「働く人」だけでは語れない、8万人の暮らし
岐阜県が次の多文化共生政策を議論する。11月5日、県は「令和8年度岐阜県外国人材活躍・多文化共生推進本部本部員会議」の開催を公表した。2022年3月に策定された第4期基本方針が2026年度末で計画期間を終えることを受けたもので、発表時点で新方針が決定したわけではない。会議で何を議論し、どのような政策を打ち出すかは、議事資料とその後の発表を確認する必要がある。
政策を考える入口は、工場の人手不足だけでは足りない。県によると2025年末時点の在留外国人数は8万766人で過去最多。働く人もいれば、地域で子どもを育てる人、学校に通う人、長年同じ町で暮らす人もいる。「外国人材」という産業政策の言葉と「外国人県民」という生活者の言葉。その両方をどう一つの施策に結びつけるかが次の5年間に問われる。
8万766人と4万7,534人――数字が示す二つの現実
在留外国人8万766人は、出入国在留管理庁の2025年12月末統計に基づく県内の在留者数だ。一方、岐阜労働局が2026年2月に発表した2025年10月末の外国人労働者数は4万7,534人、雇用を届け出た事業所は6,094か所だった。労働者数は前年同期より3,801人、8.7%増えている。調査の対象、時点、制度上の定義が異なるため、二つの数字を引き算して「働いていない人」を算出することはできない。
労働局の同系列統計では、2015年の外国人労働者は2万1,451人、事業所は3,194か所。10年で働く人は2倍を超え、雇用する事業所もほぼ倍増した。企業の採用計画だけでなく、賃貸住宅、病院の受付、保育園、自治会、災害時の避難所が、すでに変わりつつあることを意味する。
製造業の現場で、46.2%という重み
2025年10月末の外国人労働者4万7,534人のうち、製造業は2万1,945人、全体の46.2%を占めた。岐阜県の強みである自動車関連部品、金属加工、機械、繊維などの産業集積を考えると、外国人従業員を単なる一時的な補助労働力と捉えることは現実に合わない。技術の伝承、安全教育、品質管理、昇進の機会を含めて、職場を長期的に設計する課題がある。
ただし「外国人労働者」と一括りにしては、在留資格や就労条件の違いが見えなくなる。2025年10月の労働局統計では、身分に基づく在留資格が1万6,031人、技能実習が1万5,727人、専門的・技術的分野の資格が1万1,626人だった。背景や法的な位置づけは同一ではなく、企業の責任も制度によって異なる。
岐阜の多文化社会は一夜で生まれたのではない
日本の製造業と国際移動の関係は1990年前後に大きく変化した。1990年施行の入管法改正による日系人と家族の在留の枠組みなどを背景に、東海地方の工業都市では南米にルーツを持つ住民が増えた。岐阜では美濃加茂市、可児市などに多様なコミュニティーが育ち、学校の日本語支援や行政の多言語窓口が地域の課題となっていった。
その後はベトナム、フィリピン、インドネシアなど、出身国・地域も在留の目的もいっそう多様になった。岐阜労働局の2025年10月統計で働く人が多いのはベトナム1万2,363人、フィリピン9,553人、ブラジル5,319人、中国5,278人の順。ただし、これは「労働者」の内訳で、子どもを含む住民全体の国籍構成とは同じではない。
2022年の基本方針が掲げた「働く」と「暮らす」
県の現行方針の正式名称は「第4期岐阜県外国人材活躍・多文化共生推進基本方針」。2022年度から2026年度を対象とし、すべての県民が働きやすく、暮らしやすい社会を目指す。県のサイトには計画本文に加え、英語、中国語、ポルトガル語、タガログ語、ベトナム語の版が公開されている。政策そのものを住民が理解できる言語で示すことも、共生を測る一つの尺度となる。
次期計画では、施策を列挙するだけでは不十分だ。生活相談の利用実績、必要な言語で情報が届く率、学齢期の児童への支援、職場での相談体制、自治体間の差など、検証可能な目標と結果が求められる。これは本紙の分析であり、県が新計画で具体的にこれらの指標を採用すると決めたという意味ではない。
日本語教育――「教室がある」から「参加できる」へ
県は生活者のための日本語教育を取り組みの柱としている。11月2日には、2026年12月から2027年2月にかけて開くオンライン日本語会話クラスの日本語パートナー募集を告知した。全10回、日曜午前に行う予定で、日本語を母語としない人と地域住民が会話を通じて学ぶ仕組みだ。単なる試験対策ではなく、地域に顔見知りをつくる機会にもなり得る。
しかし、交代勤務や子育てで決められた時間に参加できない人もいる。日本語学習の機会が地域、勤務形態、通信環境によってどれほど違うのか。受講者数だけでなく継続率や学習後の生活での使いやすさを確認できれば、政策の評価は一段深まる。現時点でその成果を裏付ける統一的な県内比較データは、本稿で確認した資料からは示せない。
防災、医療、学校――働く場の外にある安全網
2026年9月、県は笠松町で外国人県民向けに日本の災害を学ぶ講座を案内した。地震や豪雨を経験したことのない人が適切に行動できるようにするのが狙いだ。県の共生施策には外国人防災リーダーの派遣、医療通訳ボランティアのあっせん、外国語相談や生活ガイドの提供なども含まれる。人口の多様化に合わせ、行政の情報発信そのものを変える取り組みである。
防災訓練の日に働いている人、緊急時にスマートフォンの通信が途絶えた人、医療機関の専門用語を理解できない人はどう支援されるのか。災害情報が届くか、説明を聞いて意思決定できるか、子どもが学校生活を続けられるか。多文化共生は理念の掲示より、こうした普通の日と非常時の手順で試される。
2027年、「育成就労」が始まる
国の制度も転換期を迎える。技能実習制度に代わる「育成就労制度」は2027年4月1日に運用開始予定だ。出入国在留管理庁によれば、技能実習が国際貢献を目的としてきたのに対し、新制度は人手不足分野での人材育成と確保を目的に据える。本人の意向による転籍を一定条件で認めるなど、権利保護の仕組みにも変更がある。
この改革で、県内事業者の採用方法や教育体制、相談体制には見直しが迫られる可能性がある。ただし、具体的な適用は分野、移行措置、個々の在留状況によって異なる。新制度が始まれば直ちにすべての労働条件が改善される、とする根拠はない。国の制度変更と県の次期計画を、別々ではなく同時に検証する必要がある。
受け入れ企業と地域社会、誰が何を担うのか
企業には適切な雇用管理、安全教育、労働条件の説明と相談先の整備が求められる。他方、行政の役割は労働政策だけではない。交通や住宅、教育、医療、防災、日本語学習まで生活の範囲は広い。学校、地域団体、企業が役割を押しつけ合うのではなく、切れ目のない支援を設計できるかが問われる。
その際、外国人県民を「助けられる人」とだけ捉えてはならない。長く地域で暮らし、地域活動を担う人々もいる。新しい制度や窓口を設計するとき、当事者が意思決定や評価に関われるか。県の会議開催の案内だけでは、こうした参画がどのような形で行われるかはまだ分からない。
次の5年間の試金石
11月5日の発表が示しているのは、あくまで次期方針を議論する場の設定だ。議決事項や新たな数値目標が示されたと確認できない段階で、「県が新政策を決めた」と報じるのは早い。今後、会議資料、議事要旨、素案、意見募集、最終決定の過程を継続して追う必要がある。
岐阜の人口と産業を見れば、外国人住民の存在を特殊な話題として切り離すことはできない。問題は「何人を迎えるか」だけでなく、すでに共に暮らす人たちが安全に働き、学び、年を重ね、町の将来を形づくれるかだ。その問いに具体的な制度と予算で答えられるかどうかが、次の基本方針の評価を決める。
出典と取材方法
公的統計の定義と調査時点を区別し、政策の発表と決定を混同しない。掲載時点で確認できる一次資料を中心に編集した。
- Gifu Prefecture, November 5 headquarters-meeting announcement
- Gifu Prefecture, fourth-phase multicultural policy (2022–26)
- Gifu Prefecture, foreign-resident statistics
- Gifu Prefecture, 2026 disaster education initiative
- Gifu Labour Bureau, foreign-employment notification statistics (October 2025)
- Gifu Labour Bureau, detailed foreign-worker tables
- Gifu Prefecture, multicultural services and resident information
- Gifu Prefecture, 2026 online Japanese conversation project
- Immigration Services Agency, Employment for Skill Development Q&A
- Gifu Shimbun, decade-long demographic analysis, April 2026
- Gifu Prefecture, major prefectural plans
- Gifu Prefecture, statistical picture of the prefecture
