2018年、アジア競技大会でeスポーツはまだ「デモンストレーション競技」だった。日本代表は『ウイニングイレブン 2018』で優勝したが、その金は国別メダル表には加算されなかった。8年後、愛知・名古屋で状況はまったく違った。

第20回アジア競技大会のeスポーツ競技で、日本代表は金2、銀2、銅1の計5メダルを獲得した。金は『ぷよぷよeスポーツ』と『ポケモンユナイト』、銀は対戦格闘団体戦と『Identity V 第五人格』、銅は『eFootball™』。日本eスポーツ協会(JESU)によると、29の国と地域から約500人が参加し、11種目13タイトルで競技が行われた。日本は25選手で7種目に出場した。

歴史的な違い: 2018年ジャカルタ・パレンバン大会はデモンストレーション競技。杭州2022からeスポーツは正式なメダル競技となった。日本は杭州では公式メダルを獲得できず、愛知・名古屋2026の5個が正式競技化後の日本初のアジア大会eスポーツ・メダルとなった。

最初の金は「ぷよぷよ」だった

日本の正式競技としての最初の金メダルを取ったのは、日本発のパズルゲームだった。『ぷよぷよeスポーツ』に出場した栗原悠輝選手は、10の国と地域によるグループステージを4戦全勝で突破。準々決勝でシンガポール、準決勝でタイ、決勝で韓国を破った。JESUは栗原選手を日本選手団最年少と紹介している。

この金が象徴的なのは、日本が海外で強い人気を持つゲーム産業の国でありながら、国際総合競技大会のeスポーツでは必ずしもメダル強国ではなかったからだ。杭州大会では日本代表12選手が複数種目に出場したが、JOCの公式メダル一覧にeスポーツの日本人メダリストはない。

ポケモンユナイトは開催国の強さを見せた

二つ目の金は『ポケモンユナイト』。小瀬古雄大、佐藤博希、白川真士佳、髙田祥生、鳥羽航人、東蓮汰の6選手が出場した。日本はグループステージで韓国とインドに勝ち、決勝トーナメントでもチャイニーズ・タイペイ、韓国をストレートで破った。決勝はインドネシアに3-1で勝利した。

個人競技のパズルと、6人のチームで戦うMOBA系タイトル。この二つで金を取ったことは、日本の競技力が一つのジャンルに限られなかったことを示す。

2金メダル:ぷよぷよeスポーツ、ポケモンユナイト
2銀メダル:対戦格闘団体戦、Identity V 第五人格
1銅メダル:eFootball™
25選手日本代表、7種目に出場

格闘ゲームは「3タイトルで1メダル」

対戦格闘団体戦は、普通の単一タイトル大会ではない。『Street Fighter 6』の樋口孝治郎選手、『鉄拳8』の中山大地選手、『THE KING OF FIGHTERS XV』の澤田彰仁選手が一つの日本代表チームを組み、三つのゲームを横断して一つのメダルを争った。

日本はUAE、パレスチナを破ってグループを突破し、準々決勝のバーレーン、準決勝のホンコン・チャイナにも勝利。決勝で韓国に敗れ銀メダルとなった。格闘ゲームは日本のゲームセンター文化、家庭用ゲーム、世界大会へと長い競技史を持つ。アジア大会では、その個別タイトル文化を「国別団体戦」という総合競技大会型のフォーマットへ組み替えた。

第五人格は中国との決勝へ

『Identity V 第五人格』では、粟田勇斗、上仲真生、上村匡優、大山流陽、神谷凌、小沼真澄、前田健太朗の7選手が出場。開催国枠で決勝トーナメントから登場し、タイ、マレーシアを破って中国との決勝へ進んだ。

JESUによると、決勝は5セット中3セットが引き分けとなる接戦だったが、中国が優勝し、日本は銀。中国発タイトルで日本代表が決勝まで進み、開催国の観客の前で中国代表とメダルを争う構図は、eスポーツが国境をまたぐコンテンツ産業であることも映した。

eFootballの銅は「正式競技化後、日本初メダル」

大会初日の9月23日に行われた『eFootball™』では、PC担当の貴田英貢也選手とモバイル担当の茶谷優我選手が組んだ。19の国と地域が参加した種目で、日本はグループを首位通過し、準々決勝でヨルダンを破った。準決勝でイランに敗れたものの銅メダル。

日程上、この銅が日本にとって、アジア大会でeスポーツが正式なメダル競技になって以降の最初のメダルとなった。2018年のデモ大会では日本が『ウイニングイレブン2018』を制している。サッカーゲームは、日本のアジア大会eスポーツ史の「デモ金」と「正式初メダル」の両方に関わったことになる。

2018年は、まだ「実験」だった

ジャカルタ・パレンバン2018でeスポーツが初採用された時、位置づけはデモンストレーション競技だった。JESUはその大会への日本代表派遣を目的の一つとして、複数の関連団体を統合する形で2018年に設立されたと説明している。

日本は杉村直紀選手と相原翼選手が『ウイニングイレブン 2018』でイランを破って優勝した。だが正式メダルではなかった。2020年、OCA総会で杭州大会からeスポーツを正式メダル競技とすることが確認され、2023年に延期開催された杭州2022で初めて国別メダル表へ加算される競技になった。

2018年の問いは「eスポーツをスポーツ大会に入れるのか」だった。2026年の問いはもう違う。「代表選考、強化、コーチング、競技データ、国際大会対応をどう成熟させるか」である。

JOC準加盟で「代表」の意味も変わった

JESUは2024年6月、日本オリンピック委員会(JOC)の準加盟団体として承認された。2026大会ではJESUが国内統括競技団体として候補選手を選考し、JOCへ推薦。JOCの認定手続きを経て、25人の選手がTEAM JAPANとして正式決定した。

これは単なる呼び方ではない。総合競技大会では、選手登録、代表選考、アンチ・ドーピング、肖像利用、選手村、チーム運営など、ゲーム大会とは異なる制度に合わせなければならない。JESUは2021年に日本アンチ・ドーピング機構(JADA)へ加盟しており、競技団体としての制度整備も進めてきた。

11種目13タイトル――「eスポーツ」は一競技ではない

2026年大会は前回杭州を上回る11種目13タイトル。競技形式もPC、モバイル、PlayStation、チーム戦、個人戦、パズル、サッカー、レーシング、MOBA、サバイバル、非対称対戦、格闘と大きく異なる。

ここにeスポーツの制度上の難しさがある。陸上競技の100メートル走ならルールの主体は国際競技団体だが、eスポーツではゲームそのものが民間企業の知的財産だ。アップデートで性能やルールが変わり、タイトル自体が将来サービス終了する可能性もある。

アジア大会は、その商業ゲームを国代表がメダルを争う公共的な競技制度へ組み込む。競技タイトルの選定、ライセンス、パッチ管理、公平な機材、配信権、スポンサーの利害をどう整えるかは、既存スポーツ以上に複雑である。

日本の結果は、強さと弱さの両方を示した

5メダルは成功だが、全種目で勝ったわけではない。『グランツーリスモ7』の國分諒汰選手は決勝4位。『PUBG Mobile』は12チーム中9位だった。一方で、日本は金、銀、銅をパズル、MOBA、格闘、非対称対戦、サッカーゲームという異なるジャンルで獲得した。

結果から見えるのは、単一の「日本eスポーツ代表」を強化すればよいわけではないということだ。格闘ゲームとモバイルMOBAでは選手育成、チーム構成、対戦環境、国際競争の構造がまったく異なる。競技団体に求められるのは、タイトル横断の制度を作りながら、タイトルごとの専門性を壊さないことになる。

メダル種目日本の結果
金ぷよぷよeスポーツ栗原悠輝選手。決勝で韓国に勝利
金ポケモンユナイト決勝でインドネシアに3-1
銀対戦格闘団体戦Street Fighter 6/鉄拳8/THE KING OF FIGHTERS XV。決勝で韓国に敗戦
銀Identity V 第五人格決勝で中国に敗戦
銅eFootball™準決勝でイランに敗戦、3位

ゲーム産業と競技スポーツが重なる日本

日本にとってeスポーツの制度化は、スポーツ政策だけの話ではない。今回の金メダルタイトルである『ぷよぷよ』と『ポケモンユナイト』、格闘団体戦の『Street Fighter 6』『鉄拳8』『THE KING OF FIGHTERS XV』、サッカーゲームの『eFootball™』はいずれも日本企業のゲームIPと深く結びつく。

つまり日本は、選手を育てる国であると同時に、競技そのものを作る企業を持つ国でもある。この二重性は強みだが、競技統括と商業IPの利害を透明に切り分ける必要も生む。大会が大きくなるほど、選手の競技性と出版社・プラットフォーム・スポンサーの事業性をどう両立させるかが問われる。

今後の確認点
  • 5メダルを生んだ各タイトルの強化体制をJESUがどう分析するか
  • 国内代表選考を継続的で透明な制度にできるか
  • 競技タイトル変更・アップデートへの対応ルール
  • 選手の報酬、代表活動費、競技引退後の支援
  • 学校・地域大会から代表候補までの育成経路
  • JOC準加盟期間後のJESUの位置づけ

「ゲームの大会」から「国を代表する競技」へ

愛知・名古屋大会の意義は、メダル数だけではない。29の国と地域から約500選手が集まり、日本ではJOCの認定を受けた25選手がTEAM JAPANとして出場した。会場はAichi Sky Expo。日程は10日間。選手は「プロゲーマー」だけでなく、総合競技大会の日本代表でもあった。

2018年には、eスポーツがアジア大会に存在すること自体がニュースだった。2026年には、どのタイトルで日本が勝ち、どこで負け、どう強化するかがニュースになった。

その変化こそ、制度化の証拠だ。金2、銀2、銅1という5枚のメダルは結果であると同時に、日本のeスポーツが「ゲーム文化」だけではなく、代表選考と国際競技の仕組みを持つスポーツ制度へ踏み込んだことを示している。

出典・参考資料

  1. 一般社団法人日本eスポーツ協会「第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)eスポーツ日本代表が、2つの金メダルを含む合計5つのメダルを獲得」2026年10月5日。
  2. 一般社団法人日本eスポーツ協会「第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)eスポーツ競技」大会概要・競技日程。
  3. 一般社団法人日本eスポーツ協会「eスポーツ競技 日本代表選手正式決定のお知らせ」2026年7月15日。
  4. 一般社団法人日本eスポーツ連合「第18回アジア競技大会 デモンストレーション競技 eスポーツ日本代表 初の金メダルを獲得」2018年9月2日。
  5. 一般社団法人日本eスポーツ連合「日本オリンピック委員会(JOC)準加盟に関するお知らせ」2024年6月11日。
  6. 日本オリンピック委員会「杭州アジア大会 TEAM JAPAN メダル・入賞者一覧」。
  7. 日本オリンピック委員会「杭州アジア大会 eスポーツ」。
  8. International Esports Federation, “Esports Announced as Medal Sport at 2022 Asian Games,” Dec. 20, 2020.

取材・確認期限:2026年10月6日午後1時21分(日本時間)。各競技の強化費、選手への代表活動報酬、タイトルごとの選考コスト、競技団体とゲーム会社の契約条件、JESUの2027年3月以降のJOC加盟形態は、確認できた公表資料では確定していない。