硬いガラスと、柔らかく伸びる高分子。それぞれの長所を一つの製品に生かそうとすると、つなぎ目が難所になる。物質・材料研究機構(NIMS)は9月10日、細かな孔を持つ層を間に挟み、異なる材料を強く接合する技術を発表した。ガラスと柔らかな高分子を使った実験では、接合強度が7メガパスカル(MPa)を超えたという。[1]

特徴は、接着層の両側に違う仕事をさせる点にある。片側は素材との化学的な親和性で接着し、もう片側は孔に材料を入り込ませて物理的にかみ合わせる。接着剤の成分だけで両方の素材になじませようとする難しさを、層の形を設計することで和らげる考え方だ。[1]

「塗って乾かす」でできるのは接合の足場

研究を行ったのは、NIMS高分子・バイオ材料研究センターの荒井俊人(あらい・しゅんと)独立研究者。NIMSが多孔質アンカー層と呼ぶ構造は、英語でPrintable Porous Anchor、略してPPAという。溶液を塗布して乾燥させる過程を利用し、ナノメートルからマイクロメートルの大きさの孔がある網目を作る。[1][4]

この工程だけで、二つの完成部品が自動的に接合されるわけではない。NIMSの詳細資料によると、まず多孔膜を形成し、続いて接合相手の材料を溶液塗布や熱圧着によって孔の中へ入り込ませる。乾燥は足場を作る工程であり、そこに相手の材料を入れて複合化する工程が続く。[2]

今回の実証では、ガラスとなじみやすい極性高分子を足場に選び、相手にはスチレン・ブタジエン系の熱可塑性エラストマーを使った。エラストマーはゴムのように柔らかく変形する材料で、熱可塑性とは加熱によって軟らかくなる性質をいう。ガラスや足場の極性高分子とは相性がよくない組み合わせを、孔への入り込みで補った。[2]

この区別は実用化を考える際にも大切だ。足場を作りやすいことに加えて、相手の材料を十分に流し込めるか、そのときの溶媒や温度に部品が耐えられるかが工程を左右する。設計の自由度を広げるには、塗膜の形成と複合化を一続きの製造として評価する必要がある。

乾燥の途中で、網目が生まれる

多孔膜を生む現象は「粘弾性相分離」である。粘弾性は、流れる性質と弾性的に変形する性質が、観察する時間の長さなどに応じて現れることを指す。混合物が分かれるとき、成分の動きやすさに大きな差があると、動きの遅い高分子側が網目状になることがある。東京大学の2023年の研究発表も、この構造形成を高分子鎖の運動と力学的な応答から説明している。[5]

NIMSは揮発しやすさの異なる溶媒を組み合わせた。先に蒸発する成分と、比較的ゆっくり蒸発する成分を使い分け、相分離でできる網目がいつ固定されるかを調整する。乾燥を単に液体を取り去る作業とせず、孔の大きさを決める手段として利用した。[2]

詳細資料は、溶媒の種類や組成を変えて孔径を調整し、6インチ規模、直径約15センチメートルの製膜も可能だったとする。原子間力顕微鏡で塗膜を調べた図も示した。広い面に塗れることは製造への手掛かりになるが、同じ面積の接合体がすべて同じ強さを持つことまで示す数字ではない。[2]

7 MPaは何を表すのか

実証されたことを数字で読む
項目結果試験・実証の範囲
接合強度7 MPa超ガラスと熱可塑性エラストマーの複合体を垂直に引っ張る試験。
比較結果約2倍多孔層なし、または平坦な塗膜との比較。
製膜の広さ6インチ規模直径約15 cmの多孔膜。完成した接合体の量産実績とは別。

出典:NIMS詳細資料。数値は同機構の報告による。[2]

接合部を面に垂直な方向へ引っ張った試験で、7 MPaを超える強度が得られた。NIMSによれば、多孔層を含まない場合や平坦な塗膜を作った場合のおよそ2倍だった。ここでの比較対象は実験中の試料であり、市販のあらゆる接着剤より2倍強いという意味ではない。[2]

MPaは面積当たりの力を表す単位だ。7 MPaは1平方ミリメートル当たり7ニュートンに相当する。ただし、試験片の面積を大きくした分だけ、実物の部品が支えられる荷重も単純に増えるとは限らない。端部の形や欠陥、力のかかり方によって、負担が偏る可能性があるからだ。

垂直に引く試験、面に沿ってずらすせん断試験、端からめくる剥離試験では、接合部に生じる変形が異なる。今回の値は、どのような方向の力にも同じ耐性を保証する数字ではない。製品の中で想定する荷重に合わせ、試験方法を選ぶ必要がある。

孔は弱点にも、力を受け止める構造にもなる

孔を増やせば材料が減る。それなのに接合は強くなるのか。答えの鍵は、孔の数だけでなく、二つの材料がどのように入り組み、破壊がどこを進むかにある。NIMSのシミュレーションでは、平坦な界面と、互いに入り込んだ構造で破断の進み方が変わった。[2]

平坦な界面では境目に沿って破断しやすいのに対し、PPA型では材料の一部を断ち切りながら亀裂が進むという。NIMSは、細かな孔に柔軟で破壊に耐える材料を十分に入れることが重要だと説明する。これは接合部の構造と力学を結び付ける説明であり、単に接触面積が増えたという話にとどまらない。[2]

実験では、孔による光の散乱で白く濁っていた膜が、相手の高分子を入れると透明に見える変化も示された。ただし、NIMSは屈折率が近い場合と条件を付けている。見た目の変化は複合化を理解する手掛かりになるが、透明な表示部品としての光学品質や、孔がすべて埋まったことを保証する検査とは分けて考えるべきだ。[2]

接着研究は「剥がれ方」へ踏み込んできた

異なる材料をつなぐ技術には、ねじやリベット、溶接、接着など多くの選択肢がある。接着は面で荷重を受けられる一方、境目のごく小さな変形や欠陥が破壊を左右する。産業技術総合研究所は2021年、アルミニウム合金とエポキシ系接着剤が剥がれる過程を、透過型電子顕微鏡で直接観察したと発表した。[6]

その研究では、破壊が進む前に接着剤に小さな変形やき裂、空洞が現れ、互いにつながる様子が捉えられた。剥がれた後の表面だけから推測する方法を超え、接合部が壊れる途中を見る試みだった。今回のNIMS研究とは別の材料系だが、接着を評価する視点が、強度の数値から破壊の仕組みへ深まってきた経緯を示す。[6]

網目を作る相分離の研究にも蓄積がある。東京大学の2023年発表は、2000年の粘弾性相分離の総説や2021年のネットワーク成長の研究を参照し、高分子鎖の動きが遅いと構造の成長が妨げられることを説明した。PPAは、こうした流体や高分子の基礎科学を、接合層の形を制御する工程へ結び付ける研究と位置付けられる。[5]

軽く、曲がる製品への可能性

NIMSは将来の応用先として、輸送機器、ウェアラブルデバイス、ソフトロボットなどを挙げる。硬い部品と柔らかい部品を組み合わせるとき、接合方法の選択肢が増えれば、製品に使える材料の幅も広がりうる。ただし、今回確認されたガラスとエラストマーの接合から、それぞれの製品での耐久性や安全性が実証されたとまではいえない。[1]

同機構は現在、導電性を持たせた層や、高耐熱性の高分子を使う層の開発を進めているとする。電子機器では、接合が強いだけでなく、熱や電気をどう通すかも問題になる。これらは今後の開発方向であり、今回のPPAがすでにすべての機能を備えるという説明ではない。[1]

Japan.co.jpの分析では、実用化の評価は初期の強度、使い続けた後の強度、製造の再現性を分けて進める必要がある。繰り返しの曲げ、温度変化、湿気のもとで接合が保たれるか。塗膜の厚さや乾燥条件が変わっても同じ孔を作れるか。研究の良い結果を製品の品質に移すには、この間を埋めるデータが重要になる。

加工工程を簡素にできる可能性も、製造全体で評価したい。基材を削る処理を減らせても、溶媒の回収、乾燥、熱圧着に必要な資源は残る。環境負荷の低減を判断するには、代替する方法と同じ機能を実現する条件で比べる必要がある。

成果の論文は荒井氏の単著で、題名は「Topological Structuring of Adhesive Layers to Enhance Resistance Against Interfacial Fracture」。NIMSはSmallオンライン版の掲載日を9月10日とし、著者の業績一覧も同誌への掲載を記載している。[1][3][7]

PPAが示すのは、材料の組み合わせに合わせて接着剤を選ぶことに加え、間に置く層の形そのものを設計する道である。使いたい材料が接合の難しさで選べない。その制約を一つずつ減らせるかどうかが、塗って作る小さな孔の、ものづくりにおける価値を決める。

出典・参考資料

  1. NIMS、多孔質アンカーの研究発表、2026年9月10日。
  2. NIMS、同発表の詳細資料、図1〜4・用語解説。
  3. Shunto Arai、Small掲載論文、DOI。書誌情報はNIMS発表と著者業績一覧で確認。
  4. NIMS研究者総覧SAMURAI、荒井俊人の所属・研究紹介。
  5. 東京大学先端科学技術研究センター、高分子溶液系の相分離の謎を解明、2023年9月8日。
  6. 産業技術総合研究所、接着剤の剥離過程を電子顕微鏡で観察、2021年11月4日。
  7. 荒井俊人、著者の研究成果一覧。Small論文と公開プレプリントの書誌情報。

資料確認の基準日:2026年9月13日。実験結果の説明はNIMSの詳細発表資料に基づく。将来の効果は実証結果と区別し、解釈は特記のない限りJapan.co.jpによる。