11月4日閉会式・各賞発表
成田凌『男ともだち』最優秀男優賞
204本10日間の上映作品(暫定)
1985年東京国際映画祭の創設
取材方法:映画祭公式の受賞結果、作品紹介、監督への公開インタビュー、関連団体の資料に基づく文書取材。作品の独自試写や関係者への直接取材は行っていない。受賞と将来の興行成績は区別した。

賞の名を確かめる――成田凌が輝いた11月4日の夜

11月4日、東京・有楽町。第39回東京国際映画祭の閉会式で、日本映画『男ともだち』の成田凌が最優秀男優賞に選ばれた。東京グランプリ/東京都知事賞に輝いたのは、ミルチョ・マンチェフスキ監督の『妹兄とマンホールの蓋』である。日本の俳優の受賞と国際コンペティションの最高賞は、同じ夜の別々の出来事だ。正確に区別してこそ、この映画祭が持つ国際性が見えてくる。

成田は授賞式に出席せず、代わって三島有紀子監督がトロフィーを受け取った。映画祭が公開した式典記録で、三島は成田の身体表現と沈黙の中に感情を宿す芝居をたたえている。観客を圧倒する長ぜりふではない。誰かを見守り、ときに言葉を飲み込む人物をどう演じるか。その繊細さが国際審査員に届いたという事実から、2026年の東京映画祭を振り返りたい。

『男ともだち』は、描けなくなった画家の物語でもある

『男ともだち』の主人公は京都で暮らす29歳のイラストレーター、神名葵。松岡茉優が演じる。仕事には追われているのに、何を描きたかったのかを見失い、人間関係にも迷いがある。そこへ大学時代の男ともだち、ハセオから連絡が入る。成田凌の演じるその男と7年ぶりに再会し、京都、富山、広島で「3つの夜」を過ごすことで、神名の世界の見方が揺れ動いていく。これは映画祭の公式作品解説と監督インタビューに基づくあらすじであり、本紙が試写を見て独自に作品批評を行ったという意味ではない。

原作は千早茜の同名小説。三島監督は2020年、新型コロナウイルス禍で予定していた撮影が中断された時期に作品を読んだという。映画を撮れない時間と、創作の理由を見失う主人公。その交差には偶然以上の切実さがある。人物の生き方に答えを与えるよりも、寄り添う距離の揺れを映す。監督の言葉からは、恋愛映画という枠だけでは説明しきれない企図が読み取れる。

長回しと視線――三島有紀子監督が選んだ映画の言葉

本作は131分。三島監督が東京国際映画祭のメインコンペティションに作品を出品したのは初めてだ。映画祭の公式インタビューによると、人物同士の距離が伝わる横長の画面、感情の流れを途切れさせない長回し、時間の層を重ねる声の表現を意識して撮影したという。説明的なせりふを増やせば、登場人物の気持ちを理解させることは容易になる。しかし、相手のわずかな反応を見つめる時間を残すことには、別の難しさがある。

成田が担うハセオは、神名の問題を解決する万能の人物として紹介されていない。監督が受賞者会見で語ったのは、相手を「見る」存在としての彼だった。監督の意図と完成作品の評価は本来別の問題だが、少なくとも今回の最優秀男優賞は、抑制された演技を論じる格好の入口になる。役者の目線と身体の間合いが、映画の意味を形づくることもある。

東京グランプリは『妹兄とマンホールの蓋』

最高賞を受けた『妹兄とマンホールの蓋』は、北マケドニアの首都スコピエ周辺を舞台に、貧困のなかで暮らす兄妹を描く。映画祭によると、北マケドニア、ブルガリア、セルビア、アルバニア、イタリア、英国の合作で、監督はミルチョ・マンチェフスキ。監督ロルフ・デ・ヒーアを委員長とする国際審査員団が、コンペティション部門の15作品を審査した。

この賞を「日本映画がグランプリを獲得」と書けば誤報になる。成田の受賞は日本映画にとって喜ばしいが、東京に集まった映画は日本を代表するものばかりではない。国境を越えた製作と、社会の周縁へ向けられた視線が同じ舞台で認められた。東京国際映画祭の意味を測るなら、開催都市だけでなく、そこに集まった世界の映画を見なければならない。

アニメーション『魔法の星図』が開いた別の扉

審査員特別賞にはスン・シュン監督の『魔法の星図』が選ばれた。映画祭は、コンペティション部門でアニメーション作品が同賞を受けた初の例だと発表している。シンガポール作品として登録され、現実と幻想、歴史と神話を交差させる映像表現が評価された。制作には約10年を要したと映画祭は伝えている。

日本で「アニメ」は独自の文化的厚みを持つ言葉だが、国際映画祭では描画や映像技術が違っても、監督の表現として同じ舞台に立つ。『魔法の星図』の受賞は、その一例である。ただし、今回の選考だけで世界のアニメーション制作環境が変わったと語るのは早計だ。確認できるのは、同賞が下されたという事実と、その位置づけについての主催者の説明である。

映画祭の賞は、ひとつの国の順位表ではない

最優秀監督賞には『ふたつの自由』のリサンドロ・アロンソ、最優秀女優賞には『ふたりを結ぶ夜』のフー・リン、最優秀芸術貢献賞には『今日が終わるまで』、観客賞には『ヘイゼル85』が選ばれた。それぞれ国や製作体制が異なり、映画の作り方も違う。単一の傾向にまとめてしまうより、各賞が何を認めたのかを見極める方が誠実だろう。

一方、Nippon Cinema Now部門の作品賞は田中未来監督『シルバー・エクスプレス』、審査委員特別賞はまつむらしんご監督『いえないふたり』が受けた。日本の映画をめぐる現在を知るには、国際コンペの俳優賞だけでなく、別の部門で紹介された作品にも目を向ける必要がある。受賞は注目のきっかけになるが、公開館数や興行の成功を保証するものではない。

1985年に始まった、東京と世界の対話

東京国際映画祭の出発点は1985年にある。日本映画はそれ以前から、黒澤明、小津安二郎、溝口健二らの作品を通じて世界の映画史に深く関わっていた。映画祭の誕生は、過去の巨匠を顕彰するだけでなく、いま生まれる映画を東京で紹介し、海外の作り手や観客、配給関係者が出会う機会を継続的につくる試みだった。国際映画製作者連盟(FIAPF)の公式案内も、1985年の創設と関連映画マーケット「TIFFCOM」を記している。

映画祭には賞のほかにも仕事がある。映画が別の国へ届く入口となり、監督の次の作品の機会につながり、一般の劇場ではかかりにくい作品を観客に届けることだ。ただし、それらの効果は作品ごとに異なる。受賞作の将来の配給や興行を、閉会式だけから予測することはできない。映画祭の歴史を知ることは、その可能性と限界の両方を知ることでもある。

黒澤明賞を受けた呉美保とモハマド・ラスロフ

今年の黒澤明賞は呉美保監督とモハマド・ラスロフ監督に贈られた。映画祭は、黒澤明の業績を次代へ伝え、映画界に新たな才能を送り出したいとの趣旨でこの賞を設け、2022年に14年ぶりに復活させたと説明している。今回の受賞は11月3日の授賞式で扱われ、11月4日に選ばれたコンペティションの賞とは異なる。

黒澤の名前は日本映画が世界と結んできた長い関係を思い出させる。同時に、呉とラスロフはそれぞれ異なる社会、制作条件、表現の課題を抱えて映画を撮ってきた。日本映画の伝統とは、かつての巨匠の模倣ではなく、映画を通して世界へ問いを発し続ける営みなのかもしれない。授賞の事実と、そこから導く解釈は分けておきたい。

上映204本、入場6万9072人――数字が語る規模と限界

主催者の暫定集計によると、会期10日間の上映作品は204本、映画上映の入場数は6万9072。前年は184本、6万8039だった。作品数が約1割増えても、入場数が同じ割合で増えるわけではない。1人が複数回鑑賞することもあるため、入場数をそのまま観客の実人数として使うのも不適切だ。映画祭が別枠で報告する関連イベントの入場数も、映画上映の集計には混ぜない。

主催者は、女性監督による作品および男女共同監督作品が48本で全204本の23.5%だったとも公表した。数字だけで多様性の達成度を断定することはできないが、プログラムの構成を検討する出発点になる。約2015人の海外ゲストという報告もある。いずれも暫定値であり、確定した監査済みの統計とは区別する必要がある。

学生映画と「アジアの未来」を見逃さない

「アジアの未来」部門の作品賞は『シェリフェ』、スペシャルメンションは『12月のジャニ』。アジア学生映画コンファレンスの作品賞はベトナムの『太陽の下を駆け抜けて』、審査委員特別賞はシンガポールの『すべて順調』と韓国の『彼女のすべて』が受けた。これらの受賞作は、著名俳優のニュースに埋もれがちだ。しかし国際映画祭の使命の一つは、まだ名が広く知られていない作り手に観客との出会いを用意することである。

若い映画人に賞を贈ることと、その後も映画を撮れる環境を整えることは同じではない。資金、配給、教育、制作仲間とのネットワーク。映画を一本完成させ、次の一本へ進むためには複数の条件が必要になる。今回の受賞結果を起点として、作品の公開や作り手の活動を追い続けることが、継続的な文化報道につながる。

沈黙を聞き、世界の映画を見る

成田凌の受賞は、発表された事実として明確だ。だが、それが今後の興行収入、海外公開、さらなる映画賞にどう結び付くかは、現在の公式資料からは分からない。審査員の意図についても、公開された講評と会見の言葉を超えて推測はできない。本稿は映画祭の公表資料、監督インタビュー、作品解説を照合した文書取材であり、本紙による出演者への独自取材や映画の試写批評ではない。

日本映画の成熟を測るものは、ひとりのスターの受賞歴だけではない。『男ともだち』の静かな演技に光が当たり、北マケドニアを舞台にした映画が最高賞を得て、アニメーションや学生映画にもそれぞれの場所が与えられた。大切なのは、受賞の見出しの先でどんな映画に出会えるかだ。東京国際映画祭が残したのは、勝者の一覧以上に、世界を見るための複数の窓だった。

出典と取材方法

主催者の一次資料と映画祭の公開インタビューを照合した。映画の感想・興行予測を独自鑑賞による評価として書かず、イベントの暫定集計、賞の正式名称、映画の公式題名を区別した。

  1. 第39回東京国際映画祭:受賞結果(日本語)
  2. 第39回東京国際映画祭:閉幕と受賞者の発表(2026年11月5日)
  3. 第39回東京国際映画祭:授賞式詳報(11月4日)
  4. 映画祭公式:三島有紀子監督インタビュー『男ともだち』
  5. 映画祭公式:『男ともだち』作品詳細・スタッフ
  6. 映画祭公式:授賞式および受賞者会見(英語)
  7. 映画祭公式:受賞者記者会見(英語)
  8. 映画祭公式:『Two Cigarettes, Three Nights』上映後Q&A
  9. 映画祭公式:黒澤明賞と受賞者
  10. FIAPF:東京国際映画祭プロフィール・1985年創設