約30人高山署の対策会議参加者
1.7倍圧雪路での普通タイヤの制動距離、対スタッドレス
2026年11月6日高山土木事務所の閉鎖情報更新
2025年12月前年にもレンタカー業界が対策会議に参加
取材方法:2026年11月6日の報道、岐阜県・高山市観光公式サイト・JAF・NEXCO中日本などの公表資料による文書取材。路面状態はリアルタイムで変化し、この記事は運行・通行可否を保証しない。会議参加者への独自取材は行っていない。

雪の降る前に、防ぎたい渋滞がある

雪をまとった合掌造りの屋根、古い町家の格子、冬の朝に立ち上る湯気。飛騨の観光が最も美しく見える季節は、車の運転にとって最も注意が必要な季節でもある。観光客の車が一台、坂道で動けなくなる。それだけで狭い道路の流れが止まり、地元の通勤や物流、観光バスにも影響が広がる可能性がある。

岐阜新聞が11月6日に報じたところによると、岐阜県警交通企画課は高山警察署で「冬季におけるノーマルタイヤ装着車両による交通障害対策会議」を開いた。高山、飛騨、下呂の3市と白川村、観光協会、国・県の関係機関などから約30人が参加し、冬用タイヤを装着せず訪れる車のスタックやスリップが招く問題を話し合った。報道にあるのは対策の協議であり、新たな違反件数や特定の日の事故発生を示す統計ではない。

飛騨の四つの自治体が共有する課題

飛騨地域では道路が生活の骨格をなす。高山市の旧市街、飛騨市の町並み、下呂の温泉、白川村の集落を訪れる人と、冬も毎日その道を使う住民の移動が重なる。山間部は日陰が長く、同じ道でも日なたの舗装面と日陰の橋の上とで路面状態が変わり得る。市街地に雪が見当たらない朝でも、峠や高地には凍結が残る。

高山市観光公式サイト「飛騨高山旅ガイド」は、冬季にはスタッドレスタイヤを装着し、凍結路面が不安ならバスやJRを選ぶよう勧める。関東方面から車で訪れる場合の目安として11月中旬から4月下旬までの冬タイヤ使用を案内し、奥飛騨の標高が高い場所や早朝・深夜を特に注意すべき環境としている。これは季節的な目安であり、全ての日の路面状態を断定するものではない。

「走れる」と「止まれる」は違う

冬道の危険を理解するうえで重要なのは、発進できたかどうかではない。雪道でも車は動き出せる。しかし、曲がるときに前輪が滑る、下り坂で制動が間に合わない、交差点の手前で止まれないといった場面に、準備不足が表れる。四輪駆動は発進を助けても、タイヤの摩擦限界を消してくれるわけではない。

日本自動車連盟(JAF)が2017年に北海道の試験路で行った比較では、時速40キロからの急制動で、圧雪路の普通タイヤは29.9メートル、スタッドレスタイヤは17.3メートルで停止した。およそ1.7倍の違いだ。凍結した氷盤路では普通タイヤ105.4メートル、スタッドレスタイヤ78.5メートルで、どちらも極めて長い。新品タイヤ、特定の試験環境で得た値であって、実際の飛騨の道路で常に同じ距離になるという意味ではない。

装備のない雪道走行は法令違反にも

冬用タイヤは「あると安心」な旅行用品というだけではない。岐阜県飛騨県事務所の公式注意喚起は、積雪・凍結した道路でノーマルタイヤのまま滑り止め措置をとらず運転することが、道路交通法第71条第6号と岐阜県道路交通法施行規則第12条第4号に関係する違反に当たると明示する。道路状況に応じて適切な冬用タイヤやチェーンなどの滑り止め措置を講じる必要がある。

高速道路の規制はさらに区別が必要だ。NEXCO中日本は、冬用タイヤ規制では冬用タイヤまたは所定のチェーン装着が求められる一方、厳しい「チェーン規制」が出た場合はスタッドレスタイヤだけでは通行できず、チェーンが必要になると説明する。冬タイヤを履いていても、路面状況によっては通行止めになる。規制の名称とその時点の表示を確認してほしい。

2025年から続く協議、問われる実効性

今回の会議は突発的な一回きりの発想ではない。全国レンタカー協会によると、2025年12月19日にも岐阜県警が冬季のノーマルタイヤ装着車両による交通障害への対策会議を開き、岐阜県・愛知県のレンタカー協会が参加した。協会側は利用者の目的地を確認し、雪の多い地域に向かう車の冬用タイヤ装着や、外国人利用者への安全運転・交通ルールの周知を進めると説明している。

観光客が雪国に到着して初めて注意書きを見るのでは遅い。予約サイト、レンタカーの受付、空港・駅、目的地までの道路情報など、出発前に必ず通る接点で、必要な装備を示すことが望ましい。会議の開催が事故や渋滞を何件減らしたかを測るには、冬季の通行障害件数やレンタカーの装備状況などの継続的な公表が必要だ。現時点でその成果を示す比較資料は確認できない。

外国人旅行者に「伝わる」情報とは

飛騨高山や白川郷には、日本語を第一言語としない旅行者も訪れる。レンタカーの契約時に「スタッドレス」という日本語を聞いただけでは、雪道に必要な性能、通行規制、チェーンの用意まで理解できたとは限らない。道路情報を翻訳するだけでなく、いつ、どこで、どの装備が必要かを具体的に伝える必要がある。

白川郷観光協会の英語版FAQは、雪の季節の運転にスタッドレスタイヤの装着を求め、四輪駆動車を強く勧めている。ただし、四輪駆動車でも冬用タイヤを省略できるとは書いていない。外国人旅行者だけに責任を負わせるのではなく、貸し出す事業者、案内する宿泊施設、周辺地域の行政機関が情報の受け渡しを整えることが公共安全につながる。

オールシーズンタイヤという落とし穴

「冬も走れる」と表示されたオールシーズンタイヤも万能ではない。JAFの比較試験では、圧雪路での停止距離はスタッドレス17.3メートル、オールシーズン22.7メートル、普通タイヤ29.9メートルだった。氷盤路ではオールシーズン101.1メートルに対しスタッドレス78.5メートルで、凍結した路面では性能差が大きかった。

タイヤの表記やチェーン適合性、道路規制の条件は製品・路線ごとに確認する必要がある。「雪道対応」の文言だけを根拠に、奥飛騨の凍結路や大雪時の高速道路へ進んではならない。雪道に不慣れなら、運転そのものを見送る判断も、安全を確保するための重要な選択肢である。

道路閉鎖と天候を知る手順

出発前には、気象庁の警報・予報に加え、道路を管理する機関の情報を照合したい。岐阜県道路維持課の「道の情報」は県管理道路の通行規制や雪情報、道路画像への入口で、高山土木事務所は2026年11月6日現在の2026~27年冬期閉鎖情報を公開した。冬期閉鎖の開始・解除予定日は降雪状況により変わるため、固定の日程表だけでは十分ではない。

国道41号などの路面状況は国土交通省中部地方整備局の案内する「ひだ道ガイド」を、高速道路はNEXCO中日本の最新規制・交通情報を確認する。県の案内自身が、表示と実際の道路状況が異なり得ると注意している。地図アプリの経路が表示されていても、通行可能な証明にはならない。予報が悪化したら予定を変更し、無理な抜け道を探さないことが肝心だ。

雪の町を訪ねる歴史、雪と暮らす歴史

高山の町並みは単なる写真向けの舞台ではない。16世紀末に金森長近の城下町として整えられ、1692年には幕府の直轄地となり、飛騨の木材と商業を背景に発展した。現在の古い町並みはその歴史の一端を伝え、雪が木造建築や格子を包む冬景色は国内外の旅行者を引きつける。白川郷の合掌造りも、大雪を前提に暮らしを築いてきた土地の知恵を思い出させる。

冬の観光を支えるのは景色だけではない。除雪、道路管理、地域住民の生活、観光客の移動を組み合わせる地道な仕事だ。雪国の日常を観光資源として楽しむ側が、その環境に適切な準備をする。それは「自己責任」の一語で片づけられない、地域と来訪者が共有する安全の基礎である。

冬の飛騨へ向かう前の確認事項

車を借りる場合は、予約前に目的地と経路を伝え、全輪に適切な冬用タイヤが装着されるか、チェーンの携行・装着条件はどうかを確かめたい。出発当日は天候、道路規制、夜間の冷え込み、所要時間に十分な余裕があるかを再確認する。車間距離を長く取り、急発進・急ブレーキ・急ハンドルを避け、屋根や窓の雪を落としてから走る。JAFが公式に挙げる基本動作だ。

不安があれば電車や路線バス、観光バスに切り替える。公共交通にも荒天による運休の可能性があるため、運行情報の確認は必要だ。旅先で道路が急に危険になったとき、先へ進まない決断をできるか。高山署に集まった関係者の会議の意味は、冬景色を楽しむ人とそこで暮らす人の双方を、余計な危険に巻き込まない仕組みをつくれるかにある。

出典と取材方法

県警の会議に関する新聞報道と、公的機関が公表する交通安全・観光・道路情報を突き合わせた。実測値は試験条件を付して示し、法令上の規制と季節的な推奨を区別した。

  1. 岐阜新聞(2026年11月6日):冬季の飛騨地域、ノーマルタイヤ車両トラブル防げ
  2. 岐阜県飛騨県事務所:冬期運転時の冬用タイヤ着用に関する注意喚起
  3. 高山市観光公式サイト「飛騨高山旅ガイド」:よくある質問・冬の旅
  4. 白川郷観光協会:季節と冬用タイヤに関するFAQ
  5. JAF:走れても止まれない、雪道のノーマルタイヤ(試験条件・結果)
  6. JAF:雪道・アイスバーンでの運転の注意点
  7. JAF:オールシーズンタイヤの特性と限界
  8. NEXCO中日本:冬場に高速道路を走行する場合の注意点
  9. 岐阜県道路維持課:道の情報・通行規制等
  10. 岐阜県高山土木事務所:2026–27年冬期閉鎖情報(11月6日更新)
  11. 全国レンタカー協会:2025年12月の冬季タイヤ交通障害対策会議への参加
  12. JNTO:飛騨高山の冬の観光と町並みの歴史
  13. JNTO:高山城下町の発展と1692年の幕府直轄化