受賞はゴールではない。売れる名物になるかは、これから問われる。
2つの準グランプリ、その前にあった「日本一」
10月12日、水戸市の茨城県三の丸庁舎で開かれた「シン・いばらきメシ総選挙2026」の表彰式。茨城県五霞町は、一般料理部門とスイーツ部門の双方で準グランプリを獲得した。44市町村が競う催しで、1つの町が異なる2部門の上位に入ったことは、単なる食の話題にとどまらない。前回2024年、一般料理部門を「シン・茨城あげそば」で制した町が、優勝した商品の発想を組み替え、新しい味と売り方に挑んだ結果だからだ。
2026年の一般料理部門グランプリは鹿嶋市の「シン・かしまし豚丼~常陸乃国しらすとともに~」、スイーツ部門グランプリは日立市の「もっちりんごSUN~チーズケーキのベーグルサンド~」。五霞町は2部門とも優勝ではない。町が公表した「準グランプリ」という順位を正確に受け止めることから、食によるまちづくりの実像が見えてくる。
肉まんと揚げそばを、一皿に
一般料理部門の受賞作は「五霞包(ゴカバウ)~シン・茨城五目 カリッ・ふわっ・トロッ食感~」。茨城県産の銘柄豚「ローズポーク」を使う肉まんに、白菜、ニンジン、長ネギ、キクラゲ、大根おろしなどの県産野菜を用いた五目あんを合わせ、香りの強い「常陸秋そば」の揚げそばを重ねた。カリッとしたそば、ふんわりした生地、とろみのあるあん。この食感の対比が商品の主題だ。
肉まんの「包む」技法と、2024年の優勝作にあった揚げそばを結びつける発想は、地元の食材を単に並べるのとは異なる。消費者が味の違いを短時間で理解し、思わず人に説明したくなる構成だ。ただし、町の説明は企画者側の評価であり、客観的な官能評価や継続販売の実績まで示しているわけではない。
五層に込めた町の「五」
スイーツ部門の「シン・茨城OIMOンブラン」は、五霞町の「五」を五層で表現した。町の案内によれば、米粉ワッフル、焼き芋ペースト、生クリーム、スイートポテト生地を絞ったモンブラン、サツマイモチップスを順に組み合わせる。紅はるかの焼き芋やコシヒカリの米粉など、県産食材を生かした設計だ。
茨城のサツマイモは、青果としてだけでなく、干し芋や菓子という加工の歴史を持つ。五霞町の一品は、イモという素材の知名度を現代のスイーツの形に移し替えたものといえる。見た目の高さや五層の断面は販売現場での訴求力になりうるが、保存性、製造手間、原価率は公開資料からは判断できない。
2024年から続く「食の選挙」
大会は2024年に初めて開催された。県内の自治体が地域素材を使う料理や菓子を持ち寄り、投票と審査を通じて販路拡大や観光資源としての可能性を競う仕組みだ。2026年は10月10〜12日の3日間に行われ、実行委員会によると44市町村から一般料理40品、スイーツ42品の計82品が出品された。来場者は延べ約6万3千人と発表された。
投票の数だけで最終順位が決まるわけではない。事前投票と会場投票で絞られたファイナリストを、審査員が味、見た目、新規性、演出、販路や観光への発展可能性などを基準に評価する。この複数段階の仕組みを理解しなければ、「ネットで一番人気」や「食べた人全員が選んだ」といった誤解を招く。
小さな町が「名物」をつくるという仕事
地域の名物は昔から存在したように語られがちだ。しかし、伝統食と現代のご当地グルメは必ずしも同じではない。イベントを契機に誕生する料理には、地域をひと目で連想させ、材料調達から調理、販売、宣伝までを地元で続ける仕組みが求められる。五霞町の場合は、県産豚肉とそば、サツマイモと米粉という、農業と加工の連携が編集上の焦点になる。
関東平野の県境に位置する五霞町を知らない読者にとって、料理は地図への入口だ。一方、県産品を使うことと、すべての原料が五霞町内で生産されることは違う。原材料の産地表示を巡っては、県産と町産の区別を曖昧にしない姿勢が重要になる。
表彰台の次に待つ「道の駅」
五霞町は受賞した2品を「道の駅ごか」で販売する予定だと発表した。ただし10月15日現在、販売開始日や常設販売の条件は示されていない。町外から人が訪れる道の駅は、催事の話題を継続した購買行動につなげられるかどうかを測る場所となる。
大会会場での販売価格は町の案内によると500円だった。しかし、これを道の駅での将来の販売価格とみなすことはできない。常設メニューにするには、厨房の設備、作り置きによる品質変化、供給量、衛生管理、担い手の確保を解決しなければならない。賞の受賞は商売の始まりであって、完成ではない。
観光の数字では測りにくいもの
食の祭典の経済効果は、総来場者数だけから推し量れない。催しの来場者が現地で食べたことと、後日五霞町を訪ね、別の店で買い物をし、宿泊や周遊につながることの間には距離がある。町のブランド認知の変化を測るには、販売食数、リピート率、原材料の地元調達額、事業者の継続参加などが必要だ。
成功を何で測るのかは自治体にとって政策課題でもある。新たな担い手が育ち、調理技術が次の世代に引き継がれ、消費者が地域の名を覚える。その成果を受賞歴とは別に確認できれば、地方創生という大きな言葉が生活に近づく。
誰がつくり、誰が利益を得るのか
公表資料には食材と品目の説明がある一方、各商品について最終的にどの事業者が製造を担い、原価と収益をどう分け合うかという詳細は十分に示されていない。開発・販売に関わる事業者に直接取材し、食材調達の仕組みや採算、労働負担を確かめたい。
料理を地域の看板にする時、写真映えだけでは続かない。食べておいしいこと、安全に提供できること、つくる人が続けられること。その三つがそろう必要がある。賞を取っただけで地域経済が再生したとするのは早計だ。
二つの銀賞を、次の一皿へ
2024年のグランプリと2026年の2つの準グランプリを並べると、五霞町の戦略が見えてくる。かつての優勝作をそのまま復刻するのではなく、その特徴を別の商品に生かした。甘味部門では町名の一文字を五層の意匠にし、品目そのものを町の名刺に仕立てた。
次のニュースは、表彰式ではなく販売初日になるだろう。道の駅で価格はいくらになるのか。何食売れ、何人が再訪するのか。五霞町が食を通じて広げようとしているのは、一度きりの拍手ではなく、町を知り、また訪れるきっかけである。
