光格子時計の測定に生じる空白をなくすため、原子を流しながら精密に測る技術が進んでいる。東京大学、理化学研究所、日本電子の共同研究グループは、極低温のストロンチウム原子を供給し続けた状態で、幅1.2ヘルツの時計遷移スペクトルを観測したと発表した。[1]
成果は、時計がレーザーの周波数を途切れずに監視するための基盤となる。ただし、今回示されたのは分光方式の実証であり、長期間止まらずに動く完成した時計の運転記録ではない。東大の発表は8月6日、理研の紹介は8月7日付。9月24日号では、国際的な時刻の基盤につながる研究として、その意義を検討する。
原子の準備と測定を、別の場所で同時に
従来の光格子時計は、原子を冷やして準備し、時計遷移を調べ、状態を検出する操作を順番に行う。原子が時計レーザーの周波数を測っていない間が「デッドタイム」だ。その間の周波数の揺らぎを十分に捉えられず、時計の安定度を制限する要因になる。[1]
研究グループは、移動する光格子で原子を運び、準備、励起、検出を流路上の異なる場所に分けた。原子の流れに沿ってレーザーを当てる「縦励起」を用い、それぞれの操作を同時進行させる。[2] 工程を時間で区切る方式から、場所で分ける方式への転換である。
1.2ヘルツは、時計の誤差そのものではない
東大によると、原子は長さ12ミリメートルの励起領域を秒速16ミリメートルで通過し、0.75秒間レーザーと相互作用した。得られたスペクトルの半値全幅が1.2ヘルツで、相互作用時間から決まるフーリエ限界に近いという。[1]
数値を混同しない
スペクトル幅は共鳴の鋭さを表す。時計の周波数がどれほど揺らぐかを示す安定度、偏りをどこまで評価できたかを示す不確かさ、装置が動いた時間を示す稼働率とは異なる指標だ。
したがって、この数値だけから「何億年で1秒しかずれない」と換算することはできない。原子を連続供給できることと、完成した時計が校正された状態で長期運転できることも、別々に確かめる必要がある。
世界の時刻を支えるには、比較と評価が必要
現在の秒の定義は、セシウム133原子の特定の遷移周波数を基準としている。[3] 光格子時計の研究が進んでも、この実験によって秒の定義や日本標準時が変更されたわけではない。
国際度量衡局(BIPM)の関連作業部会は、国際原子時(TAI)の校正に用いる周波数標準について、周波数の偏り、不確かさ、運転状況、比較・伝送の不確かさなどを扱う。[4] 編集部の分析では、測定の空白を減らす研究は、この運用面を強くする可能性がある。一方、国際的に利用するには、装置単体の測定結果に加え、他の標準との整合性を示さなければならない。
小型化への期待と、次に確かめる性能
理研は、ゼロデッドタイム動作が実現すれば、レーザーの揺らぎを連続的に補正でき、大型の安定化装置への依存を減らせると説明する。[2] 小型化や現場での計測へつながる可能性はあるが、今回の発表は製品化や導入日程を示したものではない。
計測機器メーカーや標準研究機関が次に見たいのは、時計としての制御を閉じた状態での安定度、系統的な不確かさ、運転停止と復旧を含む稼働実績だ。鋭い共鳴を測る能力を、日々使える周波数基準へ結びつけられるかが焦点となる。

