初日に見えたのは、男子ダブルスの層の厚さだ
韓国南部の麗水(ヨス)で11月3日に開幕した韓国オープン。日本勢の初日を象徴するのは、女子シングルスの看板選手ではなく、男子ダブルスの一戦だった。吉田翼・後藤拓人組が第6シードの中国ペア、梁偉鏗・胡珂源組を21―19、21―17で破った。3日に1回戦を戦った日本勢の男子ダブルス5組はいずれも白星。派手な数字だが、優勝候補が5組生まれたという意味ではない。大会は8日まで続く。本稿が確かめた試合結果は、まず3日に終了した試合である。6日付の紙面に載せる際には、4日以降の勝敗を公式記録で更新する必要がある。
第6シードを倒した吉田・後藤組の価値
吉田・後藤組は中国の梁偉鏗・胡珂源組をストレートで退けた。第1ゲームは2点差。相手がシード選手であることを考えると、序盤からの番狂わせとして注目できる。ただし、得点経過だけで「ネット前で圧倒した」「戦術を完全に見切った」とまでは書けない。ラリーごとの映像や記録を確認して初めて語れる部分だ。ダブルスはサーブ、レシーブから数打の攻防が勝負を分ける。誰がどこへ返球し、相手をどう動かしたのか。勝利の理由を知りたい読者にこそ、結果と分析の境界を丁寧に示したい。大きな見出しにふさわしい勝利でも、根拠のない美談にしてはならない。
男子複5組が突破、接戦の内容はさまざま
保木卓朗・小林優吾組は地元韓国の金基正・金サラン組に21―16、21―15で勝った。熊谷翔・西大輝組は台湾ペアに21―15、17―21、21―19。岡村洋輝・山下恭平組は中国ペアとの第2ゲームを落としながら21―15、14―21、21―11で競り勝った。松居圭一郎・三橋健也組は台湾ペアに17―21、21―15、22―20で逆転勝ち。吉田・後藤組の勝利を加えた5組の突破は、日本勢の複数の組み合わせが国際舞台に対応できる可能性を示した。一方、初戦の相手、試合時間、ゲームの運びは同じではない。次戦で同じ力を発揮できるかどうかが、本当の評価を左右する。
最終ゲーム22―20、松居・三橋組の粘り
松居・三橋組の最終ゲームは22―20。20点で並んだ後は2点差が必要になるため、最後まで勝敗の行方が分からなかったことが点数から読み取れる。初ゲームを落とし、次を取り返し、最後にもつれ込んだ。強豪同士の大会では、一つのサービスミスやレシーブの判断が順位を変えかねない。とはいえ、最後の数ラリーで何が起きたかをスコアだけから再現することはできない。知られていない組の健闘を正当に評価することと、実際に見ていない試合を見たように描くことは別だ。
保木・小林組に求められる、次の1勝
保木・小林組は第5シードとして出場し、韓国ペアに2ゲームで勝った。国際舞台で実績のある組にも、初戦でできたことが次戦で続く保証はない。連戦の中では、相手のレシーブ、前衛の動き、守備から攻撃への切り替えなど、試される技術が変わる。2ゲームで勝った事実を「完全な支配」と言い換えるのは慎みたい。勝利の数字と試合の質を区別し、複数の対戦相手を通じて変化を見る。その姿勢が、実績ある選手を扱う記事にも必要だ。
志田千陽、平本梨々菜との新しい組み合わせ
女子ダブルスでは志田千陽・平本梨々菜組が台湾の陳肅諭・韓蓁組を21―18、21―11で退けた。志田は松山奈未との「シダマツ」組で2024年パリ五輪銅メダルを獲得した選手。長く組んだペアの解消を経て、新しい連係を模索している。日本テレビ系列の報道によると、平本との初の国際大会となった10月のフランスオープンでは8強に入った。韓国大会は2大会目だ。初ゲームは3点差、次は10点差。得点だけで二人の呼吸が完成したと断じることはできないが、新ペアの現在地を考える材料にはなる。過去の実績ではなく、新しい2人が一戦ごとに何を築けるかに目を向けたい。
敗れた組からも見える国際大会の厳しさ
原菜那子・清瀬璃子組は台湾ペアに17―21、21―19、17―21で敗れた。日本専門誌の記録では試合時間は65分。勝ち進んだ志田・平本組だけを取り上げれば、日本勢の一日を都合よく切り取ることになる。フルゲームの末に敗れた組にも、競技水準と次へ向けた課題がある。ただ、どの場面で先手を取られたのか、疲労の影響があったのかといった内情は、得点表だけでは判断できない。勝敗を隠さず、敗戦を必要以上に物語化しない。国際大会の中で複数の選手の努力を伝えるための基本だ。
予選突破の武井凜生、見えにくい挑戦
男子シングルス予選では武井凜生が小川翔悟を21―14、21―15で下し、続いて韓国のチョ・ヒョヌに21―19、16―21、21―14で勝って本戦へ進んだ。ランキング上位者が本戦から登場する一方、予選を戦う選手は試合数を重ねてから同じ舞台に立つ。国際舞台の実力差は、選手の技術だけでなく出場条件やドローにも表れる。体力面での不利が実際に生じたかどうかは本人の状態を確認しなければ分からない。それでも、派手な優勝争いの陰にある予選からの挑戦は、日本の選手育成を考えるうえで見落とせない。
山口茜、宮崎友花らシングルスの行方
日本バドミントン協会が10月30日に公表した派遣選手には、女子シングルスの山口茜、宮崎友花、郡司莉子、水津愛美、男子の奈良岡功大、田中湧士、渡邉航貴、沖本優大、西本拳太、武井凜生らが名を連ねる。協会の派遣名簿と大会の全出場者一覧は必ずしも一致しないため、名前を数える際は資料の性格を区別すべきだ。山口の経験、宮崎の成長、奈良岡の粘り強さに関心が集まるのは自然だが、本稿の確認範囲では4日の本戦1回戦の勝敗を確定させていない。決勝進出や敗退を先取りした記事は、取材ではなく推測になる。
スーパー500は世界一を決める大会ではない
韓国オープンは世界バドミントン連盟(BWF)のワールドツアー「スーパー500」に位置づけられる。世界選手権でも五輪でもないが、世界各地の有力選手が集まり、ランキングや年間の出場計画を左右する重要な試合だ。日本バドミントン協会の大会日程では、韓国大会が終わる8日に熊本マスターズジャパンも始まる。移動と調整をどう組み立てるかは難しい問題になるが、特定の選手の疲労や選考事情を確認せずに原因と結びつけるべきではない。大会格付けの違いを明確にしたうえで、一つの1回戦が何を意味するのかを丁寧に見極めたい。
協会創設80年、日本バドミントンの歩み
日本バドミントン協会の沿革によれば、国内では大正期から昭和初期にかけて名古屋、大阪、神戸、横浜などのYMCAを通じて競技が広まった。協会が発足したのは1946年。翌47年に第1回全日本総合選手権が開かれ、52年には国際連盟に加盟した。五輪の正式競技となったのは1992年バルセロナ大会。2016年リオデジャネイロ五輪では高橋礼華・松友美佐紀組が日本のバドミントン史上初の金メダルを獲得した。競技の歴史は、華やかな一時代だけで説明できない。企業チームや学校、地域の指導者、若手の育成が積み重なって現在の国際選手層を形づくってきた。
韓国という舞台、国別の強弱だけでは測れない
韓国は日本にとって身近でありながら、世界的に厚い選手層を持つ強豪国の一つだ。中国、台湾、インドネシア、マレーシアなどからも多様な相手が集まる。保木・小林組が韓国ペアに勝ったからといって、日韓の競技力全体に結論を下せるわけではない。選手個人の能力と、その時点の組み合わせ、試合条件は切り分けて考える必要がある。とりわけダブルスでは、同じ国の選手でも新しい組と長い経験を共有する組では別の課題を抱える。麗水の試合は、アジアの序列を一夜で書き換えるのではなく、次の変化がどこから生まれるかを映し出す。
決勝までに何を追うべきか
次に確かめたいのは、初戦を勝ち抜いた男子ダブルス5組のうち、どこまで勝ち進む組が現れるか。志田・平本組が相手の変化にどう対応するか。山口、宮崎、奈良岡らシングルスの結果が何を示すか。大会は11月8日の決勝まで続くが、6日付の記事に必要な4、5日の結果は現時点の資料だけでは確認できていない。公開前にはBWFの公式試合記録と大会主催者の発表を照合し、結果、棄権、組み合わせ、試合予定を更新する。少なくとも初日の麗水では、日本勢の層の厚さと、実績のある選手も新しい組も同じように次戦を問われる厳しさが浮かんだ。
出典・取材方法
日本バドミントン協会の大会情報、派遣選手発表、国内専門媒体の試合結果、五輪・協会の歴史資料を照合。対戦相手の日本語表記は報道媒体間で揺れがあるため、一部について原語表記を併記した。
