日本で働き、税金を払い、家族を育て、生活の基盤を築いてきた外国人にとって、「永住者」は在留期間や就労活動の制限がない最も安定した在留資格だ。帰化と違って日本国籍を取得する制度ではないが、通常の就労ビザのように在留期間を更新し続ける必要がなくなる。
その入口が大きく変わる。出入国在留管理庁は2026年10月1日、「永住許可に関するガイドライン」を改定し、収入、年金、日本語能力、日本の制度・ルールへの理解、学齢期の子どもの就学などを明文化した。庁は、永住者を「生涯を本邦に生活の本拠を置いて過ごすことが想定される最も安定した法的地位」と位置付け、審査を特に慎重に行う必要があると説明する。[1]
まず押さえるべきは「10月1日から全部変わった」わけではないこと
改定日は2026年10月1日だが、適用には移行期間がある。出入国在留管理庁によると、2026年4月1日から2027年3月31日までに申請した人、または申請予定の人には原則として2026年2月24日改訂版ガイドラインを適用し、収入に関する部分だけ10月1日版の新基準を使う。新ガイドライン全体は2027年4月1日以降の申請から適用される。[2]
したがって、日本語B1相当、制度・ルールの理解、学齢期の子の就学などが「2026年10月1日からすべての申請者に即時必須になった」と理解するのは誤りだ。
永住許可の三つの柱は変わらない
入管法第22条第2項の基本構造は、(1)素行が善良であること、(2)独立の生計を営むに足りる資産または技能を有すること、(3)その者の永住が日本国の利益に合すると認められること、という三つの柱からなる。日本人、永住者、特別永住者の配偶者や子には一部要件の例外がある。[1]
今回の改定で重要なのは、法律上の三本柱を変えたというより、それぞれを審査する際に何を見るのかを大幅に具体化したことだ。
収入――「日本人世帯の平均」を基準に
新ガイドラインは、独立生計要件について「現在及び将来において自活可能」であり、「日本人と同等水準以上の経済条件」が求められると明記した。審査は原則として同一生計世帯単位で行う。[3]
収入については、申請者が属する世帯の年収が、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準へ継続的に達しているかを考慮する。夫婦などが住居と家計を共にしている場合、原則として世帯構成員の収入を合算する。一方、成人して親の扶養から外れた者などについては別扱いになる場合がある。[3]
ここで注意すべきなのは、ガイドラインが「年収○○万円なら必ず許可」という単一の固定額を示していないことだ。基準は世帯人数と統計上の日本人世帯平均に連動し、継続性や将来性も含めて審査される。
年金――払ったかだけでなく「将来受け取れるか」へ
従来も公的年金保険料の適正な納付は永住審査で重視されてきた。新ガイドラインはさらに踏み込み、加入対象期間全体の加入状況、過去の働き方、加入期間、平均収入、現在の年収などから将来の受給見込額を推計し、一定の比較基準と照らす考え方を示した。[1]
これは、単に「未納がないか」だけを見る審査から、老後も含めて公共の負担とならず安定して生活できるかを評価する方向への変化だ。
日本語はB1相当――ただし例外もある
2027年4月以降の新ガイドラインでは、日本語教育の参照枠でB1相当以上の日本語能力を有しているかが国益要件の考慮要素になる。B1は、日常生活や社会生活の身近な話題について、主要な内容を理解し、自分の経験や考えをある程度まとまって表現できる中級水準に当たる。[4]
ただし一律ではない。高度人材外国人やその家族、日本の初等・中等教育を累計6年以上受けた人、日本で出生した永住者の子で一定条件を満たす場合などは、本人へB1相当を求める必要性が低いとして考慮対象外となることがある。[4]
ガイドライン本文は特定の試験だけに限定していない。別の在留制度で入管庁がB1相当の例として示す水準には、日本語能力試験(JLPT)N2、JLPT N3で総合104点以上、BJTビジネス日本語能力テスト400点以上などがある。ただし永住許可でどの証明方法を正式に受け付けるかは、申請時の必要書類案内を確認する必要がある。[5]
「制度・ルールの理解」も審査へ
新ガイドラインは、日本社会で長期間生活するためには、日本の制度やルールを理解していることも考慮するとした。これは法律知識の筆記試験を直ちに導入する、という意味ではない。
政府は在留手数料引き上げによる財源の使途として、外国人が日本語や日本の制度・ルールを学ぶプログラムの創設検討、情報発信・相談体制の強化などを挙げている。将来的には、永住前の社会統合支援と審査をより接続する方向が見える。[6]
子どもの就学まで見る理由
新ガイドラインは「学齢期の子の就学」を独立した考慮項目として掲げた。外国籍の子どもについて、日本の義務教育制度は日本国籍の児童生徒と同じ法的義務を直接課す構造ではないが、日本で生活する家族の定着や子どもの教育機会をどう確保するかは、共生政策上の長年の課題だ。
永住審査に就学状況を明記したことは、永住を個人の就労・納税実績だけでなく「家族単位で日本社会に生活基盤を置いているか」という観点から見る姿勢を強めたものといえる。ただし、個別事情を総合判断するというガイドラインの原則は維持されている。[1]
税金・社会保険は以前から重要だった
今回の改定を「突然、税や年金を審査するようになった」と捉えるのも正確ではない。2026年2月版ガイドラインでも、納税、公的年金、公的医療保険料、入管法上の届出など公的義務を適正に履行していることが明記されていた。[7]
2024年の入管法改正では、2027年4月1日施行の条文で「この法律に規定する義務の遵守、公租公課の支払等」という文言が永住許可の法律上の要件として明確化される。入管庁は、新文言は従来ガイドライン上で既に考慮していた事項を法律上明確にしたものだと説明している。[1]
原則10年在留は残る
永住許可は原則として、日本に引き続き10年以上在留し、そのうち一定の就労資格または居住資格で5年以上在留していることを求める。この原則自体は維持される。一方、日本人・永住者の配偶者、高度人材などには在留期間を短縮する特例がある。[7]
長期在留の年数だけを満たせば自動的に永住できる制度ではなく、従来から法務大臣の裁量による許可である。新ガイドラインはその裁量をなくすのではなく、何を評価するかをより詳細に公開するものだ。
永住と帰化は別制度
「永住者」は外国籍のまま日本に無期限に在留できる在留資格であり、日本国籍を取得する帰化とは異なる。永住者は在留活動や在留期間の制限がなく、通常の在留期間更新も不要だが、入管法上の在留管理対象であり続ける。帰化した場合は日本国籍を取得し、入管法による外国人としての在留管理から外れる。[8]
2024年改正法が背景にある
制度見直しの大きな転機は2024年の入管法改正だった。同改正では、永住許可後に故意に税や社会保険料を支払わないなど一定の場合、新たに永住者の在留資格を取り消したり、別の在留資格へ変更したりできる仕組みが設けられた。新しい取消制度は2027年4月1日から運用される。[9]
国会審議では、長年日本に定着している永住者の生活基盤を不当に害さないよう慎重な運用を求める附帯決議が衆参両院で付された。入管庁はそれを受け、定着性や違反の悪質性など個別事情を厳正に判断するための「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン」を2026年10月1日に公表した。[9]
永住許可の入口を具体化する新ガイドラインと、許可後の取消し基準は別の制度だが、2027年4月に同時期に本格運用されるため、永住制度全体の再設計として理解する必要がある。
10月1日には手数料も10,000円から200,000円へ
審査基準とは別に、費用も大幅に変わった。2026年10月1日以降に永住許可を申請し、許可を受ける場合の手数料は20万円。9月30日までに受理された申請は、許可が10月以降でも旧手数料1万円が適用される。一定の経済的困難などの要件を満たす場合、永住許可手数料は2万円まで減額され得る。[10]
入管庁は引き上げ理由として、審査実費だけでなく、出入国・在留管理の強化、DX、難民保護、不法滞在対策、外国人の日本語・制度理解を支える施策などの費用を挙げている。[6]
外国人材の獲得と審査厳格化という二つの論理
新ガイドラインは厳格化だけを目的として説明されているわけではない。入管庁は、永住資格を「我が国の発展に貢献することが期待できる外国人材を呼び込むためのインセンティブ」と位置付け、国際的な人材獲得競争にも資すると記している。一方で、活動や期間の制限がない地位だからこそ慎重な審査が必要だともする。[1]
この二つは日本の外国人政策の現在地をよく表している。少子高齢化と人手不足のなか、日本は外国人労働者や高度人材をより必要としている。同時に、長期定住者については納税、社会保障、日本語、地域生活まで含む「定着」をより明確に求めようとしている。
申請者にとって何が変わるのか
実務上、最も大きいのは「年数を満たしたから申請する」という発想だけでは不十分になることだ。収入は世帯単位で継続性を見られ、年金は将来受給まで意識される。2027年4月以降は日本語能力や制度理解、家族に学齢期の子がいる場合の就学状況も審査材料になる。
逆に、これらはすべて機械的な合否ラインではない。入管庁は繰り返し、個々の事案の事情を総合的に考慮するとしている。B1能力についても例外があり、法律上の配偶者・子の特例なども残る。
永住許可は「10年住めばもらえる資格」ではこれまでもなかった。今回の改定は、その事実をさらに明確にする。日本で長期にわたり生活を営み、経済的に自立し、公的義務を果たし、社会の一員として暮らしていけるか――2027年からは、その判断材料がこれまで以上に具体的な形で申請書類の向こう側に並ぶことになる。
