日本の3部リーグの試合を、中国の視聴者が追いかける。9月30日にJリーグが公表したのは、SUQIU SPORTS(JGS速球体育)が2026/27シーズンの明治安田J3リーグでFC琉球の全試合を放映するという取り決めだった。中国向けには既にK-BALLが明治安田J1・J2リーグを扱っている。今回の追加は、国際放映がトップリーグの有名クラブだけにとどまらなくなったことを示す。[1]
ただし、これは放映契約の金額が伸びたという発表ではない。Jリーグは新規契約の権利料、最低保証額、視聴実績、広告収入の配分を明らかにしていない。放映の「到達範囲」と国際事業の「採算」は別の指標だ。本稿で焦点を当てるのは、画面の向こうに増えた接点が、国内クラブの経営にどう結び付くかという問題である。
放映先は七つの国・地域へ
Jリーグの2026/27シーズンの公表資料には、中国のK-BALLとSUQIU SPORTS、香港のMyTV Super、マカオのM Plus、オーストラリアのStan Sport、ベトナムのVTV、タイのBG SPORTS、ブラジルのCanal GOATが並ぶ。日本や放映権販売地域などを除く世界向けには、国際版YouTube「J.LEAGUE International」でJ1を毎節最大4試合、英語実況付きでライブ配信する仕組みだ。[1][2]
「世界で見られる」といっても全試合があらゆる国で無料視聴できるわけではない。権利販売地域では別事業者が窓口となり、放映する大会や試合数がそれぞれ異なる。マカオとオーストラリアについてJリーグは、J1を毎節4試合と説明する。中国のK-BALLはJ1とJ2を対象とする一方、新設のSUQIU SPORTS枠はJ3のFC琉球戦に限られる。国・地域数だけを足し算して市場規模を語るのは正確ではない。[3]
タイで映る札幌、大宮、奈良
放映権の構造を理解するうえで興味深いのがタイだ。BG SPORTSのYouTubeチャンネルはJ1に加え、J2の北海道コンサドーレ札幌とRB大宮アルディージャ、J3の奈良クラブの全試合を対象としている。特定のクラブを軸に海外向けの下部リーグ映像を編成する形で、J1の順位表だけでは説明できない需要を探ろうとしている。[1]
個別クラブの海外人気は、選手の出身地、地域間の交流、スポンサーの販路、現地メディアの編集方針などで変わり得る。ただし、今回のクラブ別放映がどの理由で選ばれたかについて、発表資料には詳細な商業分析はない。特定国の選手人気が契約を成立させた、と断定すべきではない。重要なのは、従来なら国内視聴者が主対象だったカテゴリーに、海外販売可能な権利としての価値が生まれるかを検証できる段階に来たことである。
1993年、十クラブから始まった
Jリーグが1993年5月15日に開幕した時、加盟は10クラブだった。1999年にJ2、2014年にJ3が発足し、現在は60クラブが42都道府県に広がる。日本プロサッカーリーグの理念は、単に優勝を争うことだけではなく、地域に根差したスポーツクラブを核としてスポーツ文化を育むことにある。[6][7]
この仕組みには強みと制約がある。町の名前を背負うクラブは学校、自治体、地元企業と接点を作りやすい。一方で、ホームタウンの人口と購買力だけでは大規模な選手投資やスタジアム改善に限界がある。海外放映は本来の地域密着を捨てるためではなく、地域ブランドの価値を国境の外でも伝える補助線となり得る。しかし、海外の視聴者が地元の有料会員やチケット購入者になるわけではない。収益化には別の導線が要る。
国内の2395億円契約と混同しない
日本の放映事業が大きな経済規模を持つことは、2023年3月にJリーグとDAZN Groupが2023~2033年の11年間で約2,395億円の新たな放映権契約に合意した事実から分かる。契約にはレベニューシェアの考え方が含まれ、対象大会や権利の範囲も定められている。だが、この数字は国内を中心とするDAZNとの契約条件であり、今回の海外向け契約の売上高ではない。[8]
海外事業の本当の規模を知るには、国・地域ごとの保証権利料、広告収益分配、制作・字幕・実況費、送出費用、海賊版対策、マーケティング投資を合わせて見る必要がある。無料YouTubeの再生回数が増えても、それだけで有料放映権の価値が上昇するとは限らない。反対に、無料配信が新規ファンの発見に役立ち、その後のスポンサー獲得につながる可能性もある。両者の因果関係は公開数字だけでは確定できない。
スポンサーに必要なのは「映る国」より「届く人」
海外進出を目指す企業にとって、クラブとの提携は現地顧客への接触手段となる。食品、旅行、金融サービス、教育、消費財といった業種では、現地語でのSNS発信や動画クリップ、現地イベントと中継露出を組み合わせることで価値を作れるかもしれない。ただし、スポンサー契約に海外視聴指標や地域別露出保証が付くかどうかは、クラブごとに確認すべき事項だ。
クラブが掲示板の広告を「海外でも映っています」と売り込むだけなら、商談は長続きしない。何人が見たか、どれだけ視聴したか、どの都市で反応があったか、商品認知や販売に影響したか。スポンサー担当者が求めるのは、放送地域の地図より測定可能な成果である。放映映像の切り抜き権利や二次利用の許諾範囲も、契約価値を左右する。
秋春制への転換が持つ意味
2026/27シーズンは、長く親しまれた年初開幕・年末終了の暦から、8月開幕・翌年6月終了のカレンダーへ本格的に移った節目に当たる。海外の主要リーグとの日程の重なり方や選手移籍の時期が変わるため、番組編成や国際ビジネスの検討条件にも影響する。ただし、日程を合わせるだけで視聴者が増えるという証拠はない。[9]
Jリーグは国内クラブの地域的な厚みと、国際的に通用するトップ層の価値向上を両立させようとしてきた。海外放映拡大はその戦略を映像流通の側から支える。しかし、競合する世界各国のサッカー中継の中でJリーグを継続視聴してもらうには、試合映像そのものの品質に加え、実況、選手の物語、現地時間に合った配信、検索しやすいハイライトが欠かせない。
数字が示される次の段階へ
9月30日のFC琉球の中国向け放映は、小さな事実だが象徴的だ。琉球の名前を冠したクラブが国境を越えて中継される。地域密着から始まったJリーグが、60クラブそれぞれの価値を海外へ届けようとする姿がそこにある。
ただし、契約数の増加がクラブ収益、選手育成費、観戦者数、地域への投資に結び付くかは、これから検証する課題だ。必要なのは「どこで見られるか」の一覧表の次に、「誰が、どれだけ見て、誰にどんな収益をもたらしたのか」を継続して説明することだろう。
出典・参考資料
公開資料の確認基準日:2026年10月8日(日本時間)。海外放映権料、地域別視聴者数、収益配分は、確認した資料では非開示。
