廃炉は、巨大な構造物を切り分け、運び、測り、記録する仕事である。原子炉が止まり、燃料がなくなった後も、何をどれだけ解体したかという数字は、放射性廃棄物の管理、工程の確認、そして費用の支払いをつなぐ。浜岡原子力発電所1・2号機で揺らいだのは、その記録の鎖だった。
中部電力株式会社は8月27日、2024年度の解体撤去工事について、請負会社から受領した工事報告書の「写し」に手を加え、実績とは異なる解体物量や解体機器などを、使用済燃料再処理・廃炉推進機構(NuRO)へ報告していたと公表した。書き換えられた資料は、廃炉の実施報告と費用請求を裏付けるために提出されたものだった。
会社の発表で確定している範囲は狭い。2025年5月28日にNuROへ出した2024年度の費用請求向け証拠書類のうち、少なくとも14件名の工事報告書の写しが書き換えられていた。だが、14件は全体の件数ではなく、8月27日までに確認された下限である。誰が、いつ、何の目的で、誰の承認を得て変えたのかは示されていない。
発覚まで16カ月、後から問われた二つの量
公表された時系列をたどると、最初の実績報告から社内調査の開始まで約16カ月ある。中部電力は2024年4月末に同年度の廃炉実施計画をNuROへ提出した。請負会社から工事報告書を受け取ったのは2025年3月末。4月11日に工事実績を報告し、5月28日に証拠書類を提出した。
NuROは同年7月24、25日に現地確認を行い、中部電力は9月11日に2024年度分を費用請求した。しかし、公表資料は、現地確認で書き換えが見つかったのか、請求額が支払われたのかを明らかにしていない。ここは推測で埋めてはならない空白である。
転機は翌年度の資料だった。中部電力は2026年6月3日、2025年度の費用請求に向けた証拠書類を提出。NuROは7月3日から27日にかけ、提出資料にある「解体保管量」と「廃棄物処理量」の確認を求めた。浜岡の廃止措置担当部署は8月3日、過去の提出資料を含む事実確認を開始し、8月17日に不適切な書き換えを確認したとして原子力本部長へ報告、社内調査に入った。
| 時期 | 確認された出来事 | 検証上の意味 |
|---|---|---|
| 2024年4月末 | 中部電力が2024年度の廃炉実施計画をNuROへ提出。 | NuROが工事の妥当性を事前確認する新制度の初年度。 |
| 2025年3月末 | 請負会社から2024年度の工事報告書を受領。 | 後に写しが書き換えられた原資料の受領時点。 |
| 4月11日 | 2024年度の工事実績をNuROへ報告。 | 実施計画と実績を照合する基礎。 |
| 5月28日 | 費用請求向け証拠書類を提出。少なくとも14件で書き換え資料。 | 実績と異なる数値などが公的制度の確認過程へ入った。 |
| 7月24~25日 | NuROが現地確認。 | 確認範囲と、差異を把握したかは未公表。 |
| 9月11日 | 中部電力が2024年度の費用を請求。 | 請求額、支払額、差額の有無は未公表。 |
| 2026年6月3日 | 2025年度の費用請求向け証拠書類を提出。 | NuROはこの年度の詳細も報告するよう指示。 |
| 7月3~27日 | NuROが解体保管量・廃棄物処理量を照会。 | 会社が過去資料を調べ直す契機になった。 |
| 8月17~27日 | 社内調査を開始し、10日後に公表。 | 経産省とNuROが同日、正式な報告を要求。 |
廃炉費用を動かす書類だった
問題の重みを理解するには、NuROがどこに立つ組織かを知る必要がある。正式名称は使用済燃料再処理・廃炉推進機構。2016年10月に使用済燃料再処理機構として設立され、2023年の法改正を受け、2024年4月から全国の廃炉を総合的に管理する役割が加わった。
制度では、原子力事業者が個々の発電所の廃止措置を実施し、NuROへ廃炉拠出金を納める。NuROは経済産業大臣の認可を受けて拠出金を確保・管理する。事業者は工事前に廃炉実施計画を提出し、工事後に実施結果と費用を請求する。NuROは結果を確認した上で、集めた廃炉拠出金から支払う。
つまり、工事報告書は単なる社内日報ではない。実施した工事が計画に沿っていたか、請求された費用を制度上支払えるかを判断する証拠の一部である。実績と異なる解体物量や機器名が入れば、工事の範囲、廃棄物量、費用の対応関係を点検する土台が崩れる。
ただし、現時点で「過大請求」や「不正受給」が確認されたと断定することもできない。中部電力、NuRO、経済産業省の公表資料はいずれも、請求総額、支払済み額、書き換えによる金額差を示していない。文書の不正確さは確定した。金銭的損失は、まだ検証対象である。
NuROは自らの手続きも外部検証へ
公表当日、監督側は調査範囲を会社の初報より広げた。NuROは中部電力に対し、今回の事案に加え、2025年度の実績内容についても詳細な事実関係を報告し、原因と再発防止策を示すよう指示した。さらに、他の原子力事業者に類似例がないかを確認し、NuRO自身の手続きが妥当だったかも外部専門家に調べてもらうとした。
経済産業大臣は、法律の正式名称である「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律」第70条第1項に基づき、報告徴収を実施した。中部電力に求めたのは、事実関係と経緯、対応状況、原因、実効的な再発防止策、そして他の類似事案の有無である。期限は9月25日とされた。
この二重の確認には理由がある。原子力事業者は原子炉等規制法に基づく廃止措置の実施責任を負う一方、NuROは資金の確保・管理・支払いを担い、経済産業大臣がNuROの業務を監督する。安全規制と資金管理は同じではないが、長期の廃炉では両方が正確な記録に依存する。
- 書き換えを行った部署・担当と、指示・承認の経路。
- 14件それぞれの原数値、変更後の数値、対象機器、変更日時。
- 2024年度の請求額、NuROの支払額、訂正や返還の要否。
- 2025年度提出資料と、浜岡以外の案件に同種の処理がないか。
- 2025年7月の現地確認を含む照合手続きで、なぜ差異を把握できなかったか。
- 請負会社の原本を保全し、写しの変更履歴を追跡できる仕組みがあったか。
1970年代に動き始め、2040年代まで続く廃炉
静岡県御前崎市(おまえざきし)の太平洋岸に立つ浜岡原子力発電所は、長い時間軸を持つ。1号機は1976年3月17日、2号機は1978年11月29日に営業運転を始めた。定格電気出力はそれぞれ54万キロワット、84万キロワットで、いずれも沸騰水型原子炉だった。
中部電力は2008年12月、浜岡のリプレース計画とともに1・2号機の運転終了を決め、2009年1月30日に両機を停止した。廃止措置計画は同年11月18日に国の認可を受けた。会社の計画では、廃止措置は約30年をかけ、2040年代前半まで続く。
工程は四段階に分かれる。第1段階の「解体工事準備期間」では燃料搬出、系統除染、汚染状況調査を進め、1・2号機の燃料は2015年2月末までに全て運び出された。2016年2月3日に第2段階へ移り、タービンや周辺設備など原子炉領域の外側を解体した。
2024年12月18日、原子力規制委員会は第3段階への変更を認可し、中部電力は12月25日に「原子炉領域解体撤去期間」へ入った。炉内構造物、原子炉圧力容器、原子炉格納容器へ対象を広げる段階である。中部電力は、商業用軽水炉の原子炉領域を解体撤去する国内初の取り組みと位置づけ、1号機より2号機を先行させ、第3段階を12年間とする計画を示している。
1976年3月 1号機が営業運転を開始。
1978年11月 2号機が営業運転を開始。
2009年1月 1・2号機が運転を終了。
2009年11月 廃止措置計画が認可され、第1段階へ。
2015年2月末 1・2号機から全燃料の搬出を完了。
2016年2月 周辺設備を解体する第2段階へ。
2024年4月 NuROによる全国的な廃炉総合管理の制度が始動。
2024年12月 原子炉領域を解体する第3段階へ。
2040年代前半 1・2号機の廃止措置を終える計画。
別の不適切事案と、同じ「信頼」の問題
今回の書き換えは、2026年に浜岡で表面化した基準地震動の不適切事案とは別件である。対象も違う。今回が廃止措置中の1・2号機の実施報告と費用請求であるのに対し、基準地震動の問題は3・4号機の新規制基準適合性審査で使われた地震動評価に関するものだ。関係者や原因が同じだという証拠は公表されていない。
それでも、会社自身が8月27日の謝罪で「度重なる不適切事案」と表現した背景は重い。静岡県がまとめた3月31日時点の説明では、地震動評価の代表波225ケースのうち、少なくとも108ケースで不正が認められたと中部電力が報告した。県は、具体的な業務計画の欠如、委託先への口頭指示、チェック体制の不足、原子力土建部の牽制機能の弱さを、会社説明に基づく問題点として挙げた。
二つを混同すべきではない。しかし、どちらも原子力部門で、外部機関へ出す根拠資料の作成・確認過程が問われている。地震動は安全審査の基礎、廃炉報告は資金支払いと工程管理の基礎である。再発防止策が個別の担当者教育だけにとどまれば、原資料、委託先、承認、外部提出をつなぐ統制の弱点を残す可能性がある。
「直接の安全影響なし」で終われない理由
1・2号機に使用済燃料がなく、運転設備ではないことは、今回のリスクを正しく評価する上で重要だ。公表された範囲では、放射性物質の漏えい、作業員の被ばく、設備の異常は報告されていない。従って、直ちに運転中原発の事故と同列に置くのは正確ではない。
一方で、廃止措置は安全と会計を完全に切り離せない。解体物量は、保管容量、処理工程、放射性廃棄物の区分、作業計画と結びつく場合がある。今回、どの数値がどの安全管理資料へ波及したかは公表されていないため、影響があったと断定も、全くなかったと一般化もできない。監督機関の調査では、費用だけでなく、訂正対象となる関連記録の範囲を確認する必要がある。
廃炉は発電収入を生まないまま数十年続き、担当者、請負会社、制度が変わる。その間、現場の状態を将来へ渡すのは記録である。だからこそ、原本と提出資料の差を自動的に検知し、変更理由と承認者を残し、NuROが原資料へ直接照合できる仕組みが必要になる。
9月25日の報告が信頼回復の終点になることはない。まず必要なのは、何が書き換えられ、費用と工程にどのような差が生じたかを、件名ごとに公開できる形で示すことだ。その上で、NuROが他社確認と自らの外部検証をどこまで公表するかが問われる。浜岡の廃炉は2040年代まで続く。記録の完全性を守る仕組みは、その期間より長く信頼されなければならない。
- 中部電力 — 浜岡1・2号機の解体撤去工事に係るNuROへの実施報告・費用請求における不適切事案(2026年8月27日)
- 中部電力 — 経済産業大臣からの法第70条第1項に基づく報告徴収の受領
- 中部電力 — NuROからの法律に基づく指示の受領
- 使用済燃料再処理・廃炉推進機構 — 中部電力の不適切な廃炉実施報告への対応
- 経済産業省 — 中部電力に対する再処理等拠出金法に基づく報告要求
- NuRO — 廃炉推進における役割、資金確保・管理・支払いの流れ
- NuRO — 基本情報、設立根拠と組織の変遷
- 中部電力 — 浜岡1・2号機の廃止措置の工程と認可経緯
- 中部電力 — 廃止措置作業状況、燃料搬出と設備解体の実績
- 中部電力 — 浜岡各号機の建設・営業運転・運転終了の経緯
- 中部電力 — 第3段階への廃止措置計画変更認可申請
- 静岡県 — 浜岡原発の事故・トラブル関連説明、基準地震動事案の経緯
- 中部電力 — 基準地震動策定に係る不適切事案の報告
