農業の災害は、雨がやんだ瞬間に終わらない。水が引いた田んぼには土砂が残り、冠水した機械は乾いても動かないことがある。ビニールハウスを直しても次の作付けに間に合わなければ売上は戻らず、漁港の流木を除いても養殖設備や加工機械が壊れていれば操業は再開できない。
千葉県が9月30日正午時点でまとめた台風第25号の農林水産業被害は、46市町村で約26億円。農作物等が約11億2,000万円、農地・農業用施設が約8億9,200万円、水産施設等が約2億8,200万円、農業生産・流通施設等が約2億3,800万円、林地・林業用施設等が約2,800万円だった。県有8施設は被害額調査中で、集計自体も今後変動する可能性がある。
ニンジン3.29億円、ネギ1.42億円――冠水が作物を直撃
水稲は1,531.77ヘクタールで冠水・土砂流入、被害額約1億4,406万円。ニンジンは77.39ヘクタールで約3億2,885万円、ネギは44.43ヘクタールで約1億4,217万円、キャベツは約1億1,238万円、ダイコンは約1億39万円。落花生、サツマイモ、サトイモなど千葉を代表する作物にも被害が出た。
冠水被害は単純な収穫量の減少だけではない。病害、品質低下、泥や漂着物の除去、次の播種時期の遅れが後から経営へ効いてくる。
農地・水路・排水機場に約8.92億円
田の畦畔崩壊37カ所、農道68カ所、水路70カ所、機場14カ所、ため池3カ所、集落排水施設8カ所など、農地・農業用施設は206カ所、復旧概算約8億9,210万円。水路約2億5,938万円、ため池約2億9,000万円、農道約1億6,300万円に上った。
一つの排水機場や水路は複数農家の生産を支える。個人の被害と地域インフラの被害が重なるため、復旧は農家一軒の資金繰りだけで解決しない。
水産は漁港、養殖、加工、内水面まで
水産施設等では62カ所・8隻で被害が確認され、復旧概算約2億8,240万円。漁港19カ所で砂堆積・埋没・漂着物・堤防崩壊など約2億円、水産加工・養殖施設など16カ所で浸水や機器故障約8,100万円、漁具9カ所で約140万円。漁船被害額は調査中だ。
成田市ではウナギ3,000~4,000キログラムやニシキゴイの死亡・逸出、市原市ではアユ500~600尾の死亡・逸出が報告されているが、金額はなお調査中である。
災害対策資金、上限を倍増
県は8月26日に発動した千葉県農業(漁業)災害対策資金へ、9月6~7日の大雨と台風25号を追加した。経営安定資金は被害額の80%以内で上限300万円から600万円へ、施設復旧資金は500万円から1,000万円へ拡大。経営安定資金の償還期間は5年から7年、施設復旧は6年から7年へ延長され、2年以内の据置が可能。末端金利は0.55%だ。
「写真を撮る」ことも復旧作業
県は被害を受けた作物や施設を写真に残すよう生産者へ呼びかけている。罹災証明、共済、保険、融資、今後の復旧支援では、被害時点の状態を示す記録が重要になるからだ。
相談窓口は農業、林業、水産に分け、農業事務所は作物回復や経営指導、林業事務所は施設復旧や技術指導、漁港・水産事務所は漁港、加工、養殖施設などの相談を受ける。
融資だけでなく、技術と共済金の早期支払い
県は台風後の農作物対策、大雨で堆積した稲わらへの対応資料を公開し、共済組合には共済金の早期支払い、融資機関には運転資金融資の迅速な対応を要請。日本政策金融公庫も台風25号向け特別相談窓口を設置した。
重要な但し書き――26億円には「前の災害」が入っていない
今回の約26億円には、8月の「令和8年8月千葉豪雨」と9月6~7日の大雨で既に報告された被害額が含まれていない。支援制度が三つの災害をまとめて対象にするのは、生産者の復旧が一度で終わっていないからだ。
2019年台風15号、427億円の記憶
2019年の台風15号では、千葉県の農林水産業被害は約427億5,500万円。農業施設等約275億6,700万円、農作物等約105億7,700万円に達した。最大64万1,000軒が停電し、13万3,474戸が断水した。
今回の26億円はそれより小さい。しかし2026年は8月豪雨、9月上旬大雨、台風25号が続き、復旧の途中で次の被害を受ける「連続性」が問題になっている。
全国4位の農業県だから、地域ニュースで終わらない
農林水産省によると、2024年の千葉県農業産出額は4,533億円で全国4位。畜産が最大部門で、鶏卵は都道府県別で全国最大の構成割合を占める。落花生、野菜、米などの主要産地でもある。
ただし年間産出額と災害被害額を単純に割って「損失率」とするのは不適切だ。被害額は作物や施設の損害を一定時点で積算したもので、休業、将来減収、自家労働、契約損失などを全て含むわけではない。
「次の雨」の警報基準まで下げた
気象庁は台風25号後、成田市、印西市、栄町で大雨関連警報等の流域雨量指数基準を通常の7割へ引き下げた。8月豪雨後から暫定運用中の千葉市、八千代市は8割基準を継続する。復旧中の地域では、以前より少ない雨でも災害が起こり得るためだ。
24市町村に災害救助法
県は台風25号で24市町村へ災害救助法を適用。銚子、木更津、成田、旭、勝浦、鴨川、君津、富津、南房総、香取、いすみなど農林水産業の重要地域が含まれる。同じ24市町村は8月豪雨でも適用対象で、継続的な救助が必要とされた。
構造的リスクは天候だけではない
高齢化、人手不足、肥料・燃料・飼料・資材価格、設備老朽化、既存借入が重なれば、一度の災害から立ち直る余力は小さくなる。逆に排水設備、保険、共同施設、修理人材があれば同じ雨でも経営被害は抑えられる。
融資枠倍増は必要な応急策だが、災害が反復するなら、排水インフラ、耐風ハウス、バックアップ電源、養殖施設の浸水対策、漁港漂着物への対応、保険加入など「借りる前に被害を小さくする投資」が重要になる。
まだ最終額ではない
9月30日の県資料には、漁船、水産物、林地、県有施設など「調査中」が多く残る。約26億円は確定額ではない。さらに前述の通り、8月豪雨と9月6~7日の大雨で既報の被害は含まれない。
支援策の成否は、来年の生産で分かる
水路は次の雨までに直るか。農家は次の作付けを続けられるか。漁港や加工場は再開するか。借入を返しながら設備更新までできるか。若い後継者が災害を理由に離農しないか。
台風25号に対する千葉県の支援は、資金、相談、技術を一つにまとめた。しかし連続災害が経営リスクとして定着するなら、「元に戻す」だけでは足りない。次の被害でも続けられる農業・漁業へどう変えるかが問われる。
