【取材方法】環境省・農林水産省・国土交通省の10月30日発表と、Honda、京都市、横須賀市の一次資料を照合した机上取材。現地調査や独自の生物個体数調査、関係者への直接取材は行っていない。
122今回認定されたサイト
700認定サイトの累計
12.7万 ha累計認定面積の概数
571 haHonda鷹栖の認定面積
国内認定700か所と国際OECM登録は同義ではない。維持タイプは保護地域との重複を除いて登録予定。回復・創出タイプには、生物多様性の価値基準を満たす段階が必要。

試験場の森が示した「自然保護」の新しい地図

自動車の試験場を、生物多様性を守る場所として数える。10月30日に公表された「自然共生サイト」の認定結果は、自然保護の担い手をめぐる固定観念に揺さぶりをかけた。環境省、農林水産省、国土交通省が公表した令和8年度第2回認定は122か所。累計700か所、面積約12万7000ヘクタールとなった。その一つが北海道鷹栖町のHondaの試験場に広がる571ヘクタールの森だ。国立公園を増やすだけでは守れない自然を、企業、自治体、地域の人々がどのように維持していくのか。認定数が伸びた今こそ、数字の内側にある管理の実態を見たい。

122か所の内訳に、制度の思想がある

今回、事業者などが作成する「増進活動実施計画」は116か所。内訳は維持タイプ106か所、回復タイプ7か所、創出タイプ3か所だった。市町村が中心となって関係者を束ねる「連携増進活動実施計画」は6か所で、いずれも維持タイプである。「維持」は既に豊かな自然を保つ活動、「回復」は荒廃・放棄された場所などの状態を取り戻す活動、「創出」は開発跡地などに新しい生態系の価値を生み出す活動を指す。三つを単純に合算して「122か所で自然が回復した」と書くのは正しくない。従来制度から法制度への移行が含まれる点にも留意したい。認定は、活動計画と実施区域に与えられるもので、長期的な成果を自動的に保証するものではない。

鷹栖の571ヘクタール、試験車の外側にあるもの

Hondaの研究開発子会社、本田技術研究所が1996年に開設した「鷹栖プルービンググラウンド」。敷地は789ヘクタールに及ぶ。そのうち試験コースなどを除く約7割、571ヘクタールが「HondaWoods 鷹栖 大成の森」として認定された。試験施設ならではの立入制限、周囲の約3メートルのフェンス、自然度の高いハルニレ・ヤチダモ群落の保護区設定、巡視、外来種対策、生態系のモニタリング。Hondaが公表した保全策は具体的だ。クマタカやクマゲラなど希少種にも言及している。ただし、立ち入りが少ないことだけで生態系への好影響が証明されるわけではない。開発行為との両立が長く続くか、種や生息環境の推移で確かめる必要がある。

京都・八丁平、四十年以上の仕事があってこそ

京都市は市内6か所の認定を発表した。新規4か所、旧制度からの移行2か所である。左京区久多の八丁平湿原は新規認定の一つ。約221.76ヘクタールの区域は京都丹波高原国定公園の中にあり、京都府内で極めて希少なヤチスギランなど湿地の生物が生きる。市によれば、調査は昭和54年度から続く。木道の設置、保護巡視、シカ侵入を抑える柵。国の新しい認定を支えているのは、長い現場の積み重ねだ。すでに国定公園に含まれるという事実は重要である。今回の認定面積すべてが「保護地域の外に新たに確保された自然」となるわけではない。地元の知見をいかに継続するかが問われている。

送り火の山と市民の森

京都のもう一つの新規認定地は、宝が池公園と五山送り火の「法」の山を含む約72.98ヘクタールである。尾根と谷に応じてアカマツ林、コナラ・アベマキ林などが分布し、池には冬にオシドリなどの水鳥が訪れる。かつて薪炭を得ていた里山であり、送り火の文化とも結びつく。人間の暮らしと距離を置いた「手つかずの自然」だけが保全の対象ではないことを物語る。同じ京都市の新規認定には、日本新薬の山科植物資料館の樹木園、川島織物セルコンの「川島染織の里」も名を連ねた。企業の敷地と公共の森と文化の場が、異なる理由で同じ制度に並んでいる。

横須賀・鷹取山を支えた観察会

神奈川県横須賀市は11月2日、鷹取山公園及び都市林が10月30日付で認定されたと発表した。市の説明によれば、実際の活動を担う「鷹取山自然観察会」は2017年度から保全に取り組んでいる。市有地の認定は野比かがみ田緑地、芦名堰、長坂緑地に続く4か所目となる。行政の発表の背後には、現場を見続ける人がいる。季節ごとの草木の変化や侵入種への対応、道具の管理、次の担い手への知識の引き継ぎ。認定文書はそうした活動を社会に見える形にする一方、将来の人手や資金まで約束するものではない。横須賀市の発表には、認定によって種数が何%増えたといった独立検証結果は示されていない。

里山は「放っておけば守れる」とは限らない

日本の自然保護の歴史を国立公園だけでたどれば、里山やため池、薪炭林の意味を見落とす。人が草を刈り、水を引き、木を伐って更新させた土地には、その攪乱とともに成立した生きものの居場所がある。利用が途絶えれば森林化が進み、草地を好む種の環境が失われることもある。一方で、貴重な森では人の立ち入りや手入れを抑えることが適切な場合もある。今回の制度が「維持」「回復」「創出」を分けるのは、何でも植林すればよいわけではないからだ。自然に必要な手のかけ方は、その場所の歴史と生態系によって変わる。

国際目標から国内法へ、3年間の歩み

2022年12月、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択された。その柱の一つが、2030年までに陸と海のそれぞれ少なくとも30%を効果的に保全する30by30目標だ。日本は2023年3月、「生物多様性国家戦略2023-2030」を策定。同年度から自然共生サイトの認定を始め、2025年4月には「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律」(地域生物多様性増進法)が施行された。認定の事務は独立行政法人環境再生保全機構が担う。大切なのは、国際目標への賛同を看板にすることではなく、現場の活動計画を持続させる責任を明確にすることだ。

「700か所」とOECMは同じ数字ではない

保護地域以外で生物多様性の保全に貢献する区域を、国際的にはOECMと呼ぶ。しかし自然共生サイトの認定と、国際データベースへのOECM登録は別の段階である。環境省によると、維持タイプは既存の保護地域との重複部分を除いて登録を進める。回復・創出タイプは、活動の結果として生物多様性が所定の基準を満たした時点で登録対象となる。8月3日に同省が公表した国際登録の累計面積は6万4600ヘクタール。その後10月の認定発表では、国内の自然共生サイト累計面積が約12万7000ヘクタールとされた。基準日も制度上の意味も異なるため、両者を「新しく守られた土地」として足し合わせてはいけない。

認定後の費用は誰が負担するのか

自然保護は、認定証を受け取った日からむしろ長い時間が始まる。湿原の木道、シカ柵の補修、水質調査、外来種への対応。都市林では観察会の人材確保や道具の更新が必要になる。企業が保全を経営上の目標とするなら、景気が変わり施設の使い道が変わった際にも約束を守れるかが問われる。自然関連財務情報開示の枠組みなどを通じ、活動を投資家や消費者に説明する企業もある。しかし認定を受けたからといって他地域の環境破壊が帳消しになるわけではない。基準となる生物調査、管理費、情報公開、悪化した場合の対応策まで確かめたい。

数ではなく、生きものの変化を追う

700という節目は、自然を管理する主体が広がったことを示す。ただ、その数字だけでは、希少な動植物が増えたか、水辺が改善したか、外来種が減ったかは分からない。開始時点の調査と、同じ方法で繰り返す観測が必要だ。天候や周辺の開発によって結果が左右されることもあるため、単年度の増減を安易に成功・失敗と決めつけるべきでもない。増進活動の計画、調査データ、維持管理の予算が公開されれば、地域住民や研究者は実績を確かめやすくなる。認定の「数」を競う段階から、保全の「質」を見せる段階へ。制度が長く信頼されるには、この転換が欠かせない。

企業の森、湿原、市民の山を一本の政策で結ぶ

北海道の試験場、京都の湿原と送り火の山、横須賀の公園。性格も所有者も異なる土地が、地域生物多様性増進法の下でつながり始めた。国立公園の外にも価値ある自然があり、既存の保護地域の中にも地道な管理が必要な場所がある。そこに共通するのは、守る対象と、守り続ける人の存在だ。認定から5年後、10年後、どの生きものが残り、どのような地域の営みが続いているのか。10月30日の発表を、単なる「122か所追加」のニュースで終わらせたくない。次に見たいのは、認定が増えた数字ではなく、自然の状態を語る根拠である。

出典・取材方法

下記の一次資料に基づく。認定による生態系改善の規模・長期的な成果については、独立に検証されていない。

  1. 環境省:令和8年度第2回認定(10月30日)
  2. 農林水産省:自然共生サイト認定の発表
  3. 国土交通省:認定数と面積
  4. Honda:鷹栖プルービンググラウンドの認定
  5. 京都市:市域6か所の認定とサイト概要
  6. 横須賀市:鷹取山公園・都市林の自然共生サイト認定
  7. 環境省:2026年8月のOECM国際登録状況
  8. 環境省:自然共生サイト制度・30by30
  9. 環境再生保全機構:認定制度と移行手続き