道路が通っても、家に帰れるとは限らない。港が使えても、漁業が元どおりになるとは限らない。能登の「復旧」と「復興」を分けて考える必要がある。
国の新しい進捗資料が問う「その先」
2026年10月15日、国土交通省は「令和6年能登半島地震からの復旧・復興状況と今後の見通し(令和8年9月末時点)」を公表した。2024年元日の地震から約2年9カ月。国は6月末時点を基準とした7月の整理に続き、道路、上下水道、港湾、住宅、まちづくりなどの工事の実績見込みと今後の予定を更新した。
今回の発表を「能登の復興が完了した」と読むことはできない。公表文は進捗と見通しを示すもので、完成宣言ではない。工事には応急対応、本復旧、地区全体の再整備という異なる段階がある。数字を比べる際にも対象箇所、時点、「通行可能」と「本復旧完了」など定義が必要だ。本稿では確認できた一次資料に基づき、行政が示す前進と、現地でなお残る生活再建の課題を分けて考える。
海に囲まれた半島が地震で孤立した
能登半島の地形は、豊かな文化と生業を生む一方、災害時の脆弱性にもつながる。日本海に突き出した半島の集落は谷や海岸沿いの道路で結ばれ、迂回路が限られる。2024年1月1日の大地震は道路の崩落、斜面崩壊、家屋の損壊、火災、港湾・上下水道施設の被害をもたらした。救助、医療、燃料、飲料水、物資の輸送にも影響が及んだ。
地震は陸地の形も変えた。沿岸の隆起により、海岸線と漁港施設の関係が一部で変わり、船の出入りや施設の修復には単なる破損箇所の補修以上の検討が必要になった。輪島、珠洲、能登、穴水など、自治体によって地形も産業も被害も違う。「能登」という一語で復興率を示すことは、それぞれの暮らしの差を見失う危険がある。
再び襲った豪雨――複合災害の重み
2024年9月、奥能登は豪雨被害にも見舞われた。復旧途上の道路や河川、斜面、住宅、事業所に新たな損害が加わった。震災だけを対象にした数字と、その後の水害を含む数字を単純に比較することはできない。復興工事が進む場所でも、土砂災害対策や河川の安全性、次の大雨への備えが欠かせない。
被災者にとっては、二つの災害が住宅再建の資金、仕事の再開、地域に戻る判断に重なった。住宅の修理を終えても、通勤・通院路や周辺の安全性が戻らなければ、生活の再開は難しい。複合災害の経験を防災計画に残すことも、能登から全国への重要な教訓になる。
道路が開通することと、地域がつながること
国の進捗管理に道路が大きく取り上げられるのには理由がある。道路は住民の移動だけでなく、建設資材の搬入、医療、物流、観光、漁港へのアクセスを支える。応急的に通れるようにした区間が、本来の安全性と幅員を持つ恒久的な道路になったか、冬場や豪雨時にも安定して通れるか。その違いが地域の将来を左右する。
長期的には既存の道路を再現するだけで十分なのか、避難や緊急物資輸送に備えた代替ルートや維持管理体制をどう構築するかという問いもある。ただし、集落の人口規模や生活実態を無視して、地図の上で効率だけを追えば、住民が必要とする足を失いかねない。道路の復旧はインフラ工事であると同時に、地域政策だ。
仮設住宅から「次の住まい」へ
石川県は10月6日、10月1日現在の応急仮設住宅等の入居状況を公表した。地震と奥能登豪雨のそれぞれについて、利用状況や推移を追える資料を公開している。入居者数の減少だけでは住宅再建の成功を測れない。自宅に戻った人、公営住宅へ移った人、親族宅や他地域へ移った人、やむを得ず住む場所を変えた人は区別すべきだからだ。
県の制度案内によれば、やむを得ない事情で入居期限内の退去が難しい場合、賃貸型応急住宅の供与期間には例外的な延長措置が設けられている。2026年7月には3年から4年への延長手続きも案内された。制度の存在そのものが、元の住まいへの帰還や新居への移転を一律の期限で進められない現実を示す。高齢者、低所得世帯、単身者、自営業者では再建条件が大きく異なる。
輪島のまちをどう再建するか
輪島朝市の周辺は、暮らしと観光の両方を象徴する地区だ。2024年の地震と火災による被害を経て、住民の意向、土地の権利関係、道路・防災機能、商いの再開をどう調整するかが問われてきた。区画整理や再建可能時期が示されても、個々の土地所有者や商店が戻れるかどうかは別の問題である。
まちづくりの速度を優先すると、かつての細い路地や商業文化が消えかねない。一方、同じ街区をそのまま再現すれば防火や避難の課題が残るかもしれない。行政の「創造的復興」が住民の選択を支える言葉となるのか、再編の理由を後から説明する言葉にとどまるのか。合意形成の過程を公開し続けることが重要だ。
漁港の復旧は、船と魚と働き手の復旧
石川県の水産関係の復旧ページには、狼煙、蛸島、高倉、鹿磯、富来、石崎など港ごとの見通しが掲げられている。舳倉島漁港については復旧完了と示しているが、すべての港が同じ状態にあるわけではない。港湾の構造物、岸壁、航路、水深、荷さばき施設は漁業の条件をそれぞれ左右する。
漁業の再生には修復した港だけでは足りない。船、漁具、冷蔵・加工施設、市場への輸送、後継者が必要だ。家を失った働き手が戻るか、復旧費を投じて事業を継ぐかという問題も重なる。港の工事進捗と水揚げ・雇用の回復を別々に追うことが、能登の実態を知る近道になる。
和倉温泉と、地域に利益が残る観光
観光庁は10月14日、観光再生支援事業の二次公募で「和倉温泉創造的復興まちづくり推進協議会」の取り組みを採択した。計画名には、和倉温泉の復興プランの高度化と観光地域循環型事業の実証が掲げられている。これは採択の知らせであって、宿泊施設の復旧や経済効果の達成を証明するものではない。
北陸地方整備局は、和倉港や七尾港の復旧工事を海から見る見学企画も10月15日に発表した。工事を見える形で説明する試みは有意義だが、復興観光が被災地への一時的な関心で終わらないためには、宿泊、食事、土産品、交通など地元の仕事にどう収入が戻るかを見る必要がある。
「創造的復興」の歴史と難しさ
石川県は「石川県創造的復興プラン」を策定し、2025年4月には事業の進捗を踏まえてタイムラインなどを更新した。被災前に戻すだけでなく、人口減少を見据えた地域の将来をつくるという発想だ。能登の里山里海、輪島塗、祭礼、農林水産業、町並みは、経済活動であると同時に、人々の記憶と共同体の基盤である。
ただし「より良い復興」という目標は、住民ごとの希望が異なるときに難しくなる。元の集落で暮らし続けたい人、医療の近い場所に移りたい人、移転先で仕事を始めた人。どの選択をした人も尊重しなければならない。帰還者の数だけを成果とするなら、地域外で生活を立て直した人の再出発を見落とす。
復興の実績をどう測るか
今後、同じ指標を継続して確認したい。道路の通行確保と本復旧完了の区別、住宅の再建と居住継続、上下水道の恒久運用、漁港の機能と実際の水揚げ、宿泊施設の再開と雇用、地区の人口・学校・医療へのアクセス。いずれも一つの数字では代替できない。
国交省の10月15日発表には詳細な本体資料が添付されているが、本稿執筆時点でその全表を直接検証できていないため、工事の完了率や再建戸数について未確認の具体値は掲載していない。読者に必要なのは、もっともらしい数字ではなく、定義と出典の確かな数字である。
復興の終点を決めるのは、完成した道路や港だけではない。人々が安全に暮らし、働き、次の世代へ地域を手渡せるかどうかだ。
秋の能登で続く工事には確かな意味がある。ただ、工事現場の先に見える一軒の家、一軒の店、一隻の船の営みが戻るまで、報道は「進んだ」という言葉だけで終わるわけにはいかない。
出典・参考資料
- 国土交通省「令和6年能登半島地震からの復旧・復興状況と今後の見通し(令和8年9月末時点)」2026年10月15日
- 国土交通省・10月15日公表資料(2ページPDF)
- 国土交通省・本体資料(2026年9月末時点、PDF)
- 石川県・応急仮設住宅等の入居状況(2026年10月1日現在)
- 石川県・石川県創造的復興プラン
- 石川県・水産関係被害と漁港の復旧・復興
- 観光庁・能登半島地震からの復興に向けた観光再生支援事業、2026年10月14日採択結果
- 国土交通省北陸地方整備局・能登港湾空港復興推進室
- 石川県・能登半島地震アーカイブ「復興へのあゆみ」
- 石川県・賃貸型応急住宅の供与と期間延長
- 国土交通省・2026年6月末時点の復旧・復興状況
- 国土交通省・災害・防災情報:令和6年能登半島地震
