自動運転トラックの成否は、運転席が空かどうかだけでは測れない。午前の倉庫で部品を積み、一般道を抜け、高速道路へ合流し、雨や工事規制を越え、異常時には安全に止まり、別の拠点で荷を下ろす。その一連の仕事を誰が、どこで、どれだけ少ない時間で担えるか。いすゞ自動車の実証は、ようやくその問いに現物で答え始めた。
舞台は、いすゞロジスティクスの岩舟パーツセンター(栃木県栃木市)と中部部品センター(愛知県一宮市)を結ぶ約450キロの自社部品物流ルートだ。25トン、8×4の大型トラック「ギガ」が実際の補給部品を積み、グループ会社のワン・トランスが運行する。将来は週5日程度、1日1往復を想定する。
ただし初期段階で自動走行するのは、全ルートではない。新東名高速道路の駿河湾沼津サービスエリアから浜松サービスエリアまで、およそ100キロ。そこでも安全担当の運転者が乗る。栃木から入口まで、浜松から愛知までの道路、荷積み・荷下ろし、整備、監視、故障時の対応は、別の人と仕組みが受け持つ。
「レベル4」と「レベル4想定」は違う
国土交通省の用語では、レベル4は運行設計領域(ODD)という決められた条件の中で、すべての運転操作をシステムが担う状態だ。レベル2は運転支援であり、運転者が周囲を監視し続ける。レベル3では一定条件下でシステムが運転するが、要請があれば運転者が引き継ぐ。レベル4では、ODD内で運転者への引き継ぎを安全策の前提にできない。
いすゞ自身が初期走行を「レベル4を想定した走行」と呼ぶのは、この線引きのためだ。車両は自動運転システムを使うが、ドライバーが運行状態を常時監視し、代わって操作できる。これは技術を磨く公道実証であって、道路交通法上の「特定自動運行」として運転者なしで恒常運行する許可を得たサービスとは異なる。
| 状態 | 運転の責任 | いすゞ計画での位置 |
|---|---|---|
| レベル2 | 運転者が常時監視。システムは操舵・加減速を支援 | 既存の運転支援技術の区分 |
| 「レベル4想定」実証 | システムを使うが、セーフティドライバーが監視し介入可能 | Step 1と開発走行 |
| レベル4 | 定めたODD内ではシステムが全運転操作を遂行 | 2027年度中の事業開始目標 |
| レベル5 | 場所などを限定せず全運転操作を自動化 | 今回の計画対象ではない |
物流2024年問題は、締め切りではなく構造問題
自動運転を急ぐ背景には、2024年4月にトラック運転者へ適用された時間外労働の年960時間上限がある。長時間労働を是正するための規制であり、それ自体を「危機」と呼ぶべきではない。問題は、荷待ち、長距離の手待ち、低い積載効率などを残したまま労働時間だけを減らせば、運べる量が落ちることだ。
農林水産省が紹介するNX総合研究所の試算では、何も対策を取らなければ、2019年度の輸送能力に比べ2024年度は14.2%、2030年度は34.1%不足する可能性がある。これは実測された現在の欠損率ではなく、無対策を仮定したシナリオだ。それでも、運転者の高齢化と地域偏在を含む供給制約の大きさを示している。
高速道路の長い区間をシステムに任せられれば、一人の運転者を起点から終点まで拘束する必要がなくなる。両端を地域ドライバーが担当し、自動運転車がハブ間を往復する中継モデルなら、宿泊を伴う長距離勤務を減らせる可能性がある。しかし車両を乗り換える場所、荷物を載せ替える時間、空車回送、遅延時の待機まで含めなければ、省人化は紙の上にとどまる。
第2世代は何を学ぶのか
実証車は量産大型トラック「ギガ」が基礎だ。前方と側方を見るミリ波レーダー、周囲360度を測るLiDAR、カメラを組み合わせ、GNSS(全球測位衛星システム)で位置を推定し、IMU(慣性計測ユニット)で車体の動きを捉える。単一センサーが雨、逆光、汚れで弱くなる場面を、異なる原理の機器で補う構成である。
ソフトウェアを担う米Applied Intuitionは、2026年春、第2世代車を約450キロの商用ルートへ展開すると発表した。中核は認知から車両制御までを一体で学習するエンド・ツー・エンド(E2E)モデルと、実走行で遭遇した場面をシミュレーションで再現し、改良を車両群へ戻すデータ基盤だ。いすゞは2026年度のStep 2からE2Eを投入し、年度末までにデータ計測・走行評価用の自動運転車両を計30台導入する計画を示している。
だが「学習するAI」は、安全性の説明を不要にしない。大型車は制動距離が長く、積み荷で挙動が変わる。落下物、路肩の事故車、合流直前の割り込み、規制員の手信号など、まれでも重大な場面がある。国土交通省が2025年度の新東名実証をまとめた資料では、連続したハンズオフ走行でシステム上の大きな問題はなかった一方、加速車線の駐車車両や周辺車両の動きにより手動介入した場面も報告された。
これは失敗の証明ではなく、ODDを定義する材料だ。どの雨量、視程、工事規制、通信状態なら自動運転を開始できるのか。条件を外れた時、車両はどこへ安全に止まり、誰が何分で到着するのか。レベル4は「何でも走れる」称号ではなく、走らない条件まで精密に決める技術である。
道路もトラックの一部になる
新東名の駿河湾沼津SA―浜松SAは、国が自動運転車優先レーンと路車協調システムを検証する約100キロの区間だ。合流車や障害物の情報を道路側センサーから車両へ送り、SA・PAの発車、合流、本線、分流、駐車までをつなぐ。自動運転は車載AIだけの競争ではなく、道路、通信、標識、運行ルールを含む共同設計になった。
いすゞは車両外の運用も試す。遠隔監視者が異常を適切に把握できるか。現場へ向かう「駆けつけサービス」がどの情報を受け、どのように対応するか。物流拠点で人と自動運転車が混在し、荷役を遅らせずに出発できるか。2026年度のStep 2は、こうした運行効率を評価し、2027年度のStep 3で最終検証する構成だ。
許可も車両認証だけでは終わらない。運転者がいないレベル4に相当する「特定自動運行」は、都道府県公安委員会の許可制度の対象となる。実施者、特定自動運行主任者、遠隔監視、事故時の措置、自治体との調整が必要だ。サイバー攻撃、通信断、地震や積雪による通行止めでは、車両の安全と物流継続の両方を設計しなければならない。
トラックメーカーから運行システム会社へ
いすゞの自動運転史は、単独開発ではなく役割分担の歴史でもある。2022年、UDトラックスと神戸製鋼所は加古川製鉄所の限定領域でレベル4大型トラックの自動搬送を実証。2023年には安全性検証のシナリオ技術を持つForetellixへ投資した。2024年にはApplied Intuitionと最大5年間の提携を結び、ティアフォー、Gatikにも出資した。
同じ年に公表した中期経営計画「ISUZU Transformation - Growth to 2030(IX)」は、自動運転、コネクテッドサービス、カーボンニュートラルを新事業の柱に据えた。三領域を含む新技術事業で2030年代に売上高1兆円規模を目指し、2030年までのイノベーション投資を1兆円規模とした。自動運転は研究費ではなく、車両販売後も運行・データ・整備を継続提供する事業モデルへの転換である。
北海道むかわ町では約74億円を投じ、約19万平方メートルの自動運転専用テストコースを建設中だ。2027年9月の本格稼働を計画し、市街地路、高速の合流・分流、坂路、踏切、ETCゲート、V2X設備まで設ける。現実の道路で危険すぎる場面を繰り返し再現し、許認可や国際法規に必要なデータを集める狙いがある。
2022年 加古川製鉄所の限定領域でレベル4大型トラックを実証。
2023年 安全検証技術のForetellixへ投資。
2024年 Applied Intuitionと戦略提携。新東名でメーカー4社の公道実証開始。
2025年3月 新東名で自動運転車優先レーンの実証開始。
2026年度 栃木―愛知ルートのStep 2、E2Eモデルと車両拡大を計画。
2027年度 Step 3を経てレベル4トラック事業開始を目指す。
成功の数字は「無人走行距離」だけではない
物流危機は、一社のトラックだけでは解けない。荷主が予約時間を守り、荷待ちを減らし、パレットや伝票を標準化しなければ、車両が高速道路を自動で走っても倉庫前で止まる。共同配送や鉄道・船へのモーダルシフト、運賃の適正化、ドライバーの待遇改善も同時に必要だ。
だから事業化を評価する物差しは、介入なし走行距離だけでは足りない。運転者一人当たりの輸送量、荷待ちを含む総所要時間、遠隔監視者が安全に担当できる台数、駆けつけ回数、悪天候時の運休率、事故・故障時の復旧時間、そして既存ドライバーの賃金と勤務がどう変わったかを見なければならない。
いすゞが自社の補給部品で始めたのは合理的だ。荷主、運送、拠点運営、整備をグループ内で調整でき、失敗から学べる。しかし閉じた自社網で成立したモデルが、中小運送会社や複数荷主の荷物、繁忙期の不規則な運行にも通用するかは次の試験になる。
運転席が本当に空になる日は、華やかな到達点に見える。だが社会実装の本質は、その空席の周囲に、事故を増やさず、働く人を置き去りにせず、毎日の荷物を止めない仕組みを築けるかにある。
- 運転者なしで走れる正確な区間、時間帯、天候などのODDは何か。
- 通信断や障害物で停止した時、誰が何分以内に対応するのか。
- 高速道路の前後と荷役を含め、実際に何時間・何人を削減できるか。
- 特定自動運行の許可、車両認証、保険と事故責任をどう整えるか。
- 安全実績、手動介入、運休、コストを第三者が比較できる形で開示するか。
- いすゞ自動車「自社部品物流ルート(栃木~愛知)で自動運転事業実証を開始」(2025年11月18日)――3段階の計画、車両、ルート、運用。
- Applied Intuition「いすゞとの自動運転トラック導入」(2026年3月31日)――第2世代車とE2Eモデル。技術・効果に関する同社説明として参照。
- 国土交通省「自動運転車とのインフラ連携の取組について」(2026年6月)――新東名実証の結果と手動介入事例。
- 警察庁「自動運転」――特定自動運行許可制度。
- 国土交通省「自動運転車両の呼称」――レベル2~5とODDの定義。
- 農林水産省「物流の2024年問題への対応を推進」――時間外労働規制と輸送能力試算。
- いすゞ自動車「Applied Intuitionと戦略的提携契約を締結」(2024年8月27日)。
- いすゞ自動車「自動運転専用テストコースを北海道むかわ町に新設」(2025年8月28日)。
- いすゞ自動車「中期経営計画 ISUZU Transformation(IX)」(2024年4月3日)。
