ブラジルと再び向き合う意味
6月の米ヒューストン。日本代表はブラジルを相手に前半を1点リードして折り返した。しかし、後半に追いつかれ、終了間際に逆転を許す。ワールドカップ決勝トーナメント1回戦、1―2。あと一歩の先に何が足りなかったのか。その問いに再び向き合う機会が、11月のシンガポールで訪れる。
日本サッカー協会(JFA)は11月4日、シンガポールで開催される「MIZUHO BLUE CHALLENGE THE KALLANG FOOTBALL SERIES SINGAPORE」に臨むSAMURAI BLUEのメンバーを発表した。14日にブラジル、17日にパラグアイと対戦する。舞台は両試合ともシンガポール・ナショナルスタジアムだ。
勝敗の記録を増やすだけの遠征ではない。南米の強豪を前に、ボールを奪った後の判断、守備の連動、攻撃の最後の精度をどう高めるか。2027年のアジアカップを見据え、森保一監督が現在のチームに何を残すのか。選手選考から、その構想を読み解きたい。
28人を選出、福田師王が初招集
今回の発表はGK3人、DF8人、MF/FW17人の計28人。ゴールキーパーには早川友基、小久保玲央ブライアン、鈴木彩艶が名を連ねた。守備陣は板倉滉、渡辺剛、町田浩樹、伊藤洋輝、瀬古歩夢、中野就斗、菅原由勢、鈴木淳之介。海外クラブ所属者と国内組を組み合わせた陣容だ。
攻撃と中盤には伊東純也、南野拓実、鎌田大地、坂元達裕、相馬勇紀、小川航基、前田大然、堂安律、田中碧、中村敬斗、佐野海舟、久保建英、鈴木唯人、松木玖生、佐野航大、福田師王、後藤啓介が入った。JFAが「初招集」と明記したのはドイツのカールスルーエSCに所属する福田師王だけである。若手の選出をすべて初招集と扱うのは正確ではない。
14日のブラジル戦は現地時間午後6時15分、日本時間午後7時15分。17日のパラグアイ戦は現地午後9時10分、日本時間午後10時10分開始を予定する。10日から練習が組まれているが、天候や選手の状態によって日程は変わり得る。発表の段階で先発11人や実際の起用法が決まったわけではない。
2025年の初勝利、2026年の逆転負け
日本にとってブラジルは長く「勝てない相手」だった。転機は2025年10月14日、東京スタジアムでの国際親善試合だ。前半に2点を失った日本は、後半に南野拓実、中村敬斗、上田綺世が得点し3―2で逆転。JFAはブラジルとの14度目の対戦で初勝利と伝えた。単なる番狂わせでなく、日本の選手が強豪と互角に戦う可能性を実証した試合だった。
だが2026年6月29日、W杯のブラジル戦は違う結末を迎えた。29分に佐野海舟が先制。56分にカゼミーロが追いつき、後半追加時間にガブリエウ・マルチネッリが決勝点を挙げた。日本のリードを守り切る難しさが、世界大会の舞台で浮かび上がった。
11月の対戦を「雪辱戦」と呼ぶことはできる。しかし国際親善大会の一戦で、W杯敗退そのものを取り消せるわけではない。重要なのは、押し込まれたときに守備の距離をどう保ち、相手が交代カードを切った後にも自分たちの構造を維持できるかという具体的な課題だ。
パラグアイ戦が呼び起こす2010年の記憶
もう一つの相手、パラグアイとの間にも忘れ難い歴史がある。2010年南アフリカW杯の決勝トーナメント1回戦。岡田武史監督が率いた日本は120分間を無失点で戦い抜いたが、0―0からのPK戦で3―5と敗れた。初の8強入りは届かなかった。
当時の対戦を、そのまま現在の戦術に重ねることはできない。選手も監督も変わり、国際サッカーの速度も変化した。それでも、決定機の少ない試合をどう動かすか、守備の堅い相手からどのように勝機を作るかという問いは続いている。
ブラジル戦が速い攻守の切り替えと個人能力への対応を試すなら、パラグアイ戦では焦らずに相手を動かす工夫やセットプレーの精度が焦点となり得る。もちろん相手が実際にどんな布陣を採るかは現時点では分からない。過去のイメージだけで試合内容を決めつけるべきではない。
森保監督の任期と、大岩剛への継承
選考の背景には、指揮官の交代時期がすでに示されているという事情がある。JFAは7月23日、森保一監督が2027年のAFCアジアカップ・サウジアラビア大会終了まで続投すると発表した。その後はU―21日本代表を率いる大岩剛監督がA代表を引き継ぎ、2028年ロサンゼルス五輪に向けたチームとの兼任を予定する。
今回の遠征は森保体制の「集大成」に向かう過程であり、同時に次の世代へつながる時間でもある。経験ある主力の完成度を高めながら、新しい選手をどこまで試せるか。短期の勝利と中期の育成を両立させる難しさは、代表監督の仕事そのものだ。
一度招集されたことがアジアカップの出場を意味するわけではない。また、将来の監督の具体的な人選方針が今回のリストを決めたと断言する根拠もない。明らかなのは、2027年に向けた準備期間が限られているという点だ。
3バックか4バックか、答えは配置図の外にある
10月5日のニュージーランド戦で、日本は変化を見せた。JFAの公式報告によれば、それまでの3バックから4バックへ切り替え、4―2―3―1を採用した。中野就斗、瀬古歩夢、伊藤洋輝、鈴木淳之介を最終ラインに並べ、中央では佐野海舟と鎌田大地が組んだ。上田綺世と堂安律の得点で2―1と勝ち、キリンカップ優勝を決めた。
3バックと4バックは、単なる守備人数の違いではない。ボールを保持するときの幅、サイドの選手が前進するタイミング、奪われた直後に誰が中央を埋めるのか。そうした連動が変わる。ブラジルのように個人で局面を突破できる選手がいる相手には、布陣だけでなく戻る速さと周囲の判断が問われる。
今回は板倉、渡辺、町田、伊藤、瀬古らを招集し、後方の選択肢を確保した。だが、実際の組み合わせや起用時間は試合直前の状態に左右される。選手の所属クラブや名声を並べるだけでは、守備の設計図は見えてこない。
中盤の主導権を、どこで取り戻すか
試合の流れを決めるのは、目立つシュートの瞬間ばかりではない。相手にボールを奪われた直後、中央へ入る縦パスを遮れるか。高い位置で攻撃を終えられず、逆に走らされたときに備えられるか。W杯で一度はブラジルをリードした日本にとって、攻守の間の数秒を詰める作業が重要になる。
鎌田大地、田中碧、佐野海舟らの中盤での役割と、久保建英、南野拓実、堂安律らがどの位置で受けるかは連動する。足元で受けるだけでは相手の守備は崩れない。背後への走り、前線の幅、2列目がゴール前へ入るタイミングがかみ合って初めて、創造性は得点機につながる。
ニュージーランド戦では佐野と鎌田を中央に置く形が試された。今度は守備への切り替えがさらに速い相手に対し、同じ考え方が機能するか。それとも配置を変えるのか。先発発表後の観戦では、名前以上に選手間の距離へ目を向けたい。
福田師王の初招集が示す可能性
今回のメンバー表で目を引くのは、福田師王の名前に付いた「初招集」の印だ。ドイツのカールスルーエSCに所属する若いFWは、初めてA代表の活動に加わる。海外で経験を重ねた選手に、世界の強豪と同じ練習場で自分を試す機会が与えられた。
もっとも、招集と出場は別である。公式戦でピッチに立った「代表初出場」とも区別しなければならない。指導陣は練習を通じ、パスの受け方、動き出し、相手DFとの駆け引き、周囲との連係を評価することができる。出番がなくても、強度の高い活動が次への材料になることはある。
松木玖生、佐野航大、後藤啓介らの存在も、代表の選択肢の広がりを物語る。ただし、若さだけを価値とするのは早計だ。誰がどんな役割を担い、試合の異なる局面で何を変えられるか。それを見極めることが、今回の招集の意義となる。
2試合で見極めたい攻守のポイント
ブラジル戦では、ボールを失った直後の守備、相手の速い前進への対応、押し込まれたときの逃げ道のつくり方を見たい。守備側が人数をそろえても、中央を割られることはある。誰が最初に寄せ、どの選手が背後を補うのかという連動が問われる。
パラグアイ戦では、異なる試合運びを求められる可能性がある。相手が慎重に守るなら、横パスを重ねるだけでは十分ではない。攻撃の奥行き、クロスを入れる場所、セットプレーの再現性といった細部が突破口を左右する。
ただし、親善試合の結果をそのままアジアカップの実力に換算することはできない。相手の招集事情、移動、選手のコンディション、交代の意図が違うからだ。勝敗とともに、選手同士の判断がどう改善されたかを観察する必要がある。
シンガポール開催が持つ意味
今回の大会は、シンガポールのザ・カラン・グループと電通スポーツ・インターナショナルが9月に開催を発表した。13日のシンガポール対パラグアイで始まり、14日に日本対ブラジル、17日にはシンガポール対ブラジルと日本対パラグアイが組まれている。日本がシンガポール代表と対戦する日程ではない。
複数の代表チームを招く企画は、開催地のファンにとって世界のサッカーに接する機会となる。日本にとっても、東南アジアに暮らす日本人や現地のサッカーファンへ存在感を示す場だ。2試合の間隔と移動負担を踏まえた選手起用も重要になる。
試合開始は現地時間と日本時間で1時間異なる。公式発表にある時刻を用い、変更の可能性にも注意したい。放送や配信についても、契約や地域によって条件が変わるため、確認できない予定を断定することは避ける。
W杯の悔しさを、次の90分につなげられるか
日本は2025年に初めてブラジルを破り、2026年のW杯では再びブラジルに敗れた。その間には、選手が世界の強豪と戦うための自信と、最後まで勝ち切るための課題の両方がある。10月のキリンカップでは、4バックへの変更を試みながらタイトルを獲得した。
11月の招集は、そうした経験を単に積み重ねるだけでなく、次の戦い方へ変える機会となる。森保監督の任期は2027年アジアカップまで。新たな選手を試す時間は無限ではない。勝敗に加え、守備の距離、前線の連動、交代後の修正力といった中身が評価の対象になる。
シンガポールで何が示されるかは、まだ誰にも分からない。だからこそ、メンバー発表を「豪華な顔ぶれ」で終わらせず、チームの変化を追いたい。W杯で露わになった弱点を、一つずつ埋める。その積み重ねが、次の国際大会を左右するはずだ。
出典と取材方法
日本サッカー協会の公式発表・試合記録、主催者の大会案内を照合。戦術の論点は公式の試合展開から導いた分析で、監督の発言として引用していない。
