地方の暮らしが崩れる時、それは必ずしも役所の窓口が閉まるところから始まるわけではない。最初に消えるのは、集落を結ぶバスの便かもしれない。近所の商店かもしれない。草刈りを担っていた人、独居高齢者を見守っていた人、共同作業で水路を掃除していた人かもしれない。

こうした「暮らしの細い線」が切れないよう、住民自身が地域課題を協議し、必要なサービスを運営する仕組みとして広がっているのが地域運営組織(RMO=Regional Management Organization)だ。2025年度には全国で8,587組織が確認され、前年度から394増えた。少子高齢化と人口減少で従来の自治会・行政サービスだけでは地域機能を維持しにくくなる中、住民主体の運営組織は地方政策の周辺ではなく、生活インフラの一部になりつつある。[1]

用語の整理: 「地域運営組織(RMO)」は、地域住民が主体となり、生活課題を横断的に解決する広い概念。「農村RMO」は農林水産省が中山間地域などで推進する枠組みで、農用地保全、地域資源活用、生活支援の3分野を一体で扱う。両者は重なるが同義ではない。[2]

なぜ「組織」が必要になったのか

日本の地域社会は長く、自治会、町内会、消防団、農業組合、婦人会、老人クラブなど、目的別の住民組織によって支えられてきた。行政は制度と予算を担い、地域側は祭り、防災、清掃、見守りといった活動を担う。その分業は、住民数と担い手が一定程度いることを前提としていた。

人口減少は、その前提を壊している。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計では、日本の総人口は2070年に約8,700万人まで減少する。65歳以上人口の割合は4割近くへ上昇する見通しだ。[3]

人数が減るだけではない。若年層が地域外へ流出し、役員や運転手、農地管理の担い手など「地域を動かす人」が先に不足する。サービスの需要が消える前に、提供する側の人手が消えるのである。

8,587組織2025年度に全国で確認されたRMO
+394前年度からの増加数
9戸以下農水省が集落活動低下の目安として示す規模
8,700万人2070年の日本の総人口・中位推計

9戸を下回ると、集落機能が急に弱くなる

農林水産省は、中山間地域では特に人口減少と高齢化が進み、集落の総戸数が9戸以下になると、農用地保全などを含む共同活動の実施率が急激に低下する傾向を示している。[2]

この数字は重要だ。集落は、人口がゼロになった瞬間に機能を失うわけではない。それより前に、共同作業、交通、買い物、防災、見守りといったサービスが維持できなくなる「閾値」がある。

農村RMO政策は、その閾値を越える前に複数集落を束ね、農家と非農家、自治体、農協、NPOなどが協力して機能を再編しようとする試みだ。

「小さな拠点」という政策思想

地域運営組織の拡大は、単独で生まれた政策ではない。国土交通省や内閣府が進めてきた「小さな拠点」と深く結びついている。

「小さな拠点」とは、小学校区など複数集落からなる基礎的な生活圏で、分散している生活サービスや地域活動をつなぎ、人・物・サービスの循環を作る考え方だ。診療、買い物、行政窓口、交通、交流拠点を一つの建物へ全部集めることだけを意味しない。必要な機能を組み合わせ、住み慣れた地域で暮らし続けられる仕組みを作ることが中心にある。[4]

2026年4月には政府が「小さな拠点」づくりの手引きを第6版へ更新しており、RMOの法人化や税制活用のガイドも継続的に改訂されている。制度が一時的な実証実験ではなく、恒常的な地域政策へ定着してきたことを示す。[5]

高知では、住民がガソリンスタンドを引き継いだ

RMOの象徴的な事例の一つが、高知県梼原町松原区だ。地域の給油所が存続危機に直面した際、住民側は株式会社まつばらを設立し、2013年からガソリンスタンドを引き継いだ。

同時に「集落活動センターまつばら」が地域課題を協議する役割を担い、NPO法人「絆」は高齢者などの移動手段を確保した。給油、農産物販売、レストラン、弁当配達、移送という、本来なら別々の事業者や制度が担う機能を、地域の中で組み直した。[6]

ここで重要なのは「住民ボランティアが役所の代わりをした」という単純な話ではない。株式会社、NPO、協議組織を使い分け、収益事業と公益的サービスを別の器に載せたことにある。

島根では「住民の車」が外出そのものを増やした

交通は、人口減少地域で最も早く崩れやすいサービスの一つだ。利用者が減れば路線バスは採算が悪化する。しかし高齢者が増えるほど、通院や買い物の移動需要はむしろ重要になる。

島根県大田市井田地区では、住民有志による企業組合井田屋が地域運営組織として活動し、住民主体の生活交通を運営している。島根県の事例集によると、2023年度の延べ利用者は1,904人。アンケートでは運行開始後に外出回数が増えたと答えた住民が約6割に上り、利用目的は通院・買い物だけでなく趣味・娯楽が最も多かった。[7]

交通は単なる移送サービスではない。外出できることが、人との交流、健康、消費、孤立防止を同時に支える。

人口減少地域で失われるのは「一つのサービス」ではない。バスがなくなると買い物が難しくなり、外出が減り、交流が減り、商店の客も減る。RMOは、この連鎖を一つずつ切り離さず、まとめて扱おうとする。

農村RMOは、農地と生活を同時に扱う

農林水産省が推進する農村RMOの特徴は、農業政策と生活政策を分けないことだ。基本的な活動は、①農用地保全、②地域資源活用、③生活支援の三つとされる。[8]

従来、農地保全は農政、交通は国交行政、介護や見守りは福祉、空き家は住宅政策と、縦割りになりやすかった。しかし住民にとっては同じ地域の問題だ。農村RMOは、その縦割りを地域側から横につなぐ。

農水省は地方自治体、JA、NPOなどによる都道府県単位の支援チームや全国プラットフォームも整備し、2026年度までに100地区で農村RMOを形成する目標を掲げてきた。[9]

島根・比田では「88の戦略」を住民が作った

島根県安来市比田地区の「えーひだカンパニー株式会社」は、農村RMOの先行例として国の白書でも紹介されている。

地区では少子高齢化による存続危機を背景に、住民が行政やJAの支援を受けながら「比田地域ビジョン」を策定した。そこには88の戦略プランが盛り込まれ、農業だけでなく産業振興、生活環境改善、福祉、定住促進までを一つの地域経営として扱った。[9]

この「地域経営」という発想がRMOの核心に近い。住民を行政サービスの受け手ではなく、地域資産と課題を把握し、優先順位を決める運営主体として位置づける。

高知・三原村では14地区を一つの組織でつないだ

高知県三原村では2016年度、一般社団法人「三原村集落活動センターやまびこ」が設立された。村内14地区を対象に、生活、福祉、産業の活動を行うRMOである。

農林水産省の事例紹介では、生産、店舗、特産品販売など六つの部署を置き、ししとうやブランド米を生産し、レストランで提供し、加工・販売へつなげている。地域課題への対応と収益事業を一体化する仕組みだ。[10]

都市部でもRMOは必要になっている

RMOは過疎地だけの制度ではない。広島市は「ひろしまLMO」と呼ぶ独自の地域運営組織制度を進めている。人口減少、高齢化、地域コミュニティの希薄化を背景に、自治会、地区社会福祉協議会など既存団体をつなぎ、持続可能なまちづくりを住民主体で進める。[11]

市は空き家や空き店舗を地域活動拠点として活用する団体に対し、固定資産税・都市計画税の減免制度まで設けている。対象には「ひろしまLMO」も含まれる。[12]

これはRMOが「限界集落対策」だけでなく、郊外住宅地や都市部のコミュニティ再編にも広がり得ることを示している。

最大の弱点は、住民に頼りすぎること

RMOには魅力的な成功例が多い。しかし、制度そのものに緊張もある。

第一は担い手だ。人口減少への対応策として住民主体を掲げても、その住民自身が高齢化し減っている。運転、会計、補助金申請、労務管理、食品衛生、法人経営などが加われば、必要な能力は自治会役員の範囲を超える。

第二は財源だ。補助金で始まった事業が、補助期間終了後も継続できるとは限らない。収益事業を持てる地域と持てない地域の差も大きい。

第三は行政責任との境界である。「住民主体」が、行政サービス縮小の言い換えになれば制度は長続きしない。住民が決める領域と、行政が最低限保障すべきサービスを分ける必要がある。

「全部自前」は、むしろRMOの失敗モデルになり得る

農水省が2026年3月に更新した農村RMO形成推進の手引きは、立ち上げから持続的運営までのプロセスに重点を置き、全国事例から課題克服の方法を整理している。[13]

政府の支援策を見ると、地域おこし協力隊、集落支援員、生活支援コーディネーター、公民館、特定地域づくり事業協同組合など、既存制度との連携が強調されている。[14]

つまり持続可能なRMOは、住民だけで全部を抱える組織ではない。行政、専門職、企業、NPO、農協、福祉、交通事業者を地域の必要に応じて組み合わせる「接着剤」の役割に近い。

問われるのは「サービスの効率」だけではない

人口減少政策では、施設統廃合や効率化が中心になりやすい。しかしRMOの現場が扱うのは、数字にしにくい価値でもある。

週に1回の移動販売、月に数回の住民バス、地域食堂、草刈り、見守り。大都市の事業採算だけで見れば非効率でも、それがあることで高齢者が住み続けられ、家族の介護負担が減り、農地が荒廃せず、空き家化を遅らせることができる。

一つのサービスだけを切り出して費用対効果を測ると、地域全体への効果を見落としやすい。

地方自治の形が静かに変わっている

8,587という数字は、全国の住民が一斉に行政から自立したという意味ではない。組織の規模、法人格、活動内容、財源は地域ごとに大きく異なる。

それでも共通しているのは、地方自治の役割分担が変わりつつあることだ。行政がすべてを提供し、住民が受け取るモデルだけでは維持できない地域が増えている。同時に、住民だけに責任を負わせることもできない。

その間にあるのがRMOだ。地域が必要なものを自ら決め、実行できる部分は自ら担い、行政や外部組織と連携して足りない部分を補う。

人口減少の日本で、地域を「昔のまま残す」ことは難しい。現実的な問いは、暮らしに必要な機能をどの形なら残せるかだ。地域運営組織は、その答えを住民自身が作るための器として、静かに日本各地へ広がっている。

出典・参考資料

  1. 時事通信/The Japan Times「Regional management organizations help residents take lead in their communities」2026年10月7日。
  2. 農林水産省「農村型地域運営組織(農村RMO)の推進」。
  3. 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」。
  4. 国土交通省「『小さな拠点』づくりガイドブック」。
  5. 地域未来戦略本部事務局「小さな拠点・地域運営組織に関する手引き・事例集」。
  6. 内閣府資料「高知県梼原町松原区の取組」。
  7. 島根県「地域生活交通の確保に向けた取組事例集」。
  8. 農林水産省「農村RMOの事例」。
  9. 農林水産省「農村に人が住み続けるための条件整備」。
  10. 農林水産省「三原村集落活動センターやまびこ」の事例。
  11. 広島市「広島型地域運営組織 ひろしまLMO」。
  12. 広島市「空き家等を活用した活動・交流拠点認定制度」。
  13. 農林水産省「農村RMO形成推進の手引き『みんなでつくろう農村地域の未来』」。
  14. 農林水産省「地域の運営に関する施策の逆引き集」。

取材・確認期限:2026年10月7日。全国8,587組織という数字は2025年度の地域運営組織全体の集計であり、農林水産省の「農村RMO」だけを数えたものではありません。個別事例は公的資料公表時点の内容で、現在のサービス内容や経営状況が完全に同一とは限りません。