数字は、前進と停滞を同時に示している。兵庫県内の雇用義務がある民間企業で働く障害者は、2025年6月1日時点の雇用率算定上で1万8,532.5人。3年連続で過去最多となった。一方、同じ調査で法定雇用率を達成した企業は4,041社のうち1,914社、47.4%にとどまった。
県は8月27日、この状況を受け、兵庫労働局、兵庫県教育委員会とともに、県内17経済団体等へ雇用拡大を要請すると発表した。兵庫県経営者協会への要請文の手交は9月9日午前10時、県庁で行う予定だ。その他の団体には県と労働局の幹部が訪問するなどして、傘下企業への働きかけを求める。
要請先は同協会のほか、兵庫県商工会議所連合会、兵庫県商工会連合会、兵庫県中小企業団体中央会、兵庫工業会、兵庫県建設業協会、業界別の組合など計17団体。9月の「障害者雇用支援月間」に合わせた例年の取り組みだが、今年は意味が違う。民間企業の法定雇用率は2026年7月、2.5%から2.7%へ上がったばかりだからだ。
「平均」と「半数未満」は矛盾しない
2.45%と47.4%は、別の問いへの答えである。実雇用率2.45%は、対象企業の算定基礎となる労働者と、雇用率算定上の障害者を県全体で合計した比率だ。大企業が多数を雇えば、全体の平均を押し上げる。47.4%は、各企業が個別に法定雇用率を達成したかを数えた割合で、企業の大小を一社ずつ同じ一票として扱う。
「1万8,532.5人」の小数点も、人数の実数そのものではないことを示す。制度上、短時間労働者は原則0.5人、重度身体障害者と重度知的障害者は一定の場合に2人として換算される。したがって、この数字は雇用率計算のための換算人数であり、職場にいる個人の単純な頭数とは一致しない。
兵庫では2025年、算定上の雇用障害者数が前年より521.0人、2.9%増えた。それでも実雇用率が2.47%から2.45%へ下がったのは、分母となる算定基礎労働者数が約73万人から約75万6,000人へ増えた影響が大きい。人を増やしても、対象となる雇用全体がそれ以上の速さで増えれば率は下がる。
| 指標 | 2025年6月1日 | 何を示すか | 何を示さないか |
|---|---|---|---|
| 雇用障害者数 | 18,532.5人 | 法定の方法で換算した雇用量。前年比521.0人増 | 個人の単純な実人数、雇用の質、定着期間 |
| 実雇用率 | 2.45% | 県内対象企業を合計した比率 | 各企業が達成しているか、全障害者の就業率 |
| 達成企業割合 | 47.4% | 当時の2.5%基準を満たした企業の比率 | 2026年7月からの2.7%基準への適合 |
| 特別支援学校高等部卒業者の就職率 | 21.5% | 全卒業者に占める就職者の割合 | 就職希望者だけを分母にした内定率、就職後の定着 |
未達成2,127社のうち、1,235社は「ゼロ」
平均値の陰を最もはっきり映すのが、未達成企業の内訳だ。兵庫労働局によると、法定雇用率に届かなかった2,127社のうち、雇用率算定上の障害者が一人もいない企業は1,235社、58.1%だった。一方、不足数が0.5人または1人の「一人不足企業」は1,431社、67.3%を占める。
二つの集計は重なり得る。法定上あと一人で達成できる比較的小規模な企業が、同時に雇用ゼロである場合があるためだ。これは問題の大きさと、介入の焦点を同時に示す。大量採用だけが必要なのではない。初めての一人を迎えるため、仕事内容を切り出し、採用経路をつくり、現場の不安を解き、定着支援につなぐ企業が多い。
規模別でも単純な「中小企業対大企業」の図にはならない。40人以上100人未満の実雇用率は2.26%、達成企業割合は45.0%。100人以上300人未満は2.47%、51.8%だった。300人以上500人未満は2.25%、45.2%、500人以上1,000人未満は2.38%、45.7%。1,000人以上でようやく実雇用率2.65%、達成企業割合54.5%となる。大きいほど必ず達成するわけではないが、1,000人以上の層が県平均を支えている構図は見える。
2.7%への引き上げは、物差しも対象も変えた
法定雇用率は2024年4月に2.3%から2.5%へ、2026年7月に2.7%へ段階的に引き上げられた。これに伴い、民間企業で雇用義務が生じる規模は、常用労働者40.0人以上から37.5人以上へ広がった。新たに対象となる企業には、採用経験も社内の相談役もない場合がある。
ここには統計上の時間差がある。企業がハローワークへ報告する定例日は毎年6月1日。最新の公表済み兵庫データは2025年6月1日で、2.5%を基準にしている。2026年6月1日も2.7%施行前であり、新基準の下で全企業を一斉に測る最初の定例スナップショットは2027年6月1日になる。
それまで「47.4%」を2.7%時代の現在値として扱うのは正確ではない。しかし、古いから無意味でもない。2.5%の段階ですでに過半数が未達だったという出発点を示す。基準が0.2ポイント上がり、対象企業が増えた今、自然に達成率が改善すると考える根拠はない。
- 37.5人以上の事業主は、毎年6月1日の雇用状況を報告する。
- 法定雇用率は民間企業2.7%。原則として37.5人以上で一人以上の雇用義務が生じる。
- 常用雇用労働者が100人を超える未達成事業主には、不足一人につき月5万円の障害者雇用納付金がある。
- 著しい未達が続く場合、雇入れ計画の作成命令、適正実施勧告を経て、企業名が公表されることがある。
- 募集・採用を含む雇用の全局面で障害を理由とする差別は禁止され、過重な負担にならない範囲で合理的配慮が義務付けられる。
1960年から続く制度は、人数から職場へ広がった
日本の障害者雇用率制度は、1960年制定の身体障害者雇用促進法に始まる。当初、民間企業の法定雇用率は努力目標で、公的機関だけが義務だった。1976年の改正で民間企業にも1.5%の雇用が義務化され、障害者雇用納付金制度も施行された。
1960年 身体障害者雇用促進法。民間企業は努力目標。
1976年 民間企業にも法定雇用率1.5%を義務化し、納付金制度を導入。
1987年 法律名を「障害者の雇用の促進等に関する法律」に改め、対象を全障害へ拡大。
1998年 知的障害者を雇用義務の対象に加える。
2016年 障害者差別の禁止と合理的配慮の提供を事業主に義務化。
2018年 精神障害者を雇用義務の基礎に加え、民間の率を2.2%へ。
2024―26年 2.5%を経て2.7%へ段階的に引き上げ。
この歴史は、制度が「何人雇ったか」だけでは完結しなくなった過程でもある。差別禁止と合理的配慮は、入口の採用試験から、配置、指導方法、勤務時間、休憩、設備、情報保障までを対象にする。達成率は必要な最低線だが、その線を越えた企業が働きやすいとは自動的に言えない。
採用の次にある、仕事の再設計
兵庫労働局は2026年度、全ての未達成企業に対し、事業所訪問を中心に複数回働きかける方針を掲げた。特に、2.7%への引き上げで新たに対象となる企業と、雇用経験のない「雇用ゼロ企業」には、ハローワークを中心とするチームで、職場環境の整備、求職者の開拓、採用後の定着まで支援するとしている。
ここで鍵になるのが、既存の求人票に人を当てはめるだけでなく、仕事の組み方を見直すことだ。厚生労働省は、採用試験での点字・拡大文字、手話通訳、時間延長や休憩、障害特性に応じた作業工程、勤務・休憩時間、援助者の配置などを望ましい取り組みとして挙げる。配慮は一律の特別扱いではなく、本人と事業主が話し合い、能力を発揮する際の障壁を具体的に減らす作業である。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のジョブコーチは、就職時だけでなく雇用後も職場へ入り、本人、上司、同僚へ助言する。必要に応じて職務の再設計や職場環境の改善を提案し、標準2―4カ月の支援を通じて、最終的に職場自身が支えられる体制をつくる。県内の障害者就業・生活支援センターは、仕事と生活を切り離せない課題に対応する。
卒業者21.5%――企業への要請が学校にもつながる理由
今回の要請には、障害者雇用の拡大と並び、特別支援学校卒業者の雇用確保が明記された。県によると、2025年度の県内特別支援学校高等部卒業者の就職率は21.5%で、全国平均29.8%を8.3ポイント下回った。
ここでいう就職率は、卒業者全体に占める就職者の割合である。就職を希望した生徒だけを分母にする一般的な「内定率」とは違う。卒業後に福祉サービスを利用する選択、進学や訓練、医療や生活上の事情もあるため、率の低さをそのまま学校や生徒の失敗とみなすことはできない。
それでも、全国との差は、実習を受け入れ、仕事内容を示し、卒業後の定着まで連携できる企業の裾野が十分かという問いを突きつける。企業にとって職場実習は、採用前に本人の強みと必要な配慮を知る機会になる。学校にとっては、卒業後に途切れがちな支援を職場へ橋渡しする機会になる。
要請文の後に、何を数えるか
9月9日の手交は、政策の到達点ではない。経済団体が会員企業へ文書を回した数だけでは、雇用は生まれない。評価すべきなのは、新たに職場見学や実習へ進んだ企業、初めて求人を出した雇用ゼロ企業、採用に至った人数、半年後・一年後の定着、合理的配慮をめぐる相談が解決したかである。
同時に、行政も自らの数字から逃れられない。2025年6月時点で、兵庫県の4機関を合計した実雇用率は2.61%と、当時の公的機関の法定雇用率2.8%を下回った。県等の教育委員会4機関の合計は1.85%で、当時の法定雇用率2.7%との差がさらに大きい。いずれも4機関のうち3機関は個別の雇用義務数を達成しており、ここでも合計の率と機関別達成状況は分けて読む必要がある。民間企業へ要請する側には、公的部門の改善状況も継続的に説明する責任がある。
兵庫の2.45%は、全国の2.41%をわずかに上回る。達成企業割合47.4%も、全国の46.0%より1.4ポイント高い。比較だけなら、兵庫は全国より少し良い。しかし、基準は全国平均ではなく、働く意思と能力がある人が入口で排除されず、必要な支援を得て役割と賃金を持てるかどうかだ。
次に注目すべき数字は、県全体の平均が2.7%へ近づいたかどうかだけではない。雇用ゼロ企業がどこまで減ったか、一人不足企業が最初の一人を迎えられたか、卒業者の選択肢が広がったか、そして採用された人が働き続けられたか。47.4%の現実を変えるのは、その積み重ねである。
- 兵庫県 — 経済団体等に対する障害者雇用拡大の要請(2026年8月27日)
- 兵庫労働局 — 令和7年 障害者雇用状況の集計結果
- 厚生労働省 — 令和7年 障害者雇用状況の集計結果(全国)
- 兵庫県 — 障害者法定雇用率の引き上げ・納付金制度
- 厚生労働省 — 事業主の方へ:雇用率、報告義務と職場づくり
- 厚生労働省 — 障害者雇用促進制度の概要と制度史
- 兵庫労働局 — 令和8年度「障害者・高年齢者の活躍に向けた雇用指導・支援」
- 厚生労働省 — 雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮
- 高齢・障害・求職者雇用支援機構 — 職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援
- 高齢・障害・求職者雇用支援機構 — 障害者雇用納付金制度の概要
- 厚生労働省 — 障害者雇用促進法に基づく企業名公表の仕組み
