『推し』は商品ではない。商品を選び、組み合わせる人の行動が市場を形づくる。
「推し色」を選ぶ買い物
有楽町駅に近い商業施設の一角で、ある色のリボンを選ぶことが、ファンとしての意思表示になる。写真を飾るケース、ぬいぐるみに着せる服、勲章のように胸元やバッグを彩るロゼット。高価な大型商品ではなく、手のひらに収まる小物が主役だ。
東京都千代田区の有楽町マルイ8階「マルイノアニメ SPACE6」で、10月17日から25日まで「#手元の推し活まつり 26’ Autumn」が開かれている。丸井グループの発表では、会期全体で55ブランド、3500点を超える商品が集まる。10月21日には出店ブランドが前期から後期へ切り替わった。55ブランドが同時に並ぶという意味ではなく、施設の案内では各期35ブランドが参加する。
買うのは「公式グッズ」だけではない
ここで注目したいのは、商品がアイドルやキャラクターそのものを直接描いた公式商品に限られない点だ。たとえば「推し色」に合わせたケースや、手持ちのぬいぐるみを着飾る衣装は、ファンがすでに持つ品物と組み合わせて使う。買い手は完成済みの商品を選ぶだけでなく、自分の応援の仕方を編集する。
主催者が列挙する商品は、ぬい服、トレーディングカード・写真ケース、ネイルチップ、アクセサリー、ロゼットなど。色、材質、形が異なることで、同じ対象を応援する人同士にも違う選択が生まれる。表現の自由度はこの催しの魅力だが、掲載商品数から売上高や利益、来場人数を推測することはできない。
なぜ手作りの品を実店舗で売るのか
ハンドメイド作品は、写真だけでは生地の厚さ、縫製、金具の感触、色の微妙な違いが伝わりにくい。店舗の役割は、すでにインターネットで見たものを受け取る窓口にとどまらない。買い手が手触りを確かめ、組み合わせを思いつき、まだ知らなかった作家を見つける場所にもなる。
丸井グループは前期を10月17~20日、後期を21~25日とし、作品やブランドを入れ替えている。会場は11時から19時まで。両期初日の開場から15時までは整理券による入場管理を行うとしていた。こうした運営上の工夫は需要の大きさを示唆するが、実際の混雑状況や購買動向について独立に確認した数字はない。
「推し」は少数の熱心な人だけのものか
「推し」は、好きで応援し、他者にも魅力を知ってほしいと感じる対象を広く指す言葉になった。対象は芸能人やアイドルだけではない。漫画の登場人物、声優、音楽家、スポーツ選手、施設などにも広がる。「推し活」という呼び名は比較的新しいが、好きな相手を支えるために時間や手間を使う行為そのものは、ファンクラブ、同人活動、応援上映などの歴史の延長線上にある。
矢野経済研究所が2025年7月に国内15~69歳の男女1万人を対象に行った調査では、「推しがいる」と答えた割合は同社の定義による「オタク」層で64.2%、非オタク層で21.5%。この数字は調査対象集団を比較したもので、日本人全体の64.2%に推しがいるという意味ではない。同社の別の市場調査では、2024年度に主要17分野中15分野のオタク市場が成長したと報告している。
作り手の経済をどう読むか
全国から集まる小規模な作り手にとって、商業施設での販売はネット販売と異なる接点を生む。一方、材料費、制作時間、出店費用、販売手数料、在庫の負担を考えれば、商品が売れることと事業として利益が残ることは同義ではない。作家ごとの収益は公表資料からは分からない。
また、既存作品のキャラクター画像やロゴを無断で使うことと、色や一般的な装飾を用いて個人の好みを表現することは、権利の面で区別して考える必要がある。今回の展示品が個別にどのような許諾を得ているかを本稿は確認しておらず、会場全体について権利処理を保証するものではない。
好きでいることを測る難しさ
推し活が注目されると、商業側は支出額や購買頻度を知りたくなる。しかし、応援の形は購入だけではない。作品を何度も読み、イベントで仲間と交流し、無償で感想を書き、節度を守って応援することも含まれる。購入額をそのまま愛情の深さと見なすことはできない。
有楽町の催しが示すのは、ファンが文化の受け手であるだけでなく、身につけ方や飾り方を工夫する参加者になっていることだ。作り手はその想像力に道具を提供する。3500点という数より興味深いのは、一つの「好き」からこれだけ違う手仕事が生まれるという事実だ。
訪問案内と取材方法
会場は有楽町マルイ8階「マルイノアニメ SPACE6」、会期は2026年10月17~25日、11~19時。実際の開催内容や混雑情報は公式案内で確認してほしい。本稿は主催者の公開資料と第三者の市場調査に基づき、会場への独自訪問や来場者・作家への取材は行っていない。
出典・参考資料
ブランド数と商品点数は主催者の公表値。売上や来場者数は確認されていない。
