39,282発煙・発火を含む2025年度の疑い例
9,456職員・消防隊の消火が必要だった件数
86.2%回収を行う市町村の割合
41.3%膨張・変形品を回収する市町村の割合

ごみの山に埋もれた、見えない発火源

ごみの収集車がいつも通りに走り、選別設備がいつも通りに動く。その途中、破砕機に入った小さな充電池が押しつぶされ、煙や火が上がる。便利な携帯機器を支えてきたリチウムイオン電池が、使い終えた途端に廃棄物処理現場の危険物になる。この矛盾を、国の最新調査は数字で示した。

3万9282件の意味を取り違えない

環境省が2026年9月29日に公表した2025年度実績調査では、リチウムイオン電池などが原因と疑われる火災事故等は3万9282件だった。前年の2万3068件から約70%増えた。対象は全国1741市町村等で、回答率は100%。ただしこの総数には発煙や火花、設備によって消火された事案も含まれる。「3万9282件の大火災」ではない。

自動消火と人の消火を分けて見る

内訳は、散水装置などにより消火した事例が1万7792件、発火には至らなかった火花・発煙が1万1550件、職員による消火が9287件、消防隊による消火が169件、その他が484件。職員または消防隊が消火した件数は合わせて9456件だった。処理施設の火災対策が危険を早期に抑えている一方、現場への負担が消えたわけではない。

増えたのは事故か、それとも発見か

環境白書によれば、2024年度に職員や消防隊の消火を要した事案は9923件だった。2025年度は9456件と減っている。それでも発煙・発火を含む総数は急増した。取扱製品の普及、混入、監視体制や記録方法の違いなど、複数の要因があり得るが、この調査だけで増加の内訳や因果関係を断定することはできない。

事故が起きる場所は暮らしのすぐ隣

収集された家庭ごみは運搬・破砕・選別・圧縮の工程を通る。強い衝撃や圧力、短絡は電池内部の異常発熱を引き起こし、可燃物の多い設備では周囲へ延焼するおそれがある。携帯型充電器だけでなく、加熱式たばこ、コードレス機器や充電式小物など、電池が内蔵されていると気づきにくい製品も混入し得る。

世界を変えた日本の発明、その後始末

軽く大きなエネルギーを蓄えるリチウムイオン電池は、1990年代に携帯電話やノートパソコンの普及を後押しした。技術開発への貢献で吉野彰氏はジョン・B・グッドイナフ氏、M・スタンリー・ウィッティンガム氏とともに2019年ノーベル化学賞を受けた。いま電池は電動工具、モバイル機器、電気自動車、定置型蓄電池にも広がる。しかし有用な高エネルギー密度は、廃棄時の安全管理も必要とする。

回収自治体86.2%、難しい電池には受け皿不足

2025年度調査では、電池または電池使用製品を回収する市町村は86.2%で、前年度から8.9ポイント増えた。一方、膨張・変形した製品の回収に対応する市町村は41.3%にとどまる。危険性が高いからこそ回収方法が難しいという、制度上の隙間が見えてくる。

黄色い回収箱に何でも入れてはいけない

一般社団法人JBRCの回収対象は、会員企業の対象となる小型充電式電池などに限られる。破損、膨張、水濡れ、分解した電池パックは通常の回収対象外で、加熱式たばこや一部の機器も対象にならない。モバイルバッテリーを自己判断で分解しないこと。対象外の電池は自治体またはメーカーに処分方法を確認する必要がある。

「燃えるごみ」に出さない、その先の課題

家庭でできる第一歩は、自治体の公式分別ルールを確かめ、製品を一般ごみに混ぜないことだ。端子の絶縁などの扱いは回収先の指示に従う。熱を持つ、膨らむ、変形するなど異常がある場合は、充電・使用をやめ、通常の店頭回収箱に無理に入れず、安全な扱いについて自治体やメーカーに相談する。危険な電池を自分で穴開け・解体・放電しようとしてはいけない。

政府は11月を啓発月間に

環境省は2026年10~12月を火災防止強化キャンペーン期間とし、11月を火災防止月間に指定した。啓発では「賢く選ぶ」「丁寧に使う」「正しく捨てる」の三つのCを掲げ、Jリーグのクラブとも協力して回収と周知を進める。事故防止を使用者だけの責任にせず、販売者、製造業者、回収・再資源化事業者、自治体にまたがる仕組みにする狙いがある。

火災防止と資源安全保障はつながっている

回収には安全だけでなく資源の意味もある。使い終えた電池にはリチウム、ニッケル、コバルトなどの重要鉱物が含まれることがある。環境省は2025年に関係省庁による総合対策の枠組みを設け、火災防止と資源循環を一体で検討してきた。ただしすべての電池に同じ金属が含まれるわけではなく、回収したものがすべて経済的に再資源化できるとも限らない。

次に必要なのは、回収の「質」の数字

回収制度の普及率だけでは、利用者が迷わず出せるか、危険な膨張品を安全に引き受けられるか、施設での事故が減るかは分からない。自治体ごとの回収窓口、事故の重症度、発生箇所、処理費用と設備改修費、電池種類別の再資源化実績。これらを継続的に示して初めて、政策の成否を判断できる。

便利さの費用を、収集作業員に押しつけない

スマートフォンやモバイルバッテリーの利便性は、電池が手元を離れたところで終わるわけではない。その最後の一工程を支える収集・処理現場の人々に、危険を集中させてよいはずがない。3万9282件という数字は、単なる不適切分別の話ではなく、電池の設計から回収に至る社会全体の責任を問いかけている。

出典・参考資料

  1. 環境省・2025年度の市町村調査
  2. 環境省・2026年の火災防止キャンペーン
  3. 環境省・令和8年版環境白書
  4. 環境省・リチウムイオン電池総合対策
  5. 一般社団法人JBRC・排出方法
  6. 一般社団法人JBRC・回収協力店検索
  7. 2019年ノーベル化学賞
  8. Nippon.com・2026年10月14日のデータ報道

環境省の2026年9月29日公表の確定調査を基に執筆。10月14日のデータ報道は新規調査公表日ではありません。