世界の核融合競争では、「トカマク」という言葉が主役になりやすい。フランスで建設中のITERも、日本のJT-60SAも、米国の多くの民間計画も、基本形はドーナツ状のプラズマへ大きな電流を流し、外部磁場と組み合わせて閉じ込めるトカマク方式だ。

だが岐阜県土岐市では、日本が約40年かけて育ててきた別の系譜が商用化へ踏み出している。核融合科学研究所(NIFS)発のスタートアップ、株式会社Helical Fusionは、ヘリカル型の最終実証装置「Helix HARUKA」をNIFS敷地内で建設中だ。ロイターによると、第1段階の設備は大部分が完成し、2027年に予備的な通電試験を始める計画である。

HARUKAはまだ「発電所」ではない: Helical Fusion自身はHARUKAを、将来の発電初号機Helix KANATAに必要な高温超伝導マグネットやブランケット/ダイバータ系などを統合して検証する「最終実証装置」と位置づける。HARUKAの2027年通電は商用核融合発電の開始でも、正味発電の実証でもない。
2027年第1段階HARUKAで予備通電試験を始める計画。
約2THelical FusionがHARUKAに掲げる磁場強度。
1年以上HARUKAが目標とする連続運転期間。稼働率目標は80%超。

ヘリカル型は「プラズマ電流に頼らない」

核融合発電の基本課題は、1億度級のプラズマを壁に触れさせず閉じ込めることだ。磁場をねじれた形に作れば、荷電粒子を閉じ込めやすくなる。

トカマクは、外部コイルの磁場に加え、プラズマそのものへ大きな電流を流してねじれた磁場を作る。一方、ヘリカル型/ステラレータ型は、複雑な形状の外部コイルだけで三次元のねじれ磁場を作る。

この違いには大きな意味がある。トカマクではプラズマ電流の制御が運転の中心課題となり、電流が急速に失われるディスラプションへの対策も必要になる。ヘリカル型は大きなプラズマ電流を必要としないため、原理的に定常運転との相性が良く、急激な電流崩壊に由来するリスクを避けやすい。

代わりに、磁場を外部だけで三次元に作るコイルは難しい。形状が複雑で、製造精度、巨大電磁力、冷却、保守性が工学上の壁になる。

日本のヘリカル研究はLHDで世界級になった

日本ではヘリオトロン系の研究が長く続き、1980年代に大学共同利用の大型装置をつくる計画が進んだ。1989年に核融合科学研究所が設立され、大型ヘリカル装置LHD(Large Helical Device)の建設が始まった。

LHDは1997年に完成し、1998年3月31日に初プラズマ。巨大な超伝導ヘリカルコイルを使う世界有数の装置として、27年以上にわたりプラズマ閉じ込めを研究した。

2017年には重水素実験で、核融合炉に必要とされる目安の一つである1億2000万度のイオン温度を達成。長時間プラズマでは3268秒、約54分28秒の維持実績も持つ。

2025年12月25日、LHDの実験運転は終了した。27年以上で行ったプラズマ放電は20万回を超えた。

研究装置と発電炉の間には「工学の谷」がある

LHDが大きな成果を出しても、それだけでは発電所にならない。

プラズマ研究装置では、温度、密度、閉じ込め時間、安定性などを測ることが主要目的になる。発電所ではそれに加えて、磁石を何年動かすか、熱をどう取り出すか、核融合で生まれる中性子をどう受け止めるか、トリチウム燃料をどう増殖・回収するか、壊れた部品をどう交換するか、年間何%稼働できるかまで設計しなければならない。

Helical Fusionの事業は、この「研究装置から発電設備へ」の谷を埋めることを狙っている。

Helical Fusionは2021年、NIFSからスピンアウトした

株式会社Helical Fusionは2021年10月22日設立。NIFSの研究成果活用制度を使ったスピンアウトとして生まれた。

共同創業者で代表取締役CEOは田口昂哉(たぐち・たかや)氏。金融、発電プラント輸出ファイナンス、M&A、新規事業などを経験した。CTOの宮澤順一氏はNIFS教授を経て、プラズマ実験、高温超伝導、ブランケット、ダイバータなどの研究を担ってきた。

これは研究者だけのスタートアップでも、金融家だけのエネルギー企業でもない。商用炉設計を中心に、NIFS由来の技術者と事業開発人材を組み合わせる体制を取る。

2025年、高温超伝導コイルが一つの関門を越えた

ヘリカル炉の最大の工学課題の一つは、複雑なねじれ形状の超伝導コイルだ。

Helical Fusionは2025年、高温超伝導(HTS)材料REBCOを用いたコイルの性能実証に成功したと発表した。会社は、核融合装置内部に相当する磁場環境を再現し、超伝導状態で安定した電流を流したとしている。

REBCOは希土類バリウム銅酸化物系の高温超伝導体。従来の超伝導材料より高い温度・高い磁場条件で使える可能性があり、核融合炉の磁石を小型・高磁場化する技術として世界的に注目されている。

ただし「高温」といっても常温ではない。超伝導状態には依然として低温冷却が必要であり、巨大な電磁力に耐える構造、接続、クエンチ保護、長期信頼性が重要になる。

HARUKAは何を統合するのか

Helical Fusionの公式ロードマップでは、HARUKAのヘリカルコイル主半径は約1メートル以上、磁場強度は約2テスラ。高温超伝導REBCOマグネットを使い、ECRH(電子サイクロトロン共鳴加熱)でプラズマを加熱する。

さらに重要なのがブランケット/ダイバータ系である。

商用D-T核融合では、重水素とトリチウムの反応で高エネルギー中性子が生まれる。ブランケットはその中性子のエネルギーを受け止め、熱として回収し、同時にリチウムとの反応でトリチウムを増殖する役割を持つ。

Helical Fusionは液体金属を利用するブランケットを開発している。液体なら、固体材料の交換とは異なる保守方法や燃料回収を設計できる可能性がある一方、腐食、MHD効果、材料適合性、トリチウム管理など新しい難題も出る。

ダイバータは「燃えているプラズマの排気口」

プラズマを閉じ込めるだけでは発電炉は成立しない。核融合反応で生まれたヘリウム「灰」や不純物、過剰な熱を炉心から外へ逃がす必要がある。

その役割を担うのがダイバータだ。発電炉では極めて高い熱流束を受けるため、材料寿命と保守が重大な課題になる。

ヘリカル型では磁場構造が三次元であるため、ダイバータ設計もトカマクと同じではない。HARUKAが「磁石だけ」のデモではなくブランケット/ダイバータを統合対象にしているのは、会社がプラズマ物理より商用炉工学を前面に出しているためだ。

2027年の通電試験で何が分かるのか

ロイターによれば、HARUKAの第1段階では最初のらせんコイルの建設がほぼ完了し、2027年に予備通電試験を始める。まず磁石、電源、冷却、構造体、制御系が設計どおり動くかを確認する段階である。

その後、第2のコイルや主要部品、液体金属壁ブランケットなどを追加し、2030年ごろに完成した統合設備の通電試験を行う計画と報じられている。

ここで「power-on」という英語を「発電」と誤読してはいけない。通電試験は設備へ電力を入れて磁石や装置を動かす試験であり、電力を系統へ送り出す発電実証とは別物だ。

HARUKAが試すもの/KANATAが目指すもの

項目Helix HARUKAHelix KANATA
位置づけ最終・統合実証装置発電初号機
目的HTS磁石、ブランケット/ダイバータ等の統合検証「定常」「正味」発電と保守性の実証
主半径約1m〜約10m〜
磁場約2T約7T
連続運転目標1年以上1年以上
稼働率目標80%超80%超
発電正味発電の実証装置ではない2030年代の正味発電を目標

「正味発電」は核融合発電の本当の境界線

核融合のニュースでは「プラズマを作った」「入力したレーザーより多くの核融合エネルギーが出た」といった異なる指標が同じ「ブレークイーブン」という言葉で語られることがある。

商用発電で重要なのは発電所全体だ。磁石の冷却、プラズマ加熱、真空ポンプ、燃料循環、制御、熱交換、発電設備などが使う電力を含めても、外へ売れる電気が残る必要がある。

Helical FusionがKANATAで掲げる「正味発電」は、このプラント全体の工学的な意味を意識した目標である。HARUKAはその前段で、長時間動かせる機器を統合する。

定常運転はヘリカル方式の最大の売り

商用発電所は数秒や数分だけ動いても価値がない。保守停止を除けば、長期間安定して運転する必要がある。

ヘリカル型は磁場を外部コイルだけで作るため、定常運転に向く。LHDはこの特性を生かし、3268秒の長時間プラズマを実証した。

ただし発電炉の「1年間連続運転」は54分のプラズマ維持を単純に2万倍すればよい問題ではない。壁材、ブランケット、熱除去、冷却系、真空、燃料循環、部品の劣化まで同時に耐えなければならない。

HARUKAの1年以上という目標は、まさにその工学側を前面に置いた数字である。

日本政府も「多様な方式」を国家戦略にした

日本政府は2023年に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定し、2025年に改定。2026年には社会実装へ向けた道筋を具体化した。

第7次エネルギー基本計画は、ITERやJT-60SAで培った技術を活用しながら、トカマク、ヘリカル、レーザーなど多様な方式で発電実証を進める方針を明記している。

2026年の経済産業省ロードマップには、京都フュージョニアリングのトカマク系計画、Helical Fusionのヘリカル型、EX-FusionやBlue Laser Fusionのレーザー方式など複数の民間計画が並ぶ。

つまり国は、現時点で一つの方式を勝者に決めていない。技術的な不確実性が大きいからこそ複数方式を走らせる戦略だ。

なぜ世界ではトカマクが主流なのか

トカマクは1960年代以降、世界の磁場閉じ込め核融合研究の中心になった。比較的単純な軸対称形状で高性能プラズマを得やすく、長年の研究蓄積も大きい。

ITERはその集大成であり、日本のJT-60SAもトカマク。米Commonwealth Fusion Systemsなど多くの民間企業もトカマクを選ぶ。

ステラレータ/ヘリカルはプラズマ電流を不要にできる反面、コイル設計・製造が難しく、三次元磁場の最適化も複雑だった。

しかしコンピューター設計、高温超伝導、精密製造が進むと、その弱点の一部は縮小する。ドイツのWendelstein 7-Xと日本のLHDが長年蓄積したプラズマ物理も、民間参入の基盤になっている。

HARUKAの成功条件は「プラズマができた」だけではない

もし2027年の通電試験が予定どおり進んでも、それは第一歩だ。

高温超伝導コイルは設計磁場で安定するか。長時間運転で熱侵入や電磁力に耐えるか。液体金属は材料を腐食しないか。ブランケットからトリチウムを安全に回収できるか。ダイバータの熱負荷を処理できるか。遠隔保守で部品交換できるか。

そして最終的には、その全てを安価に建設し、発電所として許認可を取り、電力市場で競争できる必要がある。

田口CEOもロイターに、商用運転までには技術だけでなくコスト、安全性、建設スピードなど複数のハードルがあると述べている。

核融合は「放射性廃棄物がない」わけではない

核融合には核分裂炉のような連鎖反応はなく、燃料供給を止めれば反応は維持できない。高レベル放射性廃棄物や炉心溶融のリスク構造も核分裂とは異なる。

しかしD-T核融合では14.1MeVの高エネルギー中性子が大量に発生し、炉内構造材を放射化する。トリチウムも放射性物質であり、燃料管理が必要だ。

したがって「放射性廃棄物ゼロ」「完全に安全」という表現は正確ではない。課題は、材料を低放射化し、交換・保管・廃棄の負担をどこまで小さくできるかである。

燃料にも工学がある

重水素は海水に豊富に存在するが、トリチウムは自然界に大量には存在しない。発電炉では核融合で出る中性子をリチウムへ当て、炉内でトリチウムを増殖して燃料サイクルを成立させる必要がある。

つまり商用炉は「プラズマが燃えた」だけでは完成しない。必要なトリチウムを自ら作り、回収し、損失を抑え、安全に再注入できなければならない。

Helical Fusionがブランケットを早い段階から開発対象にしているのは、この燃料自立性を商用化の中心問題と見ているからだ。

1980年代: 日本のヘリオトロン研究が発展。LHD計画が具体化。

1989年: 核融合科学研究所設立、LHD建設へ。

1998年: LHD初プラズマ、実験開始。

2017年: LHD重水素実験で1億2000万度級のイオン温度を達成。

2021年: NIFSスピンアウトとしてHelical Fusion設立。

2025年: HTSコイル実証、HARUKA建設フェーズへ。12月、LHD実験終了。

2026年: NIFS敷地でHARUKA第1段階建設が進展。

2027年: HARUKA予備通電試験を計画。

2030年頃: 統合HARUKA設備の通電試験を目指す。

2030年代: Helix KANATAで「定常」「正味」発電を目標。

2040年代: 会社は商用発電所運転を視野に置く。

研究所の装置から「売れる電気」まで

日本のヘリカル研究は、物理の面ではすでに世界の先頭集団にいる。LHDは27年にわたり、超伝導コイル、長時間プラズマ、高温プラズマ、三次元磁場閉じ込めの知見を蓄積した。

しかし発電所の価値は論文数では測れない。年間どれだけ動くか。何年で建てられるか。保守停止は何日か。部品はいくらか。送電端で何MW残るか。

HARUKAは、その評価軸を研究所から工場へ移す装置になる。

成功すれば、世界の核融合競争に「日本が長年研究してきたヘリカル型」という別ルートを残せる。失敗すれば、コイル、ブランケット、保守、コストのどこが商用化を止めるのかが具体的になる。

2027年の通電試験で太陽が生まれるわけではない。

だが、NIFSが1998年にLHDで初プラズマを作ってから約30年。日本のヘリカル核融合は初めて、「研究できる装置」から「電力を売れる装置」へ向かう工学試験を本格化させようとしている。

主な出典と取材メモ

  1. Helical Fusion「Helix Program」 — Helix HARUKAとHelix KANATAの公式位置づけ、高温超伝導REBCOマグネット、液体金属ブランケット、磁場約2T、1年以上連続運転・稼働率80%超という目標を確認。
  2. Helical Fusion「ABOUT US」 — 2021年創業、核融合科学研究所のスピンアウト、2025年10月のHARUKA製造・建設着手など会社沿革。
  3. Helical Fusion「TEAM」 — 代表取締役CEO田口昂哉、CTO宮澤順一、副CTO後藤拓也らの公式表記と役職を確認。
  4. Helical Fusion(2026年9月)SMART ENERGY WEEK告知 — 岐阜県で建設中の最終実証装置Helix HARUKAの最新状況を確認。
  5. Helical Fusion: HARUKA建設地発表 — NIFSサイトでの建設、LHDの3268秒プラズマ実績、HARUKAからKANATAへの開発段階を確認。
  6. Helical Fusion 高温超伝導マグネット実証 — 2025年のHTSマグネット試験と統合実証装置段階への移行を確認。
  7. 核融合科学研究所「History of NIFS」 — LHD構想、建設、1998年実験開始、2017年重水素実験開始、2022年終了などの公式年表。
  8. 核融合科学研究所「LHD Experiment Completed」 — LHDが2025年12月25日に実験終了、27年以上で20万回超のプラズマ実験を実施した一次資料。
  9. 核融合科学研究所「LHD Project」 — ヘリカル方式が外部コイルのみでねじれた磁場を形成し、定常運転に利点を持つという公式技術説明。
  10. 核融合科学研究所(2021年)LHD・W7-X解説 — ヘリカル/ステラレータ方式とトカマク方式の違い、LHDで1億2000万度を達成したことを確認。
  11. 内閣府「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」 — 2025年改定戦略、2026年の社会実装方針、官民投資ロードマップ。
  12. 経済産業省・資源エネルギー庁 第7次エネルギー基本計画 — トカマク、ヘリカル、レーザーなど多様な方式で世界初の発電実証を目指す政府方針。
  13. 経済産業省 革新炉WG フュージョンエネルギーロードマップ — Helical FusionのHARUKA/KANATA計画を政府資料内の民間発電実証計画として確認。
  14. ロイター(2026年9月29日) — HARUKAの第1段階建設、2027年予備通電試験、2030年頃の統合設備通電、KANATA計画、田口CEO発言を報道。

本稿は2026年9月30日までに公開された資料を基に作成した。2027年のHARUKA予備通電試験は発電実証ではなく、第1段階の磁石・電源・冷却・構造・制御等の設備試験として記述した。2030年頃の統合設備通電、2030年代のKANATA正味発電、2040年代の商用運転はいずれも会社の計画・目標であり、技術達成・規制認可・資金調達・建設工程を保証するものではない。2025年HTSコイル試験の『世界初』等の表現は会社発表に基づくため、本稿では独立認定された世界記録として扱っていない。

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