1958年岐阜県恵那市で創業
2026年11月6日東京初のバロー開業
2,177.93㎡本羽田店の売場面積
50億円経営者が示した年商目標
取材方法:バローホールディングスの開設資料・沿革・店舗情報を中心に、開店日の様子と経営者の発言は業界紙・岐阜新聞の現地報道として明示した。JAPAN.co.jpは現地訪問や経営陣への独自インタビューを実施していない。11月9日時点の追加実績を確認した記事ではない。

開店初日、東京が見せた反応

11月6日朝、東京都大田区本羽田の大型スーパーに人の列ができた。名は「スーパーマーケットバロー本羽田店」。岐阜県恵那市を発祥とする食品スーパー「バロー」が、東京都内に初めて設けた店舗である。先に横浜へ出店したとはいえ、首都・東京の買い物客にブランドをどう受け止められるかは、これからの課題だ。

開店当日を取材した業界紙「流通ニュース」は、午前6時ごろから人が並び、開店時刻を予定より早めて午前8時50分にしたと伝えた。午前10時台には入場制限が生じ、一時は2時間待ちになったという。これらは同紙の現地報道による数字であり、JAPAN.co.jpが独自に来店人数を数えたものではない。初日の熱気は確かに注目に値するが、長く通い続ける顧客をどれだけ得られるかは別の問題である。

「流通ニュース」によれば、バローホールディングスの小池孝幸社長は年商50億円を目指す考えを示した。これは初年度の実績ではなく、経営者が語った目標だ。11月7日付の岐阜新聞では、同社が東京都西部や横浜方面でのさらなる展開を視野に入れているとも報じられた。岐阜の一地方スーパーが東京で何を売り込もうとしているのか。答えは、値札だけではなく売場そのものにある。

「安さ」だけでなく、「食べたくなる理由」をつくる

同社が掲げるのは「デスティネーション・ストア(目的地となる店)」という考え方だ。最寄りだから入るのではなく、多少離れていても「あの店に行きたい」と思わせる食品売場を目指す。10月30日の開設発表では、青果、鮮魚、精肉をそれぞれ八百屋、魚屋、肉屋の専門店のように磨き上げ、惣菜とパンを組み合わせる方針を示した。

鮮魚には丸魚の対面販売を設け、季節の魚や貝、素材を生かした寿司を並べる。精肉では飛騨牛と黒毛和牛、自家製のローストビーフやローストポークを売り込む。青果では季節の野菜、果物、生花に加え、果物を使ったデザートまで提案する。店の公式案内には「北欧倶楽部(ベーカリー)」「お魚屋の寿司」「八百屋の生フルーツデザート」の専門コーナーが掲載されている。

業界紙による開店日の売場取材は、丸魚の対面販売や貝の生けすなど、横浜1号店の経験を踏まえた品ぞろえを伝える。商品がすべて安い、あるいは地域で最も高品質だということまで証明するものではない。目指すのは、生鮮食品を「調理する素材」としてだけでなく、今日の献立を考える楽しさそのものとして売ることだろう。

1958年、恵那の「主婦の店」から始まった

バローの歴史は東京ではなく、岐阜県恵那市から始まる。バローホールディングスの公式沿革によると、創業者の伊藤喜美が1958年に「株式会社主婦の店」を設立し、同年9月、恵那店を開業した。当時は野菜なら青果店、魚なら鮮魚店と別々に買い物をする暮らしが一般的で、一か所で食料品を選べるセルフサービスの仕組みが新しかった。

その後、1970年に「主婦の店バロー」を名乗り、1974年には「株式会社バロー」に改称。会社の説明では、valorという語に込めた「勇気」が社名の由来だ。1977年に本部を多治見市へ移し、1985年には惣菜などを担う中部フーズを設立。1989年には多治見市で物流センターを開いた。

創業からの半世紀余りで重要だったのは、店舗数の拡大だけではない。仕入れ、製造、加工、物流、店舗販売という、本来は分かれていてもおかしくない機能をグループ内で積み重ねたことだ。今日の本羽田店に並ぶパンや惣菜、自社企画商品は、そうした歴史の延長線上にある。

地方で育てた「食品の専門店」を、東京の日常の選択肢にできるか。

製造小売りの強みは、商品を作る過程にある

小売業が売場だけを競えば、価格、立地、広告費の勝負に引き込まれやすい。バローグループは自社の製造・加工や物流の機能を活用し、他社の棚にそのまま並ぶ商品だけに頼らない売場を築こうとしてきた。中部フーズなどの関連事業や物流拠点の発展は、公式沿革にも示されている。

本羽田店が掲げる「食の専門店の集合体」は、単に専門売場の看板を掛ける話ではない。素材を調達して加工し、惣菜へ展開し、鮮度を保って店舗へ届け、必要なら店頭で調理や販売の仕方まで工夫する。それらをつなげることで「ここでしか買えない」と感じる商品を増やせるかが問われる。

バローの10月30日付開設資料では、約700種類のプライベートブランド商品を用意すると明記されている。ただし品数が多いことと、商品が顧客に支持されることは同義ではない。商品が繰り返し購入されるか、廃棄や人件費を抑えながら鮮度を維持できるか。自社製造型の戦略も、結局は日々の営業成績によって評価される。

横浜を経て東京へ、首都圏で二つ目の拠点

「関東2店舗目」という点は重要だ。スーパーマーケットバローの関東進出第1号は、2025年11月21日に横浜市港南区で開業した「横浜下永谷店」である。グループ会社が以前から関東で事業を展開していたとしても、バローの看板を掲げた食品スーパーとしては横浜が最初だった。

オカムラによる横浜下永谷店の店舗事例では、鮮魚売場に生けすを設け、豊洲市場からの仕入れや地域性を生かした惣菜を組み合わせる売場づくりが紹介されている。横浜で試した生鮮強化型店舗をさらに広げるために、本羽田店では売場面積を約2,178平方メートルまで拡大した。会社がこれを関東の旗艦店と位置づける理由も、単純な地理的拡大ではなく、売場の完成度を試す狙いにあると読める。

もっとも、横浜で人が集まったという報道は、本羽田で同じ成果が長期的に続く証拠ではない。横浜と大田区では世帯構成、通勤・買い物動線、競合店の配置が異なる。首都圏の地域ごとに、売れる魚も惣菜も変わり得る。

2177.93平方メートルの売場に込めたもの

本羽田店の所在地は東京都大田区本羽田1丁目23番25号。会社の開設資料では、4階建ての建物で食品スーパーの売場面積は2,177.93平方メートル。バックヤードは1,509.62平方メートル、食品スーパーの占有部分は共用部を含めて4,091.14平方メートルとされる。駐車場は304台分である。

食品スーパーの通常営業時間は午前10時から午後8時。開業3日間の11月6〜8日は午前9時30分から午後8時の特別営業時間が案内されている。テナントではポニークリーニングが11月6日開業、ノジマは11月19日、スギ薬局、セリア、JINSは11月26日の開業予定だ。予定は変更される可能性があるため、訪問前に公式店舗ページを確認したい。

店舗の広さも駐車台数も、最終的には顧客の日常生活に合っているかで価値が決まる。車でまとめ買いする家庭にも、仕事帰りに惣菜を選ぶ人にも利用しやすいか。東京での定着は、開店日の行列だけでは測れない。

「目的地型」の裏側にある競争

本羽田は多摩川に近く、住宅地の暮らしに密着した商圏である。かつてのオリンピック本羽田店の跡地を活用するため、売場の新しさだけではなく、以前の店を利用していた人々の買い物習慣と向き合うことになる。近隣には他の食品スーパーもある。競合関係を語る際には、単に「激戦区」という言葉で済ませず、何を求める顧客がどの店を選ぶのかを考える必要がある。

価格の安さを重視する人、仕事帰りの利便性を重視する人、魚を丸ごと選びたい人、惣菜の選択肢を求める人。どれも同じ「スーパーの顧客」だが、来店する理由は違う。バローの試みは、値下げ競争を避けられるという保証ではなく、「この店ならでは」の価値によって選択肢を増やせるかという実験だ。

一方で、豊富な生鮮品や対面販売、店内加工は、十分な専門人材と品ぞろえの管理を必要とする。高い集客力を維持しながら、廃棄率、作業負担、光熱費をどう抑えるのか。その答えは現時点で公表されている開店資料だけでは見えない。

岐阜にとっての東京進出

この進出は、東京で1店増えたという以上の意味を岐阜に持つ。恵那の一店舗から出発した会社が、多治見を拠点に物流と製造を整え、その仕組みを首都圏に持ち込んだ。地元で築いた食のブランドや仕入れのネットワークが、遠隔地の消費者に届く可能性も広がる。

飛騨牛という名前が東京の売場で存在感を持つことは、岐阜の農畜産物の認知にもつながり得る。ただし、特定産品の売上増加や生産者所得への効果は、取引量などのデータなしには断定できない。地方の食品文化を紹介することと、会社の販売戦略を評価することも、分けて考えるべきだ。

岐阜の会社が東京で成功するとはどういうことか。看板を掲げることか、売上目標を達成することか、それとも地域の顧客が、何年も足を運ぶ店になることか。後者を確かめるには、これからの時間が必要だ。

50億円の目標、その先にある試金石

開店当日の取材で示された年商50億円という目標は、バローの首都圏戦略に一つの尺度を与える。ただし、それだけでは採算性を判断できない。建物、加工設備、物流、人員配置、販売促進などの費用を踏まえた営業収益は別途検証する必要がある。また、最初の週末の混雑と、半年後の平日の客数には大きな違いがあり得る。

今後注目したいのは、開業後数カ月の来店客の推移、鮮魚・精肉・惣菜などの売上構成、プライベートブランド商品の定着、横浜店との物流・商品面での連携、そして次の出店地域だ。小池社長の目標が実績として表れるのか、競争が価格や品ぞろえにどのような変化を生むのかを追う必要がある。

1958年に岐阜・恵那の「主婦の店」が提供したのは、一か所で食品を買える便利さだった。2026年の本羽田店が売ろうとしているのは、どこで買うかを選ぶ楽しさである。その違いに、地方発スーパーが東京へ挑む67年余りの歴史が映る。

店舗情報

開店日2026年11月6日
所在地東京都大田区本羽田1丁目23番25号
売場面積2,177.93平方メートル
駐車場304台
通常営業時間10:00〜20:00
電話03-6423-2832
関東展開横浜下永谷店(2025年11月)に続く2店舗目

営業時間やテナント予定は変更されることがある。訪問前に公式店舗情報を確認してほしい。

出典と取材方法

一次資料で確かめられる事項と他社報道による観察・発言を区別した。目標売上は実績ではない。

  1. バローホールディングス:本羽田店開設のお知らせ(2026年10月30日)
  2. バローホールディングス:沿革
  3. バロー:本羽田店公式案内
  4. バローホールディングス:関東初出店の発表(2025年)
  5. 流通ニュース:本羽田店開業レポート(2026年11月6日)
  6. ダイヤモンド・チェーンストア:売場取材(2026年11月6日)
  7. 岐阜新聞:バロー都内1号店が開業(2026年11月7日)
  8. オカムラ:横浜下永谷店の店舗事例