再生可能エネルギーを「年間でどれだけ買ったか」だけでなく、「電気を使った時間に、再エネがどれだけ発電されていたか」まで確かめる。企業の電力調達をめぐる証明は、年単位から時間単位へ細かくなろうとしている。

TISI株式会社と株式会社UPDATERは8月28日、TISIの電力小売事業者向け基幹システム「エネLink」に、発電量と使用量を時間単位で照合する「アワリーマッチング」対応機能の実装を始めたと発表した。2025年度からUPDATERの実データを使って技術検証を進め、2026年12月にSaaS型サービスとして提供を始める計画だ。

組み込むのは、UPDATERの電力トラッキングシステム「ENECTION」で使うマッチングロジックとブロックチェーン技術。発電側と需要側の計量データ、再エネの環境価値を対応づけ、電力小売事業者が顧客への説明や証明に使える記録をつくる。

まだ提供開始前: 両社が公表したのは機能実装の開始と12月の提供目標であり、完成版の仕様、利用料金、導入企業、サービス開始日は発表されていない。GHGプロトコルのScope 2改定も確定前で、時間単位の要件は提案段階にある。
30分単位UPDATERのシステムが発電量と使用量を照合・管理するデータ間隔
1時間単位アワリーマッチングで発電と消費の一致を確認する単位
2026年12月両社が目指すSaaS型サービスの提供時期

30分のデータで、1時間を証明する

「30分単位」と「1時間単位」は矛盾しない。UPDATERは発電量と使用量を30分ごとに照合・管理し、その記録をまとめて、1時間単位で一致を求めるアワリーマッチングに対応すると説明している。細かい計量値から、各時間帯の発電と消費を集計する構造だ。

従来の再エネ調達では、ある年に使った電力量と、同じ年に調達した再エネ由来の環境価値を対応づける方法が一般的だった。しかし、太陽光は夜には発電せず、風力も出力が変動する。年間合計が一致していても、需要が生じた時間に同量の再エネが発電されていたとは限らない。

時間単位の照合は、このずれを見えるようにする。ただし、送電網を流れる個々の電子を追跡する仕組みではない。照合するのは、発電・使用の計量データと、その電力に付随する環境価値の記録である。

「再エネを使った」という年次の合計だけでなく、いつ発電され、いつ消費されたかをそろえる。時間の情報が、電力調達の主張を厳しくする。

背景にあるScope 2改定

GHGプロトコルのScope 2は、企業が購入する電気、蒸気、熱、冷却に伴う間接排出を扱う。運営団体は2025年10月、2015年版ガイダンスの改定案を公表し、市場基準方式に時間単位のマッチングと供給可能性の要件を加える案について意見を募った。

重要なのは、これはまだ最終規則ではないことだ。GHGプロトコルは、公開協議で寄せられた意見を踏まえて改定作業を続け、2026年に2回目の協議を行い、新基準を2027年に公表する予定としている。提案には、時間別データを得にくい企業向けの負荷曲線、適用除外の基準、既存契約への経過措置、段階的な導入も含まれる。

TISIとUPDATERの実装は、将来の規則変更を先取りするものだが、現在の提案どおりに基準が確定する保証はない。サービス側には、最終規則に合わせて計算方法や証明項目を更新できる柔軟性が求められる。

「エネLink」とENECTIONを接続

「エネLink」は、料金計算、顧客管理、需給管理などを扱うTISIの電力・ガス事業者向けソリューション群だ。今回の対象は「電力CIS・小売基幹業務ソリューション」。CISは顧客情報や契約、料金計算、請求を管理する基幹システムを指す。

両社は、UPDATERの追跡機能をSaaSとして独立させ、既存CISの大規模改修を抑えて導入できると説明する。「エネLink」のコーポレートPPA料金計算サービスと組み合わせれば、発電量・使用量の管理、料金計算、ポータルや請求書でのマッチング実績の説明までを一体化できるとしている。これらは両社が示す提供構想であり、導入効果や費用削減はまだ実績として公表されていない。

発表日2026年8月28日
実装主体TISI株式会社、株式会社UPDATER
対象「エネLink」シリーズの電力CIS・小売基幹業務ソリューション
使用技術UPDATERの電力トラッキングシステム「ENECTION」のマッチングロジックとブロックチェーン技術
データ粒度30分単位で発電量と使用量を照合・管理し、1時間単位のマッチングに対応
提供形態SaaS型。既存CISから独立して導入できる設計と両社は説明
提供目標2026年12月。具体的な開始日は未発表
国際基準GHGプロトコルScope 2改定は提案段階。EnergyTag認定はUPDATERが申請中

運用実績は両社発表に基づく

UPDATERは、2018年にブロックチェーンを使う電力トラッキングシステムを世界で初めて商用化し、現在は600カ所以上の再エネ発電所と4,000カ所以上の需要施設で運用していると発表している。TISIは「エネLink」の電力CISに30社の導入実績があるとしている。

これらの件数、「世界初」「日本唯一」「国内最大級」といった位置づけは、両社のニュースリリースに基づく企業側の主張だ。対象施設の一覧、第三者監査、比較対象を含む裏付け資料は公表ページだけでは確認できないため、本稿では独立した事実として扱わない。

EnergyTagについても区別が必要だ。UPDATERは、同団体の要件に対応した設計で、2026年8月時点では認定を申請中としている。EnergyTagが説明する認定は、時間別の「グラニュラー証書」を発行・管理する仕組みに対するもので、炭素会計や企業目標そのものを認定する制度ではない。

12月までに確認したい情報

  • 正式な提供開始日、料金体系、契約条件
  • 導入する電力小売事業者と対象需要家
  • データ欠損、時刻ずれ、重複計上を防ぐ監査方法
  • 非化石証書など国内の環境価値制度との接続方法
  • GHGプロトコル最終規則とEnergyTag審査への対応結果

時間単位の照合は、再エネ調達の主張を細かく検証するための基盤になる。しかし、システムがあるだけで再エネ発電量が増えるわけではない。発電が少ない時間に何を調達し、需要をどう動かし、不足分をどう示すか。12月の提供開始後に問われるのは、きれいな一致率だけでなく、一致しなかった時間をどこまで透明に見せられるかである。

取材注記と主要資料
  1. TISI株式会社「『エネLink』シリーズにおけるアワリーマッチング対応機能実装をUPDATERと開始」(実装内容、技術検証、12月提供目標)
  2. 株式会社UPDATER「アワリーマッチング対応の電力トラッキングシステムをTISIに提供」(30分単位の照合、運用実績、EnergyTag申請状況)
  3. GHGプロトコル「Scope 2改定案の公開協議」(時間単位要件の提案、改定日程、英語)
  4. EnergyTag「最初のグラニュラー証書発行者を認定」(認定対象と制度上の限界、英語)
  5. TISI株式会社「エネLinkシリーズ」(提供中の機能、CISとPPA料金計算サービス)

本稿は2026年8月30日までに公開された両社と国際基準団体の一次資料を照合した。運用施設数、導入社数、「世界初」などの表現は企業発表として帰属を明記した。両社代表者名の読みは参照した公式ページに記載がなく、本稿では氏名を使用していない。直接引用は使用していない。