炉のそば、エンジンブロックの横、あるいはデータセンターの温かな排気口に立つと、エネルギー問題は皮膚で分かる。熱気は、燃料や電力が有用な仕事をした後、まだエネルギーを残して去っている証拠だ。米国エネルギー省は、産業部門に投入されたエネルギーの20〜50%が、高温排ガス、冷却水、加熱された設備や製品からの熱として失われ得ると見積もる。一部は再利用できる。しかし多くは薄く広がり、断続的で、場所も悪く、経済的に回収しにくい。
熱電材料は魅力的な答えを提示する。適切な固体の一面を熱源に触れさせ、反対側を低温に保つと、電荷をもつ粒子が温度差に沿って移動し、電圧が生じる。タービンもピストンも冷媒回路もいらない。電流を逆向きに流せば同種の材料が熱をくみ上げ、小型Peltier冷却器になる。装置は静かで固体だけからできる。だが、その材料には内部で矛盾を演じてもらわなければならない。
電気は容易に通す一方、熱は通してはならない。難しいのは、電気伝導に必要な電子自身も熱を運ぶことだ。さらに結晶格子には、フォノンと呼ばれる原子の集団振動による第二の熱経路がある。一つの輸送特性を改善すると、別の特性が悪い方向へ動きやすい。
今回、日米研究チームは、数十年分の実験の中に、この妥協を導く驚くほど単純な目印が隠れていたと報告した。京都大学複合原子力科学研究所の孫一帆助教と黒﨑健教授、Northwestern UniversityのZhi Li研究員とChris Wolverton教授、大阪大学の今村哲也氏と大石佑治教授らは、厳選した7万1913件の測定を解析した。その結果、格子振動が全熱輸送のおよそ半分、電荷キャリアが残り半分を担うとき、高い熱電性能が集中する傾向を見いだした。
7月15日に『Materials Today Physics』でオンライン公開された論文は、格子が占める割合をκL/κと表す。全熱伝導率κは、格子熱伝導率κLと電子熱伝導率κeの和である。最も高い性能の周辺で、この比率が0.5に近づいた。
ただし書き付きの「黄金比」
「50対50」という表現は、覚えやすいからこそ誤解を招く。これは変換効率50%という意味ではない。約1.618の数学的な黄金比でもない。すべての熱電材料が熱を厳密に半分ずつ運ばなければならないという普遍定理でもない。大規模な文献データの中で、多くの高zT測定値、とりわけ研究者が組成を最適化した試料が、κL/κ=0.5付近に集まったという経験的傾向である。
電子による熱伝導が、それ自体で望ましいわけでもない。標準的な性能指数は次式で表される。
- S:単位温度差あたりに生じる電圧、Seebeck係数。
- σ:電気伝導率。
- T:絶対温度。
- κL:格子振動が運ぶ熱。κe:電荷キャリアが運ぶ熱。
分子のS²σはパワーファクターで、大きいほどよい。分母の全熱伝導率は小さいほどよい。ところがキャリア濃度を増やすと、σとκeが一緒に増え、Sが低下しがちだ。格子成分を抑えても、ほとんど絶縁体なら発電能力は小さい。0.5という目印は、低い全熱伝導率をもつ材料に、熱漏れを暴走させず電気的仕事をするだけのキャリアが入った領域で現れる。
したがって、この比率は単独のゴールではなく方向標識だ。研究チームはまず、全熱伝導率が低い材料——高速探索では原則2 W m−1 K−1以下——を選び、そのうえで二つの熱経路が釣り合うかを見る。低κでも電気輸送が弱ければ不十分で、全κが大きい材料が0.5でも不十分である。
動いた磁針から固体発電機へ
物語は1821年に始まる。バルト・ドイツ系の物理学者Thomas Johann Seebeckは、異種導体でつくった回路の一方の接点を熱すると、近くの磁針が動くことを見た。Seebeck自身は磁気現象として解釈したが、後の研究で、温度差が起電力と電流を生んだことが分かった。今日、熱電対が温度を測り、熱電発電機が電力をつくる効果に彼の名が残る。
1834年、フランスの時計職人・物理学者Jean Charles Athanase Peltierは逆の現象を見つけた。接合部に電流を流すと、一方で熱を吸収し、他方で放出する。1850年代には、後にLord KelvinとなるWilliam ThomsonがSeebeck効果とPeltier効果を一つの熱力学的な家族として結び、温度勾配のある均一導体に電流を流したときの吸熱・発熱、Thomson効果を予言した。
これらの発見が、すぐ高効率装置を生んだわけではない。金属は電気をよく通すが、通常は熱もよく通し、Seebeck係数は小さい。可能性を変えたのは半導体だった。1954年、H. Julian GoldsmidとR. W. Douglasは、現在も室温付近の代表材料であるBi2Te3を使った実用的な熱電冷却を実証した。Abram Ioffeの20世紀半ばの理論は、電気伝導率、熱起電力、熱伝導率を、今も分野を評価する性能指数にまとめた。
| 年 | 節目 | 加わったもの |
|---|---|---|
| 1821 | Seebeck効果 | 異種導体間の温度差が電圧を生む。 |
| 1834 | Peltier効果 | 電流が接合部を横切って熱をくみ上げる。 |
| 1850年代 | Thomson関係 | 相反する効果を熱力学で結び、均一導体の熱交換を予測。 |
| 1954〜57 | Goldsmid–DouglasとIoffe | Bi2Te3冷却と半導体理論が現代熱電学を始動。 |
| 1993〜95 | 低次元設計とPGEC | Hicks、Dresselhausが量子閉じ込め、Slackがフォノングラス・エレクトロンクリスタルを提唱。 |
| 2026 | データ駆動0.5指標 | 約7万2000件の測定がPGECの均衡を検索可能にする。 |
「ガラスと結晶」という夢
1995年、米国の物理学者Glen Slackは、分野で最も長く生きる設計比喩の一つを示した。「フォノングラス・エレクトロンクリスタル」、PGECである。理想的な熱電材料は、無秩序なガラスのように格子振動を乱しながら、良質な結晶のような長距離電子輸送を保つ。フォノンはつまずき、電子は走る。
研究者は複雑な結晶構造でこの理想を追った。CoSb3などのskutteruditeには、弱く束縛された重い原子を入れられる籠がある。その「rattler」がフォノンを散乱し、同時にドーピングがキャリア数を調節する。clathrateも枠組みの籠にゲスト原子を抱える。合金化は質量の乱れを、ナノ構造はさまざまな波長の振動を散乱する界面を加える。バンド工学、共鳴準位、量子閉じ込めは電子輸送をつくり変える。
L. D. HicksとMildred Dresselhausが1993年に発表した量子井戸の理論は、最高性能が数十年ゆっくりしか向上しなかった分野を再活性化した。その後、ナノ構造化は驚くべき実験室値を生んだが、重要な教訓も残した。一つの温度で記録的なzTを出す「材料」は、そのまま「発電機」ではない。接点には電気抵抗と熱抵抗があり、モジュールにはp型とn型の脚、機械強度、化学安定性、耐久性のある界面、温度差全体での性能が必要だ。希少・有毒元素を含む美しい結晶が商業材料になるとは限らない。
PGECは30年間、直感を導いたが、簡単な実験尺度を欠いていた。フォノン経路は電子経路と比べてどれほどガラス的か。ドープした試料は理想へどこまで近づいたか。新研究は、κL/κが次の実験を導くには十分よく答えると提案する。
古いグラフからできたデータベース
今回の発見は、数千の論文図が機械可読になったから可能になった。NIMSの桂ゆかり氏らが日本で開発したStarrydataは、材料科学文献の実験曲線を人がデジタル化し、組成、試料、論文情報へ結びつけるオープンな仕組みだ。名称は夜空に由来する。明るい星だけでなく暗い星も合わせて銀河系の構造を示すように、記録的成果と普通の測定の両方が、研究分野の姿を明らかにする。
チームは2025年7月1日版に含まれる20万2178本の曲線から始め、Seebeck係数、電気伝導率、熱伝導率、zTの一式がそろった試料だけを残した。無効な組成、重複曲線、物理的に不可能な値を除き、3を超えるzTも削除した。バルク熱電材料では極めてまれで、入力誤りの影響を受けやすく、学習に十分な数がなかったためである。
図から読み取った曲線では、各物性がまったく同じ温度に置かれないことがある。そこで研究者は±5 K以内の値をそろえ、成分物性からzTを再計算し、論文の報告値との差が10%を超える行を除外した。さらに実用的な範囲を300〜800 K、全熱伝導率を10 W m−1 K−1以下に絞り、最終的に7万1913件が残った。
すべての論文が電子成分を独立測定しているわけではない。チームはWiedemann–Franz則を用いて電気伝導率からκeを計算し、Lorenz数は一定値ではなくSeebeck係数から推定した。報告された電子熱伝導率をもつ2万7140件では、計算値との平均絶対差は0.09 W m−1 K−1だった。ただし万能ではない。単一放物線バンド型半導体では約5%、複雑な系では最大20%程度の誤差があり得ると著者らは見積もる。
7万1913点に隠れた逆U字
格子比率に対してデータを描くと、性能は逆U字をつくった。普通の熱電記録の多くは0.9〜1.0、つまり熱の大半を格子振動が運ぶ領域にあった。最高のzTは0.5付近に集まり、未処理の母材料より最適化試料で明瞭だった。全熱伝導率が下がるほど、高性能領域は半々へ絞られた。
二つの材料群は、反対側から同じ場所へ近づく。未充填CoSb3はキャリアが少なく、格子が熱を運びすぎる。過去の一例では、籠にytterbiumを入れると623 Kで電気伝導率が208から1024 S cm−1へ増え、格子熱伝導率が4.60から2.00 W m−1 K−1へ低下した。zTは0.1から0.9へ、格子比率は0.95から0.65へ動き、0.5へ近づいた。
GeTeは逆の問題から始まる。Ge空孔のため未処理GeTeは強いp型で、電子輸送が多すぎ、キャリア濃度過剰によりSeebeck係数が損なわれる。Sbドーピングは正孔を減らす。引用例の700 Kでは、格子比率が0.26から0.44へ上がり、zTは0.94から1.68へ増えた。CoSb3は上から線へ下がり、GeTeは下から上がる。この収束は、一方の軌跡だけより強い証拠になる。
それでも逆U字は、蓄積された実験のパターンであり、因果を制御実験で証明したものではない。文献には成功した組成が多く、失敗は報告されにくい。関連合金と複数温度の値が同じ研究計画を反映することもある。物理に根差した半定量的指標とみるべきで、新しい自然法則と呼ぶべきではない。
熱の運び手が二つだから、モデルも二つ
研究者は一つのブラックボックスにzTを直接予測させず、格子熱伝導率と電子熱伝導率の別モデルを訓練した。二つは異なる微視的過程から生じ、通常は小さい電子信号が格子成分に支配されたモデルの中で消えかねないためだ。
各組成は、元素の質量、大きさ、電気陰性度、融点、価電子軌道などを統計化したMagpie記述子と測定温度で表した。重複を除いて108特徴量を残した。学習・試験は80対20で分け、同じ最簡化学式の記録は必ず片側だけに置き、似た組成の漏洩を防いだ。四つの木構造アルゴリズムを五分割交差検証し、random forestが最小の平均絶対誤差を示した。格子成分で0.35、電子成分で0.23 W m−1 K−1、交差検証R²は0.79と0.73だった。
解釈分析も化学的に妥当だった。強い結合の代理となる高い融点は、両方の熱経路を増やす傾向があった。銅・銀など後期dブロック元素、重いpブロック元素、柔らかい結合、質量差はフォノンを妨げる。より金属的で電気陰性度差の小さい環境は、非局在化したキャリアに有利だった。処方は単に「すべての結合を弱くする」ことではない。結合の柔らかさと電子移動度を切り離すことである。
10万4567式から2522の手がかりへ
学習済みモデルは、訓練・試験にないMaterials Projectの無機組成10万4567種へ適用された。まず、有限のバンドギャップをもち、熱力学的安定性を示す凸包から原子あたり0.1 eV以内の二元・三元化合物1万4830種へ絞った。300 Kで全熱伝導率が2 W m−1 K−1以下と予測されたのは2522種だった。
これは「2522種の新しい高効率熱電材料を発見した」という意味ではない。計算上妥当で、熱を通しにくく、さらに調べる価値がある半導体候補である。学習から隠した既報5化合物——AgBiS2、CuSbS2、In4SnSe4、Sr3AlSb3、TbCuTe2——では、予測と論文値の温度傾向が概ね一致した。これは選別能力の検証で、全2522種の実験確認ではない。
さらに枠組みは、候補を「磨く」難しい仕事へ進んだ。AgBiS2は全熱伝導率がすでに非常に低いが、格子比率は0.8を超える。モデルは硫黄サイトへ電子を供与するハロゲンを提案した。塩素は既知実験の傾向と合い、臭素とヨウ素はキャリア増加と格子抑制を同時にもたらす可能性が予測された。いずれも合成、相同定、輸送測定が必要である。
モデルに見えないもの
モデルが知るのは組成と温度で、完全な結晶ではない。ドーパントがどの結晶サイトに入るか、副相ができたか、粒界と欠陥がどう作られたか、名目組成が実試料と一致するかは確実に分からない。電子輸送にとって、この欠落は本質的だ。同じ元素でも、入る場所が違えば供与体にも別の振る舞いにもなり得る。
Wiedemann–Franz分離は、多バンド、非縮退、相転移など複雑な材料で破れることがある。電気・熱輸送測定の不確かさも小さくない。Materials Projectの安定性とバンドギャップは計算近似である。300 Kで低熱伝導でも、酸化、熱サイクル、接触抵抗、大量合成、実使用温度での性能は分からない。
| 結果が意味すること | 意味しないこと |
|---|---|
| 高zT文献データがκL/κ ≈ 0.5に集中する。 | 入力熱の半分が電気になる。 |
| 低κを見つけた後、最適化方向を比率で導ける。 | 0.5ならどんな材料も高効率になる。 |
| 2522候補は計算・実験を進める価値がある。 | 2522台の新装置が発見された。 |
| 組成のみのAIは高速で解釈可能な一次選別を行う。 | 結晶構造、欠陥物理、合成をAIが置き換えた。 |
| パターンがPGEC概念を強く支持する。 | 文献相関が普遍法則を確立した。 |
排熱は一種類の資源ではない
熱電技術は、最高効率より、信頼性、小型性、可動部がないことが重要な場所で価値を発揮する。放射性同位体熱電発電機はViking着陸機からVoyager探査機まで宇宙機を支えた。1977年打ち上げのVoyagerは各3基を搭載し、プルトニウム崩壊熱から減少しつつも今なお電力を得る。地上では遠隔センサー、排気流、炉、配管、ウェアラブル機器、局所冷却が候補になる。
しかし「排熱」には質の階層がある。赤熱する排気は、ぬるい冷却水より仕事に変えやすい。Carnot限界は高温側と低温側の温度差で決まり、実装置はそれを下回る。熱回収には圧力損失、ポンプ、熱交換器、重量、費用が加わり得る。実験室でピークzTが優れていても、熱接触が悪く温度差が消えれば、モジュール出力は小さい。
だから高速な材料選別には意味がある。新比率は熱力学を無効にしない。高価な合成の前に行き止まりを減らし、使用温度域へ材料を合わせ、キャリア密度とフォノン散乱を測定可能な目標へ向けて調節できる。
次の循環——探す、作る、測る、学ぶ
次の一歩は、結晶構造を理解するモデルである。格子対称性、原子サイト、欠陥、加工履歴を知るモデルなら、組成平均より正確にドーパントを判断できる。不確かさも予測すれば、性能だけでなく「どの測定がモデルを最も賢くするか」を順位づけできる。自動合成と高速輸送測定をつなげれば、提案、作製、測定、更新の閉ループになる。
この研究は、目立たない科学基盤の価値も示す。Starrydataは、古い図を人がなぞる労働を、共有できる実験記憶へ変えた。Materials Projectは探索対象となる計算宇宙を供給し、機械学習が両者を結んだ。どれ一つだけでも実用材料は発見できない。だが組み合わせると、出版史は結論を並べた棚から、材料がドーピング、充填、合金化でどう動いたかを示す軌跡の地図に変わる。
0.5という結果には美しさがある。熱電設計は常に二種類の秩序の交渉だった。振動を妨げるほど無秩序な格子と、電荷を運ぶほど秩序ある電子構造である。Slackはその交渉に忘れがたい名前を与えた。31年後、数万件の測定が地図上の座標を描いた。
未来の発電機は比率だけでは作れない。豊富な元素、安定した接点、製造可能なモジュール、回収する価値のある熱源が必要だ。しかし設計に入る前に、結晶をどちらへ押すべきかを知らなければならない。新研究は羅針盤の針を与えた。その針は、驚くことに、ちょうど中間を指している。
主要資料・参考文献
本稿は2026年の『Materials Today Physics』論文、公開プレプリント、京都大学発表を中心に、原著論文、公的データベース、総説、政府資料で歴史的・技術的背景を検証した。「黄金比」は著者らの説明的な表現として扱い、数学定数や変換効率の主張とは区別した。
- Sun et al. (2026), “Lattice-to-total thermal conductivity ratio,” Materials Today Physics 66, 102166
- Sun et al., 公開プレプリント・研究方法
- 京都大学 研究成果発表(2026年7月21日)
- Katsura et al. (2025), “Starrydata: from published plots to shared materials data”
- Jain et al. (2013), “The Materials Project”
- 米国エネルギー省 Waste Heat Recovery Basics
- Goldsmid and Douglas (1954), 半導体による熱電冷却
- Hicks and Dresselhaus (1993), 量子井戸熱電材料
- Snyder and Toberer (2008), “Complex thermoelectric materials”
- Kim et al. (2015), Seebeck係数からのLorenz数評価
- Takabatake et al. (2014), PGEC型熱電clathrate
- American Physical Society、Seebeck・Peltier・Thomson効果
- Northwestern University、熱電研究史とIoffeの性能指数
- NASA、放射性同位体熱電発電機
- Bell (2008), 熱電冷却・加熱・排熱回収
- Hochbaum et al. (2008), 粗面Siナノワイヤの熱電性能
- Zhao et al. (2014), SnSeの極低熱伝導と高zT
- Beekman, Morelli and Nolas (2015), “Better thermoelectrics through glass-like crystals”
