厚生労働省が8月28日に公表したのは、雇用が生まれたという実績ではない。2026年10月から2029年3月までに、地域ごとに企業支援、人材育成、就職促進を組み合わせる8つの事業構想を採択したという発表だ。

対象は北海道釧路市、北見市、埼玉県ちちぶ地域、島根県江津市、岡山県津山市、愛媛県西予市、熊本県天草地域、鹿児島県奄美大島地域。複数市町村で組む3地域を数えると、実際の範囲は18市町村に及ぶ。

制度の正式名称は「地域雇用活性化推進事業」。市町村と地域の経済団体を必須構成員とする地域雇用創造協議会などが構想を提案し、厚労省の事業選抜・評価委員会が選ぶ。採択後は都道府県労働局が実施主体に委託する。

8地域の雇用創出目標を足すと1084人になる。 ただし、これは3年度にまたがる計画上の目標値であり、採用を保証する数字でも、発表時点の実績でもない。評価には就職後の定着を含む追跡が欠かせない。
8地域外部委員会が選んだ地域別事業構想。
18市町村単独5地域と広域連携3地域の合計。
1084人8計画を合算した3年度計の雇用創出目標。
30カ月予定期間は2026年10月から2029年3月まで。

「8地域」は18市町村

ちちぶ地域は秩父市(ちちぶし)、横瀬町(よこぜまち)、皆野町(みなのまち)、長瀞町(ながとろまち)、小鹿野町(おがのまち)の5市町。天草地域は天草市(あまくさし)、上天草市(かみあまくさし)、苓北町(れいほくまち)の3市町で構成する。

奄美大島地域は奄美市(あまみし)、大和村(やまとそん)、宇検村(うけんそん)、瀬戸内町(せとうちちょう)、龍郷町(たつごうちょう)の5市町村。残る釧路市(くしろし)、北見市(きたみし)、江津市(ごうつし)、津山市(つやまし)、西予市(せいよし)は単独地域だ。

厚労省の概要資料では、採択8地域はいずれも「過疎等地域」と記載された。全国では求人が求職を上回っていても、人口減少、若年流出、産業ごとの人手不足、求職者が望む働き方との不一致は地域ごとに異なる。制度は、その違いを地域側の構想に反映させる。

全国の求人倍率が高くても、必要な技能、勤務地、勤務時間、賃金、将来性が合わなければ、地域の雇用問題は解けない。

1084人は目標であって結果ではない

公表された目標は、津山市200人、釧路市169人、ちちぶ地域161人、江津市144人、天草地域120人、奄美大島地域108人、北見市103人、西予市79人。単純合計は1084人となる。

資料の表記は「雇用創出(目標数(3年度計))」。実施期間は年度の区切りで数えると2026、2027、2028年度にまたがるが、暦上は2026年10月1日から2029年3月31日までの30カ月を予定している。

採択資料には、各地域の人口、5年間の人口減少率、高齢化率、重点分野、重点求職者層、取組項目が示された。一方、地域別の委託契約額や個別施策ごとの支出額は公表されていない。一般的な実施規模は各年度4000万円で、複数市町村の連携には加算制度があるが、これは各採択地域への確定配分を意味しない。

地域目標主な重点分野・取組主な対象層
釧路市169人製造・建設、介護、観光。採用・定着、企業の魅力発信若者、中高年、女性、UIJターン
北見市103人卸小売、医療福祉、建設。デジタル効率化、職場見学若者、高齢者、女性、UIJターン
ちちぶ地域161人製造、観光。生成AI・DX、採用発信、多様な働き方高齢者、女性、学び直し層
江津市144人製造、建設、社会福祉・介護。DX、企業見学女性、若者、中高年、UIJターン
津山市200人製造、商業・サービス、医療福祉、ICT。AI・IT研修若者、子育て世代、UIJターン
西予市79人デジタル活用、販路拡大、定着支援、パソコン研修中高年、女性、障害者
天草地域120人観光、医療福祉、建設。DX、実務技能、セカンドキャリア中高年、転職層、若者
奄美大島地域108人観光、製造、建設。大島紬・黒糖焼酎の担い手育成UIJターン、子育て世代、高齢者

北海道とちちぶ、同じDXでも目的は違う

釧路市の「出会いから『定着』と『活躍』へ。チーム釧路で挑む雇用創造プロジェクト」は、採用だけでなく離職防止を前面に置く。製造・建設、介護、観光を軸に、企業の採用力や職場環境を改善し、若者やUIJターン希望者との接点を増やす。

北見市の「学び、繋がる。北見地域連携型雇用創造プロジェクト」は、人手不足分野の企業支援と、求職者のデジタル・介護分野の学び直しを組み合わせる。企業説明会だけでなく、相談や職場見学までつなげる設計だ。

ちちぶ地域は「多様性×AI」を掲げ、製造と観光で生成AIやDXの活用、外国人材を含む採用力、多様な就業形態を扱う。同じ「デジタル」でも、釧路は定着と発信、北見は生産性と学び直し、ちちぶは人材の多様化と価値創造に重点を置く。

江津・津山・西予、働き手の入口を広げる

江津市の計画名は「選ばれる会社と選ばれる人財で創る江津未来創造プロジェクト」。人口減少率9.56%、高齢化率40.85%という資料上の状況を踏まえ、企業のDX、労働条件、採用広報を改善し、見学会やオープンファクトリー、広島での交流を組み合わせる。

8地域で最大の200人を掲げる津山市は、「若者に選ばれる地域産業構築プロジェクト」とした。製造、商業・サービス、医療・福祉、ICTを対象に、AI・IT、デザイン経営、地域材の高付加価値化、システムエンジニア入門研修などを計画する。

西予市の79人は8地域で最小だが、目標の大小だけで優劣は決められない。同市は中高年、女性、障害者を重点層に置き、企業の販路拡大やデジタル活用、定着支援と、求職者のパソコン技能や再就職支援を結ぶ。

天草と奄美、観光の波を通年の仕事へ

天草地域は、観光に飲食、小売、農水産物加工を含め、慢性的な人手不足がある医療・福祉・建設も重点分野とした。企業向けには観光活性化やDX、求職者向けには実践的ビジネス技能、次世代デジタル技能、セカンドキャリア研修を並べる。

奄美大島地域は、観光需要の繁閑差、島内での経済循環、大島紬と黒糖焼酎の担い手不足を課題として示す。地域資源の商品化・販路拡大、Webマーケティング、島外での就職・移住相談、仕事体験を組み合わせ、観光の一時的な需要を安定した雇用につなげようとしている。

両地域に共通するのは、観光客数を増やすだけでは地域雇用が安定しないという認識だ。閑散期の収益、事業者の生産性、住居や子育てを含む移住条件、入職後の定着を一つの流れとして扱えるかが問われる。

制度が組み合わせる3つの柱
  1. 事業所の魅力向上・事業拡大:販路、生産性、職場環境、採用発信を改善する。
  2. 人材育成:地域産業が必要とするIT、接遇、加工、実務技能などを学ぶ。
  3. 就職促進:ハローワークと連携した説明会、面接会、職場体験で企業と求職者を結ぶ。

仕事不足と人手不足は同時に起きる

この事業の政策文書は、全国的には求人が求職を上回る一方で、地域には多様な問題が残ると説明する。これは矛盾ではない。求人の総数が足りていても、介護や建設に応募が集まらず、子育て中の人が希望する時間帯の仕事が少なく、若者が将来性を見いだせずに転出すれば、企業の人手不足と住民の就業難は同時に起こる。

8計画が企業向け支援と求職者向け研修を並べるのは、その「ずれ」を両側から縮めるためだ。企業だけに採用努力を求めても技能が合わず、求職者だけを訓練しても受け皿の条件が変わらなければ定着しない。

ただし、短期講座の受講者数や説明会の参加者数は最終成果ではない。就職した人がどの雇用形態で、どれだけ働き続け、賃金や職務の質がどう変わったかまで追わなければ、「魅力ある雇用」ができたかは判断できない。

成功の物差しは、イベントを何回開いたかではなく、地域に合う仕事と人が結びつき、その関係が続いたかだ。

採択の評価は2029年に始まる

採択は、外部委員会が構想段階で効果を見込んだという判断にすぎない。公開された採択発表には、応募総数、不採択地域、地域別の採点、確定契約額は示されていない。比較可能性を高めるには、実施主体が基準値、参加者、就職、定着、支出を同じ定義で継続公表する必要がある。

制度には中間報告、年度評価、総括報告、事業を通じた雇用者・就職者の定着状況を報告する様式が用意されている。目標未達を隠すためではなく、どの施策が誰に効いたかを示し、次の地域政策へつなげるために使われるべきだ。

18市町村が抱える課題は一つではない。だからこそ、8つの構想が違うことには意味がある。2029年3月に問われるのは1084という合計だけではなく、若者、女性、中高年、障害者、UIJターン希望者が、地域で選べる仕事を実際に増やせたかである。

2026年4月3日 企画書の提出期間が始まる。

2026年6月2日 企画書の提出期限。

2026年8月28日 厚労省が8地域の採択を公表。

2026年10月1日 事業開始予定。

2029年3月31日 事業期間終了予定。

取材ノートと主な一次資料

本稿は、2026年8月29日までに公表された厚生労働省の日本語一次資料を基に独自に執筆した。市町村名の読み、制度名、事業名、目標値、期間、重点分野は公式資料で照合した。1084人と18市町村は公表値・掲載自治体を合算した編集部計算である。直接取材による発言はなく、引用を創作していない。