1908年笠戸丸がブラジル・サントス港に到着
4,928人越前市の外国人市民(2024年4月)
15,169人福井県の外国人労働者(2025年10月)
3,554人県内で働くブラジル国籍者(同)

人手としてではなく、ともに暮らす市民として。

日本の地方都市にある、ブラジルとつながる暮らし

越前打刃物、越前和紙、繊維産業。福井県越前市の名前からは、ものづくりの風景が思い浮かぶ。その町の日常には、もう一つの長い物語がある。日本語とポルトガル語が行き交い、日本にルーツを持つブラジル人や、その家族、さまざまな国から来た人々が暮らしている。彼らを「工場を支える人手」という言葉だけで説明すれば、地域の姿を見誤る。学校へ通う子ども、家族を養う親、隣人との関係、災害時の備えまで、生活は地域社会そのものだからだ。越前市の多文化共生推進プランは、外国人市民と日本人市民を同じ市民として位置づけ、互いの理解と尊重を基本理念に掲げている。

海を渡った歴史は1908年にさかのぼる

ブラジルと日本を結ぶ移住史の節目は1908年6月18日。日本からの集団移住者781人を乗せた笠戸丸がサントス港に到着した。国際協力機構(JICA)の資料によれば、多くはコーヒー農園などで厳しい生活を始めた。移住は単純な成功物語ではなかった。過酷な労働、言語の壁、排日感情、戦時下の社会的分断があり、日系人社会はその経験を抱えながら形成された。戦後も人々はブラジルに渡り、商業や専門職、文化、地域社会に幅広く根を下ろした。今日の在日ブラジル人を理解するには、祖父母や曾祖父母が海を渡った時代を忘れてはならない。

「帰国」だけでは語れない1990年代の移動

日本では1990年の出入国管理制度の改正を契機に、日系人などが身分・地位に基づく在留資格で暮らし働く道が広がった。製造業の雇用需要も、ブラジルから日本へ向かう大きな流れを生んだ。ただし、日本人の祖先を持つことと、日本語を話せること、日本で生まれ育ったことは同じではない。「祖国へ帰る」という表現は、ブラジルで生まれた人の人生を正確に表さないことがある。本人にとって初めて訪れた日本が、仕事と子育てを通して、やがて故郷になる場合もある。制度上の「定住者」「永住者」などの区別も一律ではなく、個々の家族の在留資格を推測することはできない。

数字が示す地域の変化

越前市の第2次多文化共生推進プランによれば、2024年4月1日の外国人市民は4,928人で、市人口の約6%を占めた。これは2026年現在の人数ではなく、計画策定時点の基準値である。一方、福井労働局の2025年10月末の届出では、県全体の外国人労働者は15,169人で前年比11.6%増。国籍別ではベトナム3,823人、ブラジル3,554人、フィリピン1,801人、インドネシア1,603人だった。県内の外国人雇用事業所は1,974所。武生公共職業安定所管内の外国人労働者は5,818人で、県内の38.4%を占める。ただし管轄区域の数字は越前市単独の人口ではない。外国人労働者統計と住民基本台帳の外国人住民数は、定義も集計日も異なる。

ものづくりを支える、それ以上の存在

丹南地域には繊維、電子部品、機械加工などの産業が集積する。地域企業にとって外国人労働者の参加は重要だが、「労働力の確保」だけを政策の到達点にしてはいけない。安定した雇用、通訳や日本語学習、職場の安全、キャリア形成、住まいと交通へのアクセスが、暮らしの継続を左右する。技能実習、特定技能、身分に基づく在留資格では働き方や転職の自由度が異なる。県の統計だけでは、各事業所の賃金や労働条件の良し悪しは判断できない。今後の取材では企業と労働者双方の記録・証言を確かめたい。

子どもにとって「外国人」とは誰か

日本で生まれた子どもにとって、日常のことばは日本語かもしれない。家庭ではポルトガル語を使い、親族とはオンラインでブラジルの話をするかもしれない。子どもによって背景は大きく異なる。学校に求められるのは、日本語指導の充実だけではない。保護者との連絡、進路情報、母語の尊重、いじめ防止、多文化の学びをどう両立させるかという課題がある。越前市は学校連携や日本語支援を多文化共生施策の一部として扱っているが、児童生徒数や成果については年度別の公式資料を確認する必要がある。架空の児童や家庭の体験談で、この問題を彩るべきではない。

行政サービスは何語で届くか

ごみ出し、税金、医療、防災、子育て、学校。地域に住み続けるための情報は、観光の案内よりずっと細かい。越前市は多文化共生総合相談ワンストップセンターを設け、日本語のほかポルトガル語、ベトナム語、中国語などで案内資料を公開している。第2次計画の資料も多言語で提供している。相談窓口が存在することと、必要な時に必要な情報が全住民へ届くことは同義ではない。通訳体制、相談の利用状況、行政手続きの理解しやすさには検証の余地がある。

防災と地域のつながり

福井は大雪や地震などの自然災害と向き合ってきた。避難情報を読み取れない、勤務先と家庭で連絡方法が違う、地域の防災訓練に参加したことがない――こうした壁があれば、被害は不公平に広がりうる。越前市の多文化共生関連情報には災害時の外国人支援研修も掲載されている。翻訳文書を整えることに加え、町内会、学校、企業、支援団体が平時からつながることが重要になる。災害対応は多文化共生の理念が実際に試される場だ。

祭り、スポーツ、商い――ともに町をつくる

言語が異なる住民の接点は行政窓口ばかりではない。スポーツ交流、地域行事、商店、子どもの学校生活も重要だ。越前市は「コネクトフェスティバル」や国際交流イベントなどの情報を公開している。こうした催しが象徴的な一日に終わるのか、顔の見える継続的な関係につながるのか。主催者だけでなく、参加した住民の声によって評価すべきだろう。ブラジル文化をサンバや料理だけで代表させず、生活の多様さとして伝える視点も欠かせない。

人口減少時代、誰が地域の未来を決めるのか

福井県では人口減少が続く。外国人住民の増加を人口対策の数字だけで評価する考え方には限界がある。働く人には家庭があり、子どもには将来の選択がある。自治体にとって本当の問いは、何人を迎えるかだけでなく、そこに暮らす人が安心して参加できるまちを築けるかどうかだ。越前市が掲げるのは、互いに認め、支え合い、郷土への愛着を持って共につくる地域。理念と現実の距離を、学校・雇用・行政サービス・住民参加の具体例から追い続けたい。

ブラジルから越前へ、その先の物語

かつて日本からブラジルへ向かった人々は、子孫が何語で話し、どの町で暮らすことになるかを知らなかった。今、越前の地域社会で育つ次の世代もまた、複数の文化や記憶とともに将来を選ぶ。ここに暮らす人は、日本とブラジルの架け橋である以前に、一人ひとりの市民である。住民が自分の言葉で語る続報こそ、この歴史の次の章になる。

取材を続けるために

越前市・福井県の関係者、教育者、企業、そしてブラジルをはじめ多様な背景を持つ住民の皆さまから、統計の更新、制度の実績、生活の経験について情報提供を歓迎します。本文は未実施の取材を実施したかのようには記していません。ご連絡は 編集部 へ。

出典・参考資料

  1. 越前市「越前市多文化共生推進プラン(第2次)」
  2. 福井県「福井県の外国人住民数」(2025年12月末資料)
  3. 福井労働局「外国人雇用状況」(2025年10月末)
  4. JICA「海を渡った日本人」(2026年7月)
  5. 出入国在留管理庁「在留資格一覧表」
  6. 越前市「多文化共生総合相談ワンストップセンター」
  7. 越前市「多文化共生」情報
  8. JICA「ブラジルへの日本人移住史」