施工が終わっても、部屋はほとんど変わらない。白い壁は白いまま。木目も、壁紙の細かな凹凸も、住み慣れた光の返り方も残る。機械の箱は置かれず、ファンの音もしない。変わったとされるのは、目に見えない最表面だ。

横浜市中区のハードプロテクト株式会社が開発した「サトヤマコート」は、既存の壁紙や天井へ薄く塗る水系コーティングである。会社は「空気をキレイにする、見えない壁紙」と呼ぶが、ロール状の壁紙ではない。色や柄を新しくする装飾材でもない。いたどり、よもぎ、柿の葉、茶の木に由来するポリフェノール成分を広い内装面へ定着させ、空気中のホルムアルデヒドなどのVOC、臭気成分、表面に接触する微生物を受動的に減らす、という発想だ。

2026年7月24日午前7時、同社はこの配合に関する特許取得を発表した。発明の名称は「壁紙用水系塗料組成物」、特許第7882545号。6月22日に登録され、特許権者はハードプロテクト、発明者は代表取締役の伊藤雄一郎である。同社は原料の99%以上が天然由来で、電源や光を必要とせず、約10年間の機能を想定すると説明する。

魅力は、建築の巨大な「未使用面積」を働かせるところにある。一般住宅の床面積より、壁と天井を合わせた面積の方がはるかに大きい。その面全体が、ごく低い速度でも空気中の分子と接触し続けるなら、コンセントにつながれた装置とは違う種類の環境技術になり得る。しかし、壁が空気清浄機になるという比喩は便利であるほど、検証を必要とする。ファンを持たない面へ汚染物質はどう届くのか。吸着した分子はどこへ行くのか。効果はいつ飽和するのか。試験片の成績は、家具と人と開閉する窓のある部屋へどこまで移せるのか。

99%以上会社が公表する天然由来成分の割合
特許第7882545号「壁紙用水系塗料組成物」として2026年6月22日登録
4種類いたどり、よもぎ、柿の葉、茶の木由来の植物成分
6時間 95%超促進耐候前に会社が公表するホルムアルデヒド低減値
24時間 97%超同じく公表された試験片の低減値
約28万円延床100㎡住宅の壁・天井施工の税別目安

植物が機能を、紙が骨格を担う

サトヤマコートの構成は、機能成分と、それを壁へ残す足場に分けて考えると分かりやすい。前者は植物抽出物である。ポリフェノールは、多数のフェノール性水酸基を持つ幅広い化合物群の総称で、植物に色、渋み、防御機能を与える。茶のカテキンや柿のタンニンが身近な例だ。タンニン類がホルムアルデヒドと反応し得ることは木質接着剤研究でも知られ、植物由来成分を化学物質の捕捉へ使う考え自体には科学的な系譜がある。

ただし、「ポリフェノールだから分解する」と一言で終えることはできない。抽出方法、発酵、成分濃度、pH、水分、壁面への固定状態、対象VOCによって反応性は変わる。物理的に表面へ引き寄せる吸着と、別の安定な物質へ変える化学反応は同じではない。前者だけなら吸着点はいずれ埋まり、温度や湿度によって再放散する可能性がある。後者なら容量と反応生成物を測る必要がある。同社は「吸着・分解」と表現するが、一般公開資料だけでは、各対象物質の質量収支、生成物、飽和容量、再放散を独立に追えるほどの詳細はまだ示されていない。

そこで重要になるのが、足場である。大王製紙のセルロースナノファイバー(CNF)水分散液「ELLEX-S」が添加されている。CNFは木材パルプなどのセルロース繊維を幅数十ナノメートル程度まで細く解きほぐした素材だ。ELLEX-Sは静置時には粘りがあり、塗るときのせん断力で流れやすくなるチキソトロピー性を持つ。大王製紙によれば、この増粘性が、化粧板や塗装面のような滑らかな場所にも植物成分を定着させる助けとなった。

CNFが「空気を清浄にする主役」と単純化するのも正しくない。今回の組成では、植物成分を薄く均一に保持し、塗布性と膜形成を支える役割が中心と説明されている。だが、紙産業が作ったナノ素材と、里山の植物という組み合わせには、日本の材料産業らしい転換がある。かつて新聞や段ボールを支えたパルプ工場が、目に見えない繊維を塗料、化粧品、樹脂、コンクリートへ送り出し始めた。その一つが壁の上で、別の植物成分を支えている。

この製品の新しさは、植物を壁へ塗ることだけではない。機能を担う抽出物と、それを見えない薄膜として定着させるナノセルロースを、一つの水系組成物へまとめた点にある。

特許が証明したこと、証明していないこと

特許は重要である。日本の特許審査では、技術的思想であること、産業上利用できること、先行技術に対して新規性があること、当業者が容易に思いつかない進歩性があること、記載が要件を満たすことなどが検討される。第7882545号の登録は、請求された「壁紙用水系塗料組成物」が、その法的・技術的な門を通ったことを意味する。模倣を防ぎ、配合技術を事業化するうえで大きな節目だ。

一方、特許は医薬品の承認でも、建物全体の空気品質認証でもない。すべての住宅でVOCが一定割合減ること、健康症状が改善すること、10年後も新築時と同じ性能を持つことを特許庁が保証したわけではない。「国が効果を認定した」と読み替えると、制度の意味を越えてしまう。

この区別は、製品を弱く見せるためではない。むしろ、何が独自技術で、何が性能試験で、何が健康影響の証拠かを分けなければ、よい材料も誇張の中で信頼を失う。特許明細書、第三者試験報告、実住宅での長期測定、住民の健康研究は、それぞれ異なる問いへ答える文書である。

公表試験を、数字の外側まで読む

同社のエビデンスページには、複数の第三者機関による試験と自社・施工先の観察が掲載されている。加速耐候処理の前後で、黄色ブドウ球菌と大腸菌を99.9%以上抑制し、A型インフルエンザウイルスを99.9%以上減少させたという。ホルムアルデヒドでは、処理前の試験片が6時間で95%超、24時間で97%超、耐候処理後もそれぞれ93%超、96%超の低減とされる。カケンテストセンター、日本塗料検査協会、神奈川県立産業技術総合研究所などの名称が示され、試験報告書の画像も掲載されている。

数字は無視できない。しかし、何の99%かを確認する必要がある。JIS Z 2801の抗菌試験は、加工面へ菌液を直接接触させ、覆い、一定の温湿度で24時間培養して、未加工面と生菌数を比べる表面試験である。ISO 21702の抗ウイルス試験も、プラスチックなど非多孔質表面の抗ウイルス活性を接触条件で測る。壁へ触れた微生物に対する活性の根拠にはなるが、人が呼吸する空気中の感染性粒子が99.9%減ることを示す試験ではない。

ホルムアルデヒド試験には別の注意がある。同社ページは「JIS A 1901」と記す。A 1901は一般に、建材から放散するVOCやホルムアルデヒドを小形チャンバーで測るための方法である。吸着建材へ一定濃度のホルムアルデヒドを供給し、濃度低減性能や相当換気量を評価する規格はJIS A 1905系である。公開ページの要約だけでは、チャンバー容積、試料面積、初期濃度、換気回数、ブランク、分析法、反復数、検出限界、対象が放散か除去かを完全には再構成できない。したがって95%、97%は、現時点では「会社が公開する特定条件下の試験片成績」と読むのが正確で、30坪の家全体が同率で浄化されるとの意味ではない。

公表された根拠示せることそれだけでは示せないこと
ホルムアルデヒドの小形チャンバー試験管理された条件で、試験片が気中濃度へ影響したこと家具、換気、湿度、継続発生源がある各住宅で同じ低減率になること
JIS Z 2801 抗菌試験塗布面と直接接触した指定細菌に対する24時間後の表面活性すべての菌、空中浮遊菌、感染リスクが99.9%減ること
ISO 21702 抗ウイルス試験指定ウイルスを表面へ接種した条件での活性室内空気を介する感染予防効果や臨床的な保護
キセノンランプ促進耐候試験強い光負荷後も試験片の測定性能が大きく落ちなかったこと汚れ、洗浄、摩耗、結露、補修を含む実生活10年間の保証
ルミテスターの施工前後測定表面上のATPなど生物由来汚れの総量を追う現場指標特定の病原菌数、空気中微生物、健康影響の確定
特許登録請求された配合が特許要件を満たしたこと第三者による全用途の性能認証、医学的有効性

「10年」は壁が過ごす十年と同じか

会社は、キセノンランプ式の促進耐候試験で厳しい光負荷を与え、10年相当と判断した後も抗菌、抗ウイルス、ホルムアルデヒド低減性能がほぼ維持されたことを、約10年持続の根拠に挙げる。促進試験は、製品開発に不可欠な道具だ。長い年月を待たず、紫外線や熱による劣化を比較できる。

だが、住宅の十年は光だけでできていない。料理油、たばこ煙、線香、化粧品、清掃剤、手あか、ほこり、結露、カビ、子どもの落書き、家具の擦れ、壁紙の糊の変化、夏冬の湿度差が重なる。同社自身、表面がほこりで覆われると接触面積が減り、効果が落ちるとして、ほこり除去を勧めている。施工原因で壁紙に傷みが出た場合の修復は施工後1年以内としており、性能そのものの10年保証制度ではない。

長期評価で本当に知りたいのは、光に耐えるかだけでなく、汚染物質をどれほどの総量まで処理できるかという「破過容量」だ。ホルムアルデヒドを毎日発生する家具があるなら、壁面への負荷は続く。化学反応で固定されるなら反応点は消費され得る。触媒的に分解して再び働くなら、反応生成物と速度を確認したい。物理吸着なら温湿度変化による脱離を調べたい。JIS A 1905-1にも長期低減性能をみる破過試験の考え方が含まれるのは、そのためである。

日本の壁は、昔から「働いて」いた

見えない機能を壁へ持たせる考えは、新しくもあり、古くもある。日本の伝統的な土塗壁は、竹や木の下地へ、土、砂、藁などを層にして塗る。左官は土地ごとの土と気候を読み、荒壁から中塗り、仕上げへ、乾燥を待ちながら壁を育てた。厚い土壁は熱と湿気を受け止め、火に対する抵抗を持ち、木の軸組と組み合わさって家を形づくった。

漆喰は消石灰を中心に、植物繊維や海藻由来の糊などを配合する白い仕上げで、城郭、寺社、土蔵、町家を守った。高いアルカリ性や不燃性、白い反射、調湿といった性質は、装飾と性能が分かれていなかった時代の壁を象徴する。江戸の蔵が厚い土と漆喰をまとったのは、見た目のためだけではなく、火災の多い都市で中身を守るためだった。

ただし、伝統材料を現代の「空気清浄」と同一視するのも慎重でなければならない。土壁が水蒸気を吸放出することと、特定VOCを化学的に低減することは別の性能である。漆喰のアルカリ性が表面微生物へ不利に働くことと、部屋全体の感染を防ぐことも別だ。それでも、壁を単なる境界ではなく、熱、湿気、火、光、音へ応答する厚い環境装置として使ってきた歴史は、サトヤマコートを理解する遠い背景になる。

20世紀後半、住宅は石膏ボード、合板、ビニールクロス、合成接着剤、量産塗料によって速く、均一に、気密性高く作られるようになった。施工性、耐久性、断熱、価格には大きな利点があった一方、新しい材料から出る化学物質と、換気の少ない室内が結び付いた。壁は薄く滑らかになり、家は外気から切り離され、そこで「シックハウス」という近代の問題が姿を現した。

シックハウスが変えた2003年の家

1990年代、日本では新築・改修後に、目や喉の刺激、頭痛、めまい、倦怠感などを訴える人が社会的に注目された。原因は一つではなく、ホルムアルデヒドなどのVOC、換気不足、湿気、カビ、個人差が絡む。だが、合板や接着剤、家具から放散するホルムアルデヒドは代表的な標的となった。

2002年に建築基準法が改正され、2003年7月1日にシックハウス対策が施行された。クロルピリホスを含む建材の使用は禁止され、ホルムアルデヒドを放散する内装材は等級と換気条件に応じて使用面積が制限された。家具からも放散するため、原則としてすべての建築物へ機械換気設備が求められた。F☆☆☆☆は放散速度が最も低い区分として面積制限なく使えるが、「ホルムアルデヒドを吸う」という意味ではない。自らの放散が少ないことを示す等級だ。

厚生労働省はホルムアルデヒドの室内濃度指針値を100マイクログラム毎立方メートル、0.08ppm相当とした。規制と24時間換気は新築住宅の空気を大きく変えたが、問題を消し去ったわけではない。家具や持ち込み品、清掃用品、芳香剤、喫煙、燃焼、湿気によって室内汚染は生まれる。温度と湿度が上がる夏には、木質建材からのホルムアルデヒド放散が増えることも長期研究で確認されている。

サトヤマコートは、この歴史の次の段階に位置する。低放散の材料を選び、換気で薄めるという二本柱へ、「内装表面そのものが気体を捕まえる」という第三の層を加えようとする。ただし、第三の層が前二つを不要にするわけではない。

光触媒が開いた道、その弱点を避ける

機能性壁面のもう一つの系譜は、光触媒である。1960年代、東京大学の藤嶋昭と本多健一は、二酸化チタン電極へ光を当てると水を分解できることを見いだし、1972年にNatureで報告した。のちに二酸化チタン表面で有機物を酸化し、水滴を広げ、汚れを落ちやすくする研究が進み、1990年代以降、セルフクリーニング外装、抗菌タイル、脱臭材、空気浄化建材へ広がった。

光触媒の強みは、汚染物質を表面へためるだけでなく、光のエネルギーで酸化分解できる可能性にある。弱点は名前の通り、十分な光と接触が要ることだ。ISO 22197-4のホルムアルデヒド除去試験も、長波長紫外線を照射した条件で光触媒材料を評価する。室内の暗い天井や家具の裏では、照度が足りないことがある。可視光応答型でも、光量、湿度、空気の流れ、触媒表面の汚れで性能は変わる。

ハードプロテクトは、サトヤマコートが光を必要とせず昼夜働く点を差別化する。植物成分の化学的な捕捉を使うなら、暗所でも作用するという筋道は立つ。だが、光触媒の「触媒」と植物吸着材の「容量」は同じではない。光を要しない代わりに、反応点がどのように再生し、または消費されるかを示すことが、この技術の長期信頼性を左右する。

壁、活性炭、HEPA、換気──競争ではなく役割分担

室内空気の対策は、汚染物質の種類によって変わる。米国環境保護庁は基本を、発生源対策、換気、空気清浄・ろ過の三つに整理する。最も有効なのは、可能なら発生源を取り除くことだ。強く放散する家具を撤去・封止し、燃焼排気を外へ出し、漏水とカビを止める。その上で外気を入れて薄め、必要な汚染物質へ合うフィルターや吸着材を使う。

HEPAフィルターは花粉、煙、微粒子など粒子状物質を捕集するが、ホルムアルデヒドのようなガスは通常の粒子フィルターを通り抜ける。ガスには十分な量の活性炭や化学吸着材が必要で、それも飽和すれば交換する。壁コーティングは大面積と静音性に利点があるが、ファンで空気を強制的に通さない。空気が対流や拡散で壁へ届く速度が上限になる。PM2.5を高流量で捕る装置でもない。

方法得意な対象主な限界
発生源の除去・低放散材VOC、煙、湿気、カビなど原因そのもの家具や建物の一部を交換できない場合がある
機械換気多くのガス、臭気、二酸化炭素、湿気の希釈屋外汚染、暑さ寒さ、エネルギー、騒音との調整が必要
HEPA空気清浄機微粒子、煙、花粉、浮遊する一部の生物粒子ガス状VOCには専用媒体が必要。電力・交換フィルターを使う
活性炭・化学吸着フィルター設計対象となるガス、臭気媒体量と接触時間が必要で、飽和後は交換
光触媒面光と接触が確保された条件の一部VOC、表面汚れ照度、湿度、反応副生成物、表面汚染に左右される
サトヤマコート型の受動面壁に接触する一部VOC、臭気、表面微生物空気輸送速度、容量、汚れ、実室での長期データが課題

「天然99%」を、安心の終点にしない

天然由来比率の高さは、石油系樹脂や有機溶剤を減らしたい市場にとって意味がある。水系で、塗り替えず既存の壁紙を活用できるなら、廃材と工期も抑えられる可能性がある。一般的な延床100平方メートルの住宅で壁・天井へ塗布する価格目安は税別約28万円、施工は乾燥を含め約6時間と同社は案内する。下地を残す改修は、色柄を変えたくないホテル、医療・介護施設、オフィス、賃貸住宅に魅力的だろう。

しかし、天然は「無条件に安全」と同義ではない。植物抽出物にはアレルギーや感作の可能性があり、原料ロット、残留農薬、微生物管理、防腐、保存安定性を考える必要がある。成分の1%未満が何か、施工時のエアロゾルや皮膚接触、乾燥後の摩耗粉、火災時、廃棄時はどうか。安全データシート、全VOC放散、臭気、皮膚刺激、感作性、難燃・不燃の区分、既存壁紙や糊との相性を確認して初めて、材料としての安全像が立ち上がる。

また、抗菌性は常に「強いほどよい」とも限らない。健康な室内を無菌にすることはできず、必要でもない。表面の病原性微生物や汚れを抑える価値と、人、清掃、換気、湿度管理の役割を分けて考えるべきだ。施工後に症状が改善するという個人の声があっても、それだけで因果関係は確定しない。医学的な効能をうたうには、材料試験とは別の研究が要る。

「天然」は出発点であって、結論ではない。成分開示、放散、耐火、アレルギー、摩耗、廃棄まで測ってこそ、自然由来という価値は建築性能になる。

実際の部屋で次に測るべきこと

サトヤマコートは、銀座の紙パルプ会館、宮城県の介護施設ナーシングホームほのか、ヤクルト本社湘南化粧品工場などでの施工実績を公表している。現場が増える今こそ、製品の物語を強くするのは追加の宣伝文句ではなく、設計された実証研究である。

独立した実証に必要な七つの条件
  • 対照室:同じ大きさ、換気、家具、発生源を持つ未施工室またはプラセボ施工室と比較する。
  • 長期連続測定:施工前から少なくとも四季を通じ、温湿度、換気量、ホルムアルデヒド、個別VOCを追う。
  • 質量収支:何がどれだけ消え、表面へ残り、どの生成物になったかを分析する。
  • 破過と再放散:継続負荷、清掃、加湿、加熱で容量と脱離を調べる。
  • 現実の汚れ:ほこり、油、手あか、結露、洗剤、摩耗後にも性能を再測定する。
  • 微生物の区別:表面ATP、培養菌、空中微生物、感染リスクを同じ数字にしない。
  • 完全開示:試験片面積、濃度、換気回数、反復数、統計、検出限界、全報告書を公開する。

成果は「除去率」だけでなく、相当換気量で示すと設計者に役立つ。壁1平方メートルが、対象濃度と温湿度のもとで毎時何立方メートルの清浄空気に相当するか。部屋の壁面積と換気量へ換算できれば、材料を設備計画へ組み込める。反対に、初期濃度が低いほど除去の絶対量が小さくなるなら、それも示すべきだ。

ユーザー側も、施工前後に測定すれば価値を判断しやすい。簡易センサーだけでなく、必要に応じて専門機関によるDNPH-HPLC法などのホルムアルデヒド分析、個別VOC測定、換気量確認を行う。症状がある場合は材料の購入より先に、医療機関と建築・室内空気の専門家へ相談し、燃焼、カビ、一酸化炭素、漏水など緊急性の高い原因を除外する。

壁を「仕上げ」から「インフラ」へ

建築では長く、壁の表面は最後に決める「仕上げ」と呼ばれてきた。構造が立ち、配管と配線が通り、その後に色と質感を整える。サトヤマコートの野心は、その順序を静かに反転させる。最後の数十ミクロンを、室内環境の第一線へ置くのだ。

この発想は、電力を使う機械をなくすという単純な競争ではない。換気設備は必要で、粒子フィルターも必要な場所がある。むしろ、機械が空気を動かし、壁が分子と接触し、低放散材が発生を抑え、湿度管理がカビを防ぐという、多層の建築へ向かう。受動面が少し負荷を下げれば、設備を小さくし、フィルター交換を延ばし、停電中も基礎的な働きを残せるかもしれない。

日本の土壁と漆喰は、壁が気候へ応答することを知っていた。20世紀の工業化は壁を均一で薄い商品へ変え、シックハウスはその選択の副作用を社会へ見せた。光触媒は表面へ化学反応を持ち込み、ナノセルロースは紙の原料を機能膜の骨格へ変えた。サトヤマコートは、その全ての歴史が交わる小さな層である。

だからこそ、この技術を評価する最良の態度は、期待か懐疑かの二択ではない。特許は独自性を認める。チャンバー試験は可能性を示す。伝統は壁が働けることを思い出させる。そして実際の家は、温度、湿度、汚れ、換気、人の暮らしによって、最後の判定を下す。

施工後の部屋には、劇的な変化がない。それが製品の美点であり、科学上の難しさでもある。見えない機能は、見えるデータで証明しなければならない。白い壁の静けさを保ったまま、空気の化学だけを変える。もし長期の実室試験がその約束を支えるなら、「見えない壁紙」は広告の比喩から、建築の新しいインフラへ変わるだろう。

Sources and references

本稿はハードプロテクトと大王製紙の一次資料、公開された試験要約、日本の建築・特許制度資料、室内空気に関する規格・研究を照合した。製品の除去率、持続年数、安全性、施工実績は特記がない限りメーカー公表値であり、実住宅で同じ性能や健康効果を保証するものとして扱っていない。