
経済安全保障 / Monday Long Read
外国投資審査、日本版CFIUSが動き出す
開かれた投資市場を保ちながら、半導体、AI、防衛、通信、データをどう守るのか。FEFTA改正は、日本が経済安全保障を制度化する月曜日のニュースである。

経済安全保障 / Monday Long Read
開かれた投資市場を保ちながら、半導体、AI、防衛、通信、データをどう守るのか。FEFTA改正は、日本が経済安全保障を制度化する月曜日のニュースである。
日本の投資市場は長く「開かれていること」を成長戦略の看板にしてきた。海外ファンド、年金、戦略投資家、テック企業。彼らが日本企業に資本を入れ、経営改革を迫り、眠っていた現金を動かすことは、東京市場の再評価を支えてきた。しかし2026年、その入口に新しい警備員が立とうとしている。名前はまだ定着していないが、政策関係者はそれを「日本版CFIUS」と呼ぶ。
ロイターは6月12日、日本が米国と連携しながら外国投資審査の枠組みを強化していると報じた。片山さつき財務相は、地政学リスクの高まりを受けて日本の審査制度を西側標準に近づける必要があると説明し、省庁横断型の新しい審査体制が近く動き出す見通しを示した。日本の制度は米国のCFIUSそのものではない。しかし考え方は似ている。取引が完了してから「重要技術が流出した」と気づくのでは遅い。資本の入口で、誰が、何を、どの目的で取得しようとしているのかを見る。
日本の外国投資審査の土台は、外国為替及び外国貿易法、いわゆるFEFTAである。もともとは戦後の外為管理、貿易、資本移動を扱う法律だったが、冷戦後の自由化、グローバル化、そして経済安全保障の時代を経て、いまは重要企業への外国投資をチェックする制度の柱になった。
FEFTAの審査対象は、すべての投資ではない。防衛、原子力、航空、宇宙、通信、サイバー、電力、ガス、鉄道、石油、半導体、医薬品、重要素材など、指定業種や「コア業種」にかかわる投資が中心だ。外国投資家がこうした企業の株式を一定以上取得し、経営に関与する可能性がある場合、事前届出や審査が求められる。
今回の議論を理解するには、2019年の改正を見る必要がある。日本はそのとき、上場会社への外国投資で事前届出が必要になる基準を、指定業種について10%から1%へ大きく下げた。表向きには、重要技術を持つ企業をより早い段階で見守るためだった。背景には、米中対立、中国企業による先端技術獲得への懸念、同盟国との制度調和があった。
しかし1%基準は別の問題を生んだ。届出件数が急増したのである。ロイターによれば、2020年以降の平均届出件数は年間2,000件を超え、改正前の約500件から大幅に増えた。審査当局の負担は重くなり、低リスクの投資まで手続きに巻き込まれるとの不満も広がった。つまり、日本は二つの目的を同時に満たす必要に迫られた。危ない取引は早く深く見る。安全な資本は止めない。
2026年の改正は、その矛盾を整理しようとするものだ。法律事務所や実務家の解説によると、改正の柱は複数ある。第一に、間接取得の捕捉である。たとえば外国企業が海外の持株会社を買収し、その結果として日本の重要企業の株式を間接的に支配する場合、従来制度では見えにくい穴があった。新制度は、こうした構造をより明確に対象に入れる。
第二に、事後介入の強化である。事前届出の対象外だった取引でも、あとから経済安全保障上のリスクが判明した場合、政府がリスク低減措置を求めたり、場合によっては株式処分を命じたりできるようにする方向だ。ロイターは、財務省の検討で、最大5年の遡及レビューや高リスク投資家への是正措置が議論されたと報じている。
第三に、省庁横断の審査体制である。これが「日本版CFIUS」と呼ばれる部分だ。米国のCFIUSは財務省を議長とする省庁横断委員会で、外国投資が国家安全保障に与える影響を審査する。日本でも財務省、経産省、外務省、防衛省、内閣官房、関係省庁がより一体的に情報を共有し、判断する枠組みが求められている。
日本が守ろうとしているものは、かつての「軍需企業」だけではない。半導体製造装置、センサー、産業用ロボット、蓄電池、医薬品、AIモデル、クラウド、通信ネットワーク、衛星、海底ケーブル、発電システム、港湾や空港。民生技術と軍事技術の境目が薄くなり、企業買収や株主提案を通じて非公開情報へ近づくこと自体がリスクになる。
政府にとって難しいのは、投資そのものを疑いすぎれば日本市場の魅力が落ちることだ。東京証券取引所の改革、企業統治改革、PBR改善、アクティビスト投資、M&Aの活発化は、いまの日本経済に必要な圧力でもある。外国資本は悪ではない。むしろ日本企業の改革を進める力でもある。だからこそ制度設計は、広く止めるのではなく、鋭く見分ける必要がある。
米国はCFIUSを通じて、中国系資本、半導体、通信、データ、港湾、重要インフラに関わる取引を厳しく見るようになった。日本が米国と連携する理由は、単に制度をまねるためではない。サプライチェーンは国境をまたぐ。日本企業が持つ素材や装置が、米国の防衛産業や半導体製造に組み込まれている場合、東京の審査はワシントンの安全保障にも関係する。
また、米国側から見れば、日本が穴になっては困る。米国で止められた投資が、日本企業の買収や間接取得を通じて同じ技術へ近づく可能性があるからだ。日米の審査協力は、同盟の新しい形でもある。艦船や基地だけでなく、投資審査官、企業データ、実質支配者情報、制裁情報が安全保障の言語になっている。
日本版CFIUSが成功するかどうかは、透明性にかかっている。投資家にとって最も困るのは、何が危険で、何が安全で、どれくらい時間がかかり、どのような条件なら通るのかが見えないことだ。米国CFIUSは強力だが、手続きの予見可能性も重視される。日本が同じ道を進むなら、低リスク投資の免除を明確にし、高リスク取引への基準を説明し、審査期間と救済措置を分かりやすくする必要がある。
日本は資本を必要としている。地方企業、半導体工場、AIインフラ、再エネ、医療、物流、データセンター、防衛スタートアップ。すべてに国内資本だけでは足りない。だが同時に、重要企業を安く売り、気づけば技術とデータの支配権が海外に移っていた、という事態も避けたい。
外国投資審査は、地味な制度ニュースに見える。しかしこれは、円安、M&A、半導体、AI、防衛、データ、対中リスク、日米同盟を一本につなぐ政策である。日本は閉じるのではなく、選別する国になろうとしている。問題は、その選別が賢いかどうかだ。
日本版CFIUSは、資本市場の門番であると同時に、国家戦略の鏡である。何を歓迎し、何を疑い、何を守るのか。その答えは、次の日本経済の形を静かに決めていく。