女性が働く県から、誰もが生き方を選べる県へ。
働く女性の県、という数字の向こう
福井県は長く「共働きの多い県」として知られてきた。2020年国勢調査で、夫婦のいる一般世帯のうち双方が就業する世帯は10万844世帯、割合は61.2%。全国首位だった。女性の就業率も55.6%で全国2位。働く女性の姿は、工場にも病院にも、学校にも商店にもある。ただし、就業率の高さだけで暮らしの充実度を測れるだろうか。仕事を続けられること、管理職を目指せること、子どもを育てられること、家庭の外でも内でも自分の時間を持てること。それらは同じではない。本稿は数字を称賛するだけでなく、数字が語らない家事、ケア、所得、将来の選択肢を考える。
共働きは福井の生活文化になった
福井の共働きは突然生まれたものではない。繊維、眼鏡、機械部品など、都市の大企業だけに依存しない地場産業が各地にあり、家族経営や地域の生産現場で女性が働いてきた歴史がある。祖父母を含む家族の助け合いも語られるが、全家庭に同じ支援があるわけではない。2010年国勢調査の共働き率56.8%、2015年58.6%、2020年61.2%という推移は、夫婦の就業が広がったことを示す。ただし「共働き率」は結婚している夫婦のいる一般世帯を分母とした指標だ。単身者、ひとり親、未婚の女性の生活をすべて映してはいない。
女性が働くことと、女性が決めること
2020年の統計では、女性就業率55.6%は全国2位だった。一方、働いているかどうかと、その働き方の質は別の問題である。昇進の機会、賃金、所定外労働、非正規雇用の割合、介護による離職などを合わせて見なければならない。家計を支える重要な仕事を続けながら、家事・育児の調整も主に担うなら、就業の高さは自由と負担の両面を持つ。県が2026年に家事負担の軽減や社外メンターの導入を支援していることは、こうした問題が政策課題になっている証拠でもある。支援事業の存在をもって、格差が解消されたと評価することはできない。
人口は減り、世帯は増える
2026年9月29日に公表された2025年国勢調査では、福井県の人口は72万8588人。2020年より3万8275人、4.99%少なくなった。一方、世帯は29万5766世帯で4104世帯、1.41%増えている。一般世帯の平均人員は2.57人から2.40人へ縮小した。人口と世帯の逆方向の動きは、家族の構成や住まい方の変化を映すが、理由を一つに決めつけることはできない。小規模世帯の増加は、子育て世帯だけでなく、高齢単身者や夫婦のみの世帯の支援にも新しい視点を求めている。
「ふく育県」は何を支えるのか
県は子育て支援の情報を「ふく育」ポータルにまとめ、妊娠、出産、医療、保育、一時預かり、育児休業後の復職支援などへの案内を行っている。2026年には、「ふく育さん」「ふく育タクシー」で使える支援券など、対象世帯に条件付きの施策も公表した。例えば、ひとり親、多胎児、医療的ケア児の家庭向け共通利用券4万8000円分や、希望する妊婦への5000円分の利用券がある。いずれも申請条件を確認する必要があり、すべての家庭への一律給付ではない。政策は選択肢を増やしうる一方、地域ごとの提供者、利用可能時間、申請の手間を見なければ使いやすさは判断できない。
子どもの教育と、働く親の時間
保育所に入れることだけで、育児と仕事の両立が完成するわけではない。保育終了後の迎え、病気の子どもの看護、放課後の居場所、長期休暇、学校行事、きょうだいの送迎が重なる。県の施策には放課後児童クラブ支援、子育てマイスター、子どもの遊び場情報、一時預かりへの助成などがある。教育面では、人口減少に伴って学校の規模や地域の交通事情が変化する可能性もある。子どもにとって選択肢が多いことと、親が継続して働けること。その両方を測る指標を私たちは必要としている。
賃金と管理職を、見える数字に
2026年4月から、改正女性活躍推進法に基づき、常時雇用する労働者101人以上の企業に男女間賃金差異と女性管理職比率の情報公表義務が広がった。福井県も企業向けの個別訪問支援を案内している。県庁の2025年度の女性管理職割合は25.3%と公表され、福井大学は2026年6月、管理職に占める女性の割合21.0%を開示した。ただし両者は別の組織の数値で、県内民間企業の平均値ではない。賃金差の数値も雇用区分や年齢構成で変わるため、統計の対象と算出方法を併記する必要がある。公表は出発点であって、改善そのものではない。
働く場所も生き方も多様に
福井の女性は眼鏡づくりや繊維、医療、福祉、教育、観光、情報産業、行政など幅広い分野を担う。会社員、経営者、職人、研究者、農業者、育児や介護を担う人――暮らしを一つの家族像にまとめることはできない。県は2026年、ものづくり企業で働く女性の交流フォーラムを開き、企業外の女性管理職らによるメンター制度も募集した。これらが必要なのは、地域に技能や意欲があっても、会社や業界の内側だけでは出会えない人と機会があるからだ。働き方を選べることは、県外へ出る人にも、福井へ戻る人にも大切になる。
少子化と家族の政策は同義ではない
人口が減っているからといって、女性の人生を出生数の目標に置き換えるべきではない。子どもを持つ、持たない、いつ持つ、誰と暮らす――そうした決定は本人のものだ。行政が果たせる役割は、本人の望む選択を妨げる費用や制度の壁を減らすことである。2025~2029年度の県実行プランは「ふく育県」を掲げ、子どもと若者、多様な家庭を支える方向を示す。成果の判断には、支援金の件数だけでなく、利用者の満足、仕事への復帰、男性の育児参加、保育の地域格差、子どもの生活状況といった継続的な検証が欠かせない。
次の5年間は県庁自身が試される
福井県は2026年度から2030年度までを対象とする「福井県職員子育て応援・女性活躍推進プラン」を定めた。公務員の雇用主である県自身が、育児と仕事の両立や女性の登用をどう進めるのかを問われる。県の取り組みは民間企業へ直接適用されるわけではないが、社会に示すモデルになる。男性が休暇を取りやすいか、育児後に女性が希望する職域へ戻れるか、管理職が長時間労働を前提にしていないか。数字を毎年追い、うまくいかない施策も公開する姿勢が大切だ。
福井の未来は、選択肢の数で測りたい
福井には、技能を受け継ぐ工房、子どもの笑い声が響く学校、二人で家計を支える家庭、単身で暮らす高齢者、新しい仕事を始める若者がいる。どの暮らしも同じように地域の未来をつくる。共働き率全国首位という記録は誇りになりうる。しかし、それが女性や男性、子どもたちにとって望む人生を選ぶ余地を広げたかどうかは、別に調べ続ける必要がある。福井の強さは、皆が同じ生き方をすることではなく、多様な暮らしが続けられることにこそある。
取材・情報提供のお願い
福井で働き、学び、子育てをし、または家族を介護する皆さんの経験を募集しています。県内企業、教育機関、自治体からの統計資料や制度の実施状況についても情報提供を歓迎します。取材は未実施の当事者談を含まず、寄せられた情報は確認のうえ続報で扱います。編集部へのご連絡はこちら。
出典・参考資料
統計は各調査時点・定義を付して引用。就業指標は2020年、人口と世帯数は2025年、政策の動向は2026年時点。独自の当事者インタビューは実施していません。
- Fukui Prefecture, 2020 Census employment and dual-earner households
- Fukui Prefecture, 2025 Census population and households, September 2026
- Fukui Prefecture, 2026–2030 public employee childcare and women’s advancement plan
- Fukui Prefecture, gender equality programs and 2026 annual report
- Fukui Prefecture, childcare services and assistance
- Fukui Prefecture, Fukuiku childcare portal
- Fukui Prefecture, 2025–2029 prefectural policy execution plan
- Fukui Labour Bureau, Women’s Advancement Act changes
- University of Fukui, women’s advancement disclosure, June 2026
- Fukui Prefecture, employment and work conditions
