艦艇の「目」を、船のマストよりはるか遠くへ飛ばす。海上自衛隊が導入したV-BATは、無人航空機を単なる補助装備ではなく、艦艇の警戒監視そのものへ組み込む試みだ。
Jiji/The Japan Timesは10月5日、海上自衛隊が米防衛テクノロジー企業Shield AI製の無人偵察機V-BATを6機運用していると報じた。機体はあらかじめ設定した経路を自律的に巡回し、監視映像をリアルタイムで指揮艦艇へ送信できる。海自は人員負担を抑えながら、洋上での警戒監視・情報収集能力を高める狙いだ。
滑走路なしで艦艇から飛ばせる
V-BATの最大の特徴は、固定翼機のような主翼を持ちながら、機体を垂直に立てた状態で離着陸できることだ。大きな飛行甲板や射出装置を必要とせず、比較的小さな艦艇でも運用しやすい。
防衛省は選定時、主として哨戒艦などに搭載し、水上艦艇の周辺海域で警戒監視・情報収集を行う装備と説明した。選定では「通信性能」「センサ性能」などの要求性能を評価し、V-BATが必要要件を満たすと判断した。
機体価格の見積もりは1機あたり約6億円、ライフサイクルコストは約388億円とされた。ただし防衛省は、いずれも選定手続時点の見積もりであり、今後変更され得るとしている。
なぜ今、海自に小型艦載UAVなのか
背景にあるのは、監視しなければならない海域の広がりと、艦艇・航空機・人員の制約だ。防衛力整備計画は、海上自衛隊について「隙のない情報収集・警戒監視」を実施するため、洋上監視に資する無人アセットを整備する方針を示している。
水上艦艇はレーダー、光学センサー、ヘリコプターを持つが、地球の曲率やセンサー高度の制約がある。小型UAVを上空へ飛ばせば、艦艇自身のセンサーより遠くを見通せる。映像や位置情報をリアルタイムで艦へ返せれば、指揮官の状況把握は大きく変わる。
「無人」でも人は必要だ
無人機は、人員をゼロにする装備ではない。海上幕僚長は6月、V-BAT6機を取得済みとしたうえで、操作員を訓練中だと説明した。大湊航空基地を中心に、2026年8月からおおむね3カ月の操作要員教育を年間2回程度実施する計画を示している。
艦上運用ではさらに、発着艦時の安全確認、飛行計画、気象判断、データの監視・分析、整備、燃料、艦内ネットワークとの接続など、多数の作業が発生する。人員削減効果は「人がいなくなる」ことではなく、同じ人数でより広い海域を長時間監視できる可能性にある。
護衛艦「くまの」で運用訓練
海自は2026年6月末、相模湾で、もがみ型護衛艦「くまの」からV-BATを飛行させる訓練を報道陣に公開した。Jディフェンスニュースによれば、2機を艦上へ持ち込み、艦内の指揮所から遠隔操作した。
もがみ型護衛艦は省人化を重視して設計された新世代艦だ。そこへ小型無人機を加えることは、艦艇の少人数運用とセンサー範囲拡張を組み合わせる方向性を象徴する。
V-BATは何を見ているのか
Jiji/The Japan Timesによれば、機首には赤外線カメラを搭載し、最大約12時間連続飛行できる。あらかじめ設定された経路を自律的に飛び、監視映像をリアルタイムで艦艇へ送る。
こうした能力は、海面上の船舶識別、沿岸部の監視、不審な活動の追跡、災害時の情報収集など幅広い用途に使える。現時点で海自が導入した主用途は警戒監視・情報収集であり、そこで得た情報を有人艦艇の指揮官や他のセンサー体系と結びつけることに意味がある。
Shield AIが売るのは機体だけではない
Shield AIは2015年創業の米防衛テクノロジー企業で、V-BATとともに自律飛行ソフトウェア「Hivemind」を中核製品としている。2025年1月、同社はV-BATが海上自衛隊の海上ISRプラットフォームとして選定されたと発表し、複数年にわたり追加発注が続く可能性を示した。
ただし、日本側が将来の具体的な追加機数を正式に確定したわけではない。メーカーが描く拡張計画と、防衛省が正式に決めた調達計画は分けて見る必要がある。
安全性の評価も避けて通れない
Reutersは2026年6月、Shield AIのV-BATに関連する複数の事故や負傷事例、元従業員による安全管理上の告発について報じた。同社は不正を否定し、事故の一部について安全手順違反などが原因だったとしている。
これらの報道は日本配備機の欠陥を示すものではないが、海外での事故情報、整備データ、飛行中断率、艦上でのプロペラ安全管理などは継続的に検証すべき項目になる。
V-BATは海自の「無人化」の入口
2026年度の防衛予算は、V-BATのような偵察用小型UAVだけでなく、水上艦発射型UAV、攻撃可能な艦載型UAV、小型多用途USV、UUVなど、複数種類の無人アセット取得を進めている。
防衛省は2027年度中を目標に、無人アセットによる多層的沿岸防衛体制「SHIELD」の構築を進める。V-BATは、その中でも比較的早く実機が部隊へ入り、実際の艦艇運用が始まった装備である。
MQ-9Bとは役割が違う
海自は別に、滞空型無人機MQ-9Bシーガーディアンの導入も進めている。2028年度から海自による運用を始める予定で、2027年度から鹿屋航空基地で早期導入事業を行う。
MQ-9Bが広域を長時間監視する大型プラットフォームなのに対し、V-BATは艦艇自身が持ち運び、必要な場所から飛ばせる小型の「ローカルな目」に近い。両者は補完関係にある。
自律飛行が変えるのは「操作」より「任務設計」
自律性の価値は、操縦桿を人が握らなくてよいことだけではない。事前設定した経路を自律的に飛べるなら、要員は飛行そのものではなく、何を探すのか、どの海域を優先するのか、得られた映像をどう判断するのかに集中できる。
防衛省が2026年度予算で「無人機同時管制機能の導入に資する実証」に22億円を計上したのは、将来の複数無人機同時運用を見据えた動きだ。
本当の評価は、海の上で決まる
V-BATの導入は、海自にとって単に新しいドローンを買ったという話ではない。少人数で運用する艦艇が、自艦の外へセンサーを飛ばし、長時間監視し、リアルタイム映像を受け取り、他の艦艇や航空機と情報を共有する。そこまで一体化して初めて価値が生まれる。
今後の焦点は、訓練を終えた操作員がどれだけ安定して艦上運用できるか、悪天候や電波妨害下でも任務を継続できるか、整備負担がどの程度か、そして有人機・大型無人機・USV・UUVとの連携がどこまで進むかだ。
無人機は人を完全に置き換えるものではない。しかし、人が乗らなくても「見に行ける」場所が増える。その積み重ねが、海上自衛隊の警戒監視の形を変え始めている。
出典・参考資料
- 防衛省 — 「艦載型UAV(小型)」機種選定結果、2024年12月27日。
- 防衛省 — 令和7年度予算「艦載型UAV(小型)の取得(6機:40億円)」。
- Jディフェンスニュース — 海上幕僚長定例会見、V-BAT6機取得・大湊での操作員教育、2026年6月23日。
- Jiji / The Japan Times — “MSDF deploys V-BAT uncrewed surveillance aircraft,” October 5, 2026.
- Shield AI — V-BAT selected as JMSDF maritime ISR platform, January 22, 2025.
- 防衛省 — 令和7年版防衛白書「無人アセット防衛能力の強化」。
- 防衛省 — 令和8年版防衛白書「無人アセット防衛能力の強化」。
- 防衛省 — 令和8年度予算案、SHIELD・無人機同時管制・各種UAV/USV/UUV。
- Jディフェンスニュース — 「海自の新装備 V-BAT艦載型無人機の飛行訓練を初公開」2026年7月24日。
- Reuters — Shield AI safety incidents and allegations, June 5, 2026.
取材・確認期限:2026年10月6日午前1時23分(日本時間)。V-BATの機種選定、6機・40億円の取得、大湊を中心とする教育、無人アセット政策は防衛省・海上自衛隊の一次資料で確認。10月5日時点の実運用状況、自律巡回、最大約12時間の飛行時間などはJiji/The Japan Times報道に基づく。Shield AIの安全性を巡る記述はReuters報道に基づき、個別の日本配備機に問題があると断定するものではない。
今回のポイント
海自はV-BAT6機を取得し、艦艇からの警戒監視・情報収集を無人機で拡張する運用へ踏み出した。
制度の背景
2025年度予算で6機・40億円。無人アセット強化は防衛力整備計画とSHIELD構想の一部。
次の焦点
大湊での操作員教育、艦上での安定運用、安全性、有人機・MQ-9B・USV・UUVとの統合。

