朝食の盆を二つ思い浮かべる。一つは、ご飯、みそ汁、焼き魚、野菜。もう一つは、トースト、バター、目玉焼き、ソーセージ、サラダ。現実の日本の食卓はその間を自在に行き来し、ラーメンもカレーもパスタも牛丼も選べる。その豊かさを支えてきたのは、日本の農家だけではない。北米の小麦と大豆、飼料用トウモロコシ、豪州の牛肉、東南アジアの油脂、世界の肥料原料、燃料、船員、港湾、冷蔵倉庫が、見えない第二の田畑として食卓の背後に広がっている。
農林水産省は8月7日、2025年度のカロリーベース食料自給率が前年度の38%から1ポイント下がり、37%になったと発表した。分子の国産供給熱量は1人1日830キロカロリーで、前年度より28キロカロリー減少。分母の総供給熱量は2,237キロカロリーで、11キロカロリー減った。分子の落ち込みが大きかったため、丸める前の比率は約1.1ポイント低下した。
主因は米だった。1人1年当たりの米消費量は53.3キロから52.0キロへ2%減り、米の国産供給熱量は1日470キロカロリーと、前年度より22キロカロリー少なくなった。民間在庫が増えたことも、当年度に消費へ回った国産米を減らす形で計算に表れた。水産物、野菜、畜産物の国産熱量も減少した。
37%は「37日分」ではない
最もよくある誤解から解こう。37%だから、輸入が止まれば365日のうち135日しか食べられない、という計算はできない。現在の食べ方、廃棄、加工、飼料利用、作付けをそのまま固定した一年間の「供給の構成」を示す指標であり、緊急時に土地や労働力を何へ振り向けられるかを直接測るものではない。
計算の基礎は食料需給表である。国内消費仕向量は、おおむね国内生産に輸入を足し、輸出と在庫の増加を引いて求める。食品ごとの重さは比較できないため、米、肉、油、野菜をカロリーへ換算し、国産分を総供給分で割る。家畜が日本で育っても、食べた飼料が輸入なら、その飼料に対応する畜産物の熱量は国産から差し引かれる。
在庫が増えると比率が下がりうるのは、この指標が倉庫にある食料資産ではなく、その年度に消費へ向かった流量を数えるからだ。保管された米は消えていない。翌年度以降の供給力になりうる。それでも当年度の自給率を読む時には、畑で収穫された量と、実際に食用へ流れた量を区別しなければならない。
同じ一年に「37、45、46、66、71」がある
食料自給率の議論が混乱するのは、どの物差しを使っているかが見出しから消えやすいからだ。2025年度には少なくとも五つの重要な数字がある。
| 指標 | 2025年度 | 何を見ているか |
|---|---|---|
| カロリーベース自給率 | 37% 830 ÷ 2,237 kcal | 実際に供給された食料熱量のうち国内由来の割合。輸入飼料分を除く。 |
| 摂取熱量ベース自給率 | 45% 830 ÷ 1,850 kcal | 平時の生活に必要と政府が設定した1,850 kcalを分母にする新しい指標。 |
| カロリーベース国産率 | 46% | 輸入飼料で育てた国内畜産物も「国内生産」として数え、国内の加工・畜産基盤を見る。 |
| 生産額ベース自給率 | 66% | 国内生産額14兆4,624億円を国内消費仕向額21兆7,672億円で割る。価格変動の影響が大きい。 |
| 生産額ベース国産率 | 71% | 輸入飼料分を差し引かず、国内で生産された食料の経済活動を捉える。 |
新しい摂取熱量ベースの45%は、分子を同じ830キロカロリーのまま、分母を実際の供給2,237キロカロリーではなく、平時に必要な1,850キロカロリーとする。政府は成人男性の基礎代謝量を上回り、国民健康・栄養調査の平均摂取熱量の過去最低1,849キロカロリーを参考に設定した。供給には小売・外食・家庭で失われる分も含まれるため、「用意された熱量」と「必要な熱量」を分けて見ようという発想だ。
生産額ベースは今年、逆方向へ動いた。米の国内価格が48%上昇し、鶏卵など畜産物の価格も上がったため、国内生産額は増え、自給率は64%から66%へ上昇した。一方で野菜と魚介類は生産量がともに4%減り、生産額も減った。価格上昇で指標が改善しても、食べ物の物理量や家計の安心が改善したとは限らない。
「国産卵97%」が、自給率では11%になる理由
日本の食料依存を最も鮮やかに示すのは卵である。飼料を問わず国内で生産されたかを見るカロリーベースの食料国産率では、鶏卵は97%。スーパーの卵はほぼ国内の養鶏場から来る。ところが輸入飼料分を差し引く自給率では11%になる。鶏舎は日本にあっても、鶏の食べたトウモロコシや大豆かすの多くは海外の畑から来るからだ。
同じ差は鶏肉で65%対7%、豚肉で49%対5%、牛肉で50%対13%に広がる。畜産物全体では、国産率66%に対して自給率17%。飼料自給率そのものが24%にとどまるため、為替、海運、輸出国の天候、港の機能が、日本の牧場と食卓の間へ組み込まれている。
反対に、野菜はカロリーベースで73%を国内生産していても、水分が多く熱量が低いため、総合37%を押し上げる力は小さい。高品質な野菜、果物、魚の産地が経済・栄養・地域社会に果たす役割は、カロリー一本では十分に表れない。
| 品目 | カロリーベース自給率 | 食卓の裏側 |
|---|---|---|
| 米 | 96% | 最大の国産熱量源。ただし1人当たり消費は長期低下。 |
| 小麦 | 16% | パン、麺、菓子の原料。用途適性と安定収量が国内拡大の鍵。 |
| 大豆 | 25% | 豆腐など食用国産大豆と、油・飼料向け大量輸入を分けて見る必要。 |
| 畜産物 | 17% | 国内生産は大きいが、輸入飼料を差し引くと急低下。 |
| 油脂類 | 4% | なたね、大豆、パームなど輸入原料への依存が極めて高い。 |
| 野菜 | 73% | 比較的高い国内供給力だが、低カロリーのため総合値への寄与は小さい。 |
| 魚介類 | 46% | かつての強みが、資源変動、海水温、担い手減少で弱まる。 |
1965年、73%だった食卓
長期グラフの出発点として使われる1965年度、日本のカロリーベース自給率は73%だった。そこから1970年度60%、1975年度54%、1985年度53%、1990年度48%、1995年度43%、2000年度40%へ下がった。2000年代以降は37~40%の狭い範囲で停滞している。
この下降線を、単なる農業の敗北として読むのは半分しか正しくない。高度成長は所得を増やし、冷蔵庫、スーパーマーケット、外食、コールドチェーンを普及させた。食卓は米といもを中心とする構成から、肉、乳製品、卵、パン、麺、揚げ物へ多様化した。栄養不足から選択の豊かさへ移る過程で、国内では土地・気候・コストの制約が大きい飼料穀物、小麦、油糧種子の輸入が増えた。
米の1人当たり年間消費量は1962年度の約118キロを頂点に下がり、2025年度は52.0キロ。半分以下である。自給率ほぼ100%の食品から摂る熱量が減り、自給率の低い油脂と、輸入飼料を使う肉の熱量が増えれば、総合値は下がる。37%は農村の物語であると同時に、都市の献立の物語だ。
皮肉にも、米政策は不足だけでなく過剰と闘ってきた。需要が落ち、在庫が積み上がるなか、1971年に本格的な生産調整が始まった。水田を守りつつ、麦、大豆、飼料作物へ転換する政策が繰り返されたが、水田は水を保つために造られており、畑作物には排水改良が必要になる。湿害、収量、品質、加工業者の需要、価格がそろわなければ、「米を減らして小麦を作る」は地図上ほど簡単ではない。
1993年の空いた米棚が教えたこと
1993年、冷夏といもち病で作況指数は74まで落ち、国産米の供給量は前年より約24%減った。政府は255万トンを緊急輸入したが、国産米を求める買い急ぎが起き、店頭と業務用で混乱が広がった。「平成の米騒動」は、自給率が平均値であることを思い出させた。総合値が同じでも、主食の不作と油糧原料の輸入減は、現れる場所も代替手段も違う。
逆もまた真である。総合自給率が低くても、輸入先が分散され、航路が開き、外貨で買え、港と倉庫が動き、備蓄があれば供給は続く。自給率が高くても、干ばつ、洪水、家畜疾病、肥料や燃料不足、物流停止が国内生産を同時に襲えば安全とはいえない。食料安全保障は「国産か輸入か」の二択ではなく、国内生産、安定輸入、備蓄、代替、流通、家計アクセスを重ねる設計である。
四半世紀、目標の45%は遠ざかった
1999年の食料・農業・農村基本法は、食料自給率を政策目標へ正式に組み込んだ。2000年の最初の基本計画は2010年度に45%、2005年計画は2015年度に45%、2010年計画は2020年度に50%という高い目標を掲げた。2015年計画は2025年度45%、2020年計画は2030年度45%。基準年と期限は動いたが、実績は40%前後から上へ抜けなかった。
2024年、政府は基本法を四半世紀ぶりに本格改正し、食料安全保障を基本理念の柱に据え直した。背景には、コロナ禍の物流混乱、ロシアによるウクライナ侵略後の穀物・肥料・エネルギー高、円安、気候変動、国内の人口減少がある。2025年4月の新基本計画は、2030年度の目標をカロリーベース45%、摂取熱量ベース53%、生産額ベース69%とした。
今回の37%は、2030年度目標まで8ポイントある。しかも、1990年代末から四半世紀かけても上昇トレンドを作れていない。目標を掲げ続けるだけなら歴史の反復になる。何ヘクタールで何を作り、誰が担い、誰が買い、加工業者がどんな品質を必要とし、農家の所得が続くかまでつながなければ、パーセントは動かない。
本当に減っているのは「作れる人」と「戻せる余地」
比率の年次変動より深い問題が、生産基盤の縮小である。2025年農林業センサス概数では、個人経営体の基幹的農業従事者は102万1,000人。5年前から34万2,000人、25.1%減った。2000年の約240万人からは半分以下で、平均年齢は67歳台にある。経験豊かな人が引退する速度に、新規就農と法人の雇用が追いついていない。
全国の耕地面積は約427万ヘクタール。政府自身が、現在の人口の需要全体を賄うのに必要な面積の3分の1程度しかないと説明する。だから危機時の「自給力」は、すべてを国産へ切り替える空想ではなく、限られた農地を米、小麦、いも類などへ最大限振り向けた時、労働力と肥料を確保して何キロカロリー作れるかという別の試算になる。
農地は一度荒れると、帳簿の数字ほど早く戻らない。水路、畦、暗渠、農道が傷み、所有者が分散し、境界が不明になり、獣害が広がる。人も同じである。種まきの深さ、水管理、病害の兆候、収穫機の調整は、非常事態宣言の日に突然習得できない。平時の採算を支えることが、最も長期の備蓄になる。
国際比較は警告になるが、順位表ではない
農林水産省の試算では、2023年のカロリーベース自給率は豪州、カナダ、フランス、米国で100%を超え、ドイツ81%、英国56%、イタリア51%だった。日本は先進国の中で低い。ただし、これは各国の国土、人口密度、輸出産業、飼料計算、年度をまたぐ推計を並べたものだ。豪州の余剰小麦と牛肉、フランスの広い耕地を、日本の山がちな国土へそのまま移せない。
100%を超える国も、コーヒー、カカオ、熱帯果実、特定肥料などを輸入する。日本も北海道、東北、九州など生産県が100%を超える一方、大都市は低い。都道府県別数字は食料が地域間を移動することを前提にした参考値で、東京が自ら都民全員の食料を作るべきだという意味ではない。相互依存をなくすのではなく、壊れやすい依存を見つけるために比較する。
37%を上げる政策と、食料を強くする政策
自給率を上げるだけなら、国産米を多く食べ、油脂と輸入飼料由来の肉を減らせば数式は動きやすい。だが、食生活を号令で戻すことも、需要のない作物を補助金で作り続けることも持続しない。必要なのは、比率を上げる施策と、非常時にも食べ物を届ける施策が重なる場所を増やすことだ。
- 麦・大豆:水田の排水改良、地域に合う多収品種、播種・収穫の共同化、加工業者との複数年契約を一体化する。
- 飼料:牧草、青刈りトウモロコシ、飼料用米、食品副産物を地域別に組み合わせ、輸入飼料の単一点依存を下げる。
- 米:主食需要の減少を直視し、米粉、加工、輸出、備蓄を出口として生産能力と水田を維持する。
- 農地:所有と利用を整理し、担い手へ集積しつつ、災害時に復旧できる水路・農道・排水を守る。
- 人:若い就農者だけでなく、法人雇用、農業サービス事業者、地域の小規模農家、外国人材を技能体系へ組み込む。
- 価格:農家が資材高と再投資を回収でき、消費者も健康な食事を買える、公正で透明な価格形成と所得支援を整える。
- 輸入・備蓄:調達国、港、航路を分散し、米・小麦・飼料穀物・肥料原料の在庫と放出訓練を点検する。
- 情報:自給率だけでなく、飼料・肥料・燃料依存、在庫日数、輸入集中、農業労働、家計の食料アクセスを同じダッシュボードで公表する。
食品ロスを減らすことも重要だが、単に分母を小さくして率を上げるためではない。作った食料を栄養として人へ届ける効率が上がり、輸入、肥料、燃料、労働にかけた資源を無駄にしないからである。同様に、輸出は国内生産の採算を支える一方、危機時に国内へ振り向けられる契約と物流を考えて初めて安全保障へつながる。
食料供給困難事態対策法は、深刻な不足時に事業者へ供給確保計画の作成を求める枠組みを整えた。しかし、危機が来てから作付けを命じても、農地と人材が失われていれば間に合わない。危機法制は最後の手段であり、平時に農業が職業として成立することが第一の防波堤である。
一つの数字を、終点ではなく入口に
37%は日本の食卓を否定する数字ではない。パンも肉も油も食べられるようになった戦後の豊かさ、国際貿易の恩恵、国内農業が守ってきた米・野菜・畜産の価値が一つの分数に折り重なっている。同時に、円安、戦争、干ばつ、海上輸送、飼料、肥料に対する露出も刻まれている。
大切なのは、37を45へ変えるスローガンだけではない。830キロカロリーを誰が、どの農地で、どの種と飼料と水を使って作ったのか。その人が来年も作れる価格か。輸入が一つ止まった時、別の港と作物へ切り替えられるか。低所得の家庭まで栄養が届くか。数字を分解した先に、政策の仕事がある。
一杯のご飯はほぼ国産である。目玉焼きは日本の農場から来ても、その餌は世界を旅している。サラダは国産比率が高くても、カロリー表では小さく見える。日本の食料安全保障は、その三つを同時に見る目から始まる。37%は結論ではない。食卓の下にある世界地図を開くための入口である。
1945年前後 戦災と流通混乱で深刻な食料不足。増産、配給、海外からの食料支援が国民生活を支える。
1961年 農業基本法制定。近代化と所得格差是正を掲げる。
1962年度 1人当たり米消費が約118kgで頂点に達する。
1965年度 カロリーベース食料自給率73%。長期比較の基準年。
1971年 米の需要減と過剰に対応する本格的な生産調整が始まる。
1993年 冷夏で米が大凶作。255万トンを緊急輸入し、店頭が混乱。
1999~2000年 新基本法と最初の基本計画が自給率45%目標を設定。
2018年度 初めて37%を記録。
2020年度 再び37%。食料国産率と飼料自給率を併記する政策へ。
2024年 基本法を本格改正し、食料安全保障を理念の柱に。
2025年4月 新基本計画が2030年度45%目標と摂取熱量ベース53%目標を設定。
2026年8月7日 2025年度自給率37%を公表。過去最低水準に並ぶ。
取材ノートと主な資料
本稿は2026年8月8日午前6時(日本時間)までに公表された資料に基づきます。2025年度の食料需給表と自給率は概算で、今後確定値へ改定される可能性があります。国際比較値は農林水産省による推計で、各国の条件と統計方法の違いに注意が必要です。
- 農林水産省:令和7年度食料自給率を公表
- 農林水産省:令和7年度 食料自給率について
- 農林水産省:令和7年度 食料需給表
- 農林水産省:日本の食料自給率
- Reuters:日本の自給率37%と2030年目標
- 農林水産省:令和6年度食料自給率
- 農林水産省 aff:数字で学ぶ日本の食料
- 農林水産省:歴代基本計画と食料自給率目標
- 政府:2025年 食料・農業・農村基本計画
- 農林水産省:改正食料・農業・農村基本法
- 農林水産省:食料供給困難事態対策法
- 農林水産省:2025年農林業センサス概数
- 農林水産省:荒廃農地、農地面積、担い手の現状
- 関東農政局:1993年米不足と食料安全保障
- 農林水産省:食料国産率と飼料自給率
- 農林水産省:1961年農業基本法からの農政史
- 農林水産省:1945年以降の食料難、農地改革、戦後農政
- 農林水産省:食料需給表の統計体系
- 農林水産省:食料自給率の計算と食卓の変化
