の側から組み替える部門ができた。国土交通省は8月28日、3D都市モデルを活用する開発コンテスト「PLATEAU AWARD 2026(プラトーアワード2026)」の本エントリーを開始した。

5回目となる今回は、従来の応募範囲を引き継ぐ「一般部門」に加え、「自治体共創部門」を新設した。正式名称は「自治体共創部門」であり、自治体と企業だけに限定した部門ではない。地方公共団体の職員と、民間企業、開発者、その他団体などの「伴走パートナー事業者」が共同チームをつくる。

新部門が募るのは、地方公共団体が抱える具体的な地域課題の解決や、行政業務の効率化につながる課題定義とアイデアである。まちづくり・環境、防災・安全安心、地域活性化・観光、スマートシティ・業務効率化などを例示する。応募時点で動く試作品は必要ない。現状分析、解決すべき課題と背景、企画概要、共創体制をまとめた「課題定義書」から応募できる。

運営事務局を務める株式会社角川アスキー総合研究所によると、応募締め切りは11月19日。自治体共創部門では11月24日から12月2日まで全国の自治体関係者による投票を予定し、12月5、6日のオンライン審査で採択事業を決める。2027年2月27日に最終審査会・表彰式などを開く予定だ。

2部門一般部門と新設の自治体共創部門。
300都市以上主催者が案内する利用可能な3D都市モデルの規模。
11月19日両部門の本エントリー締め切り。
12月5・6日自治体共創部門のオンライン審査。

完成品ではなく、行政の「困りごと」から始める

一般的な開発コンテストは、アプリケーションの動作、技術力、画面設計を見せるところから始まる。自治体共創部門は、その手前を審査対象にした。何に時間がかかっているのか、誰が困っているのか、既存の地図や台帳では何が見えないのかを明らかにし、3D都市モデルを使う理由を組み立てる。

応募には、自治体職員と伴走パートナー事業者が応募時点でチームを構成していることが条件となる。自治体だけが課題を書いて事業者を後から探す形式でも、技術会社が自治体名を借りて製品を売り込む形式でもない。制度設計上は、行政の実務知と開発・社会実装の能力を最初から同じ席に置く。

審査は「3D都市モデルの活用」「アイデア」「実用性」を中心に、行政現場の課題をどこまで具体的に捉えているか、解決策が実現可能かを見る。一般部門の評価項目にあるUI・UX・デザインや技術力よりも、課題の解像度と実用性を前面に出した構成である。

採択は、行政調達や補助金の交付決定ではない。 PLATEAU AWARDは開発コンテストであり、受賞によって自治体との契約、予算措置、全国導入が自動的に決まるわけではない。主催者は採択後の社会実装に向けた伴走支援を予定しているが、支援内容と事業化の条件は個別に確認する必要がある。

二つの部門は、開発の違う地点を評価する

項目一般部門自治体共創部門
対象3D都市モデルを使ったアプリ、Webサービス、ビジネス、コンテンツ、体験、アイデアなど。地域課題の解決や行政業務の効率化に向けた課題定義とアイデア。
応募者個人、企業、教育・研究機関、行政機関、その他団体など。地方公共団体の職員と、民間企業・開発者・その他団体などの伴走パートナー事業者による共同チーム。
完成度事業化済みのソフトから、プロトタイプ、自由なアイデアまで幅広い。完成したプロトタイプは不要。現状分析と課題定義の段階から応募可能。
主な提出物作品概要、プレゼン用PDF、動作などが分かる3分以内の動画。課題の背景、企画概要、共創体制などをまとめた課題定義書。
評価の軸3D都市モデルの活用、アイデア、UI・UX・デザイン、技術力、実用性。3D都市モデルの活用、アイデア、実用性を中心に、課題の解像度と実現性を評価。
選考2027年1月中にファイナリストを発表し、2月27日に最終審査。自治体関係者の投票を経て、12月5、6日のオンライン審査で採択事業を決定。

PLATEAUは、街並みの映像だけではない

Project PLATEAU(プロジェクトプラトー)は、国土交通省が2020年度に始めた都市デジタルツインの事業である。地方公共団体と連携して3D都市モデルを整備し、オープンデータとして公開する。主催者は今回、300都市以上のデータを利用できると案内している。

3D都市モデルは、建物の外形を立体表示するだけの景観データではない。建築物、道路、都市計画決定情報、土地利用、災害リスク、都市設備、植生、地形などを、位置と属性を持つ地理空間情報として扱う。自治体の2次元の都市計画基本図を基礎に、航空測量の高さ情報や都市計画基礎調査などの情報を加えて作られる。

標準データ形式には、国際規格に基づくCityGMLを採用する。共通仕様で公開することで、個別の自治体専用システムに閉じ込めず、分析、可視化、シミュレーション、ゲーム、拡張現実などに再利用できる余地が生まれる。一方、収録される地物や属性、整備年度、詳細度は都市ごとに異なる。応募者は、使いたい地域に必要な情報が実際に入っているかを確認しなければならない。

3Dで見えること自体が成果ではない。行政判断が速くなるのか、住民の理解が深まるのか、災害リスクが下がるのか。新部門が問うべきなのは、画面の迫力より仕事の変化だ。

防災、開発許可、都市構造——すでにある実装の種

PLATEAUの公式ユースケースには、自治体業務へ接続する先行例がある。開発許可の分野では、都市計画や災害リスクなど複数の情報を3D都市モデル上で統合し、事前相談から申請までを支援する仕組みを木更津市や茅野市で検証した。現地確認や関係部署への照会を減らし、審査に必要な情報を一つの画面で捉えることを目指す。

防災では、福岡市が浸水想定区域を建物の高さと重ね、水平避難と垂直避難の違いを伝える出前講座に活用したと国土交通省が紹介している。岡崎市では建物形状や構造、地形などを用いた高度な浸水シミュレーションが検証された。都市構造の評価では、人口や交通の統計と組み合わせ、立地適正化計画の進捗を定量化するツールの開発が進む。

これらは今回の応募作ではなく、PLATEAUが公表している過去の実証・活用事例である。新部門の意義は、国が用意したテーマに自治体が参加するだけでなく、自治体自身が日常業務から課題を切り出し、実装を担う相手と提案できる点にある。

課題定義書で答えるべき五つの問い
  1. 誰の、どの業務か:担当課、住民、事業者のどこに負担や危険があるのか。
  2. なぜ3Dなのか:2次元地図や既存台帳では解けない空間的な関係は何か。
  3. 必要なデータはあるか:対象地域の整備年、詳細度、属性、更新頻度は目的に足りるか。
  4. 成果をどう測るか:処理時間、照会件数、避難理解、維持費などを導入前後で比較できるか。
  5. 誰が運用を続けるか:実証後の予算、調達、保守、データ更新、職員研修を誰が担うか。

「共創」で越えなければならない三つの壁

第一は、課題と製品の逆転を防ぐことだ。事業者が保有する技術を前提にすると、行政の困りごとが製品の機能に合わせて切り取られる。自治体側は現在の業務時間、判断基準、例外処理、住民への影響を示し、技術を使わない選択肢とも比較する必要がある。

第二は、データの鮮度と責任である。建物の更新が遅れていれば、新築・解体後の現況とモデルがずれる。災害リスクや人口、人流など別のデータを重ねる場合は、作成時点、精度、利用条件もそろえなければならない。精密に見える3D表示は、元データの不確かさまで消してはくれない。

第三は、実証から定常業務への移行だ。コンテストで動く画面をつくれても、自治体の情報セキュリティ、個人情報、アクセシビリティ、既存システムとの連携、調達手続き、年間の保守費を越えられなければ使い続けられない。採択後の伴走支援では、開発速度だけでなく、この運用設計が焦点になる。

自治体投票が加わる選考

自治体共創部門では、オンライン審査の前に全国の自治体関係者による投票を予定する。現場が共感できる課題か、他地域にも応用できるかを見る機会になる。一方、票の多さだけで技術的妥当性や費用対効果が証明されるわけではない。審査では、共感と実現可能性を分けて確かめる必要がある。

2026年8月28日 一般部門・自治体共創部門の本エントリー開始。

11月6日 開発支援などを受けられるプレエントリーの登録締め切り。

11月19日 23時59分 本エントリー締め切り。

11月24日~12月2日 自治体共創部門で全国の自治体関係者による投票を予定。

12月5・6日 オンラインプレゼン審査。自治体共創部門の採択事業を決定。

2027年1月中 一般部門のファイナリストを発表予定。

2月27日 一般部門の最終審査会と表彰式などを開催予定。

表彰の後に、本当の評価が始まる

自治体共創部門は、技術者中心だった開発コンテストの入口を行政現場へ広げる。試作品を要求しないことは、開発力の弱さを許すという意味ではない。間違った課題に高性能なシステムをつくる前に、解くべき問題を共同で確かめる時間を評価する仕組みである。

ただし、課題定義が優れていても、実装は自動では進まない。採択後にはデータの追加整備、試作、実証、効果測定、予算化、調達、保守の順番が待つ。自治体と事業者の役割、成果物の権利、他地域への展開条件も早い段階で決める必要がある。

300都市以上のデータが公開されても、使われなければ都市のデジタルツインは保管庫の中にとどまる。反対に、派手な3D画面を導入しても、職員の二重入力が増えれば行政DXとは呼べない。2026年度の新部門が残すべき成果は、受賞作の数ではなく、地域の困りごとが再現可能な方法で解かれ、日々の業務へ定着した事例である。