10月13日試行的一部開放の開始
約500m湯釜火口周辺の立入規制
10:00–15:00登山道への入場時間
11月8日予定されている試行終了日

山を開くことと、危険がなくなることは同じではない。

開放から3日、山を動かしたのは火山だけではなかった

群馬県草津町の山あいで、10月13日に始まった登山道の試行的な一部開放が、早くも運営上の試練に直面している。町は15日、国道292号で駐車場に入ろうとする車の滞留や激しい渋滞が発生し、開放区域外への立ち入りやドローンによる撮影も確認されたとして、改めて注意を呼びかけた。温泉地として知られる草津の奥に広がる火山景観。その一端に近づける機会は待ち望まれていたが、来訪者が増えれば、それだけ危険を管理する責任も大きくなる。

今回の取り組みを「草津白根山が全面的に開放された」と理解するのは誤りだ。対象は西側登山道と弓池周辺の一部に限られ、湯釜火口から約500メートル以内の立入規制は続いている。開放を知らせるニュース以上に、この違いを伝えることが安全の出発点になる。

開いた場所、閉じたままの場所

草津町の計画では、試行期間は10月13日午前10時から11月8日午後3時まで。登山道の入場時間は午前10時から午後3時、午後4時までに指定区域と駐車場を退去する。降雪・凍結や火山活動、悪天候などによって予定より早く閉鎖される可能性がある。

対象は湯釜火口から500メートルの規制範囲の外側に位置する西側登山道と弓池周辺の指定部分。現地の柵、ロープ、案内表示が境界となる。約610メートルの登山道は玉石舗装で凹凸と勾配があり、標高はおよそ2160メートル。町は歩きやすい靴、防寒着、雨具、飲料水の持参を求めている。短い距離でも、高地の山道を市街地の遊歩道と同じ感覚で考えることはできない。

レベル1は「安全宣言」ではない

今年5月15日、気象庁は白根山の湯釜付近について噴火警戒レベルを2から1へ引き下げた。2025年8月に活発化した地震活動は2026年3月以降低調となり、地殻変動や地下の温度変化を示す観測指標も概ね停滞したためだ。だがレベル1の正式な考え方は「活火山であることに留意」。危険が消えたという意味ではない。

気象庁は湯釜火口から約500メートルの範囲で、ごく小規模な火山灰などの噴出が起こる可能性に触れ、周辺のくぼ地や谷地形には高濃度の火山ガスが滞留するおそれがあると注意している。草津町は災害対策基本法第63条に基づく立入規制を継続。気象上の警戒レベルと、自治体が管理する現場の立入境界は、関係しながらも同一のものではない。

湯釜と弓池――地形が刻んだ二つの表情

草津白根山は単独の円錐形の山というより、白根山、逢ノ峰、本白根山などが連なる複雑な火山群である。白根山頂部には水釜、湯釜、涸釜という火口湖が並び、鮮やかな湖面と荒々しい火山地形が独特の景観をつくる。弓池周辺は、観光客がその地形に触れてきた場所の一つだ。

しかし、美しい火口湖の眺めと、現地の安全性は別問題だ。今回の試行で利用できる場所を「湯釜の自由見学」と言い換えることはできない。観光地の名前が著名であるほど、広報には地形と規制区域を正確に描き分ける必要がある。

2018年、本白根山が示した予測の難しさ

2018年1月23日午前10時2分ごろ、草津白根山の本白根山で噴火が起きた。気象庁の記録では、1人が死亡し11人が負傷した。噴石は火口から1キロメートルを超えて飛散し、スキー場周辺にも大きな影響が及んだ。

重要なのは、2018年の噴火地点が、今回の開放判断で中心となる湯釜付近とは異なる本白根山だったことである。気象庁は噴火後の検証で、火山活動の変化を把握しにくい状況を取り上げた。長期的に比較的静穏に見える火山でも、突発的な水蒸気噴火の危険をゼロにはできない。過去の災害を持ち出して現在の試行開放を一律に否定するのではなく、経験を安全管理にどう織り込むかが問われている。

小さな駐車場が国道を止める

草津町の案内では、駐車場の収容目安は普通車約240台、大型車約20台。料金は無料だが、入場できる台数には限りがある。満車時に国道292号上で待機することは認められず、係員の案内に従って通過する必要がある。町は10月15日、特に午前中に車の列が発生し、一般車両の通行にも影響していると説明した。

これは単なる行楽客の不便にとどまらない。国道を使う地元住民や業務車両、緊急時に移動する車両の通行を考えれば、駐車容量と入場予約・案内・誘導の仕組みは地域全体の問題となる。ただし、町は今回の渋滞について具体的な車両台数、平均待ち時間、救急活動への影響を公表しておらず、被害を断定することはできない。

柵を越える行動とドローンが示すもの

町の15日付文書には、開放区域外への立ち入りとドローン撮影が、安全管理上の課題として挙げられた。規制のために設置された柵やロープを越える行動は、自ら危険に近づくだけではない。行方確認や退避誘導の負担を増やし、試行継続の判断にも影響する。ドローンについても、町の管理条件と現地の指示を尊重する必要がある。

確認された件数、行為者の属性、処分や事故の有無は明らかにされていない。したがって違反行為が多数の来訪者に一般化していると断定するのは適切でない。一方で、数件でも重大な事故につながりうる場所では、現場管理者が早期に注意喚起する意義は大きい。

観光再開の経済効果をどう測るか

草津は温泉観光と山岳景観を結びつけてきた町である。登山道の限定開放は訪問理由を増やす可能性があるが、地域経済への効果は来訪者数だけで決まらない。交通混雑、警備費用、利用者の安全教育、気象悪化時の閉鎖対応にも費用が伴う。

町は安全管理ガイドを3~4人程度配置し、土日祝日には警備員2人を追加する計画を示している。指定トイレ以外の白根レストハウスの売店・飲食施設は営業しない。観光客が訪れたから直ちに山頂施設の売上が増えるという図式でもない。経済効果を論じるには、町の予算、利用状況、地元事業者への波及を今後確かめる必要がある。

環境を守ることは立入規制を守ることでもある

火山周辺の高山環境は、観光客が短時間で去る場所でも、長い時間をかけて形成される。定められた道から外れること、狭い場所に人が集中すること、ごみを残すことは、景観と利用環境に負担を与えるおそれがある。町はごみ箱を設けず、持ち帰りを求める。

ここで環境保全と防災は別々の話ではない。進入禁止の区域は、火山の危険、監視体制、道路や歩道の状態など複数の事情によって決められている。写真撮影のために境界を越えれば、守るべきは自然だけでなく人命にもなる。

試行は、来年の制度設計のための実験だ

町は今回の試行開放を、利用状況、混雑、安全管理上の課題を検証し、来年度以降の開放方法や管理体制を検討するための取り組みと説明している。利用者の熱意が確認できた一方、収容力と規則順守には改善の余地が見えた。今後の判断には、来訪者数、違反の実態、警備体制の費用、緊急避難の運用など、定量的な資料が必要になるだろう。

10月17日の時点で、11月8日までの予定が無条件に保証されているわけではない。現地に向かう人は出発直前に草津町の公式情報と気象庁の火山情報を確認したい。活火山を観光資源として開くということは、自然を制御できたと宣言することではない。自然の変化に合わせて、人間の行動を制御する仕組みをつくることなのである。

出典・参考資料

  1. 草津町、2026年10月15日:試行開放後の安全確保へのお願い
  2. 草津町、2026年10月8日:試行開放の区域・利用時間・注意事項
  3. 気象庁、2026年5月15日:湯釜付近の噴火警戒レベル引下げ
  4. 気象庁:湯釜付近の火山活動・警戒事項
  5. 気象庁:草津白根山の地質・火口湖と噴火史
  6. 気象庁:2018年本白根山噴火の検証
  7. 総務省消防庁:2018年噴火の被害記録