4月27日、承認されたのは「船」より大きなシステムだった
三社が発表した主語は「ロケット回収船」だが、ABSが原則承認した対象はもっと広い。無人・自律運航型の回収船、回収作業を支援する別の船、両者を統合的に監視・制御する陸上管制システムを含む洋上回収システム全体である。
商船三井は、海運・海洋事業の運航知識と安全運航技術を生かし、洋上プラットフォームの運用構想と海上作業の検討を担ったと説明する。ISCは再使用型ロケットASCA 1を開発する宇宙輸送スタートアップ。常石ソリューションズ東京ベイは旧三井E&S造船で、船舶・海洋構造物の設計知を持つ。ABSは第三者の船級協会としてコンセプトの安全性と技術的成立性を審査した。
ここで最も大切な数字は「0隻」だ。船名も造船所への発注も、起工・進水・就航日も発表されていない。回収船が完成したというニュースではなく、海運、造船、ロケット、遠隔運航を一つの安全論へまとめ、次の詳細設計へ進めると第三者が判断したニュースである。
AiPは何を認め、何を認めないか
Approval in Principleは、概念設計の段階で技術的に成立し、安全・適用規則の面で重大な障害が見当たらないことを船級協会が確認する初期承認である。新しい船種や規則に前例の少ない設備では、詳細設計へ資金と人を投じる前に、根本的な行き止まりがないかを確かめる役割がある。
AiPは、図面承認、型式承認、建造中検査、海上試運転、船籍国の登録、MASS安全証書、ロケット打上げ許可、商業運航許可を置き換えない。特定の海況でロケットが安全に降りられることも、陸上通信が切れないことも、経済的に成立することも証明していない。MOL自身が「設計の高度化および実装に向けた検討」を続けると表現するのは、そのためだ。
三つの乗り物ではなく、三つの責任
| 構成 | 発表で確認できる役割 | 詳細設計で決めるべき論点 |
|---|---|---|
| ロケット回収船 | 無人・自律運航で洋上回収を担う | 位置保持、回収方法、熱・爆発・荷重、防火、故障時の安全状態 |
| 支援船 | 回収作業を支援する | 乗員の有無、待機距離、曳航・消火・救難・整備、回収船への接近条件 |
| 陸上管制 | 両船を一元的に監視・制御する | 船長・遠隔操船者・ロケット管制の権限、通信冗長性、サイバー防御、引継ぎ |
発表は支援船が有人か無人か、何を搭載するかを示さない。陸上管制も、常時遠隔操船するのか、監視し必要時だけ介入するのか、完全自律の監督をするのか不明だ。表の右列は、安全なシステムなら一般に解く必要がある編集部の論点であり、採用済み仕様ではない。
それでも三部構成には合理性が見える。危険な着地・回収区域から人を離しつつ、救難、曳航、消火、点検など、人と機材を必要とする仕事を別船へ分けられる。陸は広域の船位、天気、ロケット軌道、通信、港への帰路を統合できる。一つが故障しても、他の二つで人命と海域を守る冗長性を設計できる。
「回収」の動詞は、まだ公表されていない
再使用ロケットの洋上回収には複数の方式がある。機体がエンジンで甲板へ垂直着陸する、パラシュートで海面へ降りて引き上げる、空中や海上で捕捉する、浮いた機体を曳航する――必要な船はまるで違う。今回の資料は「回収」と「回収船」と書くが、着陸、捕捉、揚収、曳航のどれを基本方式とするか明記しない。
2025年の連携協定はISCのASCA 1への適用を検討するとした。ASCA 1は垂直離着陸の再使用型ロケット系列として開発されてきたため、広い甲板への推進着陸を連想しやすい。しかし、連想を設計事実へ変えてはいけない。ロケットの世代や大きさが変われば、船側の荷重、甲板、熱防護、固定方法、作業手順も変わる。
回収後も仕事は終わらない。倒れないよう機体を固定し、残留推進剤と圧力を安全化し、発熱・漏えい・毒性を監視し、海況が悪化する前に港へ運ぶ必要がある。接近してよい時刻と人員を誰が宣言するかは、着陸そのものと同じほど重要だ。
なぜ陸へ戻らず、海へ降りるのか
ロケットの第一段は、上段を加速した時点で発射地点から遠く離れ、東向きの速度を持つ。発射場へ戻すには向きを変え、戻るための推進剤を使う。飛行経路の下流に海上プラットフォームを置けば、戻りの燃焼を小さくし、衛星へ渡せる性能を多く残せる可能性がある。
海上地点は航路、漁場、領海、天気を避けて動かせる。日本列島は太平洋へ長く開き、ISCはその地理的潜在力を強調する。固定した陸上着陸場より軌道と打上げ方位へ合わせやすく、陸上人口から距離を取れる点は利点だ。
代償は、地面が動くことにある。船は風、波、うねり、潮流で並進し、上下し、傾き、回転する。動的位置保持で平均位置を保てても、甲板の瞬間運動は消えない。着地直前のロケットと船が別々のセンサー、時計、通信遅延で動けば、数十センチの誤差が大きな横荷重へ変わる。
甲板は、ロケットのための小さな宇宙港になる
通常の貨物甲板は重い物を載せるが、ロケット回収甲板は局所的な脚荷重、着地衝撃、エンジン噴流、熱、音響、振動へ耐えなければならない。噴流が甲板材を削り、剥離した破片が機体へ戻ることも防ぐ。排水口、ケーブル、アンテナ、塗膜、縁部は、炎と高速ガスの流れを前提に配置する必要がある。
着地失敗は、通常の荷役事故と違う。推進剤を積んだ機体が甲板へ衝突し、火災、爆発、破片、船体損傷、油流出、操船喪失を同時に起こし得る。回収船を無人にする主な安全価値は、この瞬間に人を甲板と船内から遠ざけられることだ。ただし支援船、漁船、航空機、陸上管制員へリスクが移るため、無人化だけで安全は完成しない。
必要なのは層状防御である。海象の発進・着地基準、広い排除区域、ロケットと船の二重位置確認、着地中止条件、船側の冗長推進と電源、耐熱・防火区画、遠隔消火、ガス検知、非常曳航、沈没時の汚染対策を、個別ではなく一つのハザード分析に入れる。
自律船は「人がいない船」ではなく「人が別の場所にいる船」
2026年5月、IMOは初の国際MASSコードを採択し、7月1日に発効した。現段階は非強制だが、遠隔・自律運航船を通常船と同等の安全、保安、環境水準へ置く目標基準で、運航モード、リスク評価、システム設計、ソフトウェア、通信、陸上遠隔運航センター、火災、捜索救難、人間の責任を扱う。
コードは、船長が船外にいても最終責任を持つとする。ロケット管制が「着地続行」を望み、遠隔船長が「海況で中止」と判断したとき、誰に停止権があるのか。回収船の自律系、陸上の遠隔操船者、ロケットの飛行安全責任者、支援船船長、海上保安当局の指揮系統を事前に定義しなければならない。
通信断も二種類ある。船が陸と切れる場合と、船がロケットの航法情報を受けられない場合だ。安全状態は同じとは限らない。着地前なら海域離脱や定点保持、着地後なら機体を固定したまま待機など、ミッション段階ごとの縮退モードが要る。
2025年の構想は、回収から始まり発射へ進む
三社は2025年7月9日に連携協定を結び、翌日発表した。起点はMOLグループ社員の新規事業提案制度「MOL Incubation Bridge」。2030年頃の商用化を目標に、まず回収船を開発し、次に洋上発射船の技術・経済性を調べる二段階の構想だった。
回収を先にする判断は現実的だ。発射船は極低温推進剤の積込み、射点設備、排炎、打上げ時の巨大荷重、飛行安全、地上設備に相当する機能を海へ持ち出す。回収船も難しいが、発射設備の全機能は背負わない。運航、排除海域、遠隔制御、ロケット取り扱いの経験を先に得られる。
協定は、ASCA 1への適用を調べ、検証試験を行うとした。ISC側は2026年度中に各種実験を行い、2030年頃の商業利用を目指すと説明した。ただし、2026年7月17日までに、洋上実証船の発注や回収実験の完了は公表されていない。
ASCA 1の予定は、一度大きく変わった
ISCは2025年5月、ASCA 1.0を米国Spaceport Americaで垂直離着陸させる計画を発表した。高度0.1キロメートル以上、目標から5メートル以内の着地、米Ursa Major製Hadleyエンジン2基、モデル予測制御、自律飛行安全システムを掲げた。
しかし同年12月、ISCは米国試験を中止した。FAA手続きの遅れなどで2026年3月までの実証が困難と判断し、国内開発の液体メタンエンジンと電動ターボポンプを使う路線へ切り替えた。現在は国内の離着陸実証を経て、2028年3月までに北海道スペースポートで衛星打上げ実証を目指す。
これは回収船AiPを無意味にしないが、設計基準が動くことを示す。エンジン、機体質量、着陸脚、残留推進剤、飛行経路、着地精度が変われば、船の甲板荷重、危険区域、消火、固定装置も更新が必要になる。ロケットと船を並行開発する難しさは、片方の仕様凍結を待てない点にある。
ISCはホッパーから着地を学んでいる
ASCA hopperは、ISCの再使用型開発で最初の小型離着陸試験機である。エンジン燃焼、離着陸、再使用に必要な点検整備の三要素を確認し、ASCA 1と将来の有人輸送機へつなぐ。2025年3月の試験では液体メタン・液体酸素エンジンを6回燃焼し、最長8.3秒、推力4.3キロニュートンを記録した。
同年4月には、実機と同等の質量・重心特性を持つ供試体を約500ミリメートルから落とし、着陸挙動解析と脚設計を検証した。2026年度は福島県浜通りの企業群と作った帰還・着陸技術実証機へエンジンを組み込み、点火・燃焼を経て飛行試験を目指す。
高さ数十センチの落下試験から洋上着陸までは遠い。しかし再使用の信頼性は、派手な最高高度より、脚、弁、センサー、点検、再組立ての小さな試験を反復できるかで決まる。回収船にも同じ文化が要る。甲板へ降りた一回より、同じ手順で安全に港へ戻し、整備し、また出せることが商用性になる。
日本の再使用研究は1999年に飛び始めた
日本の垂直離着陸研究はSpaceXより前に実機へ進んでいた。旧宇宙科学研究所は1999年、能代でRVT(Reusable Vehicle Testing)の飛行試験を開始。2001年には液体水素エンジンの機体で3回連続の離陸・垂直着陸を行い、再飛行とターンアラウンドを試した。
2003年の第三次試験では、高さ約3.5メートル、乾燥質量約500キログラムのRVT-9が10、30、42メートルの三飛行を行った。複合材極低温タンク、耐久性を高めた推進系、エンジン絞りによる自動垂直着陸、繰り返し運用を検証した。目標は高度競争ではなく、同じ機体を安全・迅速に再び飛ばす設計と作業だった。
その思想はJAXA、フランスCNES、ドイツDLRのCALLISTO一段再使用飛行実験と、その前段研究RV-Xへつながった。洋上回収船プロジェクトとJAXAの系譜は別組織・別計画だが、日本に再使用運用の蓄積があることを示す。
7月11日、RV-Xが能代で横へ16メートル飛んだ
本号の直前、JAXAは2026年7月11日午前6時14分55秒、能代ロケット実験場でRV-Xの第一回飛行試験を行った。機体は約40秒飛行し、高度約11メートルへ上昇、垂直姿勢を保って約16メートル水平移動し、着陸した。計画値の高度約10メートル、水平約15メートルを満たした速報である。
小さな飛行には、海上回収と共通する核心がある。離陸点とは別の着陸点へ移り、航法センサー、誘導、推力制御、機体運動、着陸脚を一つの閉ループで動かす。JAXAは同じ機体を短時間間隔で高頻度運用する手順の確立を目指す。
ただしRV-Xの地上試験を、そのまま洋上着陸の実証と呼んではならない。甲板運動、塩害、海上風、通信、船の位置誤差は含まれない。価値は、日本の再使用技術が紙の将来構想ではなく、2026年7月にも実機データを増やしていることだ。
Hondaも、271.4メートルから37センチの誤差で戻った
民間ではHondaが2025年6月17日、北海道大樹町で独自の再使用型実験機を飛ばした。到達高度271.4メートル、飛行56.6秒、着地点は目標から37センチ。日本の民間企業として初めて高度300メートル級の離着陸実験に成功したとHondaは発表する。
Hondaは機体再使用に加え、再生可能燃料を使う「サステナブルロケット」を研究する。自動車の制御、航空機、燃焼、ターボポンプなどの技術を組み合わせた。これも三社の回収船やISCのASCAとは別計画で、Hondaが洋上回収を採用すると発表したわけではない。
日本の2026年像は、一つの国策ロケットへ集約されていない。JAXAはRVTからCALLISTOへ、Hondaは独自実験機、ISCはスタートアップ型のASCAと海上インフラを並行して進める。回収船は、特定機体に最適化しながらも、将来は複数顧客へ使える設計余地を残せるかが事業上の分岐になる。
海は、宇宙飛行の帰り道だった
宇宙と海の結び付きは新しくない。米国のMercury、Gemini、Apollo宇宙船はパラシュートで海へ帰り、海軍艦艇とヘリコプター、潜水員が人とカプセルを回収した。Apollo 11は1969年7月24日、太平洋へ着水し、回収空母USS Hornetから約13マイルの地点だった。悪天候で着水点を250マイル動かしたことは、海上回収が気象と船の配置に支配される歴史的例でもある。
スペースシャトルは、2本の固体ロケットブースターを高度約45キロメートルで分離し、パラシュートで大西洋へ降ろした。専用船Liberty StarとFreedom Starは毎回の打上げ後にケーシングを回収し、水平に浮かせてポート・カナベラルへ曳航。分解、整備、再充填して再使用した。
この方式は「海へ落として拾う」再使用で、機体は海水へ入る。現代の推進着陸は、海上プラットフォームの乾いた甲板へ機体を立て、水濡れと揚収を避ける代わりに、着地精度、噴流、甲板運動という別の難題を引き受ける。
2016年、ドローン船が軌道級ロケットを受け止めた
SpaceXは2015年12月21日、Falcon 9第一段を陸上へ着陸させ、2016年4月8日にはDragon補給船を打ち上げた第一段を大西洋のドローン船Of Course I Still Love Youへ初めて成功裏に着陸させた。2017年3月には軌道級第一段の再飛行を実現した。
この流れが、洋上プラットフォームを「回収後に探す船」から「飛んでくる機体を待つ移動着陸場」へ変えた。船は軌道に合わせて数百キロ下流へ配置でき、ロケットは発射地まで全距離を戻らずに済む。着地後は支援船と港湾チームが機体を固定し、運ぶ運用産業が生まれた。
2025年11月、Blue OriginのNew Glennも第二回飛行で大型第一段を大西洋の着陸プラットフォームJacklynへ成功させた。同社は初飛行でブースターを失い、海況のため日程を動かした経験も公表した。海上着陸は一社だけの例外ではなくなったが、天候と学習曲線が消えたわけではない。
三つの時代を比べる
| 方式 | 海で起きること | 船の主な仕事 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| 有人カプセル着水 | パラシュートで海面へ | 捜索、救命、揚収、医療・安全化 | Mercury、Gemini、Apollo |
| ブースター着水・曳航 | パラシュート降下し海水へ | 潜水作業、浮力化、曳航、港で分解 | スペースシャトルSRB |
| 推進式甲板着陸 | エンジンで移動甲板へ垂直着陸 | 位置保持、無人安全域、固定、帰港 | Falcon 9、New Glenn |
| 日本の2026年構想 | 方式未公表 | 無人自律回収船+支援船+陸上管制 | MOL・ISC・常石のAiP |
最後の行を既存の米国方式へ自動的に当てはめないことが重要だ。承認の革新は、甲板の形より、船・支援船・陸上を一つのシステムとして審査した点にある。最終方式が何であれ、人を危険中心から離し、海上作業の責任を分けて統合する思想は残る。
二つの規制世界を同時に通る
日本で人工衛星などを打ち上げるには、宇宙活動法に基づく内閣総理大臣の許可と、打上げ施設・機体・安全管理の審査が関わる。飛行経路、第三者損害、保険、事故対応も宇宙側の安全論になる。洋上で回収するだけでも、ロケットがどの許可と飛行安全体制で戻るかを切り離せない。
船側には船籍国、船級、SOLAS、COLREG、MARPOL、海上交通、港湾、無線、捜索救難、サイバーなどの枠組みがある。2026年7月からの非強制MASSコードは自律機能と陸上管制の評価に新しい共通語を与えたが、具体的にどの船へ適用するかは総トン数、航海区域、用途、旗国で変わる。
さらに打上げ・降下海域では、航空・船舶の排除、漁業調整、海上保安、自治体、港、周波数、環境評価が重なる。ABSのAiPは有力な技術審査だが、これら当局の許認可を一括で与えるものではない。商用化のクリティカルパスは、船体建造より制度と海域調整になる可能性もある。
サイバー攻撃は、船位と着地点を同時に狙う
通常の自律船でも、GNSS妨害、AIS偽装、通信断、遠隔操作の乗っ取り、ソフト更新改ざんは重大だ。ロケット回収では、船と機体が同じ座標系・時刻を信じて接近するため、位置や時間の偽情報が二つの高速システムを衝突させ得る。
陸上管制は、ロケットテレメトリー、船位、機関、気象、カメラ、レーダー、通信を統合する高価値の標的になる。ロケット管制と船舶運航を同じネットワークへ直結すれば、一方の侵害が他方へ広がる。最小権限、ネットワーク分離、暗号化・認証、時刻源の冗長化、異常位置の交差確認、手動・自律の安全停止を設計段階から入れる必要がある。
サイバー演習も、IT画面上だけでは足りない。偽の着地点、GNSS喪失、遠隔映像の遅延、支援船通信だけ残る状況、ロケットが着地中止できない最終局面を、海上試験とシミュレーターで組み合わせるべきだ。
再使用は、回収すれば自動的に安くなるわけではない
ロケット一段の製造費を複数飛行へ分けられれば、打上げ単価を下げられる。しかし回収のために推進剤、着陸脚、耐熱、誘導装置を積むと、衛星搭載能力が減る。回収船、支援船、港、陸上管制、乗組・遠隔要員、保険、整備、天候待ちにも費用がかかる。
経済性を決めるのは、回収成功率だけでなく、何回再飛行できるか、飛行間の検査と部品交換に何日・何円かかるか、船が何顧客・何発を扱えるかである。年1回のロケットのために専用船を維持すれば固定費は重い。高頻度化が先か、回収船が先かという鶏卵問題がある。
2030年頃という目標には、ロケットと船の両方が同時に成熟する必要がある。設計のモジュール化、複数サイズの機体を固定できる甲板、他の海洋作業への転用、複数事業者での共同利用が費用を下げる可能性はあるが、三社は事業モデル、料金、顧客、建造費をまだ公表していない。
環境は「海へ捨てない」だけでは測れない
第一段を回収すれば、機体と材料を海へ廃棄せず再利用できる。毎回新造する採掘、製造、輸送の負荷を減らす可能性もある。海上へ落下する残骸と航行危険を減らす点は明確な方向性だ。
一方、着地燃焼、回収船と支援船の燃料、港への往復、整備、交換部品が加わる。メタンは燃焼時にCO₂を出し、未燃メタンが漏れれば強い温室効果を持つ。エンジン噴流、騒音、排除区域は海鳥、海洋生物、漁業へ時間的・空間的影響を与え得る。回収失敗時には推進剤、複合材、電池、油の回収計画が必要だ。
比較は「使い捨て一段を製造し海へ落とす」基準と、「再使用一段を船で回収し何回飛ばす」シナリオを、1キログラムの軌道投入あたりで行うべきだ。数回で廃棄する場合と数十回使う場合では答えが変わる。環境に良いという見出しは、実飛行回数と船の燃料を入れたライフサイクル評価で初めて確かになる。
建造前に必要な、段階的な試験
第一段階はデジタルである。ロケットの分散、風、波、船の6自由度運動、センサー誤差、通信遅延を結合し、着地可能な海況と中止条件を作る。第二段階は模型・荷重試験。甲板の噴流・熱・衝撃、脚の滑り、固定装置、火災を陸上で再現する。
第三段階は船だけの海上試験で、無人航行、動的位置保持、通信断、支援船との協調、遠隔消火、非常曳航を検証する。第四段階はロケット代替機を使い、ドローン、落下体、ホッパーなどで相対航法と甲板受入れを試す。最終段階で実機を段階的に近づける。
試験は成功条件より失敗条件が重要だ。エンジン停止、脚一本不調、甲板端への着地、船の推進器一基故障、GNSS二系統不一致、支援船遅延、急なうねり、火災と通信断の同時発生を入れる。無人船だから壊してよいのではなく、人がいない利点を使って安全限界を実証する。
未公表の仕様書
| 公開済み | 未公表 |
|---|---|
| 三社の連携、ABS AiP、無人・自律運航型、支援船、陸上管制、ASCA 1への適用検討、2030年頃の構想 | 船名、隻数、全長・幅・喫水・総トン数、船型、推進・燃料、速力、航続距離、動的位置保持等級、甲板寸法・許容荷重 |
| システム全体のコンセプトに安全性・技術的成立性の原則確認 | 回収方式、対象段の寸法・質量・推進剤、着地精度、海象限界、運用海域、母港、排除区域、支援船の乗員と装備 |
| MOLが運用構想・洋上作業を検討 | 自律レベル、陸上要員、船長の所在、通信、サイバー、火災・爆発設計、旗国、船級符号、許認可、建造所、契約、費用、日程 |
未公表であることは不備の証拠ではない。AiP段階では仕様が変わり、保安上公開できない情報もある。ただし「基本設計承認」という言葉だけが独り歩きすると、完成度が過大評価される。次の発表では、数値を伏せても、回収方式、設計対象のロケット級、試験段階、適用規則、建造判断のゲートを示してほしい。
2030年までの成績表
船側では、位置保持誤差、甲板の上下・傾斜、運用可能海況、通信遅延と稼働率、自律航行の介入回数、推進・電源故障時の残存能力、支援船の到着時間を測る。ロケット側では、着地点誤差、着地速度と角度、脚荷重、残留推進剤、安全化時間、固定・帰港までの時間を記録する。
システム全体では、天候による延期率、回収成功率、港から現場までの時間、回収一回の費用、船員・陸上要員の労働、整備日数、同じ段の再飛行回数を見る。環境では、回収一回の船舶燃料、CO₂e、メタン漏えい、騒音、海域占用、落下物と廃棄物を、使い捨て基準と比べる。
失敗も公開価値がある。着地中止、位置喪失、通信断、甲板損傷、固定遅延、曳航、火災、海洋流出を匿名化・要約して業界と共有すれば、日本の次の船と世界の規則が学べる。AiP取得件数ではなく、危険をどれだけ早く見つけ、設計へ戻したかが成熟度である。
海が、発射台の外側から宇宙港の一部へ変わる
これまで日本のロケットにとって海は、落下区域であり、安全のため陸から離す空間だった。MOL、ISC、常石の構想は、海を能動的な宇宙インフラへ変える。回収船は軌道の下流へ移動し、支援船は危険区域の外から備え、陸上管制は海事と宇宙の判断をつなぐ。
歴史は準備してきた。Apolloは人を海から救い、シャトルはブースターを曳航し、SpaceXとBlue Originは移動甲板へ第一段を降ろした。日本ではRVTが1999年から繰り返し着陸を学び、Hondaが271.4メートルから戻り、JAXAのRV-Xが本号直前に横へ16メートル移って着陸した。だが海外の成功と国内の小型試験を足しても、日本の海上回収成功にはならない。
2026年の到達点は慎ましく、同時に重要だ。三社はまだ船を造っていない。代わりに、ロケットだけでも船だけでも解けない問題を、一つの承認対象として定義した。海と宇宙が交わる場所は甲板だが、成否を決めるのはその周囲――支援船、陸上管制、規則、港、天気、整備、人間の停止権――である。
出典・参考資料
- 商船三井「無人・自律運航型のロケット洋上回収船に関する基本設計承認(AiP)を取得」(2026年4月27日):三社、ABS、三部構成、承認範囲、MOLの役割。
- MOL, “AiP for Basic Design of an Unmanned Autonomous Rocket Recovery Vessel”(2026年4月27日):英語用語とAiP定義。
- ISC「ロケットの洋上回収船のAiPを取得」(2026年4月27日):ISC側の承認説明と日本列島の地理的意義。
- 商船三井「ロケット洋上発射・洋上回収の事業化に向け連携協定」(2025年7月10日):2030年頃、回収船優先、ASCA 1適用、MOL Incubation Bridge。
- ISC「ロケットの洋上回収船・洋上発射船の事業化検討」(2025年7月10日):実証船着手、2026年度実験、2030年頃の商業利用構想。
- ISC「米国でのASCA 1.0ミッションを中止」(2025年12月23日):FAA手続き、国内エンジン路線、2028年3月までのHOSPO実証目標。
- ISC「2026年度にロケット実機での飛行試験へ」(2026年4月14日):HILS、実証機、浜通り13社、年度内飛行計画。
- ISC「ASCA hopper液体メタンエンジン燃焼試験」(2025年4月16日):8.3秒、4.3kN、6回試験。
- ISC「再使用型ロケットの着陸を想定した落下試験」(2025年5月14日):着陸脚、約500mm自由落下、解析検証。
- JAXA/ISAS「Reusable Vehicle Test at Noshiro」(2003年10月):1999年開始、RVT目的、機体・推進・繰返し運用。
- JAXA/ISAS「Reusable Vehicle Flight Experiment」(2003年11月7日):10・30・42m飛行、複合材タンク、耐久推進系。
- JAXA「基幹ロケットの再使用化による打上げコストの低減」:RV-X、CALLISTO、2026年7月11日の約40秒・11m・16m飛行速報。
- Honda「再使用型ロケット離着陸実験」:2025年6月17日、271.4m、37cm、56.6秒。
- NASA「The Recovery of Apollo 11」:太平洋着水、USS Hornet、気象による着水点変更。
- NASA「SCA and SRB Recovery Oral History Project」:Liberty Star、Freedom Star、シャトル固体ブースター回収。
- SpaceX Mission Milestones:2015年陸上着陸、2016年4月8日ドローン船着陸、2017年再飛行。
- Blue Origin「New Glenn…Lands Fully Reusable Booster」(2025年11月13日):Jacklynへの第一段着陸。
- Blue Origin「New Glenn’s First Mission」(2025年1月):海況による延期と初回ブースター喪失。
- IMO「FAQ—Autonomous shipping」:2026年MASSコード、適用、遠隔運航センター、船長責任。
- 内閣府「宇宙活動法に基づく打上げ許可等の申請」:日本の打上げ許可・関連規則。
- MOL「MEGURI2040 Stage 2」(2026年3月30日):MOLが関わる自動運航船・陸上支援の別プロジェクト。
編集注:本稿は2026年7月17日までの一次資料を中心に構成しました。AiPを建造承認、就航、商業運航、ロケット回収成功とは表記していません。回収方式、甲板着陸、対象段の仕様、船体寸法、DP等級、海象限界、支援船の乗員、運用海域、母港、費用、建造日程は公表されていません。甲板・推進・防火・サイバー・試験に関する記述は、採用仕様ではなく、公開コンセプトから導く工学的検討事項として区別しました。JAXA RV-X、Honda、ISCは別々の計画です。ヒーロー画像は編集イラストです。為替表示は本号指定値「1 US Dollar = 162.39 Japanese Yen」です。
