2026年10月3日 土曜日 · JST | English | 1米ドル = 157.80円 為替更新: 2026年10月2日 01:51 JST · Japan.co.jp

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10月3日版 | コミュニティ
学校外で音楽やスポーツ、絵画に取り組む子どもたちと家計を確認する親子を描いた編集用イラスト
AI生成の編集用イラスト。川端玉章に着想を得た表現で、物価高と家庭の経済状況が子どもの学校外の学びや体験機会に及ぼす影響を象徴的に描いた。実在の家庭を再現したものではない。
コミュニティ
子どもの貧困 · 教育格差 · 物価高 · 学校外活動

「習わせたい」が生活費に負ける――物価高が広げる子どもの体験・学習格差

年収300万円未満の家庭では、小学生の4人に1人がこの1年、スポーツ、文化芸術、自然体験などの学校外活動に一度も参加していなかった。中学3年生の塾・家庭教師などへの参加率にも約2倍の差がある。長引く物価高は、家計の節約を子どもの「経験」と「進路」にまで及ぼしている。

家計が苦しくなったとき、最初に削られるものは何か。食費や家賃、光熱費のような支払いを止めることはできない。そこで、塾、ピアノ、水泳、サッカー、キャンプ、美術館、旅行――子どもの生活を広げる支出が「今すぐ必要ではないもの」として後回しになる。

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC)が2026年3月、全国の小学1年生から高校3年生までの子どもを持つ保護者7,374人を対象に実施した「2026年 子どもの教育機会に関する実態調査」は、その構造を具体的な数字で示した。年収300万円未満の世帯の小学生では、24.8%が直近1年間に学校外の「体験活動」へ一度も参加していなかった。年収600万円以上では8.8%。差は2.8倍だった。[1]

24.8%年収300万円未満世帯の小学生で、体験活動に1年間参加なし
36.8% vs 70.9%中3生の塾・家庭教師など学習活動への参加率
76.5%教育支出を減らした低所得世帯で、食料品・日用品値上げを理由に挙げた割合

「30%が何もしていない」という見出しだけでは足りない

時事通信は調査報告書の広い集計を基に、年収300万円未満の家庭の子どもの約30%が、習い事、部活動、ボランティア、旅行、文化イベントなど学校外活動を一年間行わなかったと報じた。[2] 一方、CFCの一次資料で重点分析されている小学生の「体験活動」に限ると24.8%である。対象年齢や活動定義が異なるため、両数字は同じ母集団の単純な言い換えではない。

CFCがいう体験活動には、スポーツ・文化芸術の習い事やクラブ活動、自然体験、旅行、地域の祭りなどが含まれる。学校の授業や修学旅行のような教育課程内の活動は除外する。中高生では学校の部活動を一部含む。調査自身も、この定義は分析上の整理であり「子どもの教育機会のすべて」を表すものではないと注意している。[3]

データ上の注意: CFC調査は所得層を比較するため、年収300万円未満、300万~599万円、600万円以上の回答数をおおむね均等に設計したWEB調査である。全7,374人の単純集計を日本の子育て世帯全体の構成比として読むことはできない。また「年収300万円未満」は分析上の区分で、すべてが統計上の相対的貧困世帯という意味ではない。

参加できても、使える金額が違う

格差は「参加するかしないか」だけではない。小学生で何らかの体験活動に参加している家庭の年間支出額中央値は、年収300万円未満では3万円、600万円以上では11万円。約3.7倍の差があった。[1]

年3万円なら月平均2,500円。スポーツなら月謝に加えてユニフォーム、道具、遠征費がある。音楽なら楽器や発表会費。旅行なら交通費と宿泊費がかかる。参加の有無が同じ「あり」でも、回数、選択肢、継続期間の幅は大きく異なり得る。

文部科学省の「子供の学習費調査」は、学校外活動費を国の統計として1994年から隔年で追ってきた。2023年度調査では、公立中学3年生の学校外活動費は年間約44万6,000円と、公立学校の学年別で最も高かった。学年が上がると塾などの補助学習費の比重が高まり、受験期ほど家庭負担が大きくなる。[4]

教育格差は、教室の中だけで生まれるのではない。放課後、週末、夏休みに「何を学び、どこへ行き、誰と出会えるか」の違いが積み重なる。

高校受験前、塾に行く確率がほぼ2倍

CFC調査で特に大きな差が出たのが中学3年生だ。学習塾、家庭教師、オンライン・通信教育など学校外の学習活動への参加率は、年収300万円未満で36.8%、600万円以上で70.9%だった。約1.9倍である。[1]

参加している家庭に限っても、年間支出中央値は低所得層24万円、高所得層36万円だった。高校受験を控える時期に、学校外で使える学習時間、教材、指導量に差がつく。

日本の公教育は全国的な学習指導要領と学校制度によって共通の学習機会を提供している。しかし高校・大学進学では入試があり、塾や模擬試験、英語、検定、個別指導など家庭支出が選択肢を増やす構造が長く存在する。CFC報告書は教育社会学者・松岡亮二氏の研究を引用し、社会経済的地位による教育格差は近年突然生まれたのではなく、戦後の複数世代にわたり確認されてきたと整理している。[3]

物価高で「教育費を減らした」理由のトップは食料品

2026年調査が以前の体験格差調査と違うのは、長引く物価高を明示的に分析した点だ。学校外の学習費または体験費を減らした年収300万円未満世帯599人に理由を尋ねると、76.5%が「生活必需品(食料品・日用品)の価格が上昇したため」と答えた。光熱費や活動そのものの料金上昇より高かった。[1]

総務省の2026年8月全国消費者物価指数は、総合で前年同月比1.9%上昇、生鮮食品を除く総合で1.7%上昇した。インフレ率そのものは数年前のピークより低い局面があっても、価格水準は一度上がれば元へ戻るとは限らない。家計にとって重要なのは「今年の上昇率」だけでなく、数年間積み上がった食料、日用品、光熱費、家賃などの負担だ。[5]

子どもの進路予想まで収入で分かれる

家計差は目の前の習い事だけで終わらない。CFCが保護者に「子どもが現実的にはどこまで進学すると思うか」と尋ねたところ、「大学まで」または「大学院まで」と答えた割合は年収300万円未満で40.7%、600万円以上では75.2%だった。[1]

これは実際の進学率ではなく、保護者の「現実的な見通し」である。それでも、進路選択の理由として「家庭に経済的な余裕がないから」を選ぶ割合は低所得層の方が高く、高所得層の4倍以上だった。

子どもの希望、学力、学校環境、奨学金制度など進路を決める要因は多い。しかし家庭が大学を「希望しても現実には難しい」と早い段階で捉えるなら、受験科目、塾選び、高校選択、学習時間といったそれ以前の行動にも影響し得る。

「子どもの貧困率11.5%」の向こう側

日本の相対的な子どもの貧困率は、厚生労働省の2022年国民生活基礎調査(所得は2021年)で11.5%だった。ひとり親など「大人が一人」の現役世帯では44.5%。相対的貧困は、等価可処分所得が中央値の半分である貧困線を下回る状態を指し、当時の貧困線は127万円だった。[6]

この数字は重要だが、CFC調査が照らすのは貧困線の内外だけではない。年収300万円未満という区分には相対的貧困に該当しない世帯も含まれ得る。それでも600万円以上の世帯との間に、活動参加や支出、進路期待の差が現れる。教育機会は「貧困か、そうでないか」という二分法ではなく、家計余力に沿って連続的に変化する。

2022年にも「3人に1人」の体験格差が見えていた

CFCはコロナ禍の2022年10月にも全国の小学生保護者2,097人を調査し、翌年最終報告を公表した。当時、年収300万円未満の家庭では学校外の体験機会が「何もない」子どもが約3人に1人。スポーツ、文化芸術、自然体験、文化的体験の多くで所得差が見られた。[7]

同調査では、低所得層の保護者が子どもの希望する体験を諦めた理由として「経済的な余裕がない」を56.3%が挙げた。物価高によって体験機会が減った、または減る可能性があると答えた低所得世帯も約半数だった。[8]

2026年調査はコロナ禍特有の制約をなるべく離れ、対象を小学生から高校生へ拡大した。数字の定義は直接比較できないが、「所得の低い家庭ほど学校外機会が少ない」という方向は変わっていない。

日本は「学校の外」を家庭にどこまで任せるのか

ここに政策上の難しさがある。公教育が保障する授業の外には、膨大な学びがある。スポーツでチームを経験する。楽器を練習する。山や海へ行く。科学館、美術館、博物館へ出かける。地域行事に参加する。塾で受験対策をする。

これらをすべて国が提供することは現実的ではない。一方、家庭所得だけで参加の幅が決まれば、子ども自身には選べない出生環境が将来の能力、興味、人間関係、進路へ影響する。

文部科学省の学習費調査が「その他の学校外活動費」を、知識や技能を身につけ、豊かな感性と心身の発達を目的とするスポーツ、文化芸術、体験活動などとして把握しているのは、こうした活動が単なる娯楽ではなく教育環境の一部だからだ。[9]

国の貧困対策は「教育の機会」を明示してきた

日本では2013年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立した。2024年の改正では法律名を「こどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律」へ改め、「現在の貧困を解消するとともに将来の貧困を防ぐ」こと、妊娠・出産から子どもが大人になるまで切れ目なく支援することを基本理念に加えた。[10]

こども家庭庁は、子どもの貧困を経済的困窮だけの問題ではなく、学習、生活、心理など複数の面で将来へ影響する問題と位置づけ、教育支援、生活安定、就労、経済支援を進めている。[11]

しかし公的支援の中心は、生活費、就学援助、児童扶養手当、授業料・高等教育支援など「基礎的な生活と学校教育」に置かれやすい。スポーツ、芸術、旅行、自然体験までを普遍的に保障する制度は限られる。

自治体と民間は「クーポン」という答えを試す

CFCは経済困窮家庭の子どもに塾や習い事で使える「スタディクーポン」を提供してきたほか、体験活動向けの「ハロカル」を展開している。同法人によると、長野市ではこの仕組みを参考に、市内の全小中学生約2万8,000人を対象とする体験支援事業が始まった。[12]

現金給付ではなく用途を限定したクーポンには賛否がある。家庭の自由度は現金より低い一方、「生活費に消えてしまうことなく、子どもの学びや体験へ直接届く」という特徴がある。学校外活動を政策対象として考える際の一つのモデルになっている。

生活困窮家庭では、教育より先に食べることが問題になる

「習い事を削る」という話だけを切り取ると、ぜいたく品の節約のようにも見える。しかし2026年のセーブ・ザ・チルドレンの調査では、経済的に困難な子育て世帯で、必要な食料を十分買えなかった経験を持つ世帯が多数に上り、1人1日当たりの食費が500円を下回る家庭も多いと報告された。児童手当が月1万円増えた場合の使途としては、食料品の購入量を増やすという回答が54.9%で最も多かった。[13]

その状況では、親が塾や旅行を優先できないのは当然ともいえる。教育格差を議論するには「教育費だけ増やせばよい」のではなく、食費、住宅費、光熱費、雇用、ひとり親支援まで含む家計全体を見る必要がある。

調査から因果関係を言い過ぎてはいけない

CFC調査は重要だが、所得差が直接子どもの成績や幸福を決めることを証明した実験ではない。参加しない理由には子どもの希望、健康、地域の選択肢、送迎時間、保護者の就労状況などもある。WEBモニター調査であり、日本の全世帯をそのまま代表するサンプルでもない。

また、学校外活動が多ければ多いほど常に良いとは限らない。子どもには自由時間や友人と遊ぶ時間も必要だ。

問題は「すべての子どもを塾や習い事へ行かせること」ではない。やりたい活動があるのに、家庭のお金だけを理由に最初から選択肢から外れる状態が所得層によって大きく偏っていることだ。

物価高が削るのは、今月の支出だけではない

月謝を一度やめる。夏休みの旅行を見送る。美術館へ行かない。受験前でも塾に入らない。一つ一つは小さな家計判断に見える。

しかし子どもの側から見れば、それは「経験しなかった一年」になる。あるスポーツに得意だと気づく機会、楽器に夢中になる機会、大学という進路を現実的だと思う機会、違う地域や文化を見る機会が一つずつ減っていく。

日本の物価問題は、スーパーのレシートだけで測れない。家計の余白がなくなるとき、削られるのは消費だけではなく、子どもの未来に向けた選択肢でもある。

主な出典

  1. 公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン「2026年 子どもの教育機会に関する実態調査」結果(2026年8月26日)
  2. 時事通信/The Japan Times「30% of children in low-income families miss out on extracurriculars」(2026年9月28日)
  3. CFC「2026年 子どもの教育機会に関する実態調査 報告書」
  4. 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」
  5. 総務省統計局「2026年8月 消費者物価指数」
  6. こども家庭庁「こどもの貧困対策・ひとり親家庭支援の現状について」
  7. CFC「子どもの『体験格差』実態調査 最終報告書」(2023年)
  8. CFC「子どもの『体験格差』実態調査」中間報告(2022年)
  9. 文部科学省「子供の学習費調査」学校外活動費の定義
  10. こども家庭庁「こどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律」改正概要
  11. こども家庭庁「こどもの貧困対策」
  12. CFC「CFCサポーターのつどい」活動報告
  13. セーブ・ザ・チルドレン「経済的に困難な子育て世帯の子どもの『食と生活』実態調査」(2026年)